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第十三話 帰らずの森

本日二話目

 ――バサッ!

 ――バサッ!

 ――バサッ!

 ――バサッ!

 ――バサッ!


 何処までも見渡せる青い空。


 輝く太陽。

 

 白い雲。





 大きく翼を広げたドラゴン達。

 




 僕達はとドラゴン化したエン達五人。


……いや、ドラゴンなら五人ではなく五体か。


 彼女達に乗りククル村の上空まで高度を上げる為に飛んだ。

 低空飛行だと襲撃を受ける可能性があるからね。

 高度を取るのは空中戦の基本だ。


 ……多分。


「ふう……風が気持ちいい」


 僕の前にアカに乗っているシスターが呟く。


「まだ二度目だけど空は気持ち良いの」


 僕の右隣にいるルージュに乗ったサラがそう呟いた。


「寒いがなっ!」


 僕の後ろに居るクリスは寒さの余り震えていた。

 くっ付かないで下さい。

 柔らかい物が背中に当たるので。

 因みに乗ってるドラゴンはエンです。


「だから防寒具を着なさいといったのに~~」

「地上ではあまり寒くなかったがな」

「風が体温を奪うんですよ」

「うう~~知らなかったがな」

「はあ……ほら焼いた石を布で包んだ物です。これで暖を取って下さい」


 そう言って僕は使い捨てカイロ代わりの石を渡す。


「ううう~~済まないがな。愛してるがな」


 などと言いつつ僕から受け取った石を懐に入れ再び抱きつく。


 やめてっ!


 甘い香りがするっ!


「いつもは見れないクリスのデレは可愛いわね」

「いつもはツンなクリスがデレたからなの」

「お前達なあああ~~がな」


 サラとシスターは嬉々としてクリスを弄る。

 それに反発するクリス。

 

 しかしクリスは寒さの余りに震える。


 なおこの場にサキは居ない。


 出番は僕達が帰らずの森を越えて地上に降りてからだ。

 僕に付けた【マーカー】の位置に馬車を連れて【広範囲転移】で転移して貰うためにだ。

 

 その時の合図は通信用のマジックアイテムで連絡する手はずになってる。


 つまり、僕達が森の外に降りるまではサキはククル村に居残りだ。


 なおシャルも今回の旅に一緒について来て貰う事になった。

 商人としての力を借りるかもしれないからだ。

 ……まあ今は二人してククル村で待機状態だけど。


「うう~寒いがな」


 ギュッ。

 

 抱きしめられる僕。

 柔らかいのっ!

 良い香りなのっ!

 離れてっ!


 いやああああああああっ!

 

 僕は赤面しつつ心の中で悲鳴を上げた。


 これというのもクリスが気功師以外の魔術の才能を持って無いのが原因だ。

 

 竜騎士のジョブを持ってるのは現在は三人。

 サラとシスターと僕だ。

 但し最初は二人のみ、保持しているという事になっていた。

 僕が最初は竜騎士のジョブを所有してる事を宣言してなかったからだ。

 他にははキキとキルが持ってたが割愛する。


 本来なら身内に所有ジョブを明かす愚を犯すのは避けたかった。


 だけど竜騎士が二人の編成は不味い。

 せめて三人の編成でないと……。


 前世のゲーム中にそれで何度竜から振り落とされたか……。

 

 いかんな……。

 前世の思考に引きづられる。


 前回も、うっかりサキ姉さんにレベルの事を聞いたしなあ……。

 ゲームではレベルが上がれば魔術が使えるからね。


 癖で間違えたし……。


 え?

 

 孤児院のメンバーには僕のジョブの構成は、すでにばれてるのではないかって?

 ばれませんが?


 何か?


 ジョブを変更する時は唯そうする言えば良いだけだし。

 別に変更したいジョブの名称を教える必要は無い。

 習得したジョブは本人しか分からないからね。

 でないと情報が漏れ放題だし。


 話が逸れた。


 こうして僕は竜騎士のジョブを三レベルにした。

 戦闘は難しいけど守りに特化すれば時間を稼げる位には良いだろう。

 竜に乗るなら二人編成より三人編成の方がいいだろう。

 それはさておき。


「クリス~~もう少し離れてよう」

「嫌だがなっ! 寒いし竜から落ちたくないっ!」


 まあ~~竜騎士専用の鞍を付けても落ちる可能性もあるからね。

 でも……くっつき過ぎ。


「あらあら、熱いわね」

「そうなの。クリスってば普段はツンツンしてるのにデレてるの」


 ツンデレではないと思う。


「違うがなっ!」

「貴方達は……まさかこれが見たくて、僕の後ろにクリスを乗せたんですか……」

「「そう」」


 シスターとサラは良い笑顔だった。


「うがあああああっ! がなっ!」

「まあまあ……」

 

