お知らせと出場領地の決定
三の鐘に合わせ、わたくし達も講堂へ向かいます。いつも通り二人の婚約者候補にエスコートされて移動するわけですが、今日は何だか周囲の様子が違いました。今まではダンケルフェルガーの怒りに巻き込まれることを恐れた他領の方々から遠巻きにされていたのに、何だかチラチラとこちらの様子を窺っている視線を感じます。
「ツェントが嫁盗りディッターの中止を発表するのではないか?」
「とうとうドレヴァンヒェルが辞退したという知らせではないかしら?」
「そうであればよいですね。楽しみです」
ディッターの中止を望むひそひそとした、けれど、期待に満ちた声がそこかしこから聞こえてきます。
すぐ右隣から呟くような「何を勝手なことを……」という声と共にグッとラザンタルクの体に力が籠もったことがわかりました。
「ラザンタルク」
わたくしは声と右手に力を込めて制止しました。周囲の勝手な言葉に苛立ちを感じるのはわかりますが、今はそれを表に出すべきではありません。
「今の時点で反応してはダメですよ。ダンケルフェルガーが怖いとか野蛮という噂に信憑性が出るだけですから」
「しかし、ハンネローレ様。こちらが何の反応もしなければ侮られます」
ラザンタルクは眉を寄せて周囲を見回しています。確かにお兄様と違って、わたくしは少々侮られているのでしょう。もしここにいるのがお兄様ならば鋭い目で睨み、威圧的な態度で簡単に周囲を黙らせてしまうはずです。
「この場で食ってかかる必要はありません。後々のために侮った者の領地と顔を覚えれば十分ですよ」
「有象無象の囁きより、これほど中止を望まれているのに我々には碌に情報が伝わらなかったことを重視すべきだ」
わたくしとケントリプスが落ち着くように言うと、ラザンタルクは悔しそうに唇を引き結びました。
「私はハンネローレ様が侮られるのが嫌なのです」
「ラザンタルクの気持ちは嬉しいのですけれど、時と場合によりますよ。ツェントからのお知らせが終われば周囲の反応は変わるのですから、今は大丈夫です」
「……わかりました」
講堂に入ると、すでに多くの領地の者達が集まっています。最前列に向かって歩く中、ギレッセンマイアーやハウフレッツェの領主候補生から物言いたげな目で見られました。どういう意味の視線なのか理解できないまま通り過ぎ、エーレンフェストのシャルロッテ様やヴィルフリート様とは笑顔を交わし合います。
アレキサンドリアの紺色のマントが見えています。わたくしは神々の世界から戻ったローゼマイン様のお姿が目立っているに違いないと思っていたのですが、何故か見当たりません。レティーツィア様と目が合うと、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて人差し指を唇に当てました。
……帰還はまだ周囲に内緒なのですね。
わたくしは小さく頷きながら歩を進め、ドレヴァンヒェルのマントが並ぶ一角に視線を向けました。オルトヴィーン様の姿が見えます。色々と不穏な噂を聞いていたので、お元気そうな姿を目にしてわたくしはこっそり胸を撫で下ろしました。
「ツェント・エグランティーヌ並びにアウブ・アレキサンドリアのご入場です」
全領地の学生が揃うと、中央の文官の声と共に王族が出入りするための扉が開かれました。どうやらローゼマイン様はツェントと共に王族の控え室で待機していたようです。
「アウブ・アレキサンドリア!? 神々の世界から戻ったのか?」
「何故ツェントと共に王族用の扉から……?」
講堂内に驚きの声が広がる中、アナスタージウス様がエグランティーヌ様とローゼマイン様をエスコートして入ってきます。お二人を壇上へ導くと、アナスタージウス様は壇から降りました。
ツェントが一歩前に出て口を開きます。
「皆様、神々の世界に呼ばれていたローゼマイン様が約二十年の歴史を守り、こうして無事に戻られました。これからローゼマイン様がお知らせすることは、神々からのお言葉として必ず領地のアウブに報告してください」
……なるほど。女神の化身から神々のお言葉が伝えられたという形を取るのですね。
時の女神が再降臨した事実を広げたくないわたくしは、ローゼマイン様から男神達の言葉を伝えてほしいとお願いしました。同じように、前言を翻すのが難しいツェントも嫁盗りディッターに関わる変更の理由や説明をローゼマイン様に求めたのでしょう。
……神々の世界から戻ったローゼマイン様からの知らせという名目でツェントが通達すると聞いていたので、もしかするとツェントの体面を守るためにアナスタージウス様から頼んだ可能性もありますね。
難しい顔で壇上を見つめているアナスタージウス様の様子からそう考えていると、ツェントが少し下がり、ローゼマイン様が前に出ました。そのままニコリと微笑んで一度講堂内の学生達を見回します。
