夜とバイクと暴走と
「・・・一体どういうことなんだってば・・」
ツインテールの自称中学生でありながら巫女もやっている守の妹は目の前の現実を受け入れられずにいた。
神社は一時入口鳥居辺りで黄色の規制線が貼られて、野次馬がスマホで撮影。
持っていた学生書を見せると中に入れてくれるとそこでは警官に囲まれて解放されたばかりの守を見つけて小走りで駆け寄ってくる。
「・・・・お兄ちゃん・・・もしかして天ちゃんを襲って通報された?」
「なんでそうなるんだよ!!」
愛想も気を使うこともできない守に対し、気配りもできて愛想も良い妹が二人っきりにさせてあげようと
わざとコンビニで立ち読みをして二人っきりの時間を作って上げたのにまさか守が過ちを犯すとは妹として情けないと一人で語り出した。
「だめよ・・手を出すのはちゃんと告白してから、男はスケベな生き物なのはわかるけどね・・まずは手順を」
「なんでそういう話になるんだ!!全然違う、強盗がやってきて神刀を盗もうとしたんだ!」
「あの歴史的な価値もない錆び刀を??」
そう教えられて警察官に囲まれて、連行される男の顔を見た。
暗闇でわからなかったが異国の顔立ちで逃亡生活のせいか、頬はやせこけて髭は伸び放題でまさに放浪者で気味が悪い。
「それで怪我は?」
「俺は・・ちょっとな、大した怪我じゃない。天音は隠れていたから無事だ」
今は事情聴取を受けていて、パトカーの中で肩に茶色の毛布をかけている。
守に促されて守の妹は天音の下へ行き、心配そうに話しかけていた。
両親も戻ったところで、守と天音は解放されると二人はその場を一時離れる。
本殿の裏手に行くと天音に没収された神刀のことを話す。
「守、神刀が証拠品として没収されたって・・まずいよ!なんで新品になってるとかどう説明すれば」
「それが、あれから暫くして元に戻ったんだ」
「えっ???」
最初守もそれはやばいと考えたが、一瞬光ったのが見えたら誰もが知る錆び考えた神刀に戻っていた。
戸惑いながらも警察に渡したが、新品に戻らないでそのままでと念じていたとか。
「もしかして、お前新品と取り換えた、とか・・」
「その新品は何処から用意するの!そもそも刀を持つのって特別な許可がいるんじゃないの?」
疑われた天音に銃刀法違反で先に逮捕されることを考えた。
それに荷物の中に刀なんてなかった、天音も守も意味がわからずに互いに顔を見合わせる。
「とにかく、この件は俺とお前の秘密だ」
「そうだね、その方が・・・いいよね」
面倒なことになったとぼやいて一瞬だけ目を閉じていたが、誰かが倒れる音がし
目を開いた彼の瞳には白い顔をし脂汗を滲ませて倒れている天音が映っていた。
「天音!!」
目を覚ますと、そこは自分の部屋ではなかった。
客間であることと、他人の家の香りがして起き上がろうとすると付添っていた守の妹が布団へと戻す。
「駄目だよ、まだ寝てないと。軽い貧血だって・・・あんなことがあったからだよ」
医師の話では安静にしていれば回復するとのこと。
守が横抱きにしていつになく焦って運んできた時はびっくりしたが、守も診察を受けて今は治療を受けている。
「守の方が・・・酷かったのに・・」
「平気平気、鍛えてるんだから。お腹に筋肉がくっきりと出来てたんだよーー私の脂肪も燃やしてほしいわー。
お兄ちゃんのことは平気だってラストサムライだよ、今日はもう休んでて警察も犯人逮捕して帰っていったし」
本殿の方で現場検証とかで、まだ出入りはできないが家は問題ないと帰宅。
帰ってきた母は天音にお腹に優しい夕食を作り終えると、声が聞こえて取りに一時離れ部屋を出ると入れ違いに黒いワイシャツ姿の守が入ってくる。
「大丈夫か・・」
「・・うん、守はどう・・・?蹴られたりしたんでしょ?」
軽く腹部に触れると大したことはないと、無表情で教えてくれた。
それを聞いて安心すると、強い睡魔が襲ってきてまだ話の途中なのに瞼が強引に閉じようとしている。
