第十八話 旅。四日目
本日二話目
茂みから現れた山賊達。
否。
そう呼んで良いのかどうか……。
顔は正体を隠すために布で目以外を隠している。
ボロボロの毛皮を身に纏いその手にはクロスボウを持っていた。
その数三人。
その三人を守るように左手に鍋の蓋を盾の代わりに持ち、鍬や鎌で武装したを者達が四人居た。
「皆さん。殺さないで下さい」
「わかった【炎の釘】起動なの」
「腐っ……【氷結】起動」
「せいっ! がな」
「はっ」
僕はサラ、サキ姉さん、クリス、シスターに素早く指示を出す。
ドンっ! ザシッ! ビュッ! ヒュンッ!
サラは【炎の釘】を起動。
サキ姉さんは【氷結】を起動させる。
クリスは剣で地面にある小石を弾き即席の投石攻撃にする。
シスターは鍬を投げつける。
僕を含め残りの人化したドラゴン達やシャルはそのまま待機。
……これ以上やると殺してしまう可能性があるしね。
え?
だったら相手を攻撃するのではなく状態異常の魔術を使え?
無理です。
その指示を出す前にサラとサキ姉さんの詠唱は終ってたしね。
ザシッ! キンッ! ズゴンッ! ドオンッ!
「「「「「「「ぎいやあああああああっ!」」」」」」」
山賊らしき人達は悲鳴を上げ吹き飛んだ。
ピクピクピク。
僕は痙攣してる山賊らしき全員の近くに行き、一人一人脈を計る。
「うん。生きてる」
そして僕は彼らを縄で縛るため馬車にローブを取りに行った。
◇
「さて、話を聞かせて貰いましょうか?」
僕は縄でグルグル巻きにしている彼ら七人を見下ろし話しかけた。
既に顔を覆っていた布は剥がしている。
そこに居たのは八十代のの白髪の混じった老人達だった。
髪は青。その肌色は長い期間、陽に焼けているのか浅黒い。
この日焼けの特徴は農作業従事者のそれである。
おそらく間違いなく農民だろう。
「……」
「くっ……殺せ」
「そうだな……どうせこのままでは冬を越せないんだ」
「せめて苦しまずに殺してくれ」
「生きてても孫達の負担になるぐらいなら死んだ方がましだ」
「糞っ……」
「せめて最後に孫達の顔を見たかったなあ……」
老人達はそんな悲観的な事を各々喋る。
『くっ……殺せ』は女騎士の定番台詞なんだが。
「そんな馬鹿な事を言うなっ! 本気にする奴がいるんだからっ!」
「「「「「「「へっ?」」」」」」」
僕の慌てる声に唖然とする老人達。
「それではお言葉に甘えまして」
その言葉を真に受けたシスターは鍬を大きく振りかぶる。
「「「「「「「ひっ!」」」」」」」
顔を真っ青にする老人達。
あ~~やっぱり死にたく無いみたいだね。
「サラ! 止めてくださいっ!」
「駄目駄目シスター待つの」
ゴスッ!
僕の要望に従いサラはシスターの頭を光り輝く木の枝で叩く。
スコーン。
吹っ飛ぶシスター。
近くの大木に激突しシスターは力なく落ちる。
大丈夫か?
かなり血が出てるんだが……。
……うん。
やり過ぎですサラ。
大丈夫かなシスター。
「サラちゃん、痛いの」
ムクリと立ち上がるシスター。
頭からダラダラ血が流れているんですけど……。
「「「「「「「ひいいいいいっ! 生きてる」」」」」」」
老人達七人はその壮絶な光景に悲鳴を上げる。
まあ普通はそんな反応だよな……。
五メートルぐらい飛んでたし。
「僕が頼んでててアレですけどやり過ぎでは? サラ」
「平気なの。傷物になっても駄目駄目シスターは、どうせカイル以外に嫁の貰い手がいないし」
たしなめる僕の言葉に肩を竦め辛辣な言葉を吐くサラ。
「サラちゃん酷っ! うえええええええええええんっ!」
泣きながらその場を逃げ出すシスター。
「事実だと思うんだけどなの」
「否……流石にあれは酷いと思う」
サラのあんまりの言い方に僕は突っ込む。
僕の言葉に頷くクリス、サキ姉さん、アカ、クレナイ、ルージュ、シンク、エン、シャル。
「「「「「「「……」」」」」」」
七人の老人達は呆気に取られる。
◇
「数々の非礼お許しください」
「「「「「「申しわけありませんでした」」」」」」
僕達の前で縄を解かれ土下座する七人の老人達。
その顔は青ざめてました。
戻ってきたシスターを見て震えていたのは気のせいと思いたい。
うん。
気のせいだよね。(冷や汗)
相手にしてみたら、迂闊な台詞をこぼしただけで、本当に殺されそうになるとは思わなかっただろうし……。
「それでどうして農民であるあなた方が、こんな山賊みたいなマネをしたんですか?」
「なっ! なぜ我々が農民だと分かったんですかっ!」
「皆さんの手のタコを見れば分かりますよ」
僕は老人の手を指差す。
「それは……」
「くう」
「おい、どうする?」
「どうすると言っても……」
「なあ」
「うん」
僕の質問に答えにくそうな七人の老人達。
その時だ。
「お爺ちゃん達を苛めるなっ!」
「そうだそうだっ!」
「ふえええーん」
「ヒック、ヒック」
「……」
「う~~~~」
「うえええええん」
そこへ現れる粗末な服を着た七人の十代前半の少女達。
その全ての少女達は老人達と同じ青い髪を持ち、風貌は老人達に似ていた。
ひょっとして……。
老人達が言っていた孫ってのはこの子達か?
