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第八話 実戦。

遅くなりました。

本当にすみません。

今回長めです。

しかもデータを間違って消したので苦労しました。

残酷描写あり。

 帰らずの森。



 ピ~~ヒョ~~ロ~~ロ~~。



 何処か遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。



 青い空。


 白い雲。

 

 そして遠くまで見える鬱蒼と生い茂る木々。

 辺りをよく見ると樹齢何百年を超える木々が生えていた。

 足元の大量に積もった木の葉に足をとられる。

 所々覗く岩肌は多くの鉄を含んでるのが分かる。

 精製すれば良質の鉄製品ができるだろうな。

 

 うん。


 絶賛現実逃避中です。


「……」


 さてと……。

 手元にある物をもう一度見る。


『初心者卒業試験だがな。サバイバルナイフ一本で村まで十日以内に帰る事。』 


 と言う文章が刻まれた木の板がある。

 他はナイフや通信用のマジックアイテムかな。

 ナイフは僕の記憶を元に商品化したサバイバル用の物です。

 通信用のマジックアイテムはペンダント型の物だ。

 これの元ネタは前世の携帯電話です。

 そのままだと不信な目で見られるので偽装しました。

 というか僕の知識を実用化するサキ姉さんはマジ凄い。

 あれでショタでなければ……。

 うん現実逃避は辞めよう。

 ……続きを見るか。


『それを越したら罰を与える。リタイヤしたかったら通信用のマジックアイテムを使え。byクリス 』


「なんでええええええええええええっ!」


 僕の絶叫が辺りに響き渡った。

 罰って何をっ!

 嫌だああああああああっ!


 

 アホ――。

 アホ――。



 オオカラスという魔物の鳴き声が僕を馬鹿にしてるよな気がした。

 

 なに考えてるの?

 なにを考えてんのクリス?

 四歳児に何を求めてるのクリス。

 しかも僕は低レベルのジョブしか持ってないのに。

 はうううううっ。(泣く)



 ◇


 

「……落ち着いた」


 僕は涙の後を拭きながら今の現状を確認する。

 確か僕の前衛職はなんだっけ?

 ……戦士と弓兵に兵士や盗賊、槍兵が二レベルだ。


「ど・う・し・ろと言うんだっ!」


 唖然としました。

 ええ。


「朝御飯食べた時に猛烈な眠気がしたから嫌な予感はしたんだけど……」


 たぶん睡眠薬か混入されてたんだろう。

 くそう……。

 クリス~~嫁にしたら覚えてろ。

 それはそうと……。

 どうする?

 森の中で役に立ちそうなのは弓兵ぐらいしかない。

 しかもレベル二。

 新兵に毛の生えた程度だ。

 まあ無いよりマシだが。

 

 まさかクリス……。

 変態(シスコン)を拗らせて僕を亡き者に……。

 ……無いか。

 

 まあいい。

 

 後は知識系もしくは技能系で使えそうなのは……。

 薬師と鍛冶師に錬金術師それに学者ぐらいか……。


 後衛では……。


 ……幻術師は使い方しだいかな。

 ……使えそうなのは魔術師と僧侶のジョブか。

 ……うん。

 自分のジョブが特化型ではなく万能型で良かった。

 とはいえいずれもレベルが低いのが難点。

 このままでは不味いな……。


 ……仕方ない少々早いが上位ジョブになるか……。

 だけど経験値が少し足りないな……。

 しかもこのまま経験値が足りても生き残れるかどうか……。

 仕方ない。

 今の経験値で取れるジョブは……。

 あった。

 駄目神の特典もこんな時は役に立つな。

 派生ジョブしかないか……。

 となると……慎重にやらないと。


 サバイバルナイフの柄を外す。

 中からコンパスと針二本。

 後は絹糸が二メートル位の物が出てくる。

 コンパスを目の前に持ってくる。

 北を指す筈の赤く塗られた針の先端がグルグル回っていた。

 

「やはり富士の樹海と同じか」


 ここらの岩は鉄分を多く含む。

 その鉄分が磁力を狂わせてるのだ。

 これでは方角が分からない。

 此れは【ナビ】の魔術が頼みの綱か……。

 ため息を付きつつコンパスや針と絹糸を仕舞った。



 ◇



 十分後の近くの小川。


「となると最初に水と入れ物かな」


 旅人の木と呼ばれる植物(竹に似た木)を加工して簡単な水筒にする。

 水は小川の水を汲んで煮沸して入れるのも良いが今は駄目だ。

 昨日の夜に雨が降った所為で小川が泥で濁ってる為だ。

 極力魔術は温存したいんだが、仕方なく飲み水を出し、旅人の木を加工し確保する。

 それを植物の蔓で腰のベルトに取り付ける。


「後は食糧……と」



 食べられそうな山菜はあった。

 だが下処理をしないと食えた物ではない。

 塩は岩塩がある。

 村では今でも物々交換が成り立ってる。

 なので岩塩を欲しがる人の為に持ち歩いてるのが役にたった。

 あまり金銭的価値は無いけどね。

 こんな時には重宝する。


「とはいえ山菜がこれだけでは腹の足しに成らない……」


 ゴソゴソ。

 

 なにやら近くの茂みが揺れているのでそちらを見る。


「ゴブ? ゴブブ」

「ゴブブ」

「ふえ?」

 

 茂みから現れたらのはゴブリン二匹。

 緑の肌に斑の斑点。

 髪の毛は無い。

 手には錆びた小剣とスモールシールドや薄汚れた毛皮をまとった魔物。

 ゲームでは序盤の敵でたいした強さではない。

 但し何人かとパーティを組んでたらが付くが……。


「こんにちは」

「「ゴブブ」」


 挨拶を交わしそのまま離れようとする僕。

 呆気にとられ僕に釣られて挨拶するゴブリン二匹。

 うん。

 アホだな。

 こいつら。


「ゴブ?」


 こうして二百メートル程離れてから歩く速度を速くした。

 

「ゴブブッ!」


 はっ! と我に返り威嚇するゴブリン。

 あ~~。

 やり過ごそうとしたのがばれた。


「戦略的撤退……もとい逃走っ!」


 僕はそのままダッシで逃げ出した。


「ゴブブブブッ!」

「ゴブブッ!」

「何も聞こえんなっ! さらばっ!」


 卑怯だぞっ! 


