第四百八十二話 領主の息子
馬の上から村人たちを見下ろす其の兵士は随分と若い男だった。
黒い髪に赤い眼。
黄色い肌の漸く成人したばかりの様に感じられる。
だが兵士と言うには恐ろしく太っていた。
全身鎧を着ているみたいだが実用性が疑わしい代物だった。
花や鳥をあしらった其れは重量を軽減する為に可成り薄く作られていた。
明らかに見せかけだけの鎧。
腰に差してるのはレイピアでランスすら持ってない。
此の男が先頭に居るという事は隊長なのだろう。
但しお飾りの。
「ほほう~~家畜が何をしてるかと思えば……良い女が居るな」
豚さんが喋ってます。
鎧を着た豚さんが。
「焼き豚にしたら美味いかな~~」
『やめんか馬鹿』
「え~~」
実質的な隊長は恐らく一歩引いて騎乗してるガタイの良い男だろう。
明らかに実用本位の全身鎧を着こんだそいつは此方をじっくりと観察していた。
人相は分からない。
「……」
全てが鋼板で出来た鎧を着た男は黒い目を無言で睨む。
其のあとに続く騎兵たちは恐らく此の男の部下だろう。
一糸乱れぬ隊列を組んでる兵は此の男と同じ装備で統一してる。
そいつらも此方を油断なく観察していた。
「後ろの奴らは……それなりに実戦を経験してますね」
『隊長のジョブは騎士レベルは七だな』
「低い」
『副官が兵士六レベルで部下が兵士五レベルだ』
「低すぎない?」
『此の時代では普通だろう』
「此れで普通?」
マジで?
え?
何?
此の馬鹿みたいなレベルの低さ。
ククル村の幼児でも十レベル位あるぞ。
おかしくない?
『ククル村が異常なだけだ』
マジか~~。
唖然とする僕。
「おやおや家畜が何をしてるんだ~~んんん?」
豚さんがイヤらしい笑みで村人たちを見る。
好色な笑みで。
「ひっ!」
若い娘が震えている。
アレは蘇生させた一人だな。
娘は酷く青ざめへたり込む。
何かに怯えてるみたいだ。
「御前……」
「だ……旦那様」
あ……夫婦みたいだな。
親子程歳が離れてるので分からんかった。
『御前が蘇生したんだろうが』
「夫婦て知らんし」
『そうだな』
うん。
納得してくれて嬉しいよ。
それはそうと若い娘。
特に蘇生させた娘さんたちが皆震えてる。
恐怖に怯えてるみたいだ。
「此れは此れは……まだ美しい娘がこんなに隠れてたか」
「「「「「……」」」」」
豚さんの言葉に卒倒しそうだ。
「おい豚用がないならさっさと何処かに行け」
「はあ?」
リリスの言葉に豚さんが顔を歪める。
「聞こえなったかっ! 豚っ! 用が無いなら何処かに行けと言ったんだっ!」
「何だと小娘っ! 此処の領主の息子バクダ様に言ってるのかっ!」
「ああそうだっ! 姉さん達を玩具と勘違いしてる豚に言ってんだっ!」
え?
『おい堪えろよ』