……ああ面倒な事になった。
「「「「「「「お前達っ!」」」」」」
「「「「「「「お爺ちゃん!」」」」」」
少女達を抱きしめ泣き出す七人の老人達。
どうしょう。
なんか僕達の方が悪人みたいだ。
未遂とは言え僕達が襲われたんだよな……。
頭が痛い。
僕は途方に暮れた。
◇
「う~ん」
その村は帝都のグルス王家の所有する領土の端の方にあった。
村の名はココロ。
人口は二十五人。
温泉として使うには適さない高温の熱湯が村の彼方此方から湧き出ている村だ。
よって温泉近くには不用意に近づいて火傷しないよう柵がなされている。
目に見える範囲で畑を覗うと農作物の量が人口に対して少ないのが分かる。
その為、日々の満足な食事が出来てない事が分かる。
しかもその作物もよく見れば萎れている事が分かる。
管理が行き届いてないのだ。
理由は二つ。
最初に高温の天然温泉が彼方此方から湧いてる為、充分な真水を確保できない。
他にも農作業できる者は老人と僅かな若者しかいないので充分な管理がなされていないのだ。
「なんで若い人があまりこの村には居ないんですか?」
「それが五年前に法王国の奴隷狩りにあってなあ~~。最近ではこの子達の姉や兄達も拉致されたんです」
拉致ねえ……。
「あのクロスボウは結構良い物ですが、どなたの物ですか?」
「あれは拉致されたこの子の姉が持っていた物です」
「ふうん~~あれは良い物ですよ。貴方達の生活の足しになるなら後で僕が買い取りましょうか?」
「い、いいえ結構です。狩りをして飢えを凌ぐのに今は使ってますから」
「おや残念。狩りの獲物にされかけた僕達としては不快な話ですが」
「……」
僕の言葉に老人達の笑顔が固まる。
「ブラックジョークですよ。笑ってください」
にっこり笑う僕。
「へっ……」
「そ……そうですか」
「ふふ」
「なかなか」
「ははっ……」
「はあ」
「はう」
顔を引きつらせる老人達。
それにしても良いクロスボウですね。
素人にも扱えるクロスボウというのが特に。
……さて。
僕は通信用のペンダントにシャルに見せるように触れる。
『シャル』
『はい。会長お察しの通り捨て値で売っても単品で金貨二十枚する代物です。この村で纏めて揃えられる代物ではないです』
さりげなく口元を隠しながらシャルと会話をする。
ふ~ん。
僕は襲撃してきた老人の一人に話を聞く事にした。
驚くべき事に、僕達を襲ってきた一人は村長だったのだ。
というか僕がこのメンバーのリーダーみたいになってんだが……。
良いんだろうか?
