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紅蓮の英雄  作者: 時つぶし
神を継ぐ者
41/86

3-12 ユーグシード教国

 ユーグシード教国にある8つの神殿、その中の1つである知識の神殿の中にある大神官の部屋。

 そこは今、喧騒に満ちていた。

 「どうするのですか、リットー大神官!?」

 「こんなことになるのならば、貴方の話など聞くのではなかった!」

 「おそらく王国の使者は近いうちに教国を訪れます!その時には貴方だけでなく、我々も神官の位を剥奪される可能性があるのですよ!?」

 「バレたら・・・、お終いだ・・・」

 群がる男達から発せられる数々の罵声と泣き言を、知識の神に仕える大神官リットーは静かに聞いていた。彼は目を閉じ、椅子に背を預けてゆったりとした格好で座っている。その姿は、これから直面するであろう問題を全く意に介していないようであった。

 「リットー大神官!!」

 その態度に、1人の神官が大声を出す。

 それが合図となったのか、部屋を満たしていた騒ぎは跡形もなく消え去った。叫んだ神官も気まずそうに周りの様子を伺っている。

 「終わったか・・・?」

 そして、その静けさに水を差す様にリットーが不快感に満ちた言葉を発する。開かれた彼の目は先ほどまで大勢の男達に非難を浴びせられていた者のものではなく、神官達に圧倒的な権力の差を感じさせる力強さを有していた。多勢である彼らであったが、すでに60歳を越えているであろう男唯一人に完全に威圧されてしまっている。

 「王国の使者が教国を訪れる・・・それが貴様らには余程の脅威になるようだな?一体、何をしでかしたのやら・・・」

 リットーの落ち着き払った言葉に、神官達は「何を言っているんだ」と驚愕の表情を作った。彼らに知恵を授け、王国に信徒達を差し向けさせたのは他ならぬリットーなのだ。

 「まさか、リットー大神官・・・!白を切るおつもりですか・・・!?」

 そんな大神官の意図に気付いた者が、声を震わせながらそう言った。瞬間、他の神官達も騒然とする。

 「まさか、我らに全ての責任を押し付けようと言うのですか!?」

 「なんという行い!それが神に仕える者のする事ですか!?」

 「もし我らが罰せられる時は、貴方も道連れですぞ!?」

 再び自身への怒りを露わにし始めた神官達に向かって、リットーは小さく溜息を吐く。そして彼らをその双眸で見据えると、こう言った。

 「貴様らは心底愚かなのだな・・・。予期せぬ事態に慌てふためく事しかできない・・・。よくそれで神官という地位につけたものだ・・・」

 彼の言葉からは呆れだけでなく、余裕が感じ取れた。そのため、神官の1人が問い質す。

 「ならば、リットー大神官には何かお考えがあるのですか・・・!?」

 「・・・・ある」

 その言葉に先ほどまでの敵意はどこへやら、神官達は笑顔を浮かべ、口々にリットーを称え始めた。

 当然、その光景にリットーは苛立ちを覚える。しかし、彼らへの罵倒は心の中に留めておいた。なぜならば、彼らがリットーを頼るように、リットーもまた彼らを利用という形で頼っていたからだ。例えそれが役立たずであろうとも、今ここで切り捨てるような真似は得策ではないと考える。

 「リットー大神官、それはどういったお考えなのでしょうか?」

 「・・・・・・我々は知らなかった・・・」

 リットーの淡々としながらも簡潔な答えに神官達は何を言いたいのか理解できず、互いに顔を見合わせている。その反応に答えを与えるため、リットーは続けた。

 「王国からの手紙にはこう書かれてあった。『神官が王国に信徒を差し向けた』、と。愚かな貴様らであっても、信徒達に名までは明かしておらぬだろう?ならば、王国の人間が我らを突き止めることなど不可能。適当にあしらって、帰ってもらえばいい」

 考えてみれば当然だ、と神官達はその言葉に納得する。

 確かに、神官達たちは信徒に対して名前を打ち明けてはいない。命令を与えた信徒達はそこまで親しくないような間柄でも、忠実に命令に従ってくれたのだ。ならば情報の一切を漏らすなと思いたくもあるが、彼らも人間だ。拷問を受ければ、固い口も閉ざしたままという訳にはいかなかったのだろう。

 しかし、王国に漏らした以上の情報を知らない彼らが捕まっても自分達にとって大した痛手ではないことに神官達もようやく気付いた。『自決せよ』と告げさせたのは、あくまで一切の情報を漏らさないための手段であったのだ。

 「これで分かっただろう。王国の使者など気にせず、我らはいつも通りの生活を送っていればいいのだ。奴らの相手は他の大神官に任せれば良い」

 リットーの言葉を聞き、神官達は安心しきった表情を見せる。それもまた彼を苛立たせたが、やはり何も言う事はなかった。

 そして、神官達は部屋から去って行く。扉を閉めた後も聞こえて来る談笑を耳にし、リットーは大きく溜息を吐いた。

 「少し、奴らを掌握し過ぎたか・・・。私がいなければ、何の判断も出来ない木偶と化している・・・」

 リットーは今の地位に上り詰めるため、多くの人間を味方につけてきた。その方法は買収、脅迫、洗脳と多種多様に及んでいる。大神官という位は、それほどまでにして手に入れたいものであった。

