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紅蓮の英雄  作者: 時つぶし
英雄の咆哮
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1-6 騎士団会議

 フォートレス王国の城、その3階に騎士団が用いる会議室はあった。

 既に席は埋まっており、団長のアルベルトと副団長のシャルメティエの他に1~8番隊の隊長が勢揃いしている。

 隊長達の顔には歳を重ねた結果の皺が見られ、少なくとも40歳は超えている者ばかりであった。アルベルトとシャルメティエが上座にいるのに、違和感を覚えてしまう光景である。

 そして、そこにはグレンもいた。

 「皆さん、お忙しい所集まっていただいて誠に感謝いたします。それでは、これより騎士団会議を開きたいと――」

 アルベルトが開会を宣言しようとした矢先ではあったが、それを妨げるように手が挙がる。

 3番隊隊長――ドゥージャン=バクス=ローのものであった。

 「その前に1つ聞きたい。何故、騎士でもない者がここにいるのか」

 ドゥージャンは、邪魔者と非難するように国の英雄を睨み付ける。いつものことなので、グレンもその視線を平然と受け止めた。

 「彼は我が国の最高戦力です。騎士でなくとも、この場にいるには相応しい人物かと思いますが」

 決して声を荒げることなく、あくまで淡々とアルベルトは主張する。しかしドゥージャンからは、それで納得した様子は見られなかった。

 「そう思っているのは団長だけではないのかね?他の者はどうだ?」

 アルベルトの意見は至極真っ当な物であり、ドゥージャンが彼個人の好き嫌いから異議を唱えているという事を、その場にいる全員が理解している。そのため誰もドゥージャンに賛同する者はいないと思われたが、そんな中において即座に手を挙げる者がいた。

 その人物は、シャルメティエである。

 「ほう!まさか戦乙女殿の賛同を得られるとは思いもしませんでしたぞ!」

 『戦乙女』とは、シャルメティエに敬意を表して呼ぶ際の二つ名である。ただし、この時のドゥージャンは戦うしか能がないという意味で、皮肉として使っていた。

 それに気付くこともなく、シャルメティエはアルベルトに向けて語り掛ける。

 「これは騎士と兵士が解決すべき問題です。依頼もしていない勇士の方を巻きこむのは、どうかと思います」

 この言葉に、グレンは少し戸惑った。シャルメティエとは上手くやっていたつもりだったのだが、もしかしたら嫌われるようなことをしたのかもしれない。

 「シャルメティエ、どういうことだ?」

 その不安が漏れたのか、グレンはシャルメティエに向かって問い質した。副団長たる女性は彼の方へ向くと、それに答える。

 「グレン殿、我々はいつまでも護られてばかりの存在ではないのです」

 この言葉に、グレンは納得しなかった。

 と言うか、何を言いたかったのか良く分からなかった。

 「ああ、つまりだグレン。副団長は、いつまでも君の力に頼っていては駄目だと言っているんだよ。将来、君がいなくなっても自分たちの力で国を守れるようにならなければいけない、とね」

