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 俺は決めた。大人達に決められた操り人形のような人生からの脱却を。

 王子という立場にある俺は幼い頃から友人や学校、趣味や立ち振る舞い全てが大人達によって決められていた。将来国王の立場を継ぐということは流石に俺が死ぬ限り変えることは出来ないだろうが、このままでは俺は自分の意思を何も通せず操り人形のまま人生を終えてしまう。だから俺は決めたのだ、将来の伴侶だけは自分で決めると!そう決意させてくれたのは彼女と出会えたおかげだった。

 彼女、マリアンヌ・ルーベルトは数ヶ月前に特別枠で学園に入学してきた平民の娘だった。貴族が多く在籍するこの学園では肩身の狭い立場であるにも関わらず、健気でいつも明るい彼女に俺は次第に惹かれていった。顔立ちも特別美人というわけではないが、素朴で健康的な雰囲気や愛嬌のある笑顔は、いつも着飾ってプライドばかり強い貴族のご令嬢達しか見てこなかった俺にはかなり新鮮で魅力的に映った。そんな彼女を狙う男達は多かったが、俺達は数多の困難を乗り越え着実に愛を育み、ついに将来を共にする約束を取り付けた。彼女だけは何を言われても譲れない。俺の人生で初めての我が儘だった。


 まずは幼い頃に決められた許嫁、ローズマリーの元へマリアンヌを連れて向かった。ローズマリーは侯爵家の娘でたまたま家柄と年頃がつり合っていた為に許嫁となった仲だが、幼い頃は許嫁の意味などあまり理解しておらず数少ない同年代の友人として仲良くしていた。しかし最近、令嬢達からのマリアンヌへの嫌がらせが酷くなった背景には、家格的に令嬢達のトップに君臨しているローズマリーがマリアンヌを敵視しているからだという噂を聞いてしまった。その噂も俺を突き動かす一因となった。好きな女一人守れずに王になどなれようか、いいやなれるまい!マリアンヌを俺の婚約者にしてしまえばローズマリーでも嫌がらせなど出来ない。そう考えた俺は何よりも先にローズマリーを呼び出してマリアンヌと婚約することを告げた。


「あら、それは良ろしいじゃありませんか。実は私も前々から一生を一人の男性の為に尽くすというのは女として少々寂しい気がしておりましたの。自由恋愛、素晴らしいですわね。私応援いたしますわ」


「……え?」


 まさかの快い返事に戸惑ってしまった。自惚れではなく、ローズマリーは俺のことを憎からず思っていると自覚していた。普段は口数少なく淑女たらんとした彼女であったが、俺と居るときは表情豊かで俺への好意を伺わせる言葉を頬を染めて度々口にしていたのだ。

 思えばローズマリーが俺に好意を示すようになった12、3歳頃、あの頃から友人だと思っていた少女が異性なのだと自覚し、なんとなく距離を置くようになってしまっていた。

 それでも国の催しなどで顔を合わせればローズマリーは変わらない態度で接していたのだ。それにマリアンヌを良く思っていないというのも俺への嫉妬心からだとばかり考えていた。


「ロ、ローザ!いいのか?俺はマリアンヌと婚約するのだぞ?お前、俺のことが好きだとっ」


「ええどうぞ。お好きになさって下さないな。私のことはご心配なく。殿下とマリアンヌ様の噂が広まってから殿方からのお誘いがひっきりなしなの。おかげで世の中には殿下以外にも素敵な男性が沢山いるのだと視野が広がりましたわ。むしろお礼を言わせていただきたいくらいです」


 ローズマリーは清々しい笑顔でそう言うと「それでは」と丁寧に礼をして去っていった。その後ろ姿を呆然と見つめる俺の腕をマリアンヌが掴む。


「殿下、ローズマリー様から許可を頂けて良かったではありませんか。これで私達の結婚へ一歩進みましたね」


「あ、あぁ」


 上目遣いに俺を見つめて微笑むマリアンヌに返事をする。そうだ。これで良いんだ。俺は愛しいマリアンヌと結婚する。そして幼馴染みのローズマリーも他の男と幸せになると言うのだから全て丸く収まった。収まった、はずなのに、なんだろうかこのもやもやした感情は。

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