 大神官になることで得た信徒達からの崇拝、そして神官達からの服従。それらを利用して、リットーは必ず『神々の遺産』をユーグシード教国に取り戻すことを八王神に固く誓っている。それを彼らが望んでいるかどうかは、リットーの知る所ではない。

 「それにしても、あのような汚らしい連中と話をしたせいで心が汚れてしまったな・・・。今日は少し長目に楽しむとしよう・・・」

 そう言って、リットーは自身の部屋にある本棚に手を伸ばす。これは読書をしようとして行った動作ではない。彼が手に取った一冊の本、それを少し傾けることである仕掛けが作動するのだった。

 ずずず、と音を立てて本棚が移動を始める。そしてそこからは現れたのは、地下へと続く階段であった。左右の壁に備えられた明りのおかげで足元は明るく、老いて視力の乏しくなった彼でも安全に下ることが出来る。

 そしてこの仕掛けこそ、この地下こそ、この先に待つ光景こそ、彼が大神官になってでも叶えたいもう1つの望みであった。それらを実現させるため、彼は今まで様々な繋がりを作って来た。

 「さて今日は・・・どの娘に相手をしてもらおうか・・・」

 先ほどまでほとんど変わらなかったリットーの表情が欲望に歪む。

 明りに照らされた彼の目は、神に仕える者とは思えないほど怪しく輝いていた。






 大神官の1人であるジェウェラは、王国からの手紙に目を通していた。

 彼の顔には笑みが見られ、リットー達とは異なる感想を手紙から受け取っていることが分かる。

 「さすがはグレン様のいらっしゃるフォートレス王国ですね。リットーの企みをこうも容易く打ち砕くとは」

 「私が見た信徒達は、いずれも相当な手錬れであったと思いましたが」

 ジェウェラの座る机の傍、そこに立つ1人の女性がそう言った。その顔には王国への称賛と自身の未熟への不快感が微細ながらも現れている。

 「気に病むことはありません、マリン。貴女にはそう映っただけで、王国の騎士達には大した相手ではなかったというだけです」

 それを察したジェウェラは上機嫌にマリンと呼んだ女性を慰めた。しかし、彼女の顔は晴れない。

 「ジェウェラ様。それは全くもって慰めになっていません。むしろ酷く傷つきました」

 「おや、そうでしたか?」

 「はい。己の未熟は重々承知していますが、それでも貴方に言われるとより堪えます」

 「そうですか。それはすみませんでした」

 「いえ、何も謝ってもらうほどの事ではありません」

 あくまでも淡々とした口調でマリンは言う。感情の起伏が少ないのが、彼女の特徴であった。

 「それでジェウェラ様。僕たちは何のために呼ばれたんですか?」

 「ああ、すいませんね、ハルマン。今、説明しますから」

 ジェウェラの部屋には彼とマリンの他にもう1人、ハルマンと呼ばれた少年が同席していた。2人は朝方ジェウェラに呼ばれて、ここを訪ねていたのだ。

 「貴方方も知っているとは思いますが、つい先日フォートレス王国からこのような手紙が届きました」

 ジェウェラは手に持った手紙をもう片方の手で軽く叩く。

 「ここにはリットーの差し向けた信徒達が捕らえられたこと、そしてそれに対するフォートレス国王の怒りが書かれています」

 「いい気味ですね」

 マリンの淡々とした毒舌にジェウェラは苦笑いを浮かべながらも続ける。

 「確かにその通りです。ですが、問題が一つだけ。王国は今回の件に関して、教国に対し責任の追及をするために使者を差し向けました。手紙が送られてきた時期を考えると、もうそろそろ到着しても良い頃でしょう」

 「それで、その人たちをどうするんですか?」

 「手紙に書かれてあるからそうする訳ではないのですが、勿論歓迎します」

 ハルマンの疑問にジェウェラは答える。

 「じゃあ、リットーを差し出すんですね」

 「いいえ。それは違います、マリン。我々はあくまで使者を迎え入れるだけ。協力まではしません」

 「何故ですか?あのドブネズミを排除する絶好の機会ではないですか」

 言葉は辛辣であったが、やはりマリンの声に感情はない。

 「あの者は力を付け過ぎました。今や神官の約半数がリットーの支配下にあるます。彼が失墜すれば、それだけ大きな混乱が起こります」

 「そのような混乱、起こしておけばいいのです」

 「そう言う訳にもいきません。教王が臥せられている今、少しでも信徒達に安心感を与えなければ」

 「我々はジェウェラ様がいらっしゃれば、それで良いのですが」

 マリンの言葉にハルマンも元気に頷いた。

 「ありがとうございます。ですが――いえ、ならば理解してあげてください。裏で悪事を働くリットーに対しても、そのような感情を持つ者たちがいるのです。私は、彼らを見捨てたくはない」

