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アルシミ―・アトリエ  作者: 水無月るいか
7/30

初仕事

「まずい・・・これって・・スランプ!!???」

自分の部屋とは別に、天音は大きめの書斎を使わせてもらうことになった。

棚には武器に関する本が一通り揃っていて、注文をしたがまだ開封していないものも山積みにされている。

開封して棚に収めたいが今はそれよりも、重要な問題に差し掛かっていた。

それは天音の致命的な弱点の一つ。


「え?修理が得意で新品は好きじゃない?」

「・・はい・・」

部屋に籠りっぱなしの天音を心配して銀子が様子を見に来ると、勉強机に顔を俯せている天音を見て声を掛けてきたのだ。


実家のプレハブ小屋には修理で使えるかもしれない部品の数々があり

最新器具などはあまり縁がなく、中古ばかりをいじっていた天音にとってアイデアをひらめかすのは巨大すぎる試練。


カレンと守が戦える武器を早急に創らなければならないのと、頭を抱える。

それらに関する資料や本を見ても生み出すことができずに、もしかして才能がないのかと凹んでいたのだ。


「まぁ・・クレアーレの永遠の悩みだからね、アイデアと創り出すことを絶やさないことは・・」

シルベストだって見た目紳士だがスランプに陥ると部屋で一人煙草を吸いまくっているという

ちょっとヤバイ姿になるので、机に潰れている天音はまだ可愛い方だ。


「銀子さんの武器とかって、どうしているんですか・・そういえばミーレスなんですよね」

「別にクレアーレがこの世に一人もいないってわけじゃないから、依頼をして創ってもらっているよ」

国に守られ、力を隠して生活しているクレアーレもいて、全てのクレアーレがその組織に所属しているわけではない。

一言では語れない、いろんな事情があるのだ。


「それでも節約はしているわよ、同じミーレス同士だとどうしてもアルカナで創ったのじゃないと対抗できないし」

本音を言えば天音が銀子の武器も創れるようになれば、物凄く助かるのだけど今は男子二人の武器創るだけで精一杯なので言わないでおこう。


クレアーレの創った代物を破壊できるのは、同じアルカナで創りし物のもであると。


「守君も心配していたわよ、貴方の事」

「守が?」

食事の時に何度か顔を合わせていたが、相手はコミュ症候群の男で「ああ」「おう」ぐらいしか発することがない。

銀子がミーレスとしてアドバイスをしていると聞いて、守も頑張っていると感じていたが実際は違う。


「カレン・・貴方も子供みたいなこと言わないの」

ため息交じりで、守にカレンに稽古の相手とアドバイスをもらったらどうかと

コロシアムに似た屋外訓練場で話をしたがカレンは頑固拒否、守もカレンの手など借りたくないと目も合わせようとしない。


「姫様を護衛するミーレスは僕一人で十分です、君のような堅物など日本へ早期に出戻りするべきだ」

「お前こそ、やたらと天音を姫扱いしているが王子様にでもなったつもりなのかよ」


「ちょっとぉ・・」


最後にはそれぞれ逆方向に歩いて行ってしまい、板挟みにされた銀子は大きく溜息を吐いた。

カレンは何だかんだで天音は守を頼っていることが気に喰わなくて

守は突然現れた女の子の理想を具現化したようなカレンが嫌らしく、大人のお姉さんである銀子は分析したが

ボスに相談したが笑われれるだけで、彼らが大人になっていくのを大人が温かく見守るしかないと言われてしまった。


カレンも大人びているように、天音達と同じ年の青春真っ盛りの男の子なのだ。


(大丈夫かしら・・)

銀子は明日には任務のために本部を離れるのだが、ただでさえ気の小さくスランプ中の天音と年相応の意地を張る男子二人。

本当に時間が彼らを大人にしてくれるのかと、忍者飯を食べつつヘリの中で考えていた。



次の日、銀子は任務のために離れたと薔薇から聞いて良い話相手がいなくなったと肩を落とす。

島には元々薔薇とシルベスト、屋敷を掃除する高性能ルンバしかいない寂しい場所だ。

部屋に引きこもってばかりいてはと、天気も良いので散歩に行こうと屋敷を出るとカレンが待っていた。


白馬の馬付きで。


「姫、一緒に散歩でもいかがですか?」

「えっ・・あっ・・はい?」

白馬の前に乗せられ、後ろにはカレンがいて妙な気分というか物凄く恥ずかしい気分に見舞われた。

優雅に白馬に乗って王子様系イケメンとお散歩だなんて、友人達が聞いたら絶対に羨ましがる話だと想像するとちょっとだけ寂しくなった。


「・・此処ってスマホが通じないんですよね」

「はい、ご不便をおかけいたしますが・・」

警備の関係上で通じずにLINEも使えずに手紙をシルベストに頼んで、郵送してもらって今は返事待ち。

いつもなら眠たい授業を過ごし、昼食は3人で屋上で食べて帰りは最近やっとできた隣村の大手チェーンコンビニに行っていたのに。


(仕方ないよ、皆を巻き込むわけにはいかなかったんだから・・・)

