第十一話 出発前の事
遅くなりました。
他の方に相談した結果この作品は終らせるのは延期させて貰います。
更に数日後の孤児院の食堂。
それは鍛錬後の事。
お昼御飯を食べてた時の事だ。
「ふう――……」
似顔絵を描いていた僕は疲れたので手を止めた。
汗が気持ち悪いなあ~~。
「うん?」
そのまま食堂の奥を見る僕。
奥ではシスターが戸棚から皿を取り出していた。
「お肉~~♪」
僕の正面の机の右に居るサラが機嫌よくハンバーグを乗せていた。
肉はオークとミノタウロスの合挽きです。
「駄目駄目。シスター喋ってないで皿を出す」
「は~~い」
「後は料理に手を付けないでなの。怪生物になるから」
「サラちゃん酷っ!」
「黙って手を動かしがな」
「は~~い」
机の左に居るクリスはというと、ため息を付きつつ白パンを皿に載せていた。
「野菜なの腐腐~~♪」
クリスの向こう側に居るのはサキ姉さんだ。
野菜をハンバーグの横に乗せるサキ姉さん。
なおサキ姉さんのだけハンバーグよりも野菜が多い。
意外ではあるが、サキ姉さんは肉より野菜の方が好きなのだ。
だから機嫌がいいのだ。
肉食系と思ったんだが……。
菜食系だったんだ~~。
別の意味で肉食系だけどね……。
その主な被害者は僕だが。
泣いてもいいかな……。(泣く)
「「「「「はう……」」」」」
幼女と化したドラゴン達はお絵描きをしていた手を止める。
料理が盛られる光景を見て幸せそうにしていた。
最近この五匹は……。
あれ?
今は五人か……。
すっかり口が肥えて亜人状態になっている方が多い。
もはや野生に戻れないな……。
あっ――……。
お絵描きを再開した。
五人は亜人になって日が浅い。
なので物を持つのが苦手なのだ。
それが原因で、家事手伝いはさせてない。
具体的な例。
金属性のスプーンを握りつぶし球にしました。
皿は粉にしました。
なので物を壊さない訓練の為、お絵描きを練習させています。
まず鉄のナイフを筆記用具にし木の板に描かせる。
これで力加減を慣れさせてます。
これを潰さずに使えるようになったら次の段階に進めます。
次は羊皮紙と羽ペンを使わせる予定です。
これを壊さずに出来ればば良いんですが……。
よって今は御飯は手づかみで食べてもらってる。
まあ~~力加減に慣れつつあるので、将来は何とかなるだろう。
僕は再び作業に戻る事にした。
薄い紙にインクを付けた筆で人相書きを描いていく。
出来るだけ特徴を掴んで。
作業してる僕の隣には彫刻刀と紙の束が積まれてる。
「「「「「ほえ~~」」」」」
五人の幼女は後ろから、僕の作業を興味深そうに覗き見る。
うん。
ものの見事に馴染んでるなこの五人。
僕は、御飯のお手伝いしないのかってっ?
