神様?
三国 晴斗はオレンジ色に淡く光る道を歩いていた。
光る道というのは別にファンタジー的なものじゃなくてただ単に西日によってそう見えるだけで、学校から家に帰っている途中である。
道には家路についている人が多く、これから何処に行く?などと友人たちと楽しそうに話している者たちもいる。
晴斗はそんな彼らの隣を通り過ぎていく、友達がいないわけではなく毎週金曜日は何処にも寄らず家に帰ることにしている。
友達たちもそれが分かっているので晴斗を誘って来ることもない。
家まであと少しの所で沈んでいく太陽を見た。
「綺麗だな・・・」
心の底からそう思えた。
家の玄関に着きカギを開けドアを開けようとドアノブに手を伸ばした瞬間に頭に衝撃が走り意識が途切れた。
◆
「こんにちは!」
人懐っこい笑顔で中学生位の少年がそう告げた。
「こんにちは?」
訳は分からないがとりあえず返してみた。
「やっぱり挨拶って大切だよね!」
うんうんと頷きながらそう言った。
何言ってんだろうと思っていたらそれに気付いたのか。
「いやね、これまでみんなポカーンって顔してたからさ!」
「だろうな」
こんな事が起きたら誰だってそうなるだろう。
家に着いたと思ったら頭に衝撃が走ったと思ったら目の前に笑顔の少年が立っているのだから、周りを見ても何もなく明らかに家ではない。
「で、これはどういう事なんだ」
「ちょっとね、神様らしいことをしてみようと思ってね!」
なんと目の前の少年は神様らしい。
そして神様として何かするらしい。
「で、何をするんだ?」
「人のね、願いを叶えてあげようと思うんだ!」
確かにそれは神様らしい事のだろう。
「へー、願いを叶えてくれるのか」
それはありがたい叶えて欲しい願いなど沢山あるそれを叶えてくれるのか。
分からない奴だと思っていたがそう言われると何だかすごい奴に見えてきた。
「そうだよ、最近神様に感謝する人が減ってきたからね。イメージアップしようと思って!」
どうやら神様も大変らしい。
「君はその願いを叶えてあげる候補者なんだ!」
「候補者?」
すぐに叶えてくれるわけではないらしい。
なんだか面倒事の様な気がしてきたが話の続きを聞いてみる。
「そう候補者、多くの人にチャンスをあげようと思ってね!」
「候補者は何人いるんだ?」
「百人だよ!」
「多いなどうやって候補者を絞るつもりだ」
すると、ふふっふと笑いながら一言。
「バトルロワイアル!」
と、元気いっぱいに答えた。
「いいのかよ神様が殺し合いを推奨して」
「いいのいいの折角八百万も神がいるんだから1柱位こんな神様がいてもいいじゃん!」
どうやら目の前に居るのは願いを叶えてくれる優しい神ではなく、悪魔だったみたいだ。
「でね、ルールなんだけど・・」
このまま話を続けるらしい。
雰囲気的にリタイア出来そうで無いのでルールを聞いておいた方が良さそうだ。
「ルール?」
「そうただ単に百人で殺し合いしてもつまんないからさ!」
つくづく神様らしくないことを言う奴だ。
「つまんないっていう事は何か特別なルールなのか」
「そう、ライトノベルみたいな感じでね!」
しかもこの神はライトノベルを読んでいるらしい。
「まずね、フィールドは直径十キロの円状のフィールドなんだ!」
とても楽しそうに説明し始めた。
もしかしたら人の願いを叶えてあげよう、と思ったのもライトノベルみたいな事をやりたくてその理由の後付けなのかもしれない。
「でねその円状のフィールドは×の形に分かれていて北は都市、西は森林、南は砂漠、東は住宅街、になっているよ!」
「へ~」
「でね、十キロより先は海になってるよ!」
思ったよりバラエティー豊かなフィールドみたいだ。
「海は陸から一キロだけ広がっていてその先は虚無になっていて危険だから気をつけてね!」
「どうなるんだ?」
「消滅?」
小首をかしげながら言った。
絶対にその先には行かないでおこう、神様ですらよくわからない場所は怖すぎる。
「で、ここからが特別で候補者全員に武器と能力と召喚獣を一つずつプレゼントするよ!」
「武器と能力と召喚獣?」
いきなりファンタジー的な要素がでてきた。
「そ、じゃあまずは君のを決めようか!」
そういうと目の前にいきなりスロットマシンが現れた、右から武器、能力、召喚獣となっている。
「じゃ、止めてね!」
行くよ~という掛け声と共にスロットマシンが回り始めた。
スピードが速すぎて何が書いてあるかがわからない。
「目押しなんてずる出来ないから早くして~」
「わかったよ」
あきらめて止めるか、まずは武器からだ。
ボタンを押すと回転が止まった。
【包丁】
は?
いつから包丁が武器にラインナップされるようになったんだ。
「おい、おかしくないか?」
「おかしくないよ~それはまだいい方で他にはペンなんてのもあるよ!」
まさかの答えが返ってきた。
確かに『ペンは剣よりも強し』というが、アイツにとってはペンすら武器の含まれるらしい。
まだ刃物で良かった。
少し不安だが能力のを止める。
【解析】
お?