 「素晴らしい御心です、ジェウェラ様。リットーにも貴方様程の誠実さが欠片でもあれば良かったものを」

 「マリン、彼も昔はああではなかったのです・・・。一体、どこで間違った快楽を覚えてきたのか・・・」

 教国に属する神官や信徒達であっても、快楽を得ることは制限されていない。しかし、そこには『正しさ』が伴っていなければならず、ジェウェラやその信徒達が手に入れた情報では、リットーはそこから大きく外れていると言わざるを得ない所業を行っていた。

 「それを知っていて何もしない我々もまた、彼と同罪なのかもしれませんが・・・」

 「それは違います、ジェウェラ様!」

 自分たちの主の言葉に、ハルマンは異議を唱える。ジェウェラは、そんな彼に視線を移した。

 「ジェウェラ様は救える者は救っています!僕たちがその証拠です!」

 そう、ジェウェラは彼らを救った。それは彼が神に仕える日々の出来事。行き場を無くした者達にジェウェラは生きる場所と理由を与えたのだ。故に、彼に仕える信徒達の忠義は厚い。それは自分の命を賭けられる程に。

 「ありがとうございます、ハルマン。貴方達の成長を見ていると、それが真実に思えてきます。慈愛の女神イコアス様に感謝しなければなりませんね」

 ジェウェラは戦いの神に仕える大神官であった。しかしだからと言って、他の八王神を軽んじているという訳ではなく、時には今回のように感謝を捧げる場合もある。

 「ところでジェウェラ様、そろそろ出た方がよろしいのではないですか?」

 「おや、もうそんな時間ですか?」

 マリンの言葉に、ジェウェラも時計を見ながらそう言った。

 ジェウェラには大神官としての仕事があり、その1つが神殿に集まって来た信徒達への説教である。彼が修行中に見聞きした事や悟った事を聴衆に話して聞かせるというものだ。ただ、そこに彼の真の信仰についての言及はない。『争いによる発展』という考えは、彼とその仲間たちだけの物であった。

 「それでは向かうとしましょう。マリン、ハルマン、ついてきてください」

 「「はい」」

 2人が同行する理由、それはジェウェラの護衛であった。女性と子供だけで大丈夫なのかと思う者もいるが、マリンとハルマンは並々ならぬ鍛錬を積んでいる。多少の暴漢くらいならば、あっという間にねじ伏せることができるだろう。これは2人に限ったことではなく、彼らの仲間であるならば至って当然の事であった。

 3人は戸締りを済ませると、部屋を出て行く。最後にハルマンが扉の鍵を閉めて、彼らは自分達の神を祀る場所へと歩き出した。






 サリーメイア魔国を抜け、グレン達はユーグシード教国へと足を踏み入れた。

 関所での手続きをチヅリツカが済ませると、一行は教国で手配した馬車へと乗り込む。ここからは地元の人間に任せた方が目的地まで確実だろう、と判断したためである。その馬車は少し狭く、先ほどまで乗っていた馬車との落差のせいか、5人は窮屈な思いをしながら移動をする羽目になってしまっていた。ただ、グレンと密着することが出来たエクセだけは妙に嬉しそうではあったが。

 「時に、チヅリツカ君」

 「はい?」

 そんな中、グレンがチヅリツカに声を掛ける。他の者も彼が何を言うのか、と視線を向けた。

 「ユーグシード教国とは、どんな国なんだ?」

 グレンは勇士の依頼で様々な国に寄ったことがある。しかしユーグシード教国には今回初めて訪れており、そういったものに対してグレンは基本知識がない。それゆえの質問であった。

 「旦那っち、知らずに来たんすか?」

 「なんだ、レナリア。お前は知っているのか?」

 「いや、知らないっすけど」

 なんだそれは、とグレンは心の中で呆れる。だが、都合良くもあった。知らない人間が2人もいれば、要らぬ恥をかくこともないだろう。

 「では、お教えします」

 チヅリツカが眼鏡を軽く上げながら、そう言った。もしかしたらその仕草を気に入っているのでは、とグレンは何となく思う。

 「ユーグシード教国とは、世に伝えられる『八王神話』の信奉者達によって作られた国家です。教王を頂点として、その下に大神官、さらにその下に神官がいます。王国における市民と同じ身分の者は、信徒と呼ばれているようです」