 と言ってるんだろうが知ったことではないね。

 逃げるが得策! 勝てば官軍っ!

 さらばだっ!

 はあああはっはっ!

 情けねええええええええっ!(泣く)



 ◇



「はあ……はあ……」


 距離をとり蹲る僕。

 荒い息を整える。

 僕は泥で服と顔を汚し、体の彼方此方に草を貼り付けた。

 そして茂みに隠れる。

 あっ……毒草と薬草を発見。

 採取。

 後で毒薬と薬を作ろう。


「ゴブブ?」

「ゴブブ」


 すぐに先程の二匹が息を切らせ、僕が身を隠している周辺に到着した。

 二匹は僕を捜してる。

 まあ、そもそも四才児の足の速さで逃げ切れるはずが無いか。

 中位ジョブ以上なら話は別だが……。

 さてと……。


「眠りを誘う香りよ、大気と共に開放されよ【眠りの大気】起動」


 僕は小声で第一級魔術【眠りの大気】を起動させる。

 これは一定範囲の大気を眠気を誘う空気に変える魔術だ。

 新米の冒険者にとって基本にして命綱とも言えるもの。

 これを僕は使用した。


「ゴブ?」

「ゴブブ?」


 突然の事に混乱して眠りに落ちる二匹。


「ふう……」


 魔術で不意打ち。

 卑怯と言うで無かれ。 

 僕だって嫁を貰う前に死にたくないんだ。


 しかし便利だな。

 この駄目神から貰った特典は。

 先程は弓兵の能力で森の中を逃走。

 そしてそのまま潜伏。

 魔術師のジョブに変更して眠らせる。

 変更の時間は実に二秒。

 本当にチートだなこの特典は。

 普通なら十レベル未満のジョブの持ち主は変更が出来ないのに。

 

 この世界でのジョブの変更方法は二つ。


 一つ目はジョブの変更を特別な施設で時間を掛けて行う。

 二つ目は他人もしくは自分のジョブを変更できる者に頼む。


 サラやシスターは二番目だ。

 但し時間が掛かるらしい。

 なので戦闘中は変更できないらしい。

 まあ抜け道は有るみたいな話はしてたみたいだが。


 僕の場合も二つ目に属する。

だが自分のジョブしか変更が出来ない。

 とはいえ十レベル未満でも変更できるのは凄く使える特典だ。


 話しが逸れた。


 説明の続きをしよう。

 新たなジョブを得た者は力を得るが欠点がある。


 ステータスとレベルの低下だ。


 それは今まで使えていた能力が制限される事だ。

 具体的言えば魔術師二十レベルの者が戦士にジョブを変更する。

 すると魔術師としてのステータスとレベルが十分の一になる。

 つまり魔術師のレベルは二に制限されステータスも低下するのだ。

 だがその代わり戦士としてのジョブ能力を使えるようになるのだ。

 結果、戦士のステータスに低下した魔術師の能力がが加わり『魔法戦士』が誕生する。

 第一級魔術を操る戦士が。

 

 ……うん。

 ……正直微妙。

 

 まあ前のジョブに戻す事も出来る。

 当然今のジョブの能力は制限され低下するが。

 代わりに魔術師のレベルは二十に戻る。

 

 なので二つ以上の能力を使える中位と上位のジョブは使い勝手がいい。

 変更条件の下位ジョブの能力。

 若しくは中位ジョブの制限が緩いからだ。

 


 とはいえこれにも欠点がある。


 前衛の中位もしくは上位ジョブに後衛の物が入ってたとする。

 そうすると後衛のジョブのレベル及びステータスは三分の一になる。

 まあ前衛のジョブなら三分の二だが今は関係ないか。

 あっ……端数は切り捨てです。

 それで具体的な例を挙げる。

 魔道騎士という前衛の中位ジョブがある。

 進化変更条件は魔術師と騎士が十レベルだ。

 魔道騎士は前衛なので騎士のレベルは六、魔術師は三レベルに低下する。

 更に魔道騎士が一レベル習得される。

 合わせてレベル十の魔道騎士が誕生する訳だ。


 第二級魔術を操る騎士がだ。


 だがそれより強いのが上位のジョブだ。

 四つの下位のジョブの特性を持つ上位のジョブ。

 若しくは二つの中位ジョブの特性を持つ上位のジョブは恐ろしく強い。


 中位と上位のジョブは専門の武器や防具もしくは特殊能力があるからだ。


 だが欠点も多く存在する。


 なのでこのジョブが上手く機能するかどうかは使い手と戦局しだいだが……。

 とは言え下位のジョブも使い手しだいで化けるのだが……。


 まあ話しが逸れた。

 さてこの二匹はどうするか?

 

「やはり殺すしかないか……」


 今後の事を考えると殺すしかない。

 

 けど……。

 始めて生物をそれも人型の者を殺す事に躊躇いがある。



 ……動悸がした。

 ……喉が渇く。


「ごめん君達の犠牲は無駄にしない」


 駄目神からの特典で知った派生ジョブの生贄にする。

 そう生贄。

 この森ではソロでは恐らく死ぬ。


 せめて上位ジョブでなければ……。

 先程近くで採取した毒をナイフに塗る。

 今回選ぶ上位の派生ジョブの条件は以下の通り。

 所有ジョブがレベル九以下の時に毒の付いた武器で人型の者を殺す事。


 これが派生条件だ。


 ……太腿に妙な痺れがする。

 ……背中に悪寒を感じ震える。

 

  

 大きくナイフを振りかぶる。

 

 ナイフを二匹に突き立てた。

 こうして初めて僕は生きている者を殺した。

 

 二匹からの経験値が流れ込んでくる。

 それと溜め込んでいた経験値を開放する。

 此れで幻術師と盗賊や薬師に気功師を十レベルにした。

 

 泣きそうである。

 折角溜めてたのに。

 

