第一話 転生。
評価をお願いします。
目が覚めた瞬間、僕は声を出そうとしたが上手くいかなかった。
「あ~~う」
変わりに出てきたのは舌足らずな幼児言葉。
周囲の様子は見えない。
瞼が開かないのだ。
その焦りで僕は他の五感を研ぎ澄まさせた。
ビシャ、ビシャ。
何か生暖かく湿ったような音が聞こえる。
ハア、ハア。
生臭い息を至近距離で嗅がされる。
何だろう?
何か嫌な予感がする…。
「××――!」
甲高い金属音がする。
なにかの肉をぶった切るような音がした後に周囲は静寂が訪れた。
「××?」
「×××!」
「×××?」
何だ?
何を言ってる?
せめて相手の顔を見て……。
何とか苦労して瞼を開ける。
すると目の前には銀髪の幼女が僕を覗き込んでいた。
「×××――! ――××××」
その幼女はなにかを叫びながら、近くにいた成人女性に呼びかける。
笑顔の似合うその赤い髪の成人女性は、ため息を付きながら、僕を覗き込むと同時に頭を撫でてくれた。
「××――××」
「××!」
「×××!」
僕を撫でてくれている女性の隣には、金髪の美少年がいる。
少年は年齢に似合わない奇妙な色気を放っていた。
僕は彼を見た瞬間ゾクリとした。
その少年は憮然とした態度を崩さず赤毛の女性に何かを喋る。
その言葉が切っ掛けなのか、二人は口論に発展した。
「××」
最初に僕を見つけた銀髪の幼女は、口論中の二人に無関心を装いつつ僕に笑いかけた。
その笑顔に僕は安心感を抱き微笑で答える。
僕の表情を見て幼女は嬉しそうに笑った。
どうやら無事にこの異世界で、赤子としての転生に成功したらしい。
という事はこの3人は僕の家族かな?
齢は離れているようだが、妙齢の赤毛の女性は僕の母親で金髪の少年は僕の父親なのか……。
とすると銀髪の幼女は僕のお姉さんに当たるんだと思うけど……。
3人供、全然似てないな。
でもなんで貴方達は鎧や剣を持ってるの?
しかも此処は家屋にしては物凄く暗いんだが?
◇
半月が過ぎた。
この3人は家族ではない事が分かった。
会話を今まで盗み聞きしてきたが、どうも彼らは『冒険者』と呼ばれる存在らしい。
元々この3人はダンジョンに潜っていたパーティー。
だが今回の探索の途中で僕をダンジョン奥で発見し、何故赤ん坊があそこに放置されていたのかを推測しあっていたんだ。
……あの神様……。
異世界転生と同時に僕を殺す気か?
次にあったら絶対文句の一つでも言ってやる。
まあいい。
今は彼女達が僕をどうするかで揉めている事が気になりそれどころではない。
討伐及び護衛など長期間家を空ける時は僕をどうするか?
家を空けないなら危険度の高い仕事は今後控えるのか?
或いは孤児院に預けるのか?
その過程で今まで自分の家と思っていたこの場所が、彼女らの拠点だったと言う事を知った。
えっ?
なんで赤ん坊の僕に彼女達の会話の内容が分かるかって?
まあ確かに赤ん坊がこんな会話の内容を理解できるって可笑しいですよね。
何故こんな短期間で言葉が理解出来るようになったかと言うと……。
いつの間にか、あの自称神から貰った特典が作用してたみたいだ。
暇を持て余し、何とかゲーム同様にステータス画面を見れないかと色々試してたら、偶然神様からの特典の説明を意識の奥底から見つけました。
神様からの特典。
その一。
『全てのスキルの習得速度が二倍』。
まあ妥当ですね。
その二。
『前世の知識を来世に引き継ぐ』。
妥当だよな。
その三。
『ジョブの変更の自由』。
妥当ですよね。
その四。
『世界の英知』。
これを利用して言葉を覚えました。
しかも魔道書も無しで魔術を覚えられます。
というかチートです。
悪用したら世界を滅ぼせます。
なんなんでしょうか。
このサルでも分かる広範囲戦略系虐殺魔術って……。
最後には『これを全て閲覧し理解したなら大人しく隠居しろ』。
……と、注意書きが書いてあるんだが……。
もしかして神様からの嫌がらせ?
その五。
『獲得した経験値を自由にジョブに分配』する事ができる。
妥当なんだよな……。
その六。
『ジョブの改造』。
妥当かどうかの境界に思えるがいいのかな?
その七。
『所持してるジョブの隠蔽』。
これは妥当だな。
最後に……。
『童貞を保ち続ける事と無病息災になる(笑)』
最後の特典は要らないよねっ!
しかも最後の『(笑)』ってなにっ!
あの神様は……。
いや今度から駄目神と呼んでやるっ!
◇
数日後。
僕はとある孤児院に預けられることになった。
その孤児院は魔族領の西の辺境の帰らずの森と呼ばれている場所がある。
その奥にあるククル村にあった。
此処は人族や亜人が一緒に暮らす村だ。
ここは多くの混血が住んでいた。
村と言うにはやや大きな集落だ。
僕達はその村の入口にいた。
最初は彼女達が僕を育てる気だったらしい。
だが流石に冒険者を続けながらでは無理だと判断したらしい。
そこで引き取れる資金を稼ぐ間、僕をこの孤児院に預ける事にしたらしい。
初対面なのになぜ、ここまで僕の面倒を見てくれるのはどうしてか?
そう思うだろう。
実は彼女らの会話を聞いた限り、善良で信頼の置けるパーティーだったので、世話になってる間、将来の為に出来る限り愛想を振りまいたのだ。
なるべく夜泣きはしない。
三人が近づいたら物凄く喜んだりしてね。
お陰様で三人共僕にデレデレです。
何の為にそんな事をするかって?