 ふむふむ、とグレンとレナリアが頷く。エクセとシャルメティエに反応がないことから、彼女達にとっては既知の事柄であることが分かった。

 「チヅリツカ君、その『八王神話』とは一体なんだ?」

 チヅリツカの説明の中でグレンは気になったことを問い質す。その瞬間、グレン以外の者は軽い驚愕の表情を作った。

 「旦那っち、知らないんすか!?」

 「な、なんだその反応は・・・。お前は知っているのか?」

 「さすがに知ってるっすよ!学院の授業でやったっすもん!」

 「そ、そうか・・・」

 学院という言葉を聞いて、グレンは少し尻込みをする。彼は幼少の頃、金銭的な問題で学院に通うことが出来ず、一般的な教養を身に着けていなかった。レナリアにまで驚かれるということは、それほど常識的な知識なのだろう。

 「どうやら、グレン殿は勉学にあまり興味がなかったようですね」

 そう言うシャルメティエもそこまで勉強に自信がある訳ではなかったが、一般常識を知らないほどではなく、グレンに対して少しばかりの驚きを持った。

 「いや、それ以前に私は学院に通ったことが無くてな。そう言う一般常識に疎いんだ」

 その言葉を聞いたエクセ以外の3人は、先ほどよりも露骨に驚きの表情を作る。

 「マジっすか、旦那っち!?アタシでも学院は卒業してるっすよ!?」

 「そうか。立派だな」

 「いやいや、立派って・・・!滅茶苦茶普通のことっすよ!?」

 「そうか・・・まあ、その普通が出来ないほど、私の家が貧しかったと言う事だ」

 「え・・・?あ・・・!」

 グレンの言葉に、レナリアは自分が失礼な発言をしたことに気が付く。そのため彼女にしては珍しく口籠ってしまい、申し訳なさそうに「ごめんなさいっす・・・」と謝罪をしてきた。

 「謝る必要などない。もはや過去の事だ」

 「おお・・・!過去に拘らない男、って感じで格好良いっす!」

 しかし、それもグレンの言葉を聞いてすぐに平時のものとなり、レナリアも笑顔を取り戻す。

 「やっぱり強い男ってのは、違うんすねー。これはもっと凄まじい過去がありそうっす。ぜひ聞きたいっす」

 「特に話すような事はない。仮に話しても、場が静まるだけだ」

 「そう言わずに!お嬢も聞きたいはずっすよ!」

 そう言って、レナリアはエクセに視線を移す。しかし、当のエクセは我関せずな感じに「え?」と声を出した。

 「あれ?興味ないっすか?旦那っちの事だったら、何でも知りたがると思ったのに」

 「いえ。グレン様の過去でしたら、ある程度知っていますので」

 「ん?そうなのか?」

 エクセの言葉を聞き、グレンは戸惑う。

 彼女に対して自分の過去を語った記憶がなく、ならばどうやって情報を手に入れたのだろうか。

 「しかしエクセ君、一体誰から聞いたんだ?」

 「あ、ご不快でしたか・・・?私などがグレン様の過去を知ってはいけなかったでしょうか・・・?」

 「そうではない。ただ、私が話した覚えがないものでな。他に知っている者と言えば、アルベルトやバルバロット公――ああ、バルバロット公から聞いたのか」

 「いえ、ポポル様から伺いました」

 「ウェスキス殿から?彼女に対しても話した覚えはないんだが・・・。となると、ウェスキス殿は誰から・・・?」

 「アルベルト様とおっしゃっていましたよ」

 「アルベルトか・・・。あいつもお喋りだな」

 などと言ってはみたが、グレンも別に怒りを感じている訳ではなく、単なる感想として漏れ出た言葉であった。

 「グレン様、そろそろ説明を再開してもよろしいでしょうか?」

 会話が途切れたのを見計らって、チヅリツカが声を掛ける。そう言えば、教国に関する説明を受けている最中であった。

 どうしてここまで話が逸れたのか。グレンは「ああ、すまない」と言って、チヅリツカに説明をするよう促した。

 「『八王神話』とは、はるか昔に存在していた8人の王――八王神に関する神話です。8人の王はその誰もが強大な力を持っていたとされ、それが語り継がれた結果、神として崇められるようになりました。グレン様がお持ちの首飾りも、その中の1人である『戦いの神クライトゥース』が作った物なんですよ」

 「そうなのか・・・!?昔の人間は、すごい物を作るんだな・・・」

 「だからこそ、神と呼ばれているのではないかと思います。異なる国の人間が共通の言語を話すのも、『知識の神アセンテンス』が統一したからと言われていますからね」

 「ん?国が違えば、言葉も違うものなのか?」

 「大昔はそうだったと言われています。実際、各地で発見されている遺跡には言語体系の異なった文化がいくつか見られていますから」

 「なるほどな・・・。八王神というのは、すごい存在だったんだな・・・」

 「その最たるものが、この大陸を8つの国に分けたということです」

 「あ!チヅっち、質問っす!」

 「はい、レナリアさん」

 レナリアが手を上げて主張すると、チヅリツカは手で指し示してそれを許可する。まるで授業の一幕のようだ、とグレン以外の者は思った。

 「学生の頃から思ってたんすけど、大陸を8つに分けることってそんなに凄い事なんすか?」

 「そうですね。現在、我々が住む大陸には大小合わせて約20の国々が存在します。そこから考えるとおよそ1/3なので、大したことはないと感じるかもしれません。ですが、我がフォートレス王国を例にすると分かるように、周辺諸国において最も強大な力を持っている国であっても、他国を併合するというのは至難の業なんです。王国には1000年以上の歴史がありますが、そのような事例は一度としてないんですよ」