 だがこれで一気に上位系派生ジョブ『暗殺者』に進化変更できた。


 暗殺者。


 本来このジョブは対魔物にはそれほど向かない。

 高い敏捷性を誇る盗賊。

 様々な強化もしくは補助を使える気功師。

 幻惑に長けた幻術師。

 調合若しくは毒草及び薬草を経口摂取し体液を薬か毒物に変える薬師。

 薬師は毒に耐性を持つ事も出来る。

 しかも暗殺者は上位ジョブの中では成長速度が一番速い。

 とはいえゲーム時では物凄い非難を浴びた不人気職だが。

 

 不人気の理由は次の三つ。


 終盤では上位ジョブとしては戦闘能力は微妙。

 装備は盗賊の物とあまり変わらない。

 同じ上位ジョブ忍者の劣化版。

 

 と言うのが理由だ。

 

 だがそれを補う利点もある。

 なので愛用してる者は多い。

 僕も愛用していた一人だが……。

 

 因みに通常戦闘での暗殺者の戦闘力だが……。


 敵を攻撃や防御に回避時は……確か……。

 暗殺者はそのままのレベル。

 盗賊は三分の二レベル。

 端数は切り捨て。

 気功師と薬師に幻術師などのレベルの三分の一が足された物となる。

 故に今は十六レベル。

 まあ薬師と気功師は幻術師は補助扱いだしね。


 此れが他の戦闘職なら確か……。

 二十五レベル。

 うん微妙。

 とはいえ此れは通常戦闘。

 暗殺者として戦えば勝てる可能性もある。


 話しが逸れた。


 これは通常の行動にも使われるが個別に使う場合は単独のジョブのレベルになる。

 例えば暗殺者のまま薬を作ろうとすれば薬師三レベルしか使えない。

 まあ前衛にしたら微妙だな。


 だが潜伏したり幻術で奇襲したりする場合は……。

 状況次第かな。


 奥の手を使えば短時間だが爆発的に強くなる。

 その場合四十八レベル相当の強さになる。

 一レベルの暗殺者がだ。


 使えば後遺症で暫くステータスとかが低下するが。

 それぐらい上位ジョブはチートなのだ。


 あれ?

 対魔物でもいけるのでは?


 まあいいか……。

 それだけジョブの下位から中位。

 それから上位の差は戦闘力が隔絶するのだ。

 まあ下位とはいえ侮れないのもあるが……。

 たとえば魔術師の第三級の魔術障壁は重複するがレベルに依存する。

 僧侶の場合も第三級に物理障壁が存在し此れも同じだ。

 まあ逆に打ち消すのもレベルに依存する。

 という訳で下位も甘く見れないと言うわけだ。

 さて……此処を踏破するか。


 ゴブリン達よ君達の犠牲は無駄にしない。



 ◇



 それから暫く経ち、今僕は絶賛逃走中です!


「感傷に浸る暇もねええええっ!」

「ゴブブブッ!」

「ゴブブッ!」

「「「「「ゴブッ!」」」」」


 ゴブリンの群れに遭遇したからです。


「上位ジョブに慣れてないのに、きついわああああああっ!」


 悲鳴を上げつつ逃げ惑う僕。


 

 ◇



「ぜえええっ! ぜええええええっ!」


 死ぬような思いしてゴブリンを倒した僕。


「「「「「ゴブッ!」」」」」


 そこでまた別のゴブリンに見つかりました。


「またこのパターンかああああああっ!」


 この日だけで三十匹ゴブリンを退治しました。


 死ねる……。(泣く)


 余談だが戦士、弓兵、槍兵、兵士のジョブをそのままにした。

 派生した暗殺者は二レベルに上げた。

 鍛冶師で錆びた小剣や槍。

 それに弓矢とスモールシールドを使えるようにして六レベルになった。

 槍や小剣、スモールシールドなどを隠しておき弓矢をせしめた。

 後は……投げナイフにもなる護身用短剣が十本ぐらいかな。

 

 幾ら暗殺者のジョブでもナイフだけではねえ……。


 矢や護身用短剣には薬師のジョブで作った毒を塗っておいた。

 卑怯と言うで無かれ。

 僕だって死にたくないんだ。

 というか暗殺者はそんなジョブだし。


 護身用短剣はベルトの後ろに六本だけ鞘を作って固定する。

 両足の太腿にも動きを制限しないよう二本づつ固定する。


 暗殺者は全ジョブ中でかなり使える。

 戦闘力は微妙だけど……。


 前にも言ったが装備は盗賊の物しか使えない。

 劣化版忍者という感じだ。

 だけど暗殺者はそれを補える利点がある。


 隠密性だ。

 全ジョブ最高の隠密性を暗殺者は誇る。

 とはいえ現段階ではあまり意味が無いが……。

 

 それはそうと仮面はどうも収穫祭に誰かが捨てたのみたいだ。

 それをゴブリンが集めたみたいだな……。

 

「白い死神か」


 冬の神を現した白い凹凸の少ないの仮面。

 まあいいか。

 というか……。


「腹減った……」


 仮面を頭の後ろに括り石の上にへたり込む。

 そのまま採取していた食べられそうな木の実を齧る。

 ……休憩しとこ……。


「「「「「ゴブブッ!」」」」

「またかあああああああああっ!」


 休憩してるのに後ろから襲撃。


「「ゴブブッ!」」

「もういやっ!」


 悲鳴を上げ逃げる僕。

 なのにまたもゴブリン達が現れる。

 死ぬわっ!



 ◇



 三日後の夕方。


 度重なる襲撃で心身がボロボロの僕。

 

「ようやく知ってる場所に出たよ。此処から村まで後、五時間位かな?」


 などと言いながら歩く僕。 


 というかオークにオーガーにまで襲われたんだけど。

 幾らなんでも普通なら死ぬだろう。

 異常だな……この森。

 あの後、バシリスクの巣に迷い込んで死にそうになった。

 あの自称神がくれた『童貞期間』が条件の特典が無かったら死んでたぞ。

 

 まさか『無病息災』が役に立つとは……。(現実逃避)


 あれがなければ石化してた。

 ていうか……あれ?

 なんで睡眠薬には効かなかったんだ?

 説明をよく読んで見るか……。

 ふんふん。

 説明の最後に書いてある。

 『なお……異性と接吻をするだけでも一定時間薬物に対して弱くなります』

 

 ……。

 ……。

 ……前にサキ姉さんにされたっけ……。(目を逸らす)

 

 仕方ないんだっ!