それはそうと……。
……村長が率先して悪事を行なってどうする。
「国は何もしてくれないんですか?」
「法王国に交渉しているみたいですが難航しているみたいです」
あの国は亜人だけではなく他国の人間も拉致してるのか……。
やはり滅ぼした方が良かったかな……。
でも穏健派や良い人もいたし……。
「税金や援助は?」
「一応ここ数年は人頭税は免除してもらってます。最近では救済金をいただきました」
ああ。
僕が出したお金は被害を受けた村々の救済金に当ててるのか。
「確かこの間の戦いで違法に奴隷にされていた人達は戻されてると聞いてますが?」
「ここの住人はまだ……」
「そうですか……」
話してる間に近寄って来ていた他の老人達と達を子供達を共に追い返した。
ここに残るのは僕達と村長とその孫娘のセリスのみ。
「むうう~」
村長の孫娘が僕達を睨んでる。
大好きなお爺ちゃんを守ってるつもりみたいだ。
「これ、セリス辞めなさい。失礼ですよ」
「だって……」
「いいから……それに私達はこの人達に大変に無礼な事をしたんだ、あちらに行ってなさい」
「うん」
「腐っ……お姉ちゃんと向こうで遊びましょう」
「うん」
そうして向こうの部屋にサキ姉さんに連れられトボトボと歩いていくセリス。
サキ姉さんショタだけど凄く面倒見がいいんだよな。
本当……ショタでなければ。
「すみません」
「いえ。それはそうと何であんな馬鹿な事をしたんです? 下手をすればあの子達の家族が失われるでしょう」
「それは……借金があるんです」
「借金?」
「二年前、村で流行り病が流行しまして村の者を治す為に高額な薬を買ったのですが、その返済に思い余って、つい……」
「そうですか……」
「はい」
さて……。
「ではこの辺で僕達はお暇とさせていただきましょうか」
「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」
その場に居た全員が驚愕の声を上げる。
「いやいやカイル。ここは普通は可哀想だからこの村を助けようという感じだがな」
「そうなの」
「うん」
「会長っ!」
「「「「「御主人様っ!」」」」」
クリス、サラ、シスターにシャルや五人の人化したドラゴン達は僕に突っ込みを入れる。
うん。
村長。
なんであんたも驚いてる。
あんたら加害者だろ。
助けてくれると思ったのか?
カラルさんの治めてる国の人だから助けてあげたいけどねえ……。
因み現剣王は国の防衛力として存在しカラルさんや代行に臣下で治めてるらしい。
結婚する前は違ったらしいが。
国が傾く程経済を悪化させた現剣王って……。
脳筋の剣王に国を治められると誰が思ったんだろうか?
「はあ……皆は分かってないな」
「なにががな」
「いい~~僕達が襲われたのはククル商会と分かる馬車を使ってたからだよ」
「それがな?」
「よしんば襲撃に失敗しても情に訴えれば大手の商会だから助けてくれると思ったんだよ。この人は」
「どうしてそこまで分かるのがな?」
「孫達が出てくるタイミングが良すぎたでしょう」
「それはがな……」
「もしもの時を考えて控えさせてたんですよ」
僕の言葉に皆は村長を見る。
村長はは俯き体を震わせた。
それが僕が言ってる事が正しいと言う事を肯定していた。
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
「確かにその通りです申し訳ない」
村長は土下座して詫びる。
「だが……村を救うにはもうこうするしか無かったんです」
「言い訳は聞きたくないです。皆行きましょう」
「頼む! 私達を助けてくれっ! でなければ孫達を奴隷として売るしかなくなるんだっ!」
「なら最初にそう言えば良かったんです。僕達が助けるかどうかは兎も角、まずは心を割った話し合いからでしょう?」
「では……」
「助けるわけないでしょう。あなた方は初手から僕達を襲ってきたんですよ? よって信用できません」
「だがそれは孫達を助ける為に……」
「理由があれば他人を犠牲にしてもかまわないと? 貴方達のしてることは法王国の連中と変わらないじゃないですか」
僕の言葉に項垂れる村長。
「あのさ。助けてあげても良いんじゃない?」
見かねたシスターが僕にそう提案した。
「シスター。襲われたのが僕達だから良かったんですよ。でなければ罪の無い人達が犠牲になってたんだし」
「でも……」
「彼らは頼み方を間違えたんです。だから自業自得です」
僕の言葉に俯く村長。
すみません。
助けてあげたいんですがケジメですから。
襲った相手を流石にねえ。
バタン。
その時奥の部屋からセリスが現れた。
「カイル君っ! 将来君のお嫁の一人になるから村を救ってっ!」
「はい! 喜んでやらせていただきますっ!」
「「「「「「「「「はいいいいいいいっ!」」」」」」」」」
脊髄反射でセリスの頼みを聞く僕。
村長を含めた全員が僕の返答に驚く。
ドヤ顔のサキ姉さんが歩いてくる。
貴方ですか? 入れ知恵をしたのは。
ナイスです。
僕は親指を立てた。
サキ姉さんも親指を立てる。
ガシッ!
頭を掴まれる僕。
恐る恐る僕の頭を掴む者を見るとクリスだった。
「そ・れ・が・正しい頼み方かいがなっ!」
ギリギリ。
「いや~~あだだだだだあだっ嫉妬ですか~~嬉しいなあ」
「嫁を増やすのは良いが時と場合を考えて自重しろおおおおおおおおおおおっ!」
「増やしても良いんだあああああぁ! いだああああああああああああああああああぁっ!」
こうして僕は折檻をされた。
なお、やはりセリスに入れ知恵したのはサキ姉さんでした。
後で確認しました。
ナイスです。
でもクリスの折檻の代償がきつかった……。
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