おまけ-2 戦乙女、給仕する 2日目
「なあリュウ、知ってるか?」
学院からの帰り道、リュウクシスは友人であるデュラン=コルビスタンにそう声を掛けられた。
「なにをだ?」
この友人が唐突に言う事は、今までの経験上リュウクシスにとって大抵がどうでもいい事であるため、聞き流すつもりで問う。
「昨日、新しい飯屋が開店したらしいんだけどよ。そこの給仕さんがやたら美人なんだってさ」
「あっそ」
昨日開店したばかりの店の情報をいち早く入手してくる友人に対して、リュウクシスは予定通りの言葉を発する。そしてその言葉はデュランにとって予想通りであったのか、大して怯んだ様子もなく言葉を続けた。
「行ってみないか?」
「行かない」
そんな事よりも帰って剣の修業がしたい。
リュウクシスは一般的な学生と比べても熱心に鍛錬をする方であったが、先日行われた合同実習において憧れの英雄から褒められたこともあり、稽古に対して今まで以上に熱を入れていた。
いつか『戦乙女』と呼ばれる姉に追いつき、追い越すために。
「つれないこと言うなよ~。1人じゃ心細いんだって」
「心細い?お前が?」
デュランは決して人見知りという性格ではない。むしろ積極的に人と会話する方で、そのおかげで2人は友人となったのだ。
その友人が、たかが食事をするためだけの店に入るのを躊躇うとは珍しい、とリュウクシスは疑問の声を出す。
「いや、なんでもさ。その給仕さん、態度が滅茶苦茶きついらしいんだよ」
「態度が?」
「そうそう。店に入って席に着くなり『なぜ、来た?』って怖い顔で聞いてくるんだって」
「なんだそれは・・・」
庶民向けの食事処とは言え、そのような態度を客に向ける店員が居ていいはずがない。リュウクシスは呆れるとともに、1つの疑問を持った。
「そんな接客態度でやっていけるのか?」
その言葉に待ってましたとばかりの笑みを浮かべ、デュランは答える。
「それがきついだけじゃないんだよ。その態度に怒って帰ろうとすると、今度は一転、優しい笑顔で接してくれるんだって」
「だから何だそれは・・・」
それならば、始めから丁寧な接客をすればいいではないか。
リュウクシスは当然の考えを持った。
「それがもう本当に素晴らしい笑顔みたいでさ。その笑顔目当てに客がわんさか来るらしいぜ。だから俺らも行ってみよう、と思ったんだよ」
「『俺らも行ってみよう』ではなく、『お前が行きたい』だろ?」
デュランは「バレたか」とでも言うように笑う。
その笑顔にリュウクシスはため息を漏らした。
「仕方ない・・・。断ったことを理由に、後であれこれ言われるのも癪だしな」
「お、よく分かってるぅ!」
そう言ってはしゃぐデュランは、リュウクシスの背中をぐいぐいと押した。
「さ、善は急げだ!走って行こうぜ!何なら、その店まで競争していくか!?」
「馬鹿を言え。俺はその店の場所を知らないんだ。勝負にならん」
「だったら教えるわ。確か――」
デュランはリュウクシスに目的の店のある場所を教える。
「ああ、あの辺りか。大体分かった。お前が嘘を吐いていなければ、だがな」
「吐いてねえよ。それで?負けた方は何をする?」
「そうだな・・・」
「お決まりなように、奢るってのはどうだ?」
「・・・いいだろう。後で吠え面をかくなよ」
「上等!」
そう言ってデュランは走り出した。
やや遅れてリュウクシスも走り出す。普段は大人びた言動を取るリュウクシスであったが、こういう所は子供らしいのであった。
2人が店に辿り着くと、そこには長い行列ができていた。
「あちゃ~、高等部の先輩達もここの噂を聞きつけてたか~」
そこには2人と同じ制服に身を包みながらも、幾分か体格の良い学生たちが多く並んでいる。それらはエスタブ学院高等部に所属する学生達で、デュラン同様店の噂を聞き、駆け付けていた。
「たった1日でここまで評判になるとは、余程の料理を出すのだな」
