リクエスト<オリジナル
「出かけるぞ!」
蘭さんの声が家のリビングに響く。
今日は凛が転校して来て一番最初の休日。
珍しく翔也の部活が休みだったこともあり蘭さんが提案して来たことだった。
「出かけるってどこに行くんですか?」
俺は唐突な提案に対して尋ねる。
「そんなもの今から決めるに決まっているだろう」
蘭さんが呆れ顔で言う。
「いいじゃん行こう、みんなとなら楽しいでしょ」
翔也が賛同する。
その【みんな】に俺は含まれてるのだろうか……
「出かけるのは構わないですよ、ではどこに行きましょうか……」
凛が下を向き考え始める。
「それならカラオケはどうだ?最近課題が多かったからストレス発散したいからな」
蘭さんが腕を組みながら言った。
蘭さんは一応大学生。
そのため、家で勉強を教わる時は大変な中よくやってくれていると感謝している。
それでも家事スキルや朝の寝起きを考えると……もう少ししっかりして欲しいと思う。
「いいんじゃない?たまには家族でカラオケ行くのもさ」
翔也が賛成する。
「私、行ったことないので楽しみです」
凛が目を輝かせながら言う。
相変わらず庶民的なこと全然やったことないんだな。
それに、この前の時もそうだったけど目は輝いてるのに笑ってるようには見えないんだよな……気のせいかもしらないけれど。
「ならカラオケでいいんじゃないですか?」
こうして全員一致で俺達はカラオケに向かうこととなった。
「それではお客様のお部屋十八番になります」
俺達は受付を済ませ自分たちの部屋に到着する。
部屋に入るとすぐさま蘭さんが曲を入れ始める。
「一人じゃないんですから多く入れすぎないでくださいよ」
俺が注意する。
「分かってるって、それで、大輝はA○Bか?」
「歌いませんよ、自分で入れるので貸してください」
そんなやりとりをよそに、
「翔也君、これどうやって使うんですか?」
「これはね、ここをこーやって」
翔也があれこれレクチャーする。
「ありがとうございます、これで曲が入ったんですね」
「どういたしまして」
ニコッと笑う翔也。
なんだこの男。なんで家族に媚び売ってるんだよ。
そうこうしないうちに蘭さんが歌い始める。
な、なんか女性が歌うポルノ○ラフィティって新鮮だな。
「アゲ○蝶とか世代なんですか?」
「年齢がバレるようなこというな!」
「マイクで怒鳴らないでください!」
年齢を気にする二一歳ここにあり。
てか二一歳なら世代からぎり外れてるよな……。
とまぁそんなこんなで俺も翔也も蘭さんも次々に歌っていく。
履歴を見てみると
ポルノ○ラフィティ、サザン○ールスターズ、ゆ○、EX○LE、G○eeeeN、いきも○がかりなど結構様々なジャンルに分かれていた。
たまに世代を感じるものがあったりなかったりしたのだが……。
「凛ちゃん歌わないの?」
「知らない曲ばかりだったので、でも私でもわかる曲がありました」
そしてマイクを握り構え出す凛。
なんか嫌な予感がする……。
凛が転校してきた時のような……。
俺はすこし身構える。
「すぅ」
凛の深呼吸の音が聞こえる。
俺は自分の唾を飲む音がはっきりと聞こえた。
凛が歌い出す。
透き通るような声。響く歌声。まるで美しい人魚姫の様な情景を思い浮かべることが出来る。
メチャクチャうめぇぇ!
正直ここにいる誰よりもうまい。あの翔也ですら恐らく太刀打ち出来ないだろう……。
でも、一つだけ問題を上げるとすれば、
「そーよ、かあさんも、なーがいのよー」
いや、なんで、童謡なんだよ!
いい歌声が台無しだよ!
曲が終わる。
「すごい上手じゃん!凛ちゃん凄いって!」
歌い終わりと同時に物凄い勢いで褒めちぎる。
「凛、お前そんなにうまかったのか!」
「蘭さん知らなかったんですか?」
「歌ってるところなんて普通聞かないからな」
「凛ちゃん今度はこっち歌ってよ!」
そう言って画面には今年の冬に大ヒットした曲が流れ始める。
「わかりました、これなら聞いたことはあります」
そう言ってまたマイクを構える凛。
今度は期待に胸をふくらませ聞く俺。
再び凛が歌い出す。
ガラスの割るような声。急に低くなる歌声。まるで魔女が毒薬を作ってるような情景が思い浮かべることが出来る。
メチャクチャ下手くそだ!
なんでだよ!
なんで童謡だとM○y J.急なのにバラードだとオア○ズ光浦見たいになるんだよ!
ここまで来ると逆に清々しいよ!
曲の途中でついにこらえきれず笑いだす蘭さん。
「そうだ、皆で勝負でもしません?」
翔也が