 

 童貞暦が前世を含めて五十年。

 異性から初めて求められたんだぞっ!(泣く)

 普通するだろうっ!


 あれ?

 

 もしかして強くなる前に貞操を失うとこの特典失うの?

 ちくしょうっ!

 あの駄目神め! 録でも無いことしやがってっ!

 死ぬ気で強くならないと貞操を捨てられないじゃないかっ!

 どちくしょうっ!(血涙)


 はあ……この試験は本当に初心者用か?


 ゴブリンはまだしもオークやオーガーに遭遇したんだが?

 バシリスクもいたし。

 果ては何故か崖の下には、シスターの失敗料理原産の怪生物がいるし……。

 しかも独自の生態系と化した場所になってるし……。

 いや、昔から疑問に思ってたんだよね?

 退治しそこねた怪生物はどこに逃げたのかなって?

 まさか群れて独自の生態系を作ってるとは……。


 出会った瞬間逃げたけど。

 死ぬかと思った。

 まあ、お陰で暗殺者のジョブが七レベルになったが。

 いかん意識を集中しないと…。

 …うん怪我するな。


「でも流石にキツイなあ」


 日が落ちてきたな…。


 僕はオークの骨付き肉を食べながら今晩の野宿の場所を探す。

 すると弓兵の遠くを見る能力である【鷹の目】に何かが引っかかる。

 素早く藪に身を隠す僕。

 僕の【鷹の目】に引っかかったのは六人の人影。

 薄暗い森の奥に男女混合のパーティー。

 何人かは金属系の鎧か?


 うん?


 あの後方の弓兵の女性が鎧に付けている家紋?

 いや紋章だっけ?

 くそ、分からない。

 しかもあの印は法王国の物。


 という事は法王国の聖騎士か。


 だがそれにしては、鎧を着慣れていないとというか、何といか…。

 先頭は下位ジョブの弓兵らしき耳の先が尖った亜人の女性。

 彼女は奴隷みたいで隷属の首輪を付けていた。

 その時だ。

 弓兵の女の子が此方を見たのは。

 

 ちっ! 

 あの弓兵の女も此方に気付いた。

 あわてて伏せて藪に隠れる。 

 

 うん?


 此方に気付かない振りをしたのか?

 あの弓兵の女の子…視線を戻したぞ。

 

 まあいい。


 聖騎士の女は神経質に辺りを見回していた。

 聖騎士の後方の真ん中を守る両脇には上位ジョブ忍者らしき青年が二人。

 真ん中には魔術師の女性が一人。

 後ろには魔術師と僧侶の魔術を扱う事のできる中位ジョブ司教の女性が一人。

 ジョブの編成は装備と雰囲気で判断すると多分此れでいいだろう。


 パーテイーのバランスはそこそこか…。

 どこかの冒険者が迷い込んで来たという線は論外。

 なぜならここのルートは非正規の物だからだ。


 案内人は居ないみたいだしな。

 恐らくは【マーカー】をククル村のどこかに運んだんだろう。

 それを頼りにした強襲部隊。

 その証拠に【ナビ】を使える者が二人居る。

 となると…僕のやる事は一つ。

 

 逃げる。

 

 そんでこの事を通信用のマジックアイテムで告げ口する。


 え? 


 この六人をどうにかしろ?

 無理を言わないでくれ。

 英雄でも勇者でもないんだ。

 一人でどうしろと言うんだ。

 今は早く連絡して村に帰る……。


 あれ?


 なんだ言い争ってる。

 この方角でククル村は合ってるのか?

 ……と言ってるんだろうか?

 よく分からないなあ。

 読唇術は苦手だし……。

 それに日が落ちて夜になりかけてるからな……。

 大方、奴隷の弓兵の女の子がククル村から彼らを遠ざけてる。

 と疑っているんだろう。

 まあその通りなんだろうが。


言い争っていた聖騎士は剣を抜くと弓兵の女の子に斬りかかる。

 

 はっ?

 

 亜人女性の肩から血が飛び散る。

 そのまま女の子は力なく倒れた。


 え?

 え?

 何が?

 何があった?

 確か斬りかかって…。


 頭が真っ白になった。

 

 弓兵の女の子に罵倒を浴びせながら残る五人はその場から離れる。

 

「くそっ!」


 女の子から五人が完全に離れる。

 ある程度距離が空くまで待つ。

 僕は藪をかきわけ急いで弓兵の女の子に近づいた。

 僕に静かな怒り沸く。

 僕の目の前で女の子を傷を付けるなんて。


「お姉さん! 大丈夫ですか?」


 僕は暗殺者のジョブに変更する。

 【猫目】と呼ばれる薄暗い所でも昼間のように見える盗賊系スキルで傷を見るためだ。

 傷はかなり深い。

 というか出血が酷い。

 このまま放置すれば死ぬ。

 それは間違いないだろう。

 

 ジョブ能力だけでは、肌の色までは完全に識別出来ない。

 だが、おそらくこの人はダークエルフ族だろう。

 エルフよりも生命力は強いが人族よりは脆弱という種族だ。

 弓と剣に優れ術者としての才能を持つ、エルフ族同様に誇り高き種族。


 それがダークエルフ族だ。


 直ぐに傷を洗う。

 そのまま僧侶のジョブに変更し第四級魔術【中位治癒】を使う。

 知らない者に手の内を知られる愚を犯すのは嫌なのだが…。

 緊急事態だし仕方ない。


「あらあら……君は……さっきの……」

「意識をしっかり」


 僕は女の子の頬を軽く叩き起す。


「私の事はどうでも良いから早く逃げて。ククル村にあいつ等の事を知らせて……」


 血に染まった手で僕の方を撫でる女の子。


「僕がククル村の住人だって知ってるんですか?」

「あらら……帰らずの森のような危険な場所を自分の家の庭みたいに歩いている子供が他に居る? もう少し自覚なさい」


 さらっとククル村の住人を化け物扱いかよ……。

 否定はしないが。

 特に孤児院の僕以外の皆とか。

 サラ姉さんなんか木の枝でレッサードラゴンを倒してるし。

 シスターなんぞ鍬一本で火龍を討伐してるし。

 他のメンバーも……。

 うん。

 考えるのよそう。


「見た目が十代前半のお姉さんに言われたくないんだが……」

「あらあら」

「まあ傷は大丈夫です。僕が治しておきましたから」

「そういえば……もう痛く無いわね」

「ですが完治には程遠いので養生させて上げたいんですが……」


 その言葉に微笑む女の子。


「うん……私はいいから村に早く行って来て」

「すみません」

 