「ツェントから説明があった通り、わたくしは時の女神に招かれ、神々の世界に行ってまいりました。東屋での一件を目撃した方は多かったのでご存じでしょう」
ローゼマイン様は帰還の挨拶をして、戻ってから見聞きしたことを述べます。
「時の女神に招かれた際、わたくしが一時領地に帰還して貴族院にいなかったため、女神はハンネローレ様に降臨し、わたくしを呼び出しました。そのせいでハンネローレ様は第二の女神の化身と呼ばれ、多くの領地から嫁盗りディッターを申し込まれたそうです。このような形で巻き込んでしまい、ハンネローレ様やダンケルフェルガーに迷惑をかけたことを本当に申し訳なく思っています」
ローゼマイン様はわたくしが巻き込まれただけだと強調し、嫁盗りディッターの申し込みをした者達は迷惑な存在だと全領地に突きつけながら謝罪を口にしました。
「本来は求婚し、断られてから嫁盗りディッターを申し込むもの。それなのに、正式な求婚もせずに突然嫁盗りディッターを申し込む領地が多かったようですね。ダンケルフェルガーはその無礼さに驚いたと聞いています」
講堂内がざわざわとし始めました。
「え? 嫁盗りディッターの申し込みは求婚ではない……?」
「ならば、嫁盗りディッターとは何だ?」
周囲のざわめきが耳に入ると、わたくし達は呆れるしかありません。
「申し込んでおきながら、今更嫁盗りディッターは何かと言われましても、ねぇ?」
「すでに辞退している領地ならば理解していることだと思っていたのですが……」
「他領のアウブはダンケルフェルガーに対して何の謝罪をしたのでしょう?」
側近達の言葉にわたくしは同意して頷きました。他領と認識の乖離が大きいことに改めて驚きますし、それほど何も知らない状態でよくダンケルフェルガーにディッターを申し込もうと決意したものです。
……それとも、よほどジギスヴァルト様の情報操作が巧みなのでしょうか?
「これはわたくしが神々の世界で見聞きしたことです。嫁盗りディッターは花嫁と花婿の一族の戦いにもかかわらず、無関係の者達が取り止めを望んでいるらしく、男神達が苛立っていました。どうやら神々は祈りや魔力が奉納されるディッターを楽しみにしているようで、中止を画策する者達には神々の怒りが降り注ぐ可能性があるので注意するように……とのことです」
ローゼマイン様のお言葉に、そこかしこから悲鳴のような声が上がりました。オルトヴィーン様の辞退を望んで色々と暗躍していた方はそれなりの人数がいるようなので、神々の怒りが降り注ぐと言われて焦る方は多そうです。神々がどこまで細かく把握しているのか、わたくし達には全くわからないからこそ恐怖はいや増すばかりでしょう。
「神々が関わると、何に関しても事が大きくなるでしょう? 少しでも神々からの被害を抑えるため、わたくしはツェントに相談いたしました」
……あの、ローゼマイン様。「なるでしょう?」と言われても、普通は神々に関わることがまずないのですけれど……。
そう言いたいわたくしと違って、他領の方々は被害を抑えようとしているローゼマイン様の言葉に希望を見出したようです。一つも言葉を聞き漏らすまいとしているのか、学生達は食い入るように壇上を見つめ、講堂がシンと静まります。
そんな中、ローゼマイン様が少し下がり、ツェントに発言を譲りました。
「神々が望む通り、嫁盗りディッターを中止にはいたしません。けれど、社交に影響がない形にしたいと思います。これから話す内容はすでにダンケルフェルガーにも通達し、了承を得ました」
国境門を使ってダンケルフェルガーに集まり、会合したことは内密にしたまま、ツェントはわたくし達が報告を受けた内容を皆に伝えます。
三日以内に緊急用の水鏡で直接アウブ・ダンケルフェルガーに辞退を申し出ること。謝罪の済んだ領地の領主一族は不問とすること。また、嫁盗りディッターを申し込んでいる領地であっても、ディッターに出場する領主一族とその護衛騎士以外の一般学生には無関係で社交や交際に影響はないこと……。
「つまり、ダンケルフェルガーにとっては一族同士の戦いなので、最初から一般の学生は無関係という意識だったのですか?」
「アウブの選択にかかわらず、私達の社交や交際に影響はないのか……。よかった」
「謝罪が済めば、領主一族も不問なのですね」
一気に学生達の間の空気が緩むのがわかりました。他人事になれば嫁盗りディッターが中止にならなくても問題なさそうです。そして、謝罪が済めば不問だと領地に伝われば、安心されるアウブも多いでしょう。
講堂からの退場時にはダンケルフェルガーの学生を見ながらひそひそと会話する者達はいなくなりました。これからの社交期間をどのように過ごすのか、明るい表情で話し合っている者達がほとんどです。
……あら?