 「へー、そうなんすか。それは、どうしてなんすか?」

 「一国を落とそうとする時には余程の戦力差がない限り、国は兵力の大部分を投入して侵攻します。そうしなければ勝てず、無駄に消耗してしまうからです。ですがそうすると、今度は自分達の国がまた別の国から侵略の対象とされてしまいます。その間、防衛力が大きく落ちてしまっている訳ですからね。ですので、基本的には侵略というのはあまり行われないし、成功もしないんです」

 「でも、うちの国は結構攻め込まれたって習ったすよ?」

 「それも全兵力を割いた侵攻ではありませんでした。もしかしたら国同士が協力して、王国を少しずつ消耗させる作戦だったのかもしれません。また例外として15年前の帝国がありますが、あれは一種の賭けですね。そしてその賭けに負けたため、帝国は国力を著しく減少させる事となってしまったんです」

 「ふむふむ・・・。つまり・・・結論としては、どうなるっす・・・?」

 「侵略戦争はとても難しい。攻めれば、攻め込まれ。手に入れようとすれば、失うこともある。八王神と言う存在はそれを成し遂げた者達、と思っていただければ」

 「なるほど、分かり易いっす。チヅっち、先生に向いてるっすね」

 うんうん、と頷くレナリアと同様にグレンも心の中で頷く。つまりはフォートレス王国以上の国が大昔には8つも存在していた、ということなのだと理解した。そしてそれを束ねる王も8人いたのだ、と。

 「でもそれって、単純に国そのものが凄かったってだけじゃないんすか?王様が凄いんじゃなく、旦那っちみたいな戦士がいた、とか」

 「良い質問です、レナリアさん。ですが、それらの国はすでに滅亡しているんです。王亡き後、分裂し、今ある国々の前身に取って代わられたんです。それだけ王の求心力が強かった、という裏付けになっています」

 「な~るほどっす」

 いい勉強になった、とレナリアだけでなくグレンも思った。これで教国の者達と会話をすることがあっても大きな恥をかかずに済む、と安堵する。

 その後、しばらくすると馬車が停止した。どうやら目的の場所に着いたようだ。

 御者からもその旨を伝えられ、5人は順に馬車から降りて行く。そして目的の都の入り口を目に収めると、代表してシャルメティエが呟いた。

 「ここが教都フェインスレインか・・・」





 教都フェインスレイン――ユーグシード教国の丁度真ん中にある首都である。

 しかし、その機能は日常生活を豊かにする物が少なく、特徴と言えば8つの神殿が建てられていることくらいであった。それでも、それこそが教国の首都としての正しき姿であると民は考えている。

 そう、教都フェインスレインは信仰のための街なのだ。

 待ち行く人々の姿に贅沢はなく、かと言って貧しさも見当たらない。他国の者にしてみれば、極々平均的な者達がここで生活を送っているようだ。

 それ故、グレン達は非常に目立った。街の入り口である大門に向かっている間、すれ違う者達全てが彼らに視線を向けるのが良く分かる。それもそのはずで、先頭を歩くシャルメティエはその身を完全武装しており、続くグレンも顔や腕に古傷のある大男なのだ。他の3名も目を引く容姿や格好をしており、教都に住む人々の行動は決して違和感を覚えるものではなかった。

 そして、グレン達もそれを気にすることはない。なぜならば、彼らの見据えるその先に――おそらく迎えの者だろう――複数人の男たちが待ち構えていたからだ。しかも、その中には先ほどすれ違った者達とは異なる雅な服装に身を包む者までいた。先頭に立っていることから、おそらく大神官か神官の位につく者だろう。

 一行が集団の前まで辿り着くと、その者は満面の笑みを浮かべた。

 「やや!よくぞおいでくださいました、フォートレス王国の使者様!私は商いの神に仕える大神官エビタイと申します!長旅でお疲れでしょう!宿を取っていますので、まずはそちらで休息をなさってください!」

 エビタイと名乗った男は小太りで、その笑顔からは人柄の良さが滲み出ていた。後ろに仕える他の者達も皆一様に笑顔を浮かべており、正に歓迎といった感じである。そのため、警戒されると思われていたシャルメティエは言葉を返すのに少しの間を開けてしまう。

 「・・・え、ええ。感謝します、エビタイ大神官。私はフォートレス王国騎士団副団長シャルメティエ=ホーラル=セイクリット。すでに伝えられているとは思いますが、王国での一件について調査をするために来ました」