リュウクシスはそう感心したが、この行列はそれが理由ではない。勿論、美人と噂の給仕目当てに並んではいるのだが、並ばされている理由が違う。
食事処『浪漫』は料理人が1人であるために席数を少なくして客に対応しようとしているのだが、来る客のほとんどが全ての料理を頼み、そして長い時間居座っていくのだ。
調理に時間が掛かり、客が帰るのにも時間が掛かる。そのため、このような長い行列ができていた。
ちなみに、料理の感想としては「普通に美味い」といった感じである。
「ま、気長に待つしかないわな・・・」
正直待ってまで店に入りたくはないリュウクシスであったが、友人がそう言ってきたため仕方なく待つことにした。
しかしいくら待っても一向に自分たちの番が来る気配がなく、そろそろ面倒臭くなってきたリュウクシスはデュランに帰宅を促そうとする。
「あれ?リュウ君じゃん。どうしたの?」
その時、聞いたことのある声がリュウクシスの名を呼んだ。
「げっ、トモエ・・・!」
それは聖マールーン学院の女学生トモエ=カリクライムであった。
彼女も学院からの遅い帰り道なのか、制服を着ている。
「ちょっと、『げっ』って何!?『げっ』って!?」
リュウクシスの嫌悪感を含んだ言葉に、すかさずトモエは突っ掛かる。
しかし、すぐに彼の並ぶ行列に目が行き、不思議そうな顔をした。
「なに並んでるの?」
「あ、いや・・・これは・・・」
リュウクシスが先程声を上げたのは、なにもトモエと会ったことが嫌だった訳ではなく、彼女にこのような場面を見られたのが嫌だったのだ。
そのため、状況を説明するのにも二の足を踏んでいる。
「今話題の飲食店に並んでるんだよ、トモエちゃん」
そんなリュウクシスに代わり、デュランが二歩目を踏み出した。
「ご飯?へー、こんな所に新しいお店できてたんだ」
そう言ってトモエは列の一番前まで見渡し、続いて店の外観を目にする。
その目には『浪漫』という文字が映った。
「ん・・・?あれ、なんて読むの?」
トモエは店名の書かれた看板を指差しながらリュウクシスに聞いた。
「あれは『ろまん』と読む。それくらい分かれ」
「いやー、私勉強が苦手でさー」
リュウクシスに苦言を呈され、トモエは居心地の悪そうな顔をした。そんな彼女に対し、リュウクシスは更に言葉を返す。
「それはいかんぞ、トモエ。王国の学生たる者、勉学と武術、そのどちらも両立しなければならない。いくらお前が優れた剣士とはいっても、それだけでは駄目だ」
「あら、意外なお褒めの言葉。ありがたくもらっとくよ」
リュウクシスが語った言葉は、トモエにしてみれば言われ慣れていることだったため、軽く受け流しておいた。
「で、あのお店、何が話題なの?」
そして、デュランが先程述べた事柄について尋ねる。
この少女に向かって「美人の給仕がいる事が話題」と言いたくなかったリュウクシスは口を閉ざすが、当然の如く代わりにデュランが答えた。
「美人の給仕さんが話題なんだよ!」
しかも、やたら元気に答えている。
何かしら誤解されそうだと、リュウクシスはトモエの顔色を恐る恐る窺った。
「ふ~ん・・・」
そして案の定、トモエは彼に向かって冷たい眼差しを送ってくる。
「ち、違う!誤解だ、トモエ!俺は別にどうでもよかったんだが、デュランの奴がどうしてもと言うから・・・仕方なくだな・・・!」
リュウクシスが焦って弁解するも、少女がそれを聞き入れてくれる様子は見られない。
「ま、どうでもいいですけどね。でも、私に勉強がどうとか言ってた人が、こんな所で油を売っててもいいのかなー?しかもその理由が、美人の給仕に会うためだなんてー」
うぐっ、とリュウクシスはいつぞやと同じように痛い所を突かれたといった表情をする。
「そ・・・その通りだ・・・。というわけで、デュラン・・・俺は帰る・・・」
「ちょちょちょ、ちょっと待てって!ほら、今話している間に結構進んだから!あと、もう少しだから!」