 魔物避けの【護法結界】を弓兵の女の子の周りに描く。

 本来これは冒険者がダンジョンに潜る際、休息を取る時に使う結界だ。

 

 やり方は二種類。

 

 一つ目は周りを魔力の篭った鉄の棒で円を描く。

 二つ目は周りを魔力を込めながら何かで円を描く。


「魔よ退け。【護法結界】起動」

 

 詠唱すると僕が描いた円が一瞬だけ光輝く。

 これで円の中に覆われた、人や物資は魔物に襲われない。

 但し八時間だけ。


「さてと、クリスに連絡を……」


 ヒュン。

 ドンッ! 

 ドンッ! 


「攻撃系魔術の爆発音?」


 音が発生した方を見る僕。


「あの方角はククル村の正規のルート……なら、あの五人は何で……」

「あちらは陽動よ。本命は先程の五人」

「お姉さん……まだ話したら駄目ですよ体に障ります」

「いいえ言わせて、どうやら君は村の住人と連絡する方法が有るみたいね」

「まあ詳しく言えませんが」

「まあいいわ。聞きなさい」

「手短に」

「いいから聞きなさい」

「……」

「奴らの作戦は単純よ。陽動が戦力を引き付けておき、背後から村の物資を焼き弱者を人質に取るの」

「単純明快ですね。捻りすらない」

「でも効果的よ。向こうの正規のルートと違い、此方側の森は私達にとっては死と同義なのよ」

「え?」

「本当よ」


 え――。

 僕はそんな所をサバイバルしてたんだ……。

 しかも普通に鍛錬してたし……。

 マジですか……。

 冷や汗が出てるんだが。


「つまりあいつらは精鋭という事ですか」

「ええ」


 この後、幾つか質問をする僕。

 体力の限界に来ていた弓兵のお姉さんには寝て貰いました。

 魔術で。

 というか通信用のマジックアイテムなんて物を見せられないし。


「あ~~あ~~クリス聞こえる?」

『おお~~遅かったな、ようやく村に着いたがな』


 ドンッ!


 爆発音がする。

 法王国の襲撃だろう。


「まだ」

『まだ? 嘘やがな上位ジョブを習得しとったら一日でクリアしとるぞ』

「なに言ってるの? 僕は下位のジョブが一番高くても七レベルだよ」


 今はそうだけど……あの時は違うし。


『でもなあ~以前ジョブの変更をせずに、別のジョブ能力を使用してたがな』

 

 ……やばい。

 ジョブの変更を頼むのがめんどくてそのまま自分で変更した時の事だ。


「き……気のせいじゃないかな?」


 ……と、冷や汗を掻きながら答える僕。


『そうか?』

「そうそう」

『それはそうと、他人には例え家族でも自分のジョブの種類とレベルを教えるながな』

「なんで?」

『万が一そいつが何らかの切っ掛けで敵になった時、あるいはその関係者に知られたら』

「どうなるの?」

『お前が死ぬ』

「……」

『実際、俺かてお前がサキ姉さんの敵になったら躊躇無く殺すがな』


 殺す。


 その言葉に込められた殺意に僕は唾を飲んだ。

 クリスはその宣言どうり僕を殺すだろう。

 クリスの中心はあくまでサキ姉さんだ。

 だから例え僕が敵とならなくても。

 僕が存在するだけで、サキ姉さんにとって害となると判断すれば確実に殺されるだろう。

 例え家族でも。

 例え女子供でも。

 例え村の者でも。

 例え国の軍隊でも。

 クリスはサキ姉さんの敵は虐殺する。

 クリスはそんな歪な存在だ。


「家族なのに?」

『当たり前やがなっ!』


 じっとりと手が汗ばむ。

 ふとみると太陽は完全に落ちもう見えない。

 何気なく体を捻ると離れた所にダークエルフのお姉さんが見えた。

 ああ……もうめんどくさい。弓兵の女の子と略してもいいか。

 冷や汗が止まらない。

 足元の雑草を見つめ溜息を吐く。


「いいよ」

『はっ?』

「だから大好きなクリスになら殺されてもいいよ」

『正気かがな』

「クリスがそれを言う?」

『何ががな?』

「初心者卒業試験と偽って、バシリスクやオーガーの居る所に僕を置き去りにして」

『なに言うとるがな。あそこからまっすぐ帰れば一日程で村に着くぞ』

「……そうですか」


 ……思いっきり違う方角に行ってました。

 僕の自業自得です。

 

 ……気にしないでおこう。


「それはそうと、法王国が攻めて来てるんですか?」

『良く分かったがな』

「此方も法王国の部隊が村を目標に、其方とは反対側から襲撃しようとしてます」

『まずいな。今だがな、村に居るのは戦えない奴らばかりだ』

「やばいね」

『ああ……だがここも守るのも時間が掛かるし……」

「そんなに其方の敵は強いの?」

『いや雑魚ばかりだがな』

「じゃあ~~なんで?」

『先陣をきってるのは奴隷ばかりなんだがな』

「……ふうん」


 僕はその言葉に冷たい返事をする。


「なら僕が此方を受け持つよ」

『おいっ!』

「時間がかかるんでしょ」

『くっ……』


 葛藤するクリス。


『分かった。頼むがな』

「まかせて」

『だが時間を稼ぐだけでいいがな。直ぐに援軍は送る』

「うん」

『話は違うがな……前に俺に言ったな。お前の嫁にならないかと?』


 悲壮な感じで……クリスは喋る。

 仕方ないとはいえ四才児に死地に赴けと言ってるんだ。

 ……うん当然だな。


「言ったけど」

『無事帰ってきたら将来嫁になってやるがな』

「本当っ!」

『ああ。俺は色々と面倒な立場なんだがな。それでの良いなら』

「うん。やったああっ!」

『即答かっ! お前らしいがな」


 涙声のクリス。

 もはやクリスの中では僕の死亡は決定事項なんだろう。

 というか本当にクリスは歪だ。

 先程僕を殺すと言いながら今度はその安否を気遣う。

 狂ってる。

 生まれ持っての気質か、育った環境が原因なのか僕は知らない。

 知る必要もない。

 それを言うなら孤児院に居る者も例外なくそれなんだろう。

 だから異常に強い。

 まあいいか。

 



 さて。


 僕は自問自答する。


『レベル及びジョブや人数の差は歴然』

 

 それで?


