毎朝の光景
今回は学校で恋愛です。
私の中学校には、ホールのような場所がある。3年生の教室がある3階だ。そこは大きな窓がたくさんあって、明るい。
「おはよう委員長」
私は据え付けられた新聞を読む男子に声を掛ける。新聞台を挟んで、壁にもたれて向かい合う。
広いホールのはしっこに、2人きり。まだ時間が早いから。私はいつも、この時間に来る。双子の妹はまだご飯食べてるかな?
「おはよう小鳥遊さん」
それは変わることのない、毎朝の光景だ。
「そういえば小鳥遊さん。後輩に、俺のこと委員長って紹介したでしょ」
「そうだったかもね」
「副会長って学級委員長もできるんですか、って真面目な顔で聞かれた。校則違反じゃないのかってさ」
「だって委員長は委員長じゃん。それとも副会長って呼ぼうか?」
委員長は少し困ったような顔で私を見る。
頭もいい顔もいい性格もいい運動神経もいい……完璧な人間だ。バレーのキャプテンも務めている。どこまで頑張るのやら。
「俺が委員長だったの、1年生の1学期だけじゃん」
「だからなに?」
「それ宮野先生の真似?」
「口癖が移っただけー。でもさ、委員長のイメージが強すぎて今さら真鍋くんとか呼べないんだけど」
「なら俺も委員長って呼ぼうか? 4組学級委員長」
「2組のくせによくご存知で」
「今学期は全校で1人だから有名だよ。女子の学級委員長」
普段ならもっといる女子の学級委員長は、なぜか私だけ。変なこともあるもんだまったく。
「そーいやー、生徒会長はどーよ? 史上初の女子生徒会長は」
「あー、小鳥遊さん?」
「ややこしいなー。まぁ双子だから仕方ないんだけどね。私の自慢の妹だよ」
委員長は軽く微笑んだ。その笑顔が何人の女子を落としてるのか知らないんだろうなぁ。
「いいんじゃない? 目配りも的確だし、作業も早いし。全校生徒の前で物怖じしない胆力もあるし」
「でしょでしょ。いい子でしょ、すみれ」
とは言いつつも、すみれが委員長を誉めていたのは伝えないけど。だって、委員長がすみれを意識しちゃ困るから。
「いつも思うけど……どんだけシスコンなの?」
「こんだけ。だって好きなんだもん。悪い?」
「いや別に」
軽く苦笑して、委員長はそう答える。シスコンだよ? でも、譲るわけじゃあない。
「運動会ヤだー」
「運動苦手だっけ? 小鳥遊さん」
運動は得意な方だ。リレーでアンカーをするくらいには。だから別に、理由はそこじゃない。
「いや、日焼けするから」
「えー……」
「太陽は天敵だよ! 日差しに負けないように、ついでに他のクラスに負けないようにするから」
「まぁたぶん4組が勝つんだろうけど」
「ま、せいぜい準優勝でも争ってろ。ふははは」
笑いが弾けた瞬間、桃ちゃーん! と私を呼ぶ声がした。
「あ。鍵持ってんの忘れてた」
「週番のくせに」
面白がる委員長に、あっかんべーと舌を出す。そしてニヤッと笑って、手を振った。
本当はもっと話していたいけど。
「じゃーまたね!」
委員長も小さく手を振り返した。
「おー、またね」
願い事が叶うなら。この、毎朝の光景を変えないでほしい。違うクラスなんだから、接点がない。
だから……ずっと、このままで。変わらない日常で、委員長と話していたい。
だって勇気がないから。誰もが主人公みたいに告白する勇気を持ってるわけじゃない。
ちょっとずるいけど、毎朝の光景を守り続けよう。それがきっと、2人の絆になるから。
すみれ? 私の邪魔、しないでよ。同じ人を好きになるのは双子の宿命なのかもしれないけど、私は譲らないからね。絶対、負けないからね。
宮野先生のモデル、私の学校にいます(笑)
面白い先生ですよ。