確かにデュランの言う通り、2人はいつの間にか店の扉のすぐ近くに立っていた。
これだけ待って、そしてここまで辿り着いたのだから帰るのも損か。
リュウクシスがぼんやりとそう考えていると、トモエが店の中を覗こうとしているのが見えた。
「あー、確かにいるね、給仕さん。でも顔は見えないや。金髪って事は分かるんだけど」
フォートレス王国において、金髪や黒髪は一般的な髪の色とされる。銀や赤などの特徴的な色をしていればその人物に心当たりがある可能性もあったが、生憎と絞り切れそうになかった。
「ちょっと見て来よっと」
「お、おい、トモエ・・・!順番があるだろう・・!」
店の中に入って行こうとするトモエに向かって、リュウクシスが注意をする。
「いいの、いいの。だって私、このお店に食べに来た訳じゃないんだし」
そう言って列に並ぶ男たちの横を通り、トモエは店への扉を開けた。順番を無視された男達も相手が少女であったため、特に不快に感じた様子はなさそうだ。
「だったら、俺らもそうすりゃ良かった・・・!」
そのデュランの愚痴に対しては、列に並ぶ男達から非難の眼差しを送られる。デュランは仕切りに「嘘です、嘘です!」と言っていた。
その時――。
「きゃあああああああ!」
おそらくトモエのものであろう。店の中から悲鳴が聞こえてきた。
「え!?なに!?」
と困惑するデュランを他所に、リュウクシスは急いで店の扉を開ける。
彼女の身に何か良からぬ事でも起こったのだろうかと、表情は真剣そのものだ。
「どうした、トモエ!?」
「素敵です!シャルメティエ様!」
「・・・・・・え?」
聞き覚えのある名前を耳にし、リュウクシスの体が固まる。そして先ほど悲鳴――正確には感動の声を発したトモエに視線を移した。
少女は胸の前で手を組み、キラキラとした眼差しである人物を見つめている。その人物は、どう考えても彼のよく知る女性であった。
「げっ・・・姉・・・様・・・!」
この言葉は、姉であるシャルメティエと出会った事が嫌だったために発せられた。
「君は・・・すまない、覚えがないようだ」
リュウクシスに気付かず、シャルメティエはトモエに向かって話し掛けている。
「あ、すいません!私、トモエ=カリクライムと申します!トモエとお呼びください!」
そう言ってトモエは頭を下げると、続けて、
「お会いできて光栄です!」
と喜びを伝えた。
「ふむ、ならばトモエ。すまないが、もう少し待っていてもらえるか?今、満席で座る場所がないのだ」
「いえ、お気になさらず!このお店の中がどうなっているか、見に来ただけですので!」
謝るシャルエティエに、トモエは勢いよく首を横に振る。
そして何かを思い出したかのような表情をした後、口を開いた。
「そういえば、シャルメティエ様には弟さんがいらっしゃいますよね?」
「ああ、いるな」
よく知っているな、とシャルメティエは意外そうに頷く。
「私、先日行われた学院の合同実習で、その弟さんと組み手をしたんですよ!互いに譲らない、素晴らしい戦いでした!」
「ほう・・・!」
トモエの言葉に、シャルメティエは驚きの声を漏らす。
弟であるリュウクシスは彼女の指導もあり、あの年にしてはかなり腕が立つ。それと互角の戦いを繰り広げたということは、この少女もまた同等の実力を有しているのだろう。
それと同時に、シャルメティエは自身の学生時代を思い出していた。
(合同実習か・・・懐かしいな・・・)
当時のシャルメティエは容姿、戦闘、人格、そのどれにおいても比類なき質を持っていたために、両学院において有名人であった。ただ勉学に関しては並の成績であり、そのため今では秘書を雇っている。
当時の合同実習において、シャルメティエは彼女を目的とするエスタブ学院の男子生徒から多くの勝負を挑まれた。そしてその悉くを撃退。彼女にしてみれば「いい練習になった」といった感じだったのだが、今でもそれが逸話として聖マールーン学院で語り継がれていたりもする。
