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第五十四話。 冒険者流料理

朝は此れだけです

 呆然と彼女らを見ていた僕は仰天した。

 セリスが煮えたぎったお鍋の湯にナイフで切った野草と塩漬け肉をそのままぶち込んでいたからだ。

 

 おい。

 まて。

 食材の下処理すらしてないよ。


 僕は呆れて目を逸らす。

 他の冒険者も似たような感じだ。

 うわ~味が想像出来ない。

 僕は両手で料理が見えないように自分の顔を隠す。

 うあ~お先真っ暗。


 

 で僕が終わる訳もなく。


「あんた達なにやっとんだあああああああああああああああああっ!」

「「「ぎゃあああああああああああああああああああっ!」」」

 

 突然の僕の怒鳴り声に吃驚する。

 セリスとミリアにシシルの三人。

 うん。

 ココロ村の僕の婚約者のセリスと間違うな。

 なので今度から此方のセリスはファミリーネームの方で呼ぼう。

 確かララと言ったか。

 雇用する時に教えて貰ったっけ。


 ではなく。

 僕はつかつかと3人に近づく。

 そしてララが持っていた調理用ナイフを取り上げる。

 

「僕に貸してっ!」

「ひゃっ!」


 ララが悲鳴を上げる。

 構わず僕は鍋に放り込まれていた、塩漬け肉と野草を近くにあったザルに上げる。

 ふむ。

 この野草はあまり下処理しなくても良いやつだな。

 丁度良い具合に茹で上がってる。

 塩漬け肉の塩のお陰だな。


「何すんのっ! て……あら?」

「会長さん?」


 シシルとミリアの戸惑う声を無視する僕。

 塩漬け肉の破片を口に含む。

 やっぱりっ!

 塩を抜いてない。

 塩辛いっ!

 

「何するんだよっ!」

「黙ってなさいっ!」

「「「ひっ!」」」


 躊躇なく鍋のお湯を全部捨て、僕が先程露天で貰った塩振り串焼き肉とお土産用の刻んだ干し茸を新たに放り込み、水を鍋に張った上でゆっくり火を入れ出汁を取る。

 充分に出汁が取れるまで待ってから野草を入れる。

 仕上げに僕が持っていた砕いた岩塩で味を調える。

 これで完成。

 

一口味見をする。


 不味い。

 出汁の素材が良くない上に量が少ないからだ。

 酷く不味い。

 だけど先程よりはましだ。

 彼女らが作ろうとした塩味だけの味付けと比較する方がおかしいが……。


「はい、有りあわせだけど」


 と言いながら、僕は出来上がった鍋料理を彼女らの木の椀に入れ差し出す。


「「「……」」」


 神妙な顔で汁をすくい一口試食する三人。


「「「私達が作るより美味しい」」」

「そうですか……」


 女子力低っ!

 どんだけ料理が下手なんですか……。

 碌な材料が無く、不味いスープにしか仕上がらなかった物を美味しそうに食べる三人から僕は視線を逸らす。

 うわあ。

 あんな不味いスープを旨そうに。

 僕の良心が痛む。

 はあ。

 せめて味噌か醤油があれば違ったのに。


「なあ……」

「旦那」

「お~い」

「旨そうだな」

「頼みがあるんだが」

「酒に合いそうだな」

「ごく」

「す~~良い匂いだ」

「旦那~頼みがあらあ~

「ひひっ!」

「はあ、はあ」

「……」


 気が付くとオークを解体していた冒険者達が近くに居た。

 三十歳を過ぎた辺りだろう。

 歴戦の戦士を思わせる風格が感じられる。

 彼らは古傷だらけの顔を僕に近づける。

 オークの血に染まった解体用ナイフを持って。

 というか雁首そろえて怖いわっ!


 近い近いっ!

 怖いよおおおおおおおおおおおっ!


「な……なんでしょう?」


 顔では平然としてます。

 だが内心では震えている僕。

 仕方ないだろうっ!

 切れた時なら兎も角。

 平時はこんな人達は怖いんだからっ!