「なんか・・眠い・・・まだ・・話・・」
「もう終わったんだ、犯人も捕まってお前と俺も助かってそれでまたいつもの時間に戻る」
瞼を閉じさせようと大きな手が額に当てられて、目を覆うとそのまま天音は眠りにつく。
寝息が聞こえると、守はいつもの怒っている表情ではなく優しげな表情を浮かべていた。
留置場にいた男はあの時の現象を思い出し、あることを思い出した。
確かにあの刀は錆びついていたが、天音が手にしたら新品になったあの超常現象の元は天音。
「そうか・・そうだったのか?ふふ・・ははははっ!!これで俺は大金持ちだ!」
「うるさいぞ!!静かにしろ!!」
鉄格子越しに警察官が注意をすると、男は目を見開いたまま不気味な笑いながら警官へと近づいて隙間か
カシャンという・・・施錠が解除される音が、誰もいない留置場に響いた。
目を覚ますと、次の日になっていて守の両親に謝罪をするが二人は仕方がないと笑って許してくれた。
和食の朝食を食べているとテレビで昨日のニュースが報道されて、ミーハー妹は「うちよ!!うちが映ってる!!」とはしゃいでいる。
「こら、食事中でしょう」
「だってーーこれは地方ローカルニュース全部録画しておかないと」
父は呆れ顔で新聞を折り畳み、母は兄妹の性格が半分くらいになればと溜息を零していた。
朝食を終えるとスマホが新着LINEメッセージを受信、友人が心配してメッセージを送ってきたのだ。
「ちょっと出かけてきます」
一言、守の母に告げると自転車をこいで晴天の空の下に出ると二階の自室から守がそれを見ていた。
犯人も捕まったし大丈夫だろうと、窓を閉める。
「天ちゃーん、無事だったーー!」
「こっちこっちーーー!」
コンビニの前で朝子と葉奈子は立っていた。
自転車から降りると駐輪場に止めていると見慣れない一台の車が近づいてくる。
最初報道関係の車かと見ていたが、中から出てきたのは田舎では見ることのできない金髪の少年で青黒いコートを見に纏い
長い髪はポニーテールで纏めて天然の美白の肌には傷もなく、真珠のように輝いている。
彼の青い瞳がこちらを見据えると天音達に近づき、軽く頭を下げると。
「失礼、この近くの警察署はありませんか?」
「けけけけっ・・・けけけいっ・・・」
「そっ・・それならきっとととと」
「この町に交番はないんですよね、此処から近い警察署は引き返さないとありません。
一度国道に出て、トンネルを多分また潜ったら信号機に案内板が見えるので・・」
呂律の回らない友人達の代わりにすらすらと答える天音。
運転席にはスリットスーツにサングラスをした茶髪の女性がいて、恋人付きだったのかとがっくり肩を落とす二人とは裏腹に外国人カップルを見送る天音。
「はぁーーーーそうよね、彼女ぐらいはいるわ・・でもカッコ位良かったーーーーー!!」
「くっ・・!!スマホで一緒に写真撮ればよかった!!」
似たような反応をする二人、とりあえずコンビニに入り何か食べることにした。
車内では女性はサングラスを少しづらし。
「外国でもモテるわね、やっぱり」
「貴方も、でしょ?」
車を天音の言う通りに走らせると古びた革多警察署が見えた。
二人は出入り口へと向かうが、田舎の警察署だから静かなのはわかるが不気味すぎる。
「・・・おかしいわね」
サングラスを胸ポケットに入れ、男の方も細長いアタッシュケースの施錠部に指をかけて気配を殺し、室内の様子を伺うと中では職員達が床に倒れていた。
「これは・・!」
倒れている数人の脈を確認するも、すでに死亡確認が必要な状態だ。
「・・まだ息のあるものはいるわね。もしもし・・救急車を手配してもらえるかしら?」
かろうじて息のあるものもいるが、残念ながら何人かは殺されており携帯で辺りを警戒しながら救急に連絡。
苦しそうに溜息を吐くと、奥に偵察に行っていた男が戻ってくる。