今日の御飯を作ったのは僕です。
なので今回は御手伝いは無しです。
「あら似顔絵?」
「ふえ? ああ~~この間シスターを騙した詐欺師の人相書きです」
皿を出し終えたシスターが話しかけてくる。
「そんなのをどうするの?」
「え~~とですね~~生死を問わず賞金を付けて捜させます。賞金稼ぎに」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
その言葉に部屋に居た全員が引いていた。
ドン引きです。
ドラゴンの幼女達も。
その間に僕は先程言った言葉を人相書きの横に書く。
「如何しました?」
「生死を問わずって書いているけど……カイル……」
「どうしました?」
「四才児が書いていい言葉ではない」
「でもっ! シスターの善意を踏みにじったんですよっ!」
「それはそうだが……」
「後は――……僕のシスターに色目を使った男は万死に値するっ!」
「それが本音かいがな……」
なぜだろう? 呆れられた。
解せぬ。
僕は書き終わった似顔絵を裏返しにし木の板に貼る。
木の板に貼りついた紙に描かれた絵と文字を避けるよう彫刻刀で彫る。
終ったらその板にインクを筆で塗る。
その上に紙を乗せ汚さないよう擦る。
紙を剥がして乾燥させる。
これで完成。
「出来ました」
「「「「「「「「「お――……」」」」」」」」」
「でも~~そんな木の板を作る必要は無いんじゃない?」
「そう思うでしょう?」
僕は再びインクを塗り紙を乗せ擦る。
そうすると似顔絵と文字が描かれた先程と同じ物が出来る。
この工程を繰り返す事で大量に同じ印刷物が出来る。
ガリ版印刷である。
「こうすれば同じ物が大量に出来ます」
「腐え~~」
「彫るのに手間と時間は掛かりますが、本などを作るのに最適なんです。この方法は」
「お~~」
翌日、冒険者ギルドや商人ギルドに張り出しました。
これで時間は掛かるが捕まえたも同然。
僕の将来のお嫁さんに手を出し、騙したんだから当然だよね。
「時々カイルが村で最強ではないかと思うんだがな……」
僕の行動力に呆れるクリス。
「ふえ? 僕は村で一番弱いでしょう?」
「自覚無しか」
クリスの言葉に頭を捻る僕。
後日この製本技術で様々な本を作り売りさばいた所、大儲けしました。
但し、今まで写本制作で生活していた者達は困窮する羽目になりましたが。
「ところで写本で生計を立ててる人達に謝る気はあるがな?」
ビュッ。
僕が逃げる音。
ガシッ。
逃さず僕をクリスが捕まえる音。
クリスから呼び出された僕。
説教されそうで速攻で逃げだしたのだが……。
速攻で捕まってしまった。
それはもう~~ガッチリと。
頭部を固定されました。
片手で。
嘘だろうううううううっ!
レベル一とはいえ竜兵士の速度で逃げられないなんてっ!
全ジョブ中最速を誇るのにいいいっ!
※ 単純なレベル差です。
ギリギリッ。
頭の軋む音がする。
「ちゃんと彼らにも仕事を与えますので! お慈悲をおおおおおおおおおおおっ!」
僕は頭の痛みを堪えつつクリスに助命を訴える。
「当たり前だがなっ! 毎回自重しろと言うとろうがああああああっ!」
「いだああああああああああっ!」
結局、写本で生計を立てていた彼らのために、製本工場を立ち上げた僕。
そこで彼らに仕事を与えました。
別にクリスに折檻されたからではないからね。(泣く)
仕方なく工場を建てたのでは無いからね。(号泣)
……あれは痛かった……。(涙目)
因みにサキ姉さんはというと、その工場の顧客第一号になりました。
内容は異世界初の薄い本を作りました。
異世界初の印刷物。
……ショタの本……。
すんげえええええ~~嫌な物がある。
まあBLでなくて良かったが……。
でもショタの主人公を僕にするのは辞めて欲しかった。
その所為でクリスの折檻が酷くて泣きました……。
……それはそうと時間が経ってから括版印刷も普及させるか……。
◇
そんなアホな事をやって数日した時の事です。
いつもの様に皆で御飯を食べてた時の事。
「御主人様の御飯は最高ですっ! 世界一です」
「ZZZ~」
「ふ~~ふ~~」
「うまうま」