 僕はクリスを宥める。


『腐っ……居残りの私に対する当て付け? なら受けてたつけど?』


 通信用のマジックアイテムから寒気のする声がした。

 

 サキ姉さんである。


 そう言えばマジックアイテムの機能で会話は筒抜けでした。


 忘れてました。


「「「「すみませんでしたっ!」」」」


 僕達の謝罪が重なった瞬間だった。


 ……味方に打ち落とされたくないからね。



 気を取り直して僕は目的の帰らずの森の外れに目をやる。

 まあ~~今まで高度を取る為に上を向いてたからね。





 その時僕はそれ(・・)を見た。





「ふえっ?」



 視界に広がるククル村とそれを取り囲む帰らずの森。

 それはいい……。


 肝心なのは上から見たククル村だ。 

 いやそれは正確ではない。


 上空から見た帰らずの森の中央にあるククル村。

 だが僕はその見下ろした景色に絶句した。


「なんなんだ……これは?」


 今までは深い森の奥に村があると思っていた。

 だが上空から村と森を見てみると、それが違うという事が分かる。


 帰らずの森。


 否。

 

 森とは言えない。

 

 それは本来なら山と言うべき(・・・・・・)場所だった。

 

  帰らずの森(・・・・・)という場所は。

 

 元々は山であった所が、何かの戦いがあって山頂が何度も削られ平らになったのだ。

 そうして削れて平地になった中央が村になってるのだ。


 残された山の麓はそのまま。

 それが森のように見えるのだ。

 

 ……今まで村を出るとき下り坂や崖が異常なまでに多いと思っていたのが……。

 

 山の麓だからだったんだ……。

 

 ……もしも山が今でもあるとしたら其の広さは国一つが簡単に入るぐらいだぞ。


 しかも僕の勘だと、山の裾野と高さは前世でいう富士山の二倍以上ぐらいかな。

 なにがあったんだ?


「驚いてるようね」


 シスターが笑いながら僕に話してくる。


「シスター。ひょっとして帰らずの森は昔は山だったんですか?」

「そうよ此処では過去に四度……否、三度戦いがあったの」

「三度? たったそれだけの回数で地形が変わるほどの戦いがあったんですか……で何処の国が戦ったんですか?」


 シスターに僕は疑問をぶつける。


「国同士の戦いではないの」

「国同士ではない?」


 だが代わりに答えたのはサラだった。


「私とサラ達の四天王が法王国の召喚した化け物と戦ったの」

「そう私達は最初は百年前、次は五十年前、最後は十年前なの、まあ四年前は不発に終ったみたいなので省くけど……」


 シスター、サラの順で僕に話す。


 四年前?

 

 四年前は僕が転生した年だよね……。

 

 まさかね……。


 まあいいや。


「十年前というとサラ以外の四天王が死んだというあれですか?」

「そうなの。お陰で忠臣を失った駄目駄目シスターは責任を感じて、魔王の座を妹に譲り渡したの」

「そして引退した私は此処に移り住んだというわけ」

「最初の戦いから百年……長かったの」

「でも何で此処に住むようになったんですか?」

「……此処はあの化け物を封印した場所なの。私達は監視の意味も兼ねて住んでいるの」

「封印? 化け物は死んだはずでは……」


「頭を斬りおとし心臓を破壊、骨の髄まで灰にしたのに再生する化け物を死んだとは言わないの」


 その言葉にぞっとした。

 僕はそんな所の上に住んでるのか。


「でもそんな危険な場所にシスター達は分かりますが、他の人達はなぜ住んでるんですか?」

「まあ、駄目駄目シスターの人徳なの。少しでもお役に立ちたいという王族や貴族が次々と集まり……」

「まって」

「うん?」

「ええっと……王族や貴族がそんなにククル村に居るの?」

「え? 村の殆どの者が王族や貴族だよ」

「はい?」

「王族や貴族クラスの戦闘力が無いと万が一の時抑えられないしね」


 ……多いぞ王族と貴族。


「というか王族ってのは、戦闘力が高くないと駄目なの?」

「王族に限らず貴族もよ」

「国や領地を治めるのが仕事と思ってました」

「うん? ああ……カイル勘違いしてるの」

「ふえ?」


 どゆ事?