 「存じ上げております!ですが、それはまた明日からということで!まずは、宿屋へ向かうとしましょう!ささ!」

 もはや上機嫌と言ってもいいエビタイの態度に、シャルメティエの後ろに仕えるグレン達も戸惑いを隠せない。どういうことだ、と頭の上に疑問符を浮かべていた。

 「ま、待っていただきたい・・・!」

 そのため、その理由を伺おうとシャルメティエがエビタイを呼び止める。

 「なんですかな、使者様!?」

 その返事も大きく、シャルメティエは少し怯んでしまった。しかし、すぐに気を取り直し、彼に向かって疑問を投げ掛ける。

 「随分と歓迎してくださるのですね・・・」

 「え!?――ああ!これは失礼!逆に警戒させてしまいましたかな!?」

 どうやらこちらの警戒心を解くための行動なようだ。

 「ですが、ご安心を!私は使者様に協力する所存であります!嘘偽りなく、真実を答えさせていただきますので、どうぞ気を楽にしてください!」

 まさかここまで協力的な宣言をされるとは思わず、シャルメティエも怪訝な顔をする。一体、どのような意図があるのか。

 「ああ!これはまた警戒させてしまいましたかな!?信じろ、と言うのが無理な話かもしれませんが!ですが、本当に心配いりません!我らは使者様のお力になるべく、ここで待っていたのです!これは本当です!八王神に誓って、真実です!」

 しかし、エビタイは必死になって弁明をしてきた。その態度に警戒の念を解いた訳ではないシャルメティエであったが、柔らかな笑顔を浮かべると、

 「分かりました。信じましょう」

 と言った。

 「おお!感謝いたします!これも慈愛の女神の御加護でしょうか!」

 そう言うと、エビタイは手を組み、急に祈りを捧げだした。後ろに仕える者達も同様の行動を取り始める。彼らの行動に、王国の人間であるシャルメティエ達は戸惑うように顔を見合わせた。

 そして、エビタイ達はしばらくすると姿勢を正し、シャルメティエ達に向かって再び笑みを浮かべる。

 「では、参るとしましょう!」

 そう言ったエビタイの後に続いて、王国からの使者一向は歩を進めた。






 「しかし!最近は王国と縁がありますな!」

 その道中、エビタイがシャルメティエに向かって陽気に話掛けてきた。

 「ほう。一体どのような事なんです?」

 「実はそちらの王都にある学院に加護を付与した品物を納めさせていただきましてな!作るのに大変苦労しましたが、おかげで実入りもよく、神殿の補修ができましたよ!これも商いの神ゼニス様のお導きですな!」

 「ん・・・それは、もしや聖マールーン学院では?」

 マーベルから聞いた話を思い出し、グレンは2人の会話に割り込むように発言をした。なるほどこの人物があの窓を作った大神官か、とその後ろ姿を見つめる。そんなグレンに対して、エビタイはぐるっと顔を向けると笑顔を見せた。

 「おお!よくご存じで!そうなんです、そうなんです!あそこの学院長とは、昔からの知り合いでして!」

 「マーベル先生と?」

 それはシャルメティエの言葉であったが、同じく卒業生であるチヅリツカと在校生であるエクセも同じ疑問を持った。

 「はい!とは言っても、私もあの方もまだ若い頃の話なんですけどね!各地に赴き、信仰の何たるかを悟ろうとしていた時期に王国に立ち寄ったことがありまして!その時に、モンスターに襲われそうになった私をマーベルさんが助けてくださったんです!いやー、あの時のマーベルさんの弓の腕前と言ったら、もう!数百m離れた位置から、正確にモンスターの眉間を射抜きましたからね!」

 同じ弓使いでありながらマーベルのことを知らないレナリアは、エクセに向かって「へー、すっごい人が学院長なんすね」と話し掛けている。

 「しかし、あの時の縁がこうして別な形で繋がるとは!マーベルさんのことを『先生』と呼ぶ当たり、使者様も学院の卒業生とお見え受けします!マーベルさんに怒られないようにしなければ!」

 そう言うと、エビタイは大声で笑う。しかし、すぐに止めると再びぐるっとグレンに方へ顔を向けた。

 「もしかしたら、こちらの男性は教師の方ではないですかな!?ここまで縁が重なると、そう思わざるを得ません!」

 勢い良く言われ、グレンも「そうです」と言った方がいいか、などと考えてしまう。しかしその前にシャルメティエが、

 「いえ、この方は教師ではありません。王国の英雄グレン=ウォースタイン殿です」

 「ほほ!違いましたか!それは残念!――んん・・・?グレン・・・ウォースタイン・・・?」

 その瞬間、先ほどまでにこやかな笑みを浮かべていたエビタイが眉根を寄せて考え込む。一体どうしたのかと、シャルメティエ達は訝しんだ。

 「どこかで・・・いや、誰かがその名前を言っていたような・・・」

 グレンは王国の中では有名人だ。加えて、その周辺諸国でも名前だけは知られている。サリーメイア魔国と隣接するこの国であるならば、その名前を聞いたことぐらいはあるだろうが、もしかしたらそれは悪名として聞いたのかもしれないとグレンは慌てた。この国に来るまでの道中、『死神グレン』として恐怖されたことは記憶に新しい。