 アルベルトにそう説明されるが、1度くらいしか国を救った経験がないグレンにはよく分からない理論であった。しかし、シャルメティエは力強く頷いている。

 「さすがは、アルベルト殿。私の言いたいことを分かりやすく伝えてくれた」

 シャルメティエの言葉を受けて、ドゥージャンの笑い声が響いた。

 「ならば、すぐにここから出て行った方が良いのではないかな!?」

 続けてそう言われ、グレンは特に抵抗も見せずに席を立とうとする。そこで、またもやシャルメティエが意見を述べた。

 「いや、戦闘には参加してもらわないが、会議には参加していただく。百戦錬磨のグレン殿のことだ。何か妙案を思い浮かべるかもしれない」

 頭を働かせることが苦手なグレンとしては、そのような期待をして欲しくなかったが、とりあえず座り直すことにした。

 ドゥージャンの機嫌の悪そうな顔を視界の端に収めつつ、アルベルトを見る。

 「話もまとまったことだし、それでは会議を始めたいと思います。まず、今日ここに皆さんを集めた経緯を説明します」

 そう言って、アルベルトはリィスの話を掻い摘んで聞かせた。

 途端、会議室中がざわめきだす。フォートレス王国騎士団の隊長格とは言っても、サイクロプスの存在は恐怖の対象であった。

 「サイクロプスだと!」

 「馬鹿な!信じられるか!」

 「もしそれが本当だとしたら、アンバット国は今まで以上の脅威になるぞ!」

 そんな風に慌てふためく隊長たちを見渡し、グレンは心の中で軽蔑を覚える。

 リィスの話を聞いて怒りを覚えたシャルメティエや、すぐさま次の行動に移ったアルベルトと比べ、どの人物も精神的に遥か劣っていると思ったからだ。

 その2人も無表情ではあったが、同じ気持ちであるだろうと思われる。

 ただ1人、ドゥージャンだけが嫌悪感を露わにしていたが、グレンやシャルメティエの時とは異なり皮肉を言ったりはしなかった。

 (なるほど、若い2人が団長と副団長を任されている理由がよく分かる)

 勿論、それだけが2人の今の地位を築き上げた理由ではないことを、グレンは知っている。

 その一端を見せるかのように、隊長たちを鎮めるため、シャルメティエは力強く机を叩いた。机に穴が開くのではないかと思われる程のその音に、会議室は先ほどの静寂を取り戻す。

 「ありがとう、副団長。皆さん、慌てている時間はありません。敵が動くとするならば、おそらく近日中に王国への侵攻を開始するでしょう。それまでに何か対策を立てなくてはなりません。何か案のある方はいますか?」

 いきなりそんなことを言われて立案できるような頭を持った者はいないようで、誰もが口を閉ざしている。当然、グレンも同様であった。

 「分かりました。では、不肖ながら私が立てた作戦を説明したいと思います」

 そこでアルベルトが立候補し、解説を始めるために地図を広げる。

 彼が立てた作戦は、このようなものであった。

 フォートレス王国とアンバット国との国境は狭い。そのため、国境をアルベルト隊、シャルメティエ隊そして1~8番隊長が率いる隊の計10個隊で埋めてしまおうというものである。

 敵がどこからどれくらいの規模で攻めてくるか不明であるための苦肉の策ではあったが、そこに異論のある者はいなかった。サイクロプスを王国民の暮らす領域にまで入れたくはないのだ。

 ただ、国境が狭いとはいってもその全てを騎士で埋めることなどはできないため、間隔を開けて配置する事にはなる。そして、敵影を認めた部隊が合図を送るという仕組みだ。

 「なるほど、そうしたら残りの部隊はそこに集まればいい訳だな?」

 ドゥージャンが心得たとばかりに聞いてくる。

 「いえ、それだと防衛線に大きな穴が空くことになり、そこを敵に突破されかねません。ですので、合図を送った部隊の両隣の部隊から半数ずつの人員を向かわせることとします」

 つまり、合計2個隊で複数のサイクロプスと戦うことになるのであった。

 「そ、それはいくらなんでも無謀ではないか!?」

 「その通りだ!それならば、やはりグレン殿にも参加していただくべきではないのかね!?」

 少なすぎる戦力に隊長たちが異議を唱える。

 それにシャルメティエは首を横に振り、

 「先ほども言ったように、この問題は我ら騎士団が解決しなければならないものです。グレン殿が加わってくだされば、それだけでこちらの被害は少なくなり、容易く勝利を納めることができるなど百も承知。しかし、それでは我々の存在する意味がないとは思いませんか?」

 と言った。

 「そんなもの副団長殿の私的な見解であろう!王は、王はなんと仰られたのか!?」

 この話については、会議が開かれる前にすでにフォートレス国王の耳にまで届いている。

 騎士とは違い、兵士は国王の管理下に置かれているため、彼の許可なく動かすことはできなかった。加えて、王国騎士団副団長がなんと言おうと、国王がグレンの参加を要望すればそうせざるを得ない。

 しかし、これに対してはアルベルトがにこやかに説明をした。

 「国王に御意見を伺った所、『この程度の問題、てめえらで解決しろ。俺は今、ラムルの世話で忙しいんだ』と仰っていましたよ」

 ラムルとは、第3王妃との間に最近生まれた国王の8番目の娘である。余談ではあるが、王子は1人しかいない。

 (確か今年で50歳になられたはず。まだまだお元気でいらっしゃるようだ)

