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母のうつ病

その日、家に帰ると家の明かりは付いてなくて、いつもはお母さんが夕飯の支度をしてる時間なのにおかしいな?

いないのかな?そう思いながら玄関の鍵を開けようとすると、鍵は…開いていた。

ちょっと緊張しながら物音を立てないようにゆっくりと中に入る。恐る恐るリビングの戸を開けて中を覗くと、真っ暗なテーブルに人影が見えた。ひっ!

と声が出そうになるのをあわてて抑えて、よく見ると…お母さん?何か様子がおかしい。

手元のスイッチでリビングの電気を付けると母が顔を上げて「お帰り。」と言った。

「お母さん?どうしたの、電気も付けないで」

母はゆっくりと外を見て、

「あぁ、もうこんな時間なのね」と小さな声で言った。

どうしたの?顔色悪いし、疲れてるのかな?

「お母さん、今日わたしご飯作るよ。疲れてるみたいだし休んでて。」

「そうね、夕飯の時間ね、ごめんなさい。凜ちゃん、ありがとう。」そう言うと母は寝込んでしまった。

冷蔵庫を開けると、あれ?お母さん最近買い物あんまり行ってないのかな?残り物しかないや、野菜炒めとお味噌汁でいいよね。お母さんはおじやとかのがいいのかな?

夕飯が出来上がるとちょうどお父さんが帰ってきた。

「ただいま…あれ?凜が作ったのか?お母さんは?」

「お帰りなさい。お母さん具合悪いみたい。ちょうど今出来たとこだから食べよう。」

「…あぁ、そうか。ありがとう。」

「お母さん、どうしたんだろうね、お父さん何か知らない?」

「あ、あぁ、…お母さん最近ちょっと不安定で、父さんにもよくわからないんだよ。(ちょっと沈黙)…お前とこうやって話をするの、久しぶりだな。思ったより元気そうだな。」

「あ、そう…だね。(確かに、ここのところずっと親とも口をきいてなかったかもしれない。自分のことでいっぱいいっぱいになってた。)わたしね、最近新しい友達…出来たんだ。 お母さん…大丈夫かな?ごめんなさい、わたし…全然気付かなくて。自分のことしか見えてなかった。」

「いや、お父さんも同じだ。何も分からないんだから。お前のことだってどうしたらいいかまったく分からんかったんだ。お母さん…精神科に連れていった方がいいんだろうか…。こういうことは父さんにはよくわからないんだよ。」わたしが自分のことでいっぱいになってる間に、お母さんもお父さんもそんなに悩んでいたなんて…学校のこともそんなに言われなかったし、本当に気付かなくて…なんて情けないんだろう。ずっと一緒の家に居たはずなのに。

「…明日、わたしちょっとお母さんと話してみる。」



翌日、家には仕事がたまっていた。そんなことにも気付かなくて、今まで本当に母に任せっきりだったことを反省しながら、洗濯物や掃除を済ませると、昼前にやっと母が起きてきた。母はわたしが昨日作ったおじやを食べて洗い物を始めた。

やっぱりどこかおかしい。いつもおしゃれな母がちぐはぐな組み合わせのものを着て、まるで自分がどう見えているか見ていないようだ。

メイクもしようとしない。というか、鏡を見ていない?寝室には洗濯物も溜まっていたし、視線は虚ろに下を向いたままだ。よく見ると母の自慢のお肌にも小じわが出来てしまっている。本当にどうしちゃったんだろう?

「ねぇ、お母さん。起きて大丈夫なら一緒にスーパー行こう?冷蔵庫残り物しかないよ。」

「あぁ、そうね。ごめんね、これ終わったら一緒に行ってくれる?」と言って、出かける前に帽子を深くかぶり、サングラスをかけた。誰だか分からない。


買い物から帰って、買ってきた物を整理しながら、思いきってきいてみた。

「ねぇ、お母さん…どこか悪いの?帽子にサングラスなんて。…もしかして、わたしが学校行かないのが原因…?」長い沈黙のあと、絞り出すように母が言った。

「お母さんにも分からないんだけど、誰にも会いたくないの…。みんなに見られてる気がして…怖いの、本当はそんなことあるわけないってわかってるんだけど、できたら家から出たくないのよ。でも、ご飯のお買い物はしなきゃならないし、こんなひどい顔したお母さんと凜ちゃん歩けないから、顔が見えないようにと思って。こんなお母さんでごめんね。…凜ちゃん、お母さん…力になれなくて…ごめんなさい…。凜ちゃんのこと助けられなくて…ごめんなさい…。」その目には大粒の涙が浮かんでいた。

胸を突かれたように痛みが走った。

「…なんで?お母さんは悪くないよ。わたしの方こそ、こんなになるまで気付かなくて……ごめんなさい…お母さんをそんなに苦しめてたんだね…。」

「そんな…謝らないで…。凜ちゃんは悪くない。一番苦しかったのは凜ちゃんなんだから。子どもが苦しい思いをしてたら、親は助けたいの。…でも、お母さん…何も出来なくて……。」

「お母さん…。わたしはもう大丈夫だよ、最近…新しい友達、出来たんだ。ごめんね、心配ばっかりかけて。」

「…そう。お友達が。よかったね。お母さんにももっと色々相談してね、何も出来ないかもしれないけど…。役に立てないかもしれないけど…。」

「そんなことないよ、うん。そうだね。もっと話せばよかった。こんなにわたしのこと考えてくれてたなんて知らなかっよ。ありがとう、お母さん。今日もご飯作るから、お母さんはゆっくりしてて。」

「ありがとう、凜ちゃん。でもお母さんも一緒に凜ちゃんとお父さんの好きなもの作るから。凜ちゃん手伝って。」

「うん。わかった。」

それからお母さんとお父さんと少しずつ話をした。後日、病院に連れて行くと薬をいくつか処方され、一緒にカウンセリングに通うように言われた。

母はわたしのせいでうつ病になりかけていたのだ。

医師に言われたのは、親というのは時に子の痛みを変わってやりたいと思うものなんだ。君を愛して、想っている親がいることを忘れたらいけない。

お母さんとできるだけ話をしなさい。それが、お母さんにも君にとっても良い結果につながるはずだよ。

 お友達が出来た、と言ったね?その子のことや、新しく始めたことなんかも話してあげなさい。きっとお母さんも喜んでくれるはずだ。


 それから数日、できるだけお母さんと過ごして家のこととかを手伝い、少しずつ学校であったこと、まことのこと、初めて行ったライブハウスのこと、お母さんの反応を伺いながら、恐る恐る話した。すると、心配はされたが怒られることはなく、わたしに良いことがあるとお母さんまで嬉しそうだった。

 それにお母さんは自分の気持ちやお父さんとのこと、昔の自分の恋愛のことも話してくれたりして、すごく楽しかった。今までわたしは親は自分とは違う生き物なんだ、と勝手に思い込み自分から壁を作ってしまっているたことに今ごろになって気が付いた…。

バンドに参加する話も心配してたが、やってみたいなら応援すると言ってくれた。さっそく練習に参加することをまことに連絡した。わたしがバンドなんて、ドキドキだ!


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