「はむはむ」
その日も亜人となった五人のドラゴン達がおいしそうに御飯を食べていた。
「よく食べるがな~~この五匹……否、五人か?」
「どちらでもいいと思いますけど、どんどん食べてね」
「腐っ……シスターてばこの五人を太らせて食べる気?」
「ジュル」
サキ姉さんの言葉にシスターは口元を拭く。
「「「「「ヒッ!」」」」」
怯える五人。
シスターの『食べてね』発言。
それをサキ姉さんが突っ込んで、シスターが『涎』で悪乗りしたのがいけなかった。
震える五人。
食べかけの御飯をそのままにして僕の後ろに隠れる。
「「「「シスター」」」」
僕、サラ、サキ姉さん、クリスの非難の声が上がる。
「や~~ね~~冗談よ」
僕達の抗議にシスターは手を振る。
……だが僕は見逃さなかった。
いまだにシスターの口元から涎が出てることを。
……駄目だこの人……。
トントン。
外から呼び鈴代わりの木の板を叩く音がした。
「ちわーす。会長居ますか?」
そこへ孤児院の外から呼びかける女性の声がした。
◇
「いやあ~~すみませんなあ~~紅茶まで出して頂いて」
そう言って僕達に挨拶をしたのはシャル。
彼女はククル商会の副会長件設立者にして経営者だ。
資金やアイデアこそ僕が出したが、彼女こそ本当の商会のトップと言って良い。
まあ僕を慕って立ててくれてるのだ。
そして関係ない話だが将来の僕の嫁の一人だ。
「気にしないの。私達の仲じゃないの」
サラは笑顔で答える。
紅茶はお客さま用の奴だ。
王都で売られてる中でも最高級品だ。
「シスター。頼まれてた香辛料やで」
「有難うシャル。代金は……カイルお願い」
「はい。シャル代金はいつのものように」
「わかりましたで会長」
最近このシスターは香辛料を使った料理を好むようになっている。
原因は僕が作る料理の所為なんだが……。
香辛料は贅沢品なのだがなあ~~。
節約したいんだが。
今更かなあ。
まあ、今更香辛料無しの不味い御飯を僕も食べたくないし……。
「腐っ……今度の新作の本は良いでしょう?」
「それはもう! ですがなっ!」
シスターとの案件が終わると、次にシャルは試し刷りの薄い本を見て興奮していた。
サキ姉さん謹製のショタ本だ。
ふたりはがっちりと熱い握手を交わす。
類は友を呼ぶ。
シャルもサキ姉さんと同じ趣味を持つために意気投合したのだ。
否――いいけどさ。
でも酷いのは勘弁して欲しい。
BLとかホモとか。
今度の薄い本の内容は僕がクリスを誘惑してる話しだ。
「……」
クリスがそれをチラリと見て複雑な顔をしてた。
シャルは元々は王都のボッタクリ商会の次女だ。
小人族の彼女の外見年齢は十二歳。
耳の先が少し尖ってるという事を除けば美少女と言ってもいいです。
他所に妾として嫁がされるのを嫌がって家出しました。
そしてそのまま行商人になりました。
……まあ相手が外見年齢九十歳の爺さんなら嫌だろう。
ですが充分な護衛を雇えなかった彼女はあっさり盗賊に捕まりました。
そしてあわや貞操の危機という時に僕とサラが助け出したのだ。
僕が一人を倒してる間にサラは二十人を無力化してたが……。
女の子よりも弱い僕って一体……。
この時の影響で彼女は僕に一目惚れした。
四歳児に一目惚れって……。(遠い目)
いいけど嫁が増えるのは。
後でクリスに折檻されたのは痛かったなあ~~。
不可抗力なのに……。
まあ嫁に貰うけどさあ~~。
話しが逸れた。
「先日の括版印刷技術は有難うございました。会長」
「別にお礼はいいよ」
「それで此方はグルス家のキキとキル様からのお手紙です」
僕はシャルから渡された手紙を開く。
……というか良いのか?
王家の手紙を商人に託しても。
「ああ~~通信用のマジックアイテムは使えないそうです」
「ふえ? なんで?」
「採取した魔石を全て現金に変えて国の財政難に当ててるそうです」
怪訝な僕の顔を察したシャルが答えてくれる。
この間支援金を出したばっかりだろうに…。
どんだけ財政難なんだよ。
「じゃあこの手紙の代金は?」
「向こうにあるククル商会の支店に直接持ってきたそうです。本人達が……」
フットワーク軽っ!