 かつて兵士として仕えた人物を懐かしく思うグレンであった。

 「し、しかし・・・・」

 「それならば、何か代案を出していただきたい」

 兵士の参戦すら絶望的と知り、まだ渋ろうとする者にアルベルトはそう言いつける。しばらく悩んだ後、その隊長は口を開いた。

 「こ、こちらから・・・攻め込む・・とか・・?」

 「可能性が非常に高いというだけで、まだ確実に敵が攻め込んでくるとは限らないのです。こちらから侵略行為を行うことはできません」

 そう言われた隊長は、下を向いて黙ってしまう。それ以上の異議もなかったため、アルベルトは話を勧めた。

 「それでは、どの隊がどこを守るかを決めるとしましょう。まず、最も敵との遭遇確立の高い場所ですが――」

 言いながら、アルベルトは地図上のアマタイ山を指差した。そこは、リィスがサイクロプスの隠れ家を探していた場所である。

 「――ここです。とは言っても、この山から西は国境を越えて森が続きます。ですので、アマタイ山とその近辺の村の間にある平原で敵を待ち受けてもらいます」

 そう言うと、アルベルトは視線を隊長たちに向ける。

 「どなたか、立候補してくださる方はいませんか?」

 アルベルトのその言葉にいち早く手を上げたのは、やはりシャルメティエであった。恐怖など一切感じられない、副団長としての威厳が表情からも伝わる。

 「ありがとう、シャルメティエ副団長。君ほどに勇敢な騎士を私は知らない。ならば、私は君の部隊の隣に着くとしよう」

 シャルメティエに向けてそう言うと、再び隊長たちに向き直る。

 「さて、もう一方に着いてくださる方はいますか?」

 そう聞かれ、ドゥージャンが渋々手を上げた。

 「感謝いたします、ドゥージャン殿。では、他の部隊の配置を決めていきましょう」

 こうして全ての部隊の配置が決まり、会議は終了となった。さほど時間がないため、隊長たちは急いで自分たちの隊へ指示を出しに行く。

 その去り際、ドゥージャンはグレンに向かって、

 「妙案など出ませんでしたな」

 と皮肉を言ってきたが、その通りであったのでグレンも「ええ」とだけ答えた。






 会議室を出ると、グレンは1人でアルベルトの部屋へと戻る。部屋の主とシャルメティエは、出立の準備を整えるためすでに行動を開始していた。

 「グレン様!」

 扉を開けたグレンに向かって、不安に顔色を悪くしたエクセが駆け寄って来る。リィスも同様であり、ポポルだけが落ち着いていた。

 「どうでしたか?」

 この場にいる3人に、グレンは会議の内容を語って聞かせる。

 そして話し終わると、まず最初にポポルが大声を出した。

 「ええ~~~!グレンちゃんは戦いに参加しないの~~~!?もう~、シャルちゃんのおばかさん~~!」

 「大丈夫・・・なのでしょうか?」

 グレンの強さを知る2人だからこそ、そのような不安を口にする。けれども、グレンに不満はなかった。

 「副団長であるシャルメティエがそう言い、アルベルトも異議を唱えませんでした。つまりは、そういうことなんでしょう」

 「あのアルベルトちゃんがね~~」

 アルベルトであるならば、来るべき戦いにグレンがいないことがどれだけの損失に繋がるかを理解しているはずだ、と言いたげな感じでポポルが呟く。

 「ごめん・・・なさい・・・私なんかの・・・ために・・・」

 そんな彼らの反応を見て、戦争の引き金を引く要因となるかもしれないリィスが謝罪をした。

 言うまでもなく批判する意図はなく、グレンを除いた2人は大いに慌ててしまう。

 「い、いえ!別にリィスさんのせいではないですよ!」

 「そうよ~~!リィスちゃんは~、何も悪くないわ~~!」

 そこで話を変えようとしたのか、ポポルが「あ~!」と言って手を叩く。そしてその話題は、グレンに向かって振られた。

 「そうだ~!グレンちゃん~、ちょ~っとお願いがあるんだけど~」

 「なんでしょう?」

 「リィスちゃんを~うちで引き取りたいな~って思うんだけど~。いいわよね~?」

 その言葉に、他の3人は驚愕する。特にリィスは、「え?え?え?」と同じ言葉を連呼してしまう程に混乱していた。

 「・・・それはまた、どうしてですか?」

 「あんな~身の上話を~聞かされて~、放っておくなんて~母親としてできないわ~」

 言いながら、ポポルはリィスを抱きしめる。

 「リィスちゃんも~いいわよね~?」

 「あの・・・私・・・・」

 「駄目~?」

 ポポルにそう聞かれ、リィスは口籠りながらも答える。