将来彼女達のパーティーに入れる様にするためです。
もしくは全員僕の嫁にする為。
二人共凄い美人ですから……。
幸い二人は亜人なので年齢の心配は要らないし……。
……でも残り一人のハーレムだったらどうしょう……。
考えるのはよそう……。
早く大きくなりたいなあ~~。
「では、すみません。シスターこの赤ん坊の事はお願い」
燃えるような赤い短髪に褐色の肌、漆黒の瞳を持つ女性は頭を下げて僕をシスターに差し出す。
装備してる使い込まれた革鎧に長剣は彼女が歴戦の戦士だと言うことを感じさせる。
しかも種族がダークエルフだという事は耳が尖ってるので直ぐに分かった。
「任せてください。セリス」
シスターは笑顔で僕を抱える。
「御嬢……いえシスター。此れは当分の間の養育費と寄付金ですね」
白銀の長髪を頭の後ろにリボンで縛った白い陶磁のような肌、青い瞳を持つ幼女は持っていた左手のお金の入った皮袋を差し出す。
幼女はフードの付いた足元まである長いローブを装備し右手には長い捩れた杖を持っていた。
幼女…小人族であり魔術師でもある彼女は自分の失言に口を杖で押さえる。
「いいですよミリア……。御嬢様でも」
「リリスお嬢様っ! あっ……すみません」
クスクスと笑いながらお金を受け取るリリス。
「後の事は頼んだぞ」
最後の金髪に白い肌、赤い瞳を持つ少年は無愛想に鼻を鳴らす。
早くこの場から離れたいという心境が感じられた。
自分の革鎧の肩に右手で持ったメイスを乗せて顔を逸らす。
「シシル。お嬢様に向かってっ!」
「ふん」
「シシルッ! あんたは~」
「いいのよ」
シシルの態度に激高する二人。
それを無視して目を瞑るシシル。
二人を宥めるリリス。
否。
シスターと呼ぶべきか……。
「あ~う、あばばばあばあきぁいきぁいっ!」
そのままでは喧嘩になると思った僕。
皆の気を逸らせようと三人に向けて笑顔を向け手を差し伸べる。
僕の言葉にピクリと反応する三人。
「カイルッ! セリスお姉ちゃんだよ」
「カイルちゃん、ミリア姉さんですよっ! ほらほらっ!」
セリスとミリアは笑顔で僕の関心を買おうと躍起になる。
それを尻目にシシルは覚めた眼であらぬ方向を見て退屈そうにしていた。
そんな風に見えるが此方の方を気にしてるのかチラチラと横目に見ている。
「シシル。無理をしなくてもいいから、カイルちゃんにお別れを言ったら?」
「うるせえ行き遅れ」
ピキッ。
その瞬間空気が凍った。
シシルも自分の失言に気付いたのか硬直する。
「……今なんて言ったかなあ~~筋肉ゴリラ」
にっこりと微笑むシスター。
このシスター盛大な猫を被ってたらしい。
「お嬢様、以前の口調に変わって……」
「シシル。早く謝ってっ!」
「うるさいっ! こいつが、あいつに騙されたから私達は無職になったんだぞ」
「私はまだ百九十歳よっ! 人間で言えばまだ十九歳だ」
あの……この世界では確か成人が十五歳だと思いますが……。
僕は誰にも聞こえない突込みをする。
ギシリッ。
その瞬間、世界が軋み悲鳴を上げた。
背筋を支配する正体不明意の悪寒を感じた。
まるでそれは全裸で極限地帯に放り込まれたような感覚だった。
震えが止まらない。
下半身が直ぐに濡れてしまう。
三人はと言うと怯えて居た。
顔はというと青くしたり土色にもなっていた。
「びやあああっ!」
僕は状況を変える為に一旦泣き叫ぶ。
恐らくこの今の状況はシスターが作ったはず。
だからシスターを何とか冷静にすれば元に戻るはずだ。
多分だが……。
恐怖で震えながらそう考え実行した。
「御免なさい。怒りに我を忘れる所だったわ。あらやだカイル君お漏らししてる?」
シスターは僕のオムツの感触を見て漏らしていることに気がついたらしい。
……というか豹変しすぎだろう。
まあムキになったら年齢を気にしてると思われたくないんだろう。
……手遅れなんだが…。
それはそれと同時に悪寒が急速に引いていく。
危機は去ったか……。
でもあれは何だったんだ?
ため息を付く。
「「すみません。リリスお嬢様っ!」」
「今はあなた達の上司では無いんですから、気にしないでください」
「ですが……」
「いいの」
「ごめんなさい、シシルが馬鹿な事を言って」
「おい」
「あのね。セリス気にしないで」
なぜか三人共シスターに喋りながらジリジリと離れてる。
なにやってるの?
「所で、なんでそんなに離れてるの?」
「えっ! いやその……」
「なんでもないんだよ?」
「気の所為だ」
「あうあう」
僕は三人に手を伸ばし不安そうな声を出す。
「三人共?」
「くっ!」
「あのね気のせいなの」
「許して下さいカイル」
脱兎のごとく逃げ出す三人。
逃げやがったっ!
いや気持ちは分かる。
だけどせめて綺麗に別れてよっ!
「びええええええっ!」
その姿を見て僕は号泣した。
悲しくなんかないやいっ!
目にゴミが入っただけだいっ!
「なるほど……随分懐かれたみたいね」
こうして三人と僕は別れた。
早く帰って来てよ僕の嫁候補達……。
というか見捨てないでね。
読んでいただき有難うございました。