『勝てる要素は無きに等しい』


 だからどうした?


『絶望的な戦力差』


 それが愛おしい女の子を泣かせるような事か?

 否っ! 否だっ! 



 腹は決まった。

 僕は外道になる。

 人を殺す。

 己の意思で。

 家族……孤児院の者や村人を守るため。



「クリス」

『うん……ぐす』

 

 すすり泣くクリスに僕は声を掛けた。


「ちゃんと帰ってくるから」

『ああっ!』 

「お嫁さんになってね」

『嫁になってやるっ!』


 こうして僕は戦いに赴いた。



 ◇



 一時間後。 


 弓兵にジョブを変更し五人の法王国の者達を再発見した。

 僕の予想通り弓兵の女の子を切り捨て、置き去りにした奴らの移動速度は遅い。

 【ナビ】だけを頼りに村を目指しているからだ。

 だから足取が遅いんだ。

 

【ナビ】は使うとマーカーからの方角と距離を教えてくれるだけだ。

 本来は森なら弓兵。

 若しくはダンジョンをなら盗賊のジョブを持つ者が先頭をきる。

 更に一度歩いた通路はマッピングする事で迷わないようにする。

 だがここは森だ。

 森でマッピングなんか意味が無い。

 しかも此処は方位磁針が使えない。

 だが弓兵なら草木の生い茂ってるのを見るだけで植生から方角が分かる。

 だが感情に任せた馬鹿共は弓兵の女の子を切り捨てた。 

 つまり五人の経験不足が判断ミスに繋がり移動速度が遅いのだ。

 

 ……僕も人の事は言えないが。


 となると奴等は星を見て方角を判断してるのだろうか?

 注意深く見ると空を何度も見てる。

 ……予想どうり。

 奴等は星を見て方角を判断してるらしい。

 さて……。


「偽りの景色よ、大気と共に開放されよ【幻影】起動」


 ジョブを弓兵から幻術師に変更。

 使うのは一定範囲の景色を偽装する幻術。

 効果時間は長時間。

 それを奴らの頭上に展開した。

 幻術の偽装イメージは夜空に浮かぶ星空。

 本物と瓜二つの夜空を幻術で作り出し、時間経過を考慮した星の角度変化で、奴等の方向感覚を狂わせる。


 一時間後。


「なぜ着かないっ! むしろククル村から離れてるぞ」


 聖騎士の女が喚く。

 それを宥めるほかのメンバー。

 醜い。

 正直に言えば彼女は今まで会った女性の中では一番美人だ。

 それがかえって女の醜悪さを引き立てる。


「くそがっ!」


 彼女は足元の石を拾い空に向けて投げつける。

 あっ……。


 パリンッ!


 硝子の砕ける音と共に偽りの星空が消える。

 直ぐに本物の星空が現れる。

 

「これは……」

「幻術です」

「ああ……」

「しかも巧妙な……本物と瓜二つの星空を幻術で作れる術者は余程の腕かと……」


 ……すみません。

 十レベルの幻術師です。

 村では一番低レベルです。

 外見年齢十歳の女の子なんか第六級の幻術を扱うんですけど。

 しかも僕が使ったのは第一級の幻術です。


「噂に聞いてたが此処までとは……」

「さすがククル村だ」

「化け物だらけだねぇ……」


 いたたまれねえええええええええええっ!

 僕はそこまで凄くないぞっ!

 

 気を取り直して……。

 さて次はどうする?

 幻術をもう一度使うか?

 駄目だ。

 流石に同じ幻術に再び掛かると思えない。

 なら少しでも相手の力を削りつつ時間を稼ぐ。

 最悪自分一人でも、多くの地獄への道連れを作る。


「地獄の業火よ、風と共に開放されよ【業火】起動」


 僕は魔術師にジョブを変更し、第三級魔術【業火】を起動させる。 

 紅蓮の火が五人を襲う。

 それを五人は避けて散開する。


「「「「「誰だ」」」」」


 僕はジョブを暗殺者に変更。


「来たれ偽りの体【幻身】起動」


 そのまま【幻身】を起動する。

 上位ジョブ暗殺者の特有の幻術だ。

 幻術で作った己の分身を顕現させる。

 その数五体。

 僕を合わせれば六人だ。


「それは此方の台詞だ。村に何の用だ」


 月明かりを背に【幻身】を含む六人の僕を見る侵入者達。


「子供?」

「いや小人族じゃねえ」

「ねえ? 敵なの?」

「だが私達に気取られること無く近づいたんです。恐らく強敵かと。お嬢様」

「やべーし。ククル村の防衛を担当してるのかもよ? だとしたら相当の実力者だべ」


 五人は忍者二人。聖騎士と司教に魔術師の順番で話す。

 いたたまれねええええええっ!

 僕は実力者ではないですっ!


「ククル村の者だな! 出迎えご苦労っ!」

「は?」

「汝らに我ら法王国に従属し奉仕する栄誉を賜りに来た。村まで案内せよ」


 はっ?