 「奴隷・・・ですから・・・」

 そう言ったリィスの目は、深く深く淀んでいた。

 長い奴隷生活の末、もはや自分と言う存在に何の価値も抱けていないようである。しかし、そんな少女にポポルは笑顔で語りかけた。

 「そんなの~関係ないわ~。あんな国のことなんか~忘れて~、これからは~この国の~貴族として生きるんだから~」

 「まさか、養子にするつもりですか!?」

 予想外の発言に、グレンはその驚愕を声に出す。けれども批判しているつもりはないため、止めるつもりもなかった。

 「そうよ~。前々から~可愛い娘が欲しいな~って、思ってたのよね~。うちは~2人とも男の子だから~」

 今度はリィスの頬に自分の頬をすり寄せていた。

 もはや完全に娘と思っているようだ。

 「別にいいでしょ~?ほら~、さっきの~解呪のお礼だと思って~」

 「・・・先程は『無償で』と仰っていましたが?」

 「さっきは~さっき~。今は~今~」

 ポポルは歌うようにそう言った。

 「まあ・・・私は構ないですが・・・」

 そう言って、リィスを見る。この話は、あとは彼女がどう判断するかだ。

 「どう~?リィスちゃん~?」

 「え・・っと・・・」

 「駄目~?」

 先ほどと同じ問いに、リィスは少し逡巡する。それでも、確かな声でこう言った。

 「駄目・・・・では・・・ないです・・・・」

 その言葉を聞いたポポルは、満面の笑みを浮かべる。

 「きゃ~~~~!やった~~~!リィスちゃん~、好きよ~大好き~~~!」

 そのやり取りに、エクセも瞳を潤ませながら笑っていた。グレンはポポルの行動力に呆れながらも、心の中で称賛を送る。

 「それじゃあ~早速我が家へ~案内するわ~。――っと~、その前に~リィスちゃんって~おいくつ~?」

 何のためかは分からないが、ポポルはリィスにそんな質問をした。

 「え・・・っと・・・確か・・・17くらい・・・だったかと・・・」

 「え!?」

 その驚きの声は、エクセから上がったものである。

 「じゃあ~、一番上の~お姉さん~ってことになるわね~。うふふ~今から旦那と~息子たちの~驚く顔が~目に浮かぶわ~」

 にやにやと笑うポポルとは対照的に、エクセは申し訳なさそうな顔をしていた。

 「す、すいません、リィスさん!(わたくし)、てっきり同い年か年下の方かと思っていました!」

 ここに来るまでの道中に行ったリィスへの対応について、エクセは謝罪しているようである。けれども当の彼女に気分を害した様子が見られなかったのは、言い訳などではない事実であった。

 「いいの・・・気に・・しないで・・・。私も・・・エクセと・・・一緒で・・・楽しかった・・から・・・」

 「リィスさん・・!」

 初めてリィスに名前を呼ばれ、エクセは喜びの声を上げた。

 「ちょっと~、私のリィスちゃんを~取っちゃ~駄目~」

 そんな2人の間に、頬を膨らませたポポルが割って入る。そして、娘となった少女の手を取ると、足早に扉へと向かって行った。

 「それじゃあ~、お二人さん~、また今度ね~」

 「少し待っていただきたい、ウェスキス殿。これを――」

 ご機嫌に部屋を出て行こうとするポポルに向かって、グレンは制止を掛けると懐から金貨の入った小袋を取り出す。それは、ここに来る前に勇士管理局で受け取った報酬であった。

 ポポルは不思議そうに受け取り、中身を確認すると、

 「なあに~?こんな小金もらっても~困るわ~」

 と愚痴る。

 これだけあれば一般家庭が数か月は暮らしていける額なのだが、さすがは貴族と言ったところか。しかし、グレンとしても今回の報酬はリィスの当面の生活費として考えていたため、渡しておきたかった。

 「リィスをここまで連れてきた身として、ぜひ受け取っていただきたい。エクセ君もそれでいいね?」

 一応エクセと共同で依頼を達成したことになっているため、確認を取る。

 「もちろんです。それはグレン様がお受け取りになった報酬。お好きなようにお使いください」

 エクセがそう言うと、ポポルは渋りながらも

 「そう~?じゃあ~、一応~貰っておくわね~」

 と言って、小袋を懐に入れた。

 そして別れのあいさつを言い、2人揃ってアルベルトの部屋を後にする。

 残ったグレンとエクセも互いに別れを告げると、帰路に就いた。

 あとは、騎士達に任せるしかない。

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