だからこそ、わたくしに縋るような目を向けてくる者達が妙に目につきました。ジギスヴァルト様の横槍を防ぐ方法として、アウブが緊急用の水鏡で辞退すればよいと伝えられたのに、ハウフレッツェとギレッセンマイアーの領主候補生達の顔色が悪いのです。
わたくしは寮へ戻ると、側近達に気になった点としてハウフレッツェとギレッセンマイアーの様子を伝えてみました。
「……もしかして決められた内容に何か問題があったのでしょうか?」
「あったのかもしれませんけれど、その場合は彼等からツェントかアウブを通じてダンケルフェルガーに何かしらの問い合わせがあるでしょう。我々にできることはありません」
「ルイポルト、その言い方は少し冷たくありませんか?」
切り捨てるような口調で言われ、わたくしが窘めると、エルーシアがルイポルトを擁護しました。
「仕方がありませんよ、ハンネローレ様。わたくし達はシャルロッテ様とのお茶会で相談に乗ったことでルーツィンデ様がお困りだと知っているだけで、あちらは今のところディッターを申し込んできている敵対領地ですもの」
「それはそうですけれど……」
嫁盗りディッターの取り決めに修正を加えられたことで、本当は嫁盗りディッターを望まない方々を助けられると思っていただけに何だか気にかかってしまうのです。
「それに、嫁盗りディッターのことで学生を煩わせてはならないという、前回のツェントの通達は撤回されていません。貴族院内でわたくし達に相談されることはないと思いますよ」
「領地にハンネローレ姫様が気にしているとお知らせしておきます。何か理由があるならば、取り計らってくださるかもしれませんし、報告をいただけるでしょう」
アンドレアとコルドゥラの言葉にわたくしは頷きました。今の時点で自分にできることはないと割り切るしかなさそうです。
「それより、もう一度無茶な会合などを提案されないように、姫様は早々に講義を終えてください。ローゼマイン様がお待ちですよ」
……そうです。ローゼマイン様から「ハンネローレ様の講義が終わったらお茶会をいたしましょうね」という木札が届いたのです。
「ジークリンデ様から合格点を緩めていただいた後は順調に各講義を終えていますもの。ハンネローレ様、もう少しですよ」
エルーシアの励ましにコクリと頷きました。わたくしにはできるだけ早く講義を終えて、ローゼマイン様の善意の暴走を阻止するという重大な使命があるのです。
「ごきげんよう、ハンネローレ様。こうしてご挨拶できるようになって安堵いたしました」
「えぇ、これからもよろしくお願いいたしますね」
ツェントとローゼマイン様からのお知らせは本当に効果的だったようです。遠巻きにしていた領主候補生達から笑顔の挨拶を受けました。教室の空気がずいぶんと変化して居心地の悪さがなくなっています。
「長期間お休みしていましたが、ハンネローレ様の進み具合はいかがですか?」
「ご心配ありがとう存じます。次回には終わりそうです」
「わたくしは今回で終われそうです。お互いにホッといたしますね」
領主候補生コースはすでに半数以上の方が講義を終えていて閑散としています。わたくしは貴族院に入学して以降、これほど遅くまで講義を終えられなかったことがありません。閑散とした教室という珍しい光景に興味深さと、取り残されてしまう焦りや心細さを感じました。
「ふむ、今日で終えられる者が複数いるな」
アナスタージウス先生がゆったりと皆の進度を見て回ってそう言うと、教室内にピリッとした緊張感が走りました。誰しも最後まで残りたくないでしょう。一人だけ残ってしまい、アナスタージウス先生にじっと見られながら講義を進めるなんて考えたくありません。
「ハンネローレ、私は其方に期待している。これはおそらくダンケルフェルガーの領主夫妻もお望みのことだと思うが、ツェントに、いや、ユルゲンシュミットにこれ以上の混乱は不要だ。そう思わないか?」
……早々に講義を終えてローゼマイン様の暴走を抑えろという遠回しな脅しですね?