 「誰だったか・・・」

 「おや。これはこれは、エビタイ大神官。どうなさったのですかな?貴殿に似合わず、難しい顔をされて」

 その時、エビタイに声を掛ける者が現れた。その人物もエビタイと似た煌びやかな衣装を身に纏っており、一目で彼と同じ地位についていることが分かる。そして、後ろには女性と少年が1人ずつ仕えていた。

 「これはジェウェラ大神官!――ああ!そうだ、そうだ!思い出しましたよ!確か貴方から聞いたんです!」

 「?――何の話ですかな?」

 エビタイの唐突な物言いにジェウェラのみならず、後ろに仕える2人も不思議そうに顔を見合わせている。

 「ほら!王国にいる英雄の話ですよ!確か名前をグレン=ウォースタインと言いましたよね!?貴方、前に力説していたじゃあないですか!彼は戦いの神クライトゥース様の生まれ変わりだ、って!今ここにその方が来ているんですよ!」

 その言葉に、ジェウェラ達は驚いたように目を見開いた。同時にグレン達も驚いたようにジェウェラを見る。自分が神の生まれ変わりだと言われたグレンの驚きは特に顕著で、彼にしては珍しくそれが大きく表情に現れていた。

 ジェウェラの視線は迷うことなく――男はグレン1人だけなので、迷う事などありえないが――グレンを捉える。その表情からは歓喜と驚愕、そして崇拝が感じられた。

 「お・・・おお・・・!グレン様なのですか・・・!?本物の・・・あの・・・グレン=ウォースタイン様・・・!クライトゥース様の・・・生まれ変わり・・・!」

 そう言うジェウェラの瞳には涙が滲んでおり、彼の喜びがいか程のものかを教えてくれている。加えて、後ろに仕える2人も感動したように打ち震えており、「グレンが神の生まれ変わり」だというのが3人の共通認識なのだと理解できた。

 当然、グレンは慌てる。

 「な・・・何の話ですか・・・!?」

 グレンの言葉は言われた本人にしてみれば、至極まっとうな疑問であった。自分の事を『神の生まれ変わり』だと言われて、「はい、そうです」などと誰が答えられよう。しかし、ジェウェラは理解しているように頷く。

 「分かっております・・・!突然こんなことを言われても、戸惑うだけでしょう・・・!ですが、私は見たのです・・・!15年前・・・!貴方様の戦いぶりを・・・!」

 15年前のグレンの戦いと言えば、ルクルティア帝国との戦争だ。それが彼の初陣であり、グレンと言う名を王国のみならず周辺国へと広めた。その時の戦いぶりから彼は『英雄』と呼ばれ始め、それに関してはグレンも受け入れている。

 そして、その戦いをジェウェラは見ていた。どこで、などと言う事は聞かなくてもいいだろう。王国の広い大地を舞台に、大規模な戦闘が行われたのだから。

 しかし、それを見たからと言って『神の生まれ変わり』などと言うのは、些かどころではない程に行き過ぎた表現であると言わざるを得ないとグレンは考える。普段ならば自分がどのように捉えられようが気にしないグレンであったが、さすがにそれには苦言を呈したくなった。

 「だからと言って――」

 「素晴らしいです!」

 否定しようとするグレンの言葉を遮るようにエクセが声を上げた。グレンは驚いて少女に目を向けるが、エクセはそれに気づかずジェウェラに駆け寄って行く。

 「おお・・・、お嬢さん・・・貴女は・・・?」

 「お初にお目にかかります、大神官様。私はエクセリュート=ファセティア=ローランド。貴方様と同じく、グレン様を慕う者です」

 グレンは、なんだか話がややこしくなる気がした。

 「先ほどの大神官様のご意見、私は深く感銘を受けました。かく言う私も、かつて『グレン様の体には神が宿っている』と言い表した身。大神官様のお気持ちが良く分かります」

 「なんと・・・!私以外にもそのような発想に至る方がいらっしゃるとは・・・!お嬢さん――いえ、エクセリュートさん。もしや貴女もグレン様の戦いぶりを拝見したのですか?」

 「はい。この目でしかと拝見しました」

 「なんと素晴らしい・・・!エクセリュートさん、その話をぜひお聞かせ願えないでしょうか?」

 「勿論です、大神官様」

 以前のエクセであれば、グレンとの思い出を他人に話すことに気が乗らなかった。しかし今は彼と同居していることで思い出が増えたこともあり、古い思い出ならば、そしてジェウェラのようなグレンを慕う者にならば話しても良いと考えを変えていた。