「あいつがいません、それと拳銃を始めとする武器の大半無くなっています」
「逃走・・?すぐに追うわよ!」
何気なく下に降りてくると居間で両親がテレビを見ていると、突然臨時ニュース画面に変わる。
『臨時ニュースをお伝えします。革多警察署が何者かに襲撃をされ警察官が死傷する事件が起きました。繰り返しますーー』
「近いわね、それに警察署って・・守!?」
靴を履く突然走り出した守、探すべき人物は一人・・・天音だ。
「それじゃ、またねー」
「うん、明日」
くだらない話をしている間に夕方になり、葉奈子達と別れると自転車に乗り込もうとした時
前からバイク音がし、目を細めると暴走族がこっちに向かってきている。
「こんな田舎に暴走族って??自転車避けな・・」
「いたぞ!」
男の一人が天音を指差すと、速度を上げて彼らは迫ってくる。
理由は不明だが、とにかく逃げようとペダルを扱いで何処かに逃げ込もうとするが運悪く畑のど真ん中で家も何もない。
「嘘・・何!」
必死にペダルをこぐがバイク相手では、すぐに追いつかれてしまう。
後ろだけでなく前からもバイク音がし挟まれたと思いきや、それはノーヘルの守だった。
「乗れ!」
「うん!」
後ろの座席に乗るとエンジン全開にさせ、畑から国道へ。
暴走族軍団も追いかけてくるが、よく見るとアレは白バイでつまりは警察官が暴走族化したのか。
「なんで警察が私を追いかけてくるの?」
「奴らは警察じゃない!!留置場に入っていた奴とその仲間だ!!」
何処から湧いてきたかは知らないが、数十人はいる。
警察に逃げ込めればいいが、相手は機動隊クラスでなければ制圧のできないヤバイ連中で無闇に民家に逃げ込めない。
迷っていると拳銃を発砲、天音は守の腰に強く捕まる。
「頭を下げてろ!!それとヘルメットもしろ!!」
「守だってノーヘルだよ!それ以前に無免許運転でしかもこれって・・敦君の新品バイク・・」
新米を売った金で買ったとかで自慢していたが、強引に奪ったんだろうなと容易に想像ができる。
そのおかげで逃げているが、あとで大変なことになりそうだ。
横を銃弾が掠めて、小さく悲鳴を上げて守に抱きつくと後ろを見ると彼らは拳銃を持ってこちらに向けていた。
「馬鹿が!あの女に当たったらどうするんだ!」
「狙うなら男かタイヤだ!」
守もヘルメットを被っていると彼らが大声で会話する内容が耳にも届く。
仕返しの類ではない、だったら標的に守も含まれるはずの。
(もしかして・・狙いは天音?)
今は逃げるのが先決だと、地元の道を知り尽くしたこちらが有利とわざと国道から出ると
外灯もないないような獣道を走り始め、木が当たる寸前でハンドルを切って敵の数の減らしにかかる。
「あのガキ・・やるじゃねえか・・!」
何人かが木に激突して、転倒してこれ以上数を減らされるわけにはいかないとタイヤに向かって銃を発砲。
その銃弾は後方タイヤに命中、激しく上下に揺れると天音を抱きしめるとそのまま地面に転倒。
「大丈夫か!」
「うっ・・うん、守が庇ってくれたから。でもバイクが・・・」
運悪く爆発炎上して、もう乗ることができない。
守に支えられて起き上がり、近くに逃げ込める場所がないか辺りを見渡していると
見慣れた校舎が枝の影から見えた。
「学校だ、そうか・・・此処って裏庭に通じる道だっけ?」
「ああ・・校舎に行こう。今日は日曜日で誰もいないから迷惑もかからない」
見慣れた校舎のはずなのに、拳銃を持った男達に追いかけられ
静かすぎる校舎は陽が落ちつつあるオレンジ色に照れされ、不気味さを増していた。
これから、どうなるのか?
生きて帰れるのかという不安で潰されそうになっているからか、なかなか閉じられた門を乗り越えられずにいると
守が手を貸してくれて、押し上げてくれた。
「ごめん・・」
「気にするな、いくぞ」
いつも点検を行ってるであろう、一階の窓を開けてそこから侵入。
非常口の明かりだけが、校舎の明かりと化していた。