顔が自然と下に俯いて寂しい気持ちになると、カレンの大きな手が天音の手を包むようにして手を真綿を持つように持ち上げると軽くキスをする。


「カッ・・・カレッ!!」

「不安があるようでしたら、僕が相談に乗ります。何なりとおっしゃってください姫」

「・・ま・・・まずは姫と呼ぶのを止めてほしいような・・」


姫なんて柄でもないし、そんなに可愛くもないと頬を赤らめて他愛のない話をする様子を

木の上に登っている守はつまらなさそうにこちらを見て、やっぱり舌打ちをしていた。




何もない島だが、花畑や水車小屋で風力発電のための大きくて白い風車群を馬に乗って見たり

見晴らしのいい場所で持ってきてくれたマカロンと、紅茶を飲んだりと良い気分転換になった。


「今日はありがとう、なんか頭がすっきりした気がした」

「いいえ、また何かあったらなんなりとお申しつけください、クレアーレを守るのはミーレスの使命の一つと考えてしますから」

胸に手を当てて騎士は白馬に跨り去っていく。

天音は軽く手を振り、カレンを見送ると仕事部屋へと足を運ぶと部屋の中心に立った。



「今なら、できる気がする」

窓を少し開け、シルベストからもらった石を強く握りしめて教わった通り頭の中で設計図を思い浮かべつつ強く願う。


カレンが校舎で戦っていた時の姿と、剣をイメージしていると空気中に光の粒子が生まれ始め・・---。



食事の時間になって天音は食堂に顔を出さなかった。

さすがに気になったのは守が部屋に行こうと席から立とうとすると同時に、息を切らした天音が食堂に入ってきた。


「で・・できたできたーーーーーー!!」

西洋風の剣がその手には握られて、初めてまともに成功したとはしゃぐ天音。

シルベストは剣の出来具合を確認をし、しっかりと創られていると褒められる。


「何となくだけど・・コツがわかった気がする」

「呑み込みが早いようですね、ですが・・」

ぼろっ・・と剣が灰のように剣先から消え始める。

それには守も目を見開き、天音は消えないように力を使おうとするが。


「一度分解し始めたアルカナの武器はどんなクレアーレでも、直すことはできないのです」

まるで脆い砂の城のように剣は消えていったのを見て、なんとも言えない複雑な気持ちになる。

初心者の天音はまだ創り出すことはできても、アルカナを物質として固定できない。


出来上がった時点で食堂に持ってきたので、練成維持時間は一分。

カップラーメンができる時間にも満たされないと凹む天音、だがシルベストは天音の肩に手を乗せる。


「これもクレアーレが通る苦難の道の一つです、最初は一分でも徐々に伸ばして行けばいいのですよ、さぁ、夕食にしましょうか」

「・・はい」

席に座り、本日のメニューのデミグラスハンバーグを食べているとカレンが嬉しそうに天音に話しかけてくれた。


創った後は何故かお腹が減って誰よりも早く食べ終えてしまった。

おかわりするのもはしたない気がしていると、シルベストが追加にパンを用意してくれた。


彼もクレアーレであり、創ることは体力を消耗するのだと理解しているのか何も言わずに気を使ってくれたのだ。


「姫、最初の僕の武器を創ろうとしてくれた事、感謝しています」

「か・・感謝だなんて、結局すぐに消えちゃったし・・逆に申し訳ないです」

次はもっと上手くできるようになれると楽し気に会話しているが、守の方は不機嫌極まりない表情で

乱暴にハンバーグを食べる姿に、シルベストは目が点になっているとオーギュストから二つ折りにされた手紙を受け取ると表情が強張る。



「皆さん、食事が終わっても席を立たずにこの場にお座りいただけますようお願いします、新たなクレアーレ発見の情報がありました」



天音やシルベスト同じ、アルカナを使えるべき神が人に与えた奇跡の技。

そんな人間がいると情報が寄せられたのは中東のとある町、土地の権力者の家で住み込みで働いていると聞かされる。


食事を終えるとカレンは当然として、食事の席にいなかった薔薇から詳しい説明がされた。

食堂は薄暗くなると立体映像には詳しい地図と、働いている宮殿のような邸宅が映し出される。


「彼の雇い主ですが石油で財を成した人物です、彼の元で働いているらしいのですが

速報だけでまだ詳しいことはですが、天音さんとカサンドラ、それから守君にも彼の保護をお願いします」

突然のことに人事のように聞いていた守は薔薇を見て、その命令を拒否した。


「俺はあくまで天音が危なっかしいから此処にいるだけで・・別にあんたらの部下になった覚えは・・」

「天音さんも行くのに貴方は残るのですか?それに実戦経験は積んでおいた方がいいですよ」

薔薇の否定の余地もない正論だが守からすると、子供に馬鹿にされたように受け止めたのかご機嫌斜めになったが

駄々はこねることはなく拒否もせずに、渋々説明を聞いていた。


「・・実戦になるかもしれないのなら姫様は、此処に残ってもらうのがよろしいのでは?」

守の言い分を認めたくないが、同意見のカレンは薔薇の命令に珍しく意見をしてきた。

無論、薔薇も危険な場所に天音を連れていくのはその身に危険が及ぶというのもわかっている。


「現場にいかなければわからないこともあります、天音さん貴方は戦う武器を作れますが

どのように自分の創る武器で、カサンドラや守君が戦うのはあまり想像ができないでしょう、これは将来貴方のためになる経験です」

「・・・経験・・」


薔薇の言う通り、守とカレンが戦う武器も創らなければならないのに正直想像する材料が足りないのは事実。

ミーレスとして成長するためにも、必要なことだと危険を承知し天音は新たなるミーレス保護のために中東を目指す。






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