 「感謝します、エクセリュートさん。貴女ほどの方とこうして出会えたのもきっと、グレン様の前身であらせられるクライトゥース様のおかげでしょう」

 「私も大神官様のような方と出会えて、とても嬉しいです」

 「ああ、エクセリュートさん。私のことはジェウェラとお呼びください。我々は志を同じくする者。他人行儀な呼び方は、もはや不要でしょう」

 「分かりました、ジェウェラ様。ああ・・・魔国の方々も貴方様のようにグレン様を慕ってくださればいいのに・・・」

 「サリーメイア魔国の民がどうかしましたか?」

 エクセは魔国でグレンが『死神』と呼ばれ、恐れられていることを話して聞かせた。

 「なんと愚かな・・・!」

 その怒りはエクセが感じたものと同じであった。ジェウェラの後ろに仕える少年からも同様の感情が発せられている。

 「ですがご安心ください、エクセリュートさん。グレン様の名を騙り悪事を働く者も、グレン様を蔑ろにする者にも、いずれ必ず神罰が下るでしょう」

 「それでグレン様への誤解が解けると良いのですが・・・」

 「ならば、お約束しましょう。私が仲間たちと共に必ずやグレン様への誤解を解いて見せます」

 「本当ですか、ジェウェラ様!?」

 「ええ。戦いの神クライトゥース様とその生まれ変わりであらせられるグレン様に誓って、約束します」

 「なんと頼もしいのでしょう・・・!よろしくお願いします、ジェウェラ様」

 そこまで話して、2人の会話は終了した。

 いくら共通した存在を尊敬しているとはいっても、その打ち解け方は度を越しており、当のグレンは完全に置いてけぼりになってしまっている。そして戸惑っているのは他の者も同じなようで、シャルメティエもチヅリツカも、そしレナリアさえもが呆然としていた。

 唯一人、エビタイだけが変わらずにこやかな笑顔を浮かべている。

 「相変わらずですな、ジェウェラ大神官!グレン殿の事となると、お人が変わったよう!」

 その言葉に、ジェウェラは自分が少々興奮し過ぎていたことを察した。

 「これは・・・!お見苦しい所を見せてしまいましたね・・・」

 「お気になさらずに!あっはっはっはっはっは!」

 エビタイの笑い声は大きく、街を歩く人々の視線が集まる。しかし、その声の主がエビタイである事を確認すると、「いつものことか」とでも言うように視線を戻していた。

 「――っとと!それよりも、使者様方を宿屋へご案内しなければ!ジェウェラ大神官、申し訳ないがお話はここまでと言うことで!」

 「あ・・・!待ってください、エビタイ大神官・・・!」

 歩き出そうとするエビタイをジェウェラが引き留める。

 「どうなさいましたかな!?」

 「ぜひ――ぜひとも、グレン様御一行を我が神殿にご招待させていただきたい。寝泊まりする場所ならば、空いている部屋を使っていただきますから」

 教国にある神殿には信仰を捧げる場として『神像の間』と呼ばれる広間がある。それぞれの神を象った巨大な像が立っており、それに向かって信徒達は祈りを捧げるのだ。そしてそれ以外にも神官や信徒達が泊まるための部屋も用意されており、ジェウェラはグレン達をそこに招待しようと考えていた。部屋の質は悪くなく、信仰以外に重きを置かない教都であるならば同等以下の宿屋しか見つからない程度ではある。

 「私は構いませんよ!――如何しますか、使者様!?」

 エビタイに問われ、グレン達は互いに顔を見合わせて考える。

 しかし、こういった場合の決定権はシャルメティエにあり、最終的には彼女に任せる流れとなった。

 「私は構いません」

 これはグレンに向かって言ったのだろう。確かに今この場ではグレンに答えてもらった方が良さそうではあった。

 「うむ・・・」

 グレンは考える。

 折角の好意だ。これから話し合いをすることも考えれば、親交を深めておくのは間違いではないだろう。いやもうすでにジェウェラにしろエビタイにしろ、初対面とは思えないほどの親密さではあるのだが。

 それでも国王から受けた使命の障害となる様な真似は慎むべきだ、とグレンは判断した。この隊を率いるシャルメティエのためにもなる、と。

 「私も構わない。――ジェウェラ大神官、お世話になります」

 グレンにそう声を掛けられたジェウェラは勢いよく頭を垂れた。後ろの2人も同様の仕草をしており、グレンは思わず怯む。

 「勿体ないお言葉・・・!それではエビタイ大神官、以降は私が引き継ぐという形で。明日、他の大神官を連れて戦いの神殿にいらっしゃってください」

 「分かりました、ジェウェラ大神官!しかし!これで宿代が浮きましたな!これもゼニス様のお恵みですかな!」

 先ほどと同等の大きさの笑い声を上げたエビタイは、その場にいる者達に別れを告げると信徒達を連れて去って行ってしまう。

 その光景を最後まで見届けることなく、

 「では、こちらでございます」

 とジェウェラが言ったため、グレン達は教都における宿泊地へ向かうことにしたのだった。

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