「人間族は王の下に貴族がいて領地を統治してる此れが貴族制度。此処まではいい?」

「うん」

「具体的に貴族のランクは大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士かな」

「う……うん」

「だけど私達……亜人の場合は生まれ持った血統もそうだけど、それに見合った戦闘力も最低限持ってないと、王族もしくは貴族の一員と認められないの」

「はい?」


 なんか行き成り話が変な方に飛んだぞ?


「そうなの。具体的に言えば下位から上位までのジョブのレベルの合わせたのが……え~と」


 そう言って具体的に教えてくれた。


 たとえばレベルが……。


 十九以下は無し。

 二十以上は騎士。

 三十以上は準男爵。

 四十以上は男爵。

 五十以上は子爵。

 六十以上は伯爵。

 五十以上は侯爵。

 六十以上は公爵。

 七十以上は大公。

 八十以上は王。


つまり此れぐらいのレベルの高さが無いと、貴族や王族を名乗れないのだそうだ。

 

「まあ、戦闘力があっても生まれ持った血筋が無い者は、王族とも貴族とも名乗れないわね。例外はあるけど……」


 それは当然でしょうが……。


「戦闘力の有無は、統治してる領地や国を守る為にはどうしても必要な事なの」

「はあ……」

「とは言え、中には統治者としての能力は高いけど、戦闘の才能が無い者がどうしても出てくるの」

「そういう時はどうするんですか?」

「戦闘能力の高い者を婿や嫁に取ったり、あるいは養子にするの」

「相手は平民でも良いんですか?」

「うん。でも相手は大抵は暫くしたら平民の生活を望むようになるの」

「なんで?」

「住む世界が違うから」


 あ~なんか分かるかも。

 肩のこる事なんてしたくないしね……。


「そういった場合は、国や領地に危険が迫った時以外は、自由にしていいことになったの」

「それが此処に居る人達なのですか」

「そう」

「まあ、一度縁を作れば貴族や王族のままでいられるので、悪質な所は結婚して即日に離婚というのもあるけどね」

「なんですか……その夢も希望も無い話は……」


 僕は呆れる。


「因みに、この間カイルが帝都の王族に婚姻を勧められたのは此方の可能性があるわね。用が無くなったら即、離婚なの」

「本当に夢も希望もないねっ!」


 録でも無い事言うね。サラは。


「そして後は潜在的に戦闘力の高い者とかが住み着いたりね。カイルが此れに当たるの」


 ……嘘くさいんだけど。

 他の人は兎も角、僕は弱いだろう。


「後は様々な理由で居ついたりかな」


 ああ……。

 元冒険者とか違法奴隷達ですね。


「そう言えば気になっていたんですけど話を聞いてたら、サラの年齢が合わない様な気がするんですけど……」

「……」

「少なくとも百歳を超えてるような……」



 その時空気が凍った。



「カイル」

「ふえ?」

「私は女性の年齢を詮索するような子に育てた覚えはないの」

「いやでも百年前の戦いに参加してるんですよね……」

「ほう?」


 シスターにやや劣るが強大な魔力がサラから開放される。



 ガクガク。

 ブルブルブルブル。


 

 恐怖に僕は屈した。

 


「すみませんでしたっ!」

「よろしい」


 サラの魔力放出が収まる。

 ……怖かった。(ビクビク)


「私はカイルより少し年上。それでいいじゃない。【転生】の魔術で肉体的にはそうなんだから」

「ご免なさい」


 女に年齢の事は禁句だ。


「はあ……それはそうとシスター。ここで戦った化け物ってなんだったんですか?」

「それは……」



「「「「グオアッ!」」」」 


 ――バサッ!

 ――バサッ!

 ――バサッ!

 ――バサッ!


「「「いやあああああっ!」」」



 化け物の事を聞く前に、突然シスター以外が乗るドラゴン達は急速に降下していく。

 

 これは竜騎士のジョブのレベルが低い弊害だ。

 竜騎士のジョブのレベルが低いとドラゴン達は時々独自の判断を下すことが多い。

 それがシスターを除く全てのドラゴンに同時に起こった。




「ああ~~行っちゃった」

 

 残されたシスターは溜息を付く。


「……まあいいか……それに人間であるカイルにとって化け物の正体なんか聞かせたくないし」


 シスターは苦々しげに呟く。


「法王国の奴らはなんであんな化け物を救世主なんて崇めてるんだろうね……」


 ――バサッ!


「グウウウッ!」


 最後に残ったシスターも自分のドラゴンに降下するよう手綱を引く。

















「……勇者ばけものを……」


 最後に呟いたシスターの言葉は誰にも届かなかった。

 こうして短い空の旅は終る。






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