 聖騎士のおばさんの言葉に頭が真っ白になった。


「どうした? 教皇の三女クルガ様の勧誘の言葉に感動したかっ!」

「お嬢様。あれは呆気に取られてるだけです」

「むっ……そうか。感動のあまり打ち震えておるのか」

「違います」


 聖騎士のおばさんと司教の突っ込みに我を取り戻す。


「寝言は寝て言え。おばさん」

「なあ……おばさんっ! このクルガまだ三十五歳だ」

「なら婆……」

「なあっ! 許さん! 皆の者やれっ!」


僕の突っ込みに怒鳴る聖騎士のおばさん。


「「「「へ~い」」」」


 聖騎士のおばさんの発言はいつもの事なのか、疲れた様子で残りの四人は返事をする。


「沈黙の風よ…」

「眠りを誘う香り…」

 

 司教と魔術師の女がそれぞれ詠唱する。

 僧侶のジョブ第二級魔術【沈黙の風】と魔術の【眠りの大気】だ。

 忍者二人は同士討ちを避けるため行動を少し遅らせる。

 無力化してから僕に切りかかる気だろう。


「バシリスクの息よ我の前に……」


 聖騎士のおばさんは僧侶のジョブ第二級魔術【石化】を詠唱する。

 魔術師の第三級魔術【魔術障壁】を使わないか?

 此方を過小評価してるのだろうか?

 それとも魔術師レベルが低いのか?

 敵を無力化して物理で殺す。

 教科書どうりの戦い方は対処しやすい。


「特攻っ!」


 パリンッ!


「「「きゃっ!」」」

「「なっ!」」


 僕の【幻身】が五人を襲う。

 その衝撃は五人を同じ場所に吹き飛ばす。

 【幻身】で作った幻を動かすには、イメージで中身を空洞にして作成する必要がある。

 場合によっては空洞の中身に空気を充満させて破裂させ自爆攻撃に使う事がある。

 それを今回使ったのだ。

 

 突然目の前の爆発でパニックを起す五人。 

 本来の幻体は囮だが、僕は敵の魔術の妨害に【幻身】を使う。

 しかも幻術ゆえに操る速度は自由自在。

 暗殺者のジョブ特有の幻術はこんな使い方も出来る。

 

「沈黙の風よ全てを消せ【沈黙の風】起動」


「「「あっ!」」」

「「しまったっ!」」


 五人が体勢を崩している間に、僕は僧侶のジョブに変更して全員の魔術を封じ込める。

 三人が何か魔術を使おうとする。

 だが口をパクパクさせるだけでなにも出来ない。


「やべーし魔術が使えない」

「お嬢様、私が魔術を……駄目です」

「お前もか……ならば僧侶のジョブの……これもかっ! 魔術の詠唱だけが上手くいかない」

「三種類の後方支援系魔術のジョブの所持者……お嬢様、あやつはククル村の大賢者サキでは……」

「馬鹿を言うなっ! 奴は女だ。目の前のは男だぞ」

「どちらにしろ後方支援なら接近戦だっ! 行くぞっ!」

「え~~やべーのは嫌なんだが……しゃあねえっ!」


 混乱している聖騎士のおばさんと司教や魔術師の女。

 それを尻目に忍者二人がこちらに突っ込む。

 僕は暗殺者のジョブに変更して……。

 駄目だ【幻身】が間に合わないっ!


「ふっ!」

「こいつっ!」

「俺様を忘れんなよっ!」

「ぎっ!」


 キンッ! 

 ドスッ! 

 ドン。

 ドン。

 ドン。


 僕は片方の忍者の武器をナイフで受け止める。

 たがもう一人の忍者の蹴りで僕は弾き飛ばされた。

 そのまま大木に叩きつけられ、衝撃で動きが止まる僕。


「がはっ!」


 仮面が外れ吐血する。

 ヤバイ……。

 肋骨が折れた。

 意識が朦朧とする。

 此れでは魔術が……。


「あ~~くそ! 面倒掛けやがって」

「こいつガキだぜ……嬲るか?」

「あら駄目よ。村に案内させるんだから」

「ちっ……」


 忍者二人は頭を搔く。

 司教と魔術師の二人を後ろに引き連れた聖騎士のおばさん。

 せめてこの聖騎士だけでも動けなくして……。

 僕はベルトに付けてる毒を塗った護身用短剣を投げる。


 ザシュッ!


 喉を狙った僕の短剣は確かに刺さった。

 但し魔術師の女の胸に。


「お……お嬢様…なぜ…ゴブッ!」

 

 聖騎士のおばさんは無事だった。

 咄嗟に魔術師の体を引き寄せ盾にしたからだ。

 信じられない物を見たかのように崩れ落ちる魔術師の女。

 もはや生きてない事だけは確かだ。

 

 僕の息が止まる。


「ヒゥーヒゥー」


 初めての殺人で呼吸が上手く出来ない。


 思考が白くなる。

 

 酷い吐き気がした。

 

 初めて人を殺した事に僕は思考が止まった。

 だけどそれよりも平気で仲間を盾にした屑に吐き気を覚える。


 罪悪感が込み上げてくる。

 

 その途端に膨大な経験値が流れ込んでくる。

 

「だってあなた二時間位魔術が使えないんでしょ? 役立たずはいらないの」

「あ~~あ、お荷物だってよ」 

「また死んだよ。どうすんですか次の後任」

「いんじゃないですか? 村に行きましょう」


 まるで何事も無かったかのように聖騎士のおばさんと残り三人が話す。

 その異常な光景に背筋が凍る。


「お前達なんで仲間を……そんなに簡単に殺せるんだよ」

「「「「はあっ?」」」」


 僕の言葉に呆けたような顔をする四人。


「「「「あはははっ!」」」」

「何が可笑しい……」


 僕の言葉に笑う四人。

 それに怒りか込み上げてくる僕。


「馬鹿じゃない? あたし等は利害関係が一致してるから組んでるだけ」

「それに、あいつはこの中で唯一のスラム上がりなんだぜ」

「あいつはただの雑用係りとして連れてきたんだよ」

「お笑いはこの辺にして村に連れて行けや、このクソガキ」


 その言葉に対し相手を睨み付ける僕。


「い・や・だ」


 ドンッ!


 返事をした途端に僕の視界が霞んだ。

 蹴られて近くの木に再び叩きつけられたからだ。


「ガハッ!」


 背中に走る衝撃におもわず悲鳴を上げる。


「聞こえなかったか?」

「ギッ!」


 ゴキンッ!


 地面に倒れた僕の右手を忍者が踏み砕く。


「あああああああああっ! 嫌だと……言ったんだ」

「はあ…面倒くせえなっ!」


 ボリッ!