例の会合で一体どのようなやり取りがあったのか存じませんが、王族らしい威圧感と共にそのような言い方をされると更に焦りが募るではありませんか。
「休憩に入ります」
わたくしは魔力を回復させるために教室の後ろにある休憩場所へ向かいます。回復薬を飲んで、ゆっくりと息を吐きました。少しすると、ヴィルフリート様も休憩のためにこちらへ向かってきます。
「ハンネローレ様、こちらを。シャルロッテからです」
回復薬を飲んだ後、ヴィルフリート様がアナスタージウス先生の様子を気にしながら折り畳まれた紙を差し出しました。
わたくしはその場で手紙を開きました。シャルロッテ様からのお手紙ということで、様子のおかしかったルーツィンデ様について何か書かれているのかと思ったのですが、内容はドレヴァンヒェルの状況でした。
予想していた通り、オルトヴィーン様は嫁盗りディッターと無関係な方々から悪意を寄せられ、かなり追い詰められていたけれど、取り決めが変更されたことで周囲の無意味な悪意から解放されたそうです。また、ランスリット様がアウブに呼び出されて帰還したことで、寮内も落ち着いたようだと書かれています。
「どうしてランスリット様は領地に呼び出されたのでしょうね?」
「ローゼマイン様がアウブ・ドレヴァンヒェルに苦言を呈したと聞いています。レティーツィア様を困らせことについて」
独り言のつもりで零した言葉にヴィルフリートから反応があって、わたくしは目を瞬かせながら視線を向けました。
……わたくしとの交流は禁じられていたのではなかったのでしょうか? それとも、今回の件について説明するようにシャルロッテ様からお言葉があったのでしょうか?
エーレンフェストにおけるヴィルフリート様の立場がよくわからないまま、わたくしは説明に耳を傾けます。どうやら神々の世界から戻り、レティーツィア様の報告を聞いたローゼマイン様がランスリット様のやり方に腹を立てたことが原因のようです。
「重要な用件で領地に戻るついでに、直接アウブ・ドレヴァンヒェルに緊急用の水鏡で苦情を入れると聞きました」
ローゼマイン様は「実の兄妹ですから交流を持つことは構いませんが、アウブであるわたくしが不在の時を狙って強引に接触し、レティーツィアを困らせるのはいかがなものでしょう? 領地が違っても実妹だと他領の者達から守るならばともかく、そのような方を実兄と思えるでしょうか?」とおっしゃったそうです。
「神々の世界から戻ったばかりの女神の化身から直接苦情を……?」
それはアウブ・ドレヴァンヒェルが驚いてランスリット様を呼び出すのも当然でしょう。「土の日に境界門で会合を行います」と宣言されたお父様も相当驚いたはずです。けれど、わたくしや貴族院の現状を何とかしたいという提案と、他領のアウブで女神の化身から苦情を受けるのでは精神的な負担が大きく違います。
「やりすぎていなければよいのですが……。叔父上、いえ、フェルディナンド様といい、ローゼマイン様といい、どうにも過激なところがありますから」
「まぁ、フフッ……」
確かにお二人の過激な一面を思い出して少しばかりランスリット様の今後が心配になる部分はあります。
「レティーツィア様から相談を受けたわたくしとしては、レティーツィア様やオルトヴィーン様の周囲が落ち着いたことに安堵いたしました。こうして情報を伝えてくださってありがとう存じます。シャルロッテ様にもわたくしが感謝していたとお伝えくださいませ」
「講義を終えたらシャルロッテやローゼマイン様とお茶会をしてやってください」
「えぇ、次回で終わりそうですからその際はぜひ」
そうして、わたくしはヴィルフリート様に宣言した通り、次の回で領主候補生コースの講義を終えました。アナスタージウス先生に「予想以上に早かった。よくやった」と褒められ、わたくしは達成感を噛み締めました。これで貴族院五年生の全講義が終了です。わたくしも社交を始められます。
全ての講義を終えて機嫌良く寮に戻ったわたくしのところにルイポルトが木札を持ってやってきました。そのまま会議室へと促されます。