これは当たりじゃないか。
「な~これは?」
すると神は少しビックリした感じで。
「お~!すごいね!大当たり!」
とサムズアップしながら能力の説明をしてくれる。
「それはね、見た物が何なのかを教えてくれるんだよ!人間相手だったら能力までわかるよ!」
説明を聞くかぎりかなりいい能力らしい。
武器が包丁だったのでかなりありがたい、少し生存率が上がっただろう。
「じゃあ、最後は召喚獣か・・・」
こいつが一番重要な気がする。
できれば強そうなドラゴンなんて出てきて欲しい。
出てきたのは・・・
【スケアクロウ】
スケアクロウ?
聞いたことがない聞いてみるか。
「なあ、スケアクロウってなんだ?」
「ああ、案山子だね!」
・・・・・アイツの言ったことを理解するのに時間がかかった。
どうやら神はいないらしい。
今日は本当にロクな事がない。
「神は死んだ・・・」
跪いてそうつぶやいた。
神もそんな俺の様子をみて少しツッコミが遅れてた。
「・・・いや!死んでないよ!」
「なんだよ、案山子って」
「君の召喚獣?」
本人も自分の言っている事が少しおかしいことに気づいたみたいだ。
そりゃあ気づくだろう、だって獣って言っているのに案山子はないだろう、だって生き物じゃないじゃん。
「まあ、当たったんだから諦めて!」
と肩をポンポンと叩いてきた後、慰める様に
「いい能力持ってるかもよ!」
と言った。
「能力?」
そんな事聞いてないんだけど・・・
神はそんな事を気にせず説明を続ける。
「そうだっけ、能力言ってなかったっけ?」
「言ってねーよ」
「あ~そうかゴメンね!召喚獣には一体につき一つの能力を持っているんだ!」
いい情報だもしかしたら落ち込むのは早かったのかもしれない。
「召喚してみたら?【サモン・スケアクロウ】で召喚できるよ!」
「【サモン・スケアクロウ】」
と言うと目の前に一体の案山子が現れた、どこにでもありそうな案山子だ。
「解析してみれば?」
「ああ」
俺はその案山子を解析してみる、すると。
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スケアクロウ
能力
敵の攻撃を一度だけ引き付ける。発動キーは【スケアクロウ】
破壊されると一時間再召喚できない。
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んーこれはいいのか?
「微妙だね、いい所は再召喚にかかる時間が一時間なことぐらいかな!」
「そうなのか?」
「うん、普通は再召喚に一日かかるからね!」
確かにいいんだろう、この壊されるだけの能力で再召喚まで一日は流石にきつい。
これからこの三つでこれから百人を相手に戦わなければいけないらしい、生き残るためには【スケアクロウ】をどれだけ上手く使えるかどうかに掛かっている。
「最後一人になるまで戦うのか?」
「ううん」
バトルロワイアルと聞いたのでそうだと思っていたが違うらしい。
「じゃあ、どうするんだ?」
「んー何日かかるか分からないし、待つの嫌だから期限を決めるよ!」
「期限?」
「そ、期限。そうだな~七日間にしようか!」
と指を七本立てて答えた。
「七日間終了後に僕の前に居た人の願いを叶えてあげる!」
「百人残っていても?」
「うん!」
うんって、それならバトルロワイアルなしでいいんじゃないか。
「百人残るんじゃないか?」
思ったことを聞いてみた。
すると、アハハ!と笑いながら否定した。
「ないない、だって君らって強欲だもん。他人を信じて誰も殺さないとかありえないよ!」
否定できない。
神様が願いを叶えてくれるんだ、その為だったら人は簡単に人を殺せるだろう。
でもそれでも殺さない奴もいるだろう。
「それに人を殺す事に対する忌避感を無くしてあるよ!」
「何のために?」
嫌な予感しかしない。
「そうしないと殺せない人がいるだろうからね!」
この神はどうしても殺し合いをして欲しいみたいだ。
殺し合いをする事は決定事項の様なので開始前に気にっている事を聞いた。
「なあ、今時間はどうなっているんだ?」
ここに来てどれだけ時間が経ったか分からないが流石に七日間も百人が行方不明になっていればかなり大きなニュースになるだろう。
それに今日は俺にとっては重要な一日だ。
「あ~それは安心して、君がこっちに来た時の時間で止まってるよ!」
じゃないと困るでしょ、とニヤニヤしながら答えた。
「終わった後は止めた時間から再開するよ!」
「それは助かるな」
「じゃ、始めよっか!」
いよいよ始まるらしい。
「君が再びここに来ることを待っているよ!」
と言ったあと、あまり期待しないでね!と付け足した。
いらねえよその一言と思っていると最後に大事なことを言った。
「開始地点はランダムだから~頑張ってね!」
「聞いてねぇよそれ!」
とツッコミを入れたが目はカメラのフラッシュを受けたように見えなくなった。