 今度は僕の左肩を砕く。


「ガアアアアアアアッ!」

「教えたくなった?」

「顔を近づけないで下さい。この年増」

「ガキがっ!」


 十分ぐらいだろうか全身を蹴られ続けた。

 痛みはとうに麻痺していた。

 意識は朦朧としている。

 どうにか時間は稼げてるかな……。


「御嬢様。もうその辺で」

「ああん? 指図するのか?」

「時間がないんですよ」

「ちっ……そうだった。作戦行動中だった」

「小僧は生かしておいても面倒だし此処で始末しましょう」

「そうだな」


 聖騎士のおばさんは剣を抜くとその刃先を僕の首に向けた。


 ……死ぬのか。

 折角クリスがお嫁さんになってくれると言ったのに……。

 皆のウェヂングドレスを見たかったな……。


「あの世で皆が来るのを待つがいい」

「それはないがな」


 聖騎士のおばさんの手に力が込められたそのときの事だ。

 唐突にクリスの声がした。


 ギンッ!

 ヒュンヒュン。

 ――ドスッ。


 甲高い金属音がした。

 そして金属の板が……否、断ち切られた剣が弾き飛ばさた。

 切られた剣はあらぬ方向に飛んでいく。


「誰だっ!」

「誰だ……だと? よくも俺の可愛い弟分をいたぶってくれたがな」


 そこには一匹の鬼が居た。

 

 血に濡れた二本の剣を持ち闘気を纏った鬼が。

 

 剣鬼。


 まさしくそこに居る誰もがそこに居る者を見て思った。

 纏った闘気があまりにも膨大すぎて僕には誰かは分からない。

 闘気がビリビリと僕の皮膚に電流のように走る。 

 この独特の言葉使いはクリス?

 

 剣鬼。


 クリスの二つ名ともなったこのジョブは少し変わってる。

 戦士、兵士、騎士、気功師で構成された上位のジョブ。

 だがこのジョブの力を完全に使いこなす為には武器は剣以外は使えない。

 しかも防具は革鎧まで。

 これは例えば通常戦闘でレベルが1の場合だが。

 下位剣士相当で、二十二レベルの強さを持つ。

 さらに盾を捨て双剣となった剣鬼の通常戦闘レベルは……。

 四十四レベル。

 だが今見せてるクリスの様に闘気を開放してる状態では……。

 八十八レベル相当にもなる。


 潜在能力が開放されてるからだ。

 

 剣鬼一レベルに付き一分この状態を維持できる。

 但し制限時間を過ぎた場合、全てのステータスが暫く低下する。

 クリスは村から全力疾走してきたんだろう。息が荒い。

 だがこの状態なら四人を相手にするには充分だ。


「ゲボッ!」


 血の塊を吐く僕。

 不味いなあ……。

 どこか内臓を破裂させたか……。

 死ぬかも……。

 でも最後にクリスの姿を見れていいか……。

 そんな事を考えてたら不意に痛みが遠のいた。


「腐っ……まったく無茶をする」


 気が付くとサキ姉さんが僕を見下ろしていた。

 その手には僧侶ジョブの第六級魔術【快癒】の光が灯っている。

 しかも無詠唱。

 詠唱による完全な治癒より速度を重視しての事だろう。

 それだけ僕の命は危なかったみたいだ。


「頚椎に亀裂。それに右手と左肩が粉砕骨折と……肋骨が数本折れてるね、腐む……」

「そんなに……」

「内臓の幾つかが破裂して……」

「あの……そんなに?」

「腐ん……まだあるけど聞きたいかな?」

「済みません聞きたくないです」

 

 聞いてたら血の気が引いてきた。


「腐腐っ……意地悪はこの辺にしときましょう。本当に心配したんだから……」

「ごめんなさい」


 僕は涙で頬を濡らしたサキ姉さんに罪悪感が湧き謝罪した。


「それはそうとクリスはあの状態で後どれぐらい持つの」

「村から九十五分掛かったから後四分かな」


 ぞっとした。

 もう殆ど時間が無い。


「僕はもう良いですっ! クリスの手伝いをして下さいっ!」

「大丈夫よ。ほら」


 サキ姉さんの言葉に僕はクリスの方を見る。


「があああああああああっ!」

 

 クリスが咆哮した。

 同時に四人全員の武器が切断される。

 

「ちっ!」


 忍者の一人が予備の武器を抜きクリスに斬りかかる。

 それをかわし剣の柄で全員の頭部をなぐるクリス。

 この間わずか五秒。


「はい?」


 四人とも脳震盪を起す。

 そのまま大地に沈んだ。

 クリスはそのまま僕の所まで来る。


「この大馬鹿っ!」


 ゴスッ!


 鈍い音がして僕の視界が揺れる。

 クリス……その剣鬼の状態で殴られると僕死ぬよ……。

 いかん意識が……。


「無理するなと言ったろうがっ! 聞いてるのかっ!」

「腐っ……クリス、今のは多分致命傷よ」

「うあああああああああっ! 【快癒】をサキ姉さんっ!」

「もうやってる」

「カイル! 死ぬなっ!」


 クリス酷い……。

 こうして僕は意識を手放した。


 なおこの時の傷が一番酷かったらしい。

 そう後からサキ姉さんから聞いた。

 こうして初心者卒業試験から始まった、僕の初実戦は終わりを告げた。


 

 

 


初めての実践。

今まで、ほのぼのしてました。

ですが本来は四歳児でもジョブの力でドラゴンすら殺せる世界です。

孤児院の皆がそれですし。

というかククル村の住人の殆どが出鱈目に強いです。

この世界の本来の空気を感じてくれればと思います。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 軽く読んだ時の自分の感想にぶち当たるとは! ただ、ほぼ同様の所感なんですが、この頃はまだ遠慮があり突っ込んだ感想になっていませんね(笑) [気になる点] ものすごく『主人公スキル変更の説…
[良い点] 非常に読みやすくて驚きました! 長編予定では無かったのが随所に書かれていますな(笑) [気になる点] 主人公の転生したこの世界が<何のゲーム>を参考にしているか分からない点でしょうか? …
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