「ハンネローレ様、領地から報告が届きました。辞退する領地は増えなかったようです」
嫁盗りディッターの参加領地がコリンツダウム、ドレヴァンヒェル、ギレッセンマイアー、ハウフレッツェで決定したという知らせです。
「それにしても、おかしいですね。ギレッセンマイアーは辞退しなかったのですか? オルトヴィーン様を追い詰めて辞退を促すほど、ディッターの回避を望んでいたようですのに……。やはり辞退を望んでいたのはルーツィンデ様個人で、アウブは積極的だったと言うことでしょうか」
わたくしが首を傾げながら疑問を零すと、ルイポルトはゆっくりと息を吐きました。
「どうやらギレッセンマイアー、ハウフレッツェはジギスヴァルト様と契約魔術を交わしてしまっていて、自分達の意思で辞退できないらしく非常に困っているようです」
「契約魔術ですって……?」
全く予想もしていなかった事態にわたくしは息を呑みました。
「どうにかならないか、両領地から緊急の水鏡を通じて相談されたようですが……」
「いくらお父様がどうにかしてやりたいと思ったところで、契約魔術の解消は当人同士で行っていただかなければどうしようもありませんものね。ジギスヴァルト様は契約の解消に同意しないでしょう」
嫁盗りディッターで優位に立つための暗躍ならば、ジギスヴァルト様にとってギレッセンマイアーとハウフレッツェは貴重な味方であり、戦力です。両領地との契約魔術を解消すると思えません。
「ツェントの取り成しもあったようで、ディッターへの参加は避けられなくても後々の対応に関しては考慮するそうです」
ルイポルトは木札を読み終わると、小さく鼻を鳴らしました。
「契約魔術を解消したいと言っても、ツェントに相談したことが伝わっても、ジギスヴァルト様との関係は悪化するでしょう。ギレッセンマイアーもハウフレッツェもこれで元王族への対応をよく考えるようになるのでは?」
わたくしは少し眉を寄せました。言いたいことはわかりますし、間違っていません。しかし、ここ最近は何だかルイポルトの口が悪くなっている気がします。側近と距離が近くなったからこそ見えてきた部分かもしれませんが、あまり耳にして気分のよい言葉ではありません。
「ルイポルト、貴方は将来的に他領との折衝を行う文官になります。ならば、今からできるだけ他者が気分を害する言葉を選ばないように気を付けてくださいませ」
わたくしがそのような指摘をすると思っていなかったのか、驚いたようにわずかに目を見張った後、ルイポルトが表情を改めて頷きます。
「気を付けます」
コルドゥラがわたくしを見て満足そうに一つ頷き、軽く手を叩きました。
「何にせよ、これでディッターに出場する領地は確定しました。ハンネローレ姫様の講義も全て終了いたしました。社交を始めますよ」
コルドゥラの言葉に側仕え見習い達が気合いを入れた表情になります。例年より社交を始めるのが遅くなってしまったのです。今後の予定について話し合わなければなりません。
「まずは、ローゼマイン様に連絡を取りましょう」
わたくしがそう言うと、まるでそれを待っていたようにオルドナンツが飛び込んできました。部屋をクルリと回った白い鳥はわたくしの手に降りたって嘴を開きます。
「ハンネローレ様、ローゼマインです。講義を終えたと聞きました。図書委員のお茶会をいたしましょう。ソランジュ先生からお話があるそうです」
三回繰り返すオルドナンツを見ながらアンドレアが苦笑しました。
「お耳が早いこと。ローゼマイン様はオルドシュネーリの御加護も厚そうですね」
「間違いなく御加護を得ていらっしゃるでしょうね」
わたくしは頷きながら了承の返事をオルドナンツに吹き込みました。これほど心待ちにしてくださっていると思うと嬉しいものです。
ツェント&ローゼマインから会合での決定が学生達に知らされました。
周囲で社交が始まる中、必死に講義を終えるハンネローレ。
シャルロッテからの手紙で、オルトヴィーン様の現状を知らされました。
領地からの報告で、ギレッセンマイアーとハウフレッツェが陥っている現状がわかりました。
次は、図書委員のお茶会です。




