寝顔、寝姿、そして―
次の日
俺はカケルより早く起きてしまった。
そのためやることがなく
俺は退屈していた。
カケルのほうを見ると、気持ちよさそうに眠っている。
いたずら心くすぐるが、ペンはない。
「・・・すっごい落書きしてえ・・・」
俺は思わずそうつぶやいた。
そしてあることに気が付いた。
こう思うのは、初めてじゃない。
それにこの寝顔にも見覚えがある気がした。
そのとき、またも俺の中で火花が散る。
『あー!木霊君ひどい!僕に落書きするなんて!』
『無防備に寝てるほうが悪いんだよ。それに、俺がいたずら好きだってことお前知ってんだろ?それを忘れてるからこうなるんだよ』
『理由が理不尽すぎる気がする・・・』
『洗うの手伝うから機嫌直せよ。ほら行こうぜ』
『うん・・・。とここでお返し!』
『うわ!バカそれ油性ペンだよ!!』
そう言いながら笑う俺と誰か。
どうやらその子と俺は、一緒に寝ていたらしい。
ちょうどこんな風に。
目元以外ははっきり見えた。
今までは見えなかったのに。
きっとこれは思い出している証拠だ。
でも、なぜか思い出したくなかった。
思い出したら、何かが崩れるような気がした。
それから少ししてカケルも起きた。
「あれ?マコもう起きてたの?起こしてくれればいいのに」
「考え事しててさ」
「また?マコ考え事多いね。・・・まさか、やっぱり追いかけるのやめようとか思ってる?」
「そんなことねぇよ。違うこと考えてんの。記憶のことをさ」
「思い出したの?」
「断片的には・・・。ただ、自分がいくつで、どこに住んでて、どんな人と友達で、ってのが思い出せない。日常会話的なのばっかり思い出すんだ」
「そうなんだ。その記憶には誰が出てくるの?」
「それは・・・」
俺は答え方に迷った。
ここでカケルだといえば、きっとカケルは否定する。
かといってよくわからないといえば、この話はそこで終わり、カケルによく似た誰かが出来上がってしまう。
それでは駄目だという気がする。
だから俺は正直に答えた。
「あのな、その記憶にはな・・・。カケル、お前が出てくるんだ。でも俺はそいつをカケルとは呼んでない」
「・・・」
「カケル、お前俺のこと知ってるんじゃないか?知ってて俺と一緒にいるんじゃないか?」
「・・・」
カケルは一言もしゃべらない。
いつものように笑ってもくれない。
笑って、そんなことないよって言ってくれれば終わるはずなのに。
カケルは黙りこくったまま、時間だけが過ぎている。
それからしばらくして、やっとカケルは口を開いた。
「あのさ・・・仮に僕が君のことを知ってるとするよ。それで一緒に君の影を探すことに何のメリットがあるの?それに、君は記憶の中の人をカケル、って呼んでないんでしょ?それでなんで僕だって思うの?」
「メリットはわからない。でも、アイツは、アイツの声はお前と同じだし、お前を見ることで俺の記憶も戻ってきてる。だから俺はカケルだと思う」
俺がそう返すと、カケルはまたも黙ってしまった。
相変わらず笑わないし、目元は前髪で隠れてしまった。
そんなカケルを見ると、さっきの記憶に出てきた少年と瓜二つだと気が付いた。
そして俺は確信した。
やっぱりアイツは、ここに来る前のカケルだと。