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第二話 周りの事。

評価をお願いします。

 ククル村の中央の孤児院。

 ここの住人の朝は早い。

 

「ん~寒いなあ」


 朝一番にシスターが起き、僕を抱え納屋から鍬を取って来る。

 太陽が真上に来るまで、裏の畑を耕したり雑草を抜いたりの野良仕事をこなす。

 孤児院の生活の足しにする為の菜園である。

 畑の大きさは五千平方メートル。

 普通の人間が一人で管理出来る広さでは無いが、シスターは汗一つかかずやり遂げる。

 この畑で取れる作物は、穀物以外の根菜やイモ類に青物などだ。

 作物は孤児院で日々使用する分以外は備蓄用に保存する。

 保存のきかない分は村の住人と物々交換していた。

 たまに案内人に連れられて、ここに来る行商人に売ったりもしていた。

 

 ……というかシスター。

 大木の木陰に日差しを避け、僕を置いてくれるまではいいのです。

 ですが幼児は体温調整が未熟なのです。

 なので日光浴以外は、家の中で安置してくれた方が嬉しいのですが……。

 僕が熱中症になりますよ。

 まあ今はまだ涼しいからいいけど……。

 暇だし魔術の基本でも練習しますか……。

 


 ◇



「グガアアアアアアッ!」


 帰らずの森。


 この森は魔族領の住人や、人間達の住む東の王都から恐れられている。

 この帰らずの森は絶えず凶悪な魔物や動物が徘徊しているからだ。

 並みの冒険者では立ち入る事が出来ない。

 ましてや森の奥にあるククル村まで辿り着ける冒険者は一握りだ。

 ククル村の住人に許可無く無断で侵入する者は、入り組んだ獣道と強力な幻術師による結界を突破する必要がある。

 

 だが極まれに数々の幸運を掴んだ者は冒険者とは限らない。

 

 突然シスターの耕やがす畑に現れたこの存在のように。

 恐らく森の奥の更に向こう側にあるダンジョンから迷い込んできたのだろう。

 定期的に村人達で討伐してるが、それでも此処まで到達する魔物がいる。

 ちなみにダンジョンの魔物の素材や魔石は、この村の大事な収入源の一つでもある。

 そこからこの魔物は現れたのだ。

 灰色の毛皮に赤く血走った目、大きく鋭い牙を覗かせた狼のような魔物。

 否。

 狼が魔力を持って魔物に変化した姿だ。

 

 グレーウルフ。


 一匹だけなら新米冒険者パーティーでも連携すれば簡単に倒せる。

 だがベテラン冒険者でもソロでは厳しい相手だ。

 僕が疲れて寝てる時こいつが現れたんだ。


「ああ……」

 

 狼の姿を見たシスターは体を硬直させ言葉を失う。


「グルウウウウウッ!」


 まずいっ! 

 シスター逃げて! 僕の事は良いからっ!

 転生して早々行き成り二度目の死ですか……。

 短い人生でした……。


「狼だっ! お肉ゲット」

「グウルルルッ?」

 

 はい?


「今日は狼肉のステーキとシチューだっ!」

「キャンキャンッ!」


 えーっ!


シスターは鍬一本で狼を撲殺し、その場で解体を始めた。 

 知らない者が聞けば冗談として笑い飛ばす話だ。

 

 いやその光景を見ている者は居た。

 行商人の護衛として来ていた冒険者だ。

 用を足して仕事に戻ろうとした時、目の前で起きた惨劇に固まってた。

 そこに偶然通りかかった村人が足を止める。


「嘘だろ……あれ修道院のシスターだろ? 悪夢だ……。お淑やかな人だと思ってたのに……なんであんなに強いんだ?」

「なんだ、お前は今まで此処にシスター目当てに行商の商人に護衛に来てた冒険者じゃないか。今まで知らなかったのか?」

「ああ……」

「あのシスター。ああ見えてこの村で一番強いんだぜ。一人で地龍を鍬一本で狩ってたし」

「ええっ! 俺今日こそ、シスターに付き合ってくれと告白するつもりだったのに……」

「いいんじゃないか? あの人強すぎると婚期が遠のくって愚痴ってたから」

「無理無理っ! はあ……俺この家業十年やってるけど……自信失うな…」

「なに言ってんだ。この村の住人の殆どはレッサードラゴン位倒せるぞ。孤児院のガキ共なんぞ鼻歌交じりにやってたし」

「悪夢だ……引退しよう」

「そのなんだ。気を落とすな……」

「はあああああああああ~」


 この腕に覚えのある冒険者が、このシスターの余技を見て引退を決意したのは余談ではある。

 まあ確かにスプーンよりも重いものを持ったことが無いように見える美女が、鍬を片手に魔物を撲殺し、一人では耕せないような広大な畑を管理してるなどと誰が信じるだろうか。

 この光景に見慣れているはずの村人すら、時々ドン引きしているからその異常な強さが分かるだろう。

 

 シスターは、こうして得た毛皮等も他の作物同様に、行商人が持ってきた、小麦等の穀物や日曜雑貨等と物々交換しているのだ。

 行商人との取引では現金はたまに使う程度……。

 影で村人はこのシスターの事を《歩く理不尽》と渾名を付けている。

 シスターがその噂を知った時には、また婚期が遠のくとかなり落ち込んでいたが……。

 まあ自業自得なので仕方ない。



 ◇



 孤児院の厨房。

 

「じゃあ後は片付けよろしく」


 野良仕事の後。

 シスターは良い汗を搔いたとばかりに汗を拭う。

 自分が作ったシチューをテーブルの上に乗せ僕を抱えてその場を後にした。

 あのう……なんで赤ん坊の僕を此処に連れてきたの?