「――素晴らしいな。これからも精進するといい」
思い出にふける頭を現実に戻し、シャルメティエはトモエを賛美した。
「ありがとうございます!ただ、私の努力と言うよりかは、グレン様にご指導していただいたおかげなのですが」
そこでシャルメティエは思い出す。グレンには自身の代わりに聖マールーン学院に赴き、学生たちの指導をしてもらったことがあったのだった。
「なるほど。では君は、グレン殿の弟子といったところか」
「はい!グレン様のことは『先生』と呼ばせていただいています!」
シャルメティエとしては冗談のつもりで言ったのだが、本当にグレンの弟子のようであった。そのことに驚きを感じつつも、弟と知人の知り合いという事もあり、シャルメティエは目の前の少女に親近感を覚える。
「ふむ、君とはこれからも付き合いがありそうな気がするな」
その言葉に、トモエは満面の笑みを作った。
「本当ですか!とても嬉しいです!」
そう言ってはしゃぐトモエを、扉を開け放したまま固まっているリュウクシスは冷たい目で見つめていた。
(あいつ、俺とグレン様を使って姉に近づきやがった・・・!)
かつて自分も似たような行動をしたのだが、それはもう過去の事。リュウクシスはトモエに向かって、非難の感情を込めた瞳で睨み付けようとする。
しかし、どうしても自分の姉の服装に目が行ってしまった。
(それにしても、姉のあの格好は何だ?メイドにしては、肌を露出し過ぎている。というか、何故ここでメイドをしている!?)
ようやくその発想に至った少年は、今度は驚きの眼差しを姉に向けた。そしてそれに気付いたのか、シャルメティエも弟の方へ顔を向ける。
「おお、リュウではないか。どうした、こんな所で?」
それはこっちの台詞だ、とリュウクシスは思ったが、言葉にはしない。
代わりに、もう少し柔らかい表現をした。
「いえ、偶々(たまたま)通りかかったもので・・・。姉様こそ、どうなさったんです・・・?なぜ、そのような格好を・・・?」
それはトモエも気になっていたのか、シャルメティエの答えを待つように彼女に視線を移す。
「ここの店長に頼まれてな。昨日と今日の2日間だけ、店を手伝うことになったんだ」
そう言って、シャルメティエは店長であるユッテンを見る。彼は今、猛烈に忙しそうに料理を作っていた。
そしてこの時、会話をしている3人は気づいていなかったが、シャルメティエの言葉に店の中にいる男達は戦慄していた。
(今日まで・・・だと・・・!)
誰もがそんなことを心の中で叫ぶ。
最早シャルメティエ本人だというのは周知の事実であった。
「でも、さすがはシャルメティエ様です!メイド服も優雅に着こなせていますね!一瞬、王城のメイドがいるのかと思いました!」
トモエは王城の中に入った事は一度としてなかったのだが、シャルメティエを褒めるためにそう言った。それを受けて、シャルメティエも気恥ずかしそうに答える。
「そうか?トモエは世辞が上手だな」
シャルメティエに再び褒められ、少女はとても嬉しそうであった。見ればその目はうっとりとしており、シャルメティエの今の姿を目に焼き付けようとしているようだ。
「姉様・・・ホーラル家の者がなんてはしたない恰好をしているんですか・・・。ご自身の身分を理解してください・・・」
しかし実の姉のそんな姿を見せつけられたリュウクシスは呆れたように苦言を呈す。それでも体は動くようになったようで、すでに2人の傍に近付いていた。
「そうは言うが、リュウ。身分を理由に困っている民を見過ごす事こそ、私は愚の骨頂だと考えるぞ。それに最近、自分を見つめ直さなければと思っていた所だしな」
「まあ・・・お考えは分かりますが・・・」
シャルメティエなりの考えがあっての事だと聞いても、リュウクシスは不承不承といった感じである。そんな彼を、トモエはじっと見つめていた。
「なんだ、トモエ?」
「ん?いや、リュウ君って、シャルメティエ様のことを『姉様』って呼んでるんだー、と思って。なんか可愛いね」
そう言われ、リュウクシスは顔を赤くする。
「し、仕方ないだろ!そう呼ぶよう、幼い時から言われていたんだ!」
リュウクシスは恥ずかしさを紛らわすように小さな声で叫んだ。
「ああ、そう言えば言ってたもんね。シャルメティエ様のこと、厳し――」
トモエがそう口走った瞬間、リュウクシスはトモエの肩に素早く腕を回した。
「ちょっ!?なになに!?」
そして、店の隅まで連れて行くと声を落として言う。
「その言葉を覚えているのなら、黙っていてくれないか?この場でどうこうということはないが、後が怖い」
ぐいっと顔を近づけられ、トモエは顔を赤くしながら黙って頷く。合同実習の時もそうだったが、どうにもこの少年は距離感が近い。
「どうした、リュウ?」
弟の挙動不審な行動に、シャルメティエは疑問の声を投げ掛ける。
「何でもありません、姉様!ですが、トモエさんがもう帰るらしいので、別れの挨拶をしていました。僕も帰るので、姉様はお仕事に戻ってください」
「は――」
トモエの不服の声は、リュウクシスの手によって塞がれた。
「そうか。ではリュウクシス、トモエを家まで送ってあげなさい」
「え・・・?」
シャルメティエの突然の提案に、リュウクシスは戸惑いの声を漏らす。
「それくらい貴族の男子としては当然だ。お前もそう思うだろう?」
シャルメティエはそう聞いてくるが、この問いは実際には命令だ、とリュウクシスは思う。無論、シャルメティエとしては命令しているつもりなどないのだが、従わなかった場合には後でくどくど説教されるのだ。
リュウクシスは姉のそういう、生真面目過ぎるところを苦手としていた。
「はい・・・そう思います・・・」
仕方なくそう言い、リュウクシスはまだ帰りたくないと暴れるトモエを引き連れて――いや、引き摺って店を出て行く。こういう状況では、やはり男子であるリュウクシスに分があった。
2人が去った店の中では、ユッテンがシャルメティエに指示を出している。
「シャルメティエさん、すいません!これとこれを、あちらの食卓にお願いします」
「了解した」
シャルメティエが皿を両手に取ると、ユッテンは声を落として聞いてくる。
「先程の子供達は知合いですか?」
「はい。私の弟と、その友人です」
シャルメティエの中では、2人の関係はそこに落ち着いた。
「仲が良いことは結構ですが、仕事中はなるべく私語を慎んでもらえると助かります」
「これは失礼をした。今後は気を付けるとします」
その言葉にユッテンは微笑む。
「今後とは言っても、今日までですけどね」
「確かに」
シャルメティエはそう返し、手に持った皿を客の待つ食卓へと運んで行った。すぐ傍にシャルメティエが来た事に喜びを覚えるべきその客は、彼女が今日までの従事と知り、静かに涙を流していた。
翌日以降、シャルメティエのいなくなった食事処『浪漫』は従業員募集を掛けていたこともあり、すぐに新しい給仕を1人雇うことができた。その娘もそこまで見た目が悪いわけではなかったが、さすがにシャルメティエと比べると質は落ち、客足は減ったと言う。
けれども、その方がユッテンにとっては丁度いい人数であり、かつ味を気に入ってくれた客が足しげく通ってくれているという事もあってか、順調に営業をしているようだ。
シャルメティエに関しては、騎士の職務を放り出し、別のことに精を出していた事をアルベルトにやんわりとだが怒られていた。
騎士として当然の事をしたまで、と反論をしたシャルメティエであったが、後に来たバルバロットにこっぴどく叱られ、涙目で敗走している。
また、シャルメティエがメイド服を着ていたという事実を知ったチヅリツカは、
「見逃したあああああああああ!」
と言って、ひどく悔しがっていた。
城中に響き渡ったその雄たけびを、『秘書の咆哮』と呼ぶ者は、さすがにいなかったのである。