 オークの血でスプラッタに染まった彼等の顔は、何処かの映画の殺人鬼にしか見えないんですけどおおおおおおおおっ!


「嬢ちゃん達だけじゃなく、俺達にもこの飯を作ってくれないか?」

「へ?」


 予想に反した彼の言動に呆ける僕。

 良く見ると彼の後ろにずらりと並ぶ冒険者達。


「「「「「「「「「「お願いしますっ!」」」」」」」」」」

「はあ……」


 僕は呆気に取られつつも怖くて頷くしか出来なかった。



 ◇



 二時間後。


「ふう……完成……」

「「「「「「「「「「おおお~っ!」」」」」」」


 僕は額から流れる汗を拭く。

 商会に置いている自分用の調理機器を何人かの冒険者の手を借り持ってきて貰いました。

 出ないとこの人数分を作るのに時間が掛かるだけだからね。

 

 そして出来上がりました。

 商会から持ってきたタレを付けたオークの焼肉。

 因みに解体直後の肉は熟成させて無いので当然硬かった。

 なのでキウイに似た果物をペースト状にした物に漬け込み肉を軟らかくしました。

 その肉を水洗いした後にタレを塗りました。これで一品。

 オークの骨を焼いて出汁にし野草や穀物を具材にした穀物粥。次の一品。

 同じくオークの骨から作ったスープで作ったうどんもどき。これで最後の一品。

 

 この計三種類で全てです。

 時間が無いので急いで作りました。

 

 なに?


 骨から出汁を取るなら時間が足りないだろうって?

 確かに骨から出汁を取るなら長時間煮込まないと駄目です。

 場合によりますが半日位ですかね……。

 

 ですので。

 錬金術の第一級魔術に【時間加速】というのが有ります。

 これを使いました。

 この魔術は一定範囲内の時間を加速させる事が出来ます。

 本来の用途は別。

 発酵や酸化及び化学反応を加速させるというのが本来の用途です。

 ですので範囲の狭さと即効性がないので戦闘には役に立ちません。

 使うとしたら相当応用力が高い人がトラップ的に使用しないと無理でしょう。

 しかも馬鹿みたいに呪文詠唱が長い上に魔力を大量に消費します。

 加速出来るのは僕は二日が限度。

 他の人なら数日ぐらいかな。

 

 この作業だけで僕の魔力が半分持っていかれました。

 戦闘に使えねえ。

 それを今回は出汁を取るのに使いました。

 本当は肉も熟成させたかった。

 だけど少量しか出来そうになかったので、ペースト状の漬物に頼り短時間で柔らかくしたのです。

 魔術を使っても量が量なので熟成させるのに時間が掛かるから。


 まあ……。

 あのまま何も工夫しないよりマシだろう。


「もう食べて良いですよ」

「「「「「「「「「「「「「おおおおっ!」」」」」」」」」」」」


 僕の言葉に目の色を変える、オークの血に塗れた冒険者達。

 そこにララにミリア、シシルが加わる。


 おい。

 あんたらさっき僕が作った御飯を食ったろうが。

 まあけどさ……。

 他の人達も文句を言ってないし。

 因みに彼らのお礼は飯を一緒に食っても良いとさ。


 もう腹一杯なんですが。

 かと言って断るのはあれですし。

 チビチビ食います。

 不味い。

 自分で作っててあれだけど。

 不味い。

 

「うめえ、うめえよっ!」

「ばりばり」

「粥がこんなに旨いなんて……」

「まさか【時間加速】にこんな使い方があるなんて」

「ふ~ふ~旨い」

「酒に合うな」

「この絶妙な塩加減うめ~♪」

「はふはふ」

「肉がこんなに旨いなんて」

「肉が柔らかい~」

「うんうん」

「肉汁がめえ~」

「ガツガツ」


 取り合えず大絶賛みたいです。

 僕が試食した時は不満の残る味でしたが。

 どうしょうかと思ったけど。

 皆、喜んでるし良いか。(視線を逸らす)


 


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