 僕要らないよね?


「クリス。黒パンは後、幾つ?」


 そう質問したのは料理の出来ないシスターに代わり孤児院の台所を支える外見が十一歳の女の子。

 狐の耳を持つ銀髪にして碧眼に白い肌を持つ美少女で自分の弟分に尋ねる。

 なお先程シスターが作ったシチューは見ないようにしてる。


「黒パンなら後五個だよ。サキ姉」


 それに答えるのは凡そ十歳位のハーフエルフの美少年。

 将来を期待させるような金髪に赤い目、白い肌で将来が楽しみな中性的な少年である。

 倉庫に有った石のように硬い黒パンの在庫の数を自分の姉貴分に答える。


「そう……後でシスターに補充を頼まないと」


 狼の肉を切り分け芋の皮を剥くサキ。

 料理は狼の肉のシチューだ。

 年齢の割りにその手つきはベテランの主婦そのものだ。

 いや必要に迫られて上手くなったのだ、彼女達は……。


「サキ姉。あれどうする?」

「家畜の餌ね……否か家畜がご飯なのかな?」

「サキ姉知らんよ……。シスターはあれさえなければ良い人なんだけど」


 クリスの指で指した机の上には先程のシスター特製の狼のシチューがあった。

 但しこれをシチューと呼んでいいか……。

 鍋から異臭を放つ紫色をしたスープに奇妙な唸り声を上げる具材。

 中から毒々しい色をした触手が振り回される。

 最早シチューと呼べない怪生物だ。

 シスターの悪癖の一つだ。

 料理が出来ないくせに作りたがり、怪生物を量産するのだ。


「ギシャアアアアアアアアッ!」


 ザシュッ、ボトン。


 唸りを上げ二人に襲い掛かろうとした怪生物シチューをサキは包丁で撃退する。


「クリス……なんで同じ材料で怪生物が出来るんだろうね?」

「知らんがな」


 血の繋がらない兄弟は揃って朝からため息を付いた。



 ◇

 

 孤児院の寝室。


「ほぎやあっ! ほぎやあっ!」


 僕はと言うとお腹がすいたのでご飯の催促を赤子らしく同居者にしていた。

 

「はーい。ママのオッパイですよ」


 と言いながら野良仕事から帰ってきたシスターが僕の目の前で自分の衣服を捲くる。

 その白い肌を晒し豊満な乳房を出そうとした。

 

 此れはDカップありますっ! 

 しかも美乳ですとおおおおおおっ!


 ベシッ。


「……駄目駄目シスター。下品な胸をしまって」


 シスターを叩いた箒とミルクの入った哺乳瓶を持った五歳位の幼女が仁王立ちしていた。

 漆黒の髪に右目を眼帯で覆い青い瞳、黄色い肌の幼女は無表情でシスターを見つめる。

 

「ええとサラちゃん。保護者の頭を箒で叩くのはどうかと思うんですが……」


 挙動不審気味にシスターは幼女から引く。


「保護者の前にいい大人はそんな事をしない。それにこの子のミルクは牛さんから貰ってる」

「えー母乳が良いと思いますが……」

「相手の居ない喪女が何を言う」


 その途端妙な悪寒が再びシスターから溢れ出す。


「今何と……」

「子供相手に威圧してる時点で喪女決定」

「ぐはっ! 相手を見つけて見返してやる」


 高速でその場を逃げ出すシスター。

 あっという間に見えなくなった。

 

「子供……」


 幼女に子供と駄目だしされるシスター。

 大丈夫ですよっ! シスター。

 あなたも亜人みたいですから将来お嫁さんの一人にしてあげますよっ!


「さてご飯の時間ですよ」


 あの……ご飯ですよね? 

 なんですその期待に満ちた目は…。


「ご飯の後はオムツ」

「そうやね、腐腐腐……」

「サキ姉さん。なんで此処にいるの?」

「えっ? 可愛い男の子のあられもない姿が見れると思ったから後の事クリスに任せて来た」

「……」

 

 突然現れたサキ姉さんに目を丸くするサラ。


「変態なの。この姉」

「いやあ」

「褒めてないの」

「まあ良いじゃないの、は~~いオムツの時間よ」

「肯定なの」


 いや……。

 まだ漏らしてないよ?

 なにその目は?

 怖いんですけど…。

 なんなのその手の動き。

 いや……ああああっ。


 

 ※暫くお待ちください……。



「ふう」

「知的好奇心を満たせた腐……」


 サラは良い汗を搔いたとばかりに顔を袖で拭った。

 サキはというといつの間にか掛けていた眼鏡を布で拭いていた。

 シクシク。(泣)

 もうお婿にいけない。


「想像以上に小さかった」

「そうやね」

 

 ほっといてっ!

 なんか泣きたくなりました……。



お読みいただき有難うございました。

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― 新着の感想 ―
500㎡は畑にするとかなり小さく感じますよ
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