まあ~~王女達がこの村に暫く住んでたし。
余談だが公衆浴場は今は元違法奴隷の人が管理を引き継いでます。
流石に持ち主が居ないからと言って放置するのはどうかと思ったので。
う~~ん。
「つまり送料無料と?」
「そうです」
「どんだけ金がないんだよう」
シャルと話しながら中身を確認した
「何て書いてあるの?」
「国で起きてる問題を解決するのに孤児院のメンバーの手を借りたいそうです」
「へ~~」
シスターの質問に答える僕。
「腐っ……なら新しく習得した私の魔術師の第十級魔術【広範囲転移】で行こうか」
「サキ姉さんいつのまに……というかレベルは足りてたんですか? あっ……」
「腐っ…なに言ってるの? 私は魔術師のジョブはカンストしてるわ。後は魔道書で覚えるだけだったから……あっ!」
「カ~~イ~~ル」
僕の失言に答えるサキ姉さん。
サキ姉さんも自分の失言に気付いたらしい。
クリスに鬼のように睨まれた。
「どおすんですか~~あたしが聞いてたらヤバイ内容じや無いですかっ!」
青ざめるシャル。
「はあ――……仕方ないわね。何とかなるでしょう」
「でも~~がなシスター」
クリスはシスターに抗議する。
「腐っ……いいんじゃない私達が負けるとは思えないし」
「それはそうだがな」
クリスはサキ姉さんの言葉に不承不承納得する。
「ついでだし他の事も教えておきましょう。私はつい先日全ての魔術を習得したの。エンのお陰でね」
「エンのお陰?」
僕はその言葉と共にエンを見る。
エンは僕を見ると指を二本立ててピースとする。
「なんとエンは【遺失魔術】を含めた召喚師、魔術師、僧侶、幻術師、暗黒魔術師、気功師など、全魔術を知りつくしてたの」
「「「「「へええっ!」」」」」
「でも本人はレベルが足りなくて半分も使えないけど」
「「「「「……」」」」」
あ――……エンが目を逸らした。
「あ~~すみません。サキ姉さん」
「腐っ……なに?」
「手紙にはドラゴンに乗って、仮面を被って来て下さいと書いてあります」
「……」
「しかも七人になるように偽装してくださいだそうです」
僕の言葉にサキ姉さんは落ち込み蹲る。
クリスを見ると鬼のような形相で僕を睨みつける。
僕の所為じゃないのにいいいいっ!
「それはそうと初めて見る子供達だよね。誰なんですか? 会長?」
話題を逸らす為にシャルはあわてて質問する。
シャルっ! ナイスだ。
僕はシャルに対して親指を立てて無言で褒める。
それを見るアカ、ルージュ、クレナイ、シンク、エンの五人。
なんか面白く無さそうだ。
まあ孤児院のメンバーは兎も角。
シャルは弱そうで格下なのに、丁重に持て成されてるのが気に食わないのだろう。
「この子達はね~~」
ピタッ。
僕が答える前に五人が、くっついて来た。
なにやってるんだ?
「「「「「私達はご主人様のペットです」」」」」
ピシッ。
空気が凍りついた。
「あう、あう……」
シャル顔を真っ赤にする。
「誤解だっ! あれ? でも確かにペットなのは本当だし……あれえ?」
誤解を解こうとして混乱する僕。
「カイル……いつの間にそんな高度なプレイを……」
「違うっ! シスターも知ってるでしょうっ!」
ドン引きするシスターに弁解する僕。
「……ご免なの……将来カイルの嫁になっても、そっちの趣味は駄目駄目なの」
「だから違うってばっ!」
ジリジリと離れつつあるサラに弁解する僕。
ポンッ。
「腐っ……やるわね」
「違うううううっ!」
肩を叩き親指を立てるサキ姉さん。
なに? そのドヤ顔。
最早この場はカオスである。
諸悪の根源であるアカ、ルージュ、クレナイ、シンク、エンの五人は僕に纏わり付いていた。
なんでこうなったあああああっ!
「カイルウウウウウウウッ!」
僕の後ろから怒気の篭った声がした。
恐る恐る後ろを振り返る。
そこには一匹の鬼が居た。
「「「「「きゃあああああっ!」」」」
僕に纏わり付いてた五人は驚いて逃げ出す。
僕の側頭部に拳が当てられる。
「なにやってんだがなああああああっ!」
グリグリグリグリッ!
「いだだだだだだだだだだっ! 誤解だああああっ!」
この後死ぬほど折檻されたのは言うまでも無い。
あー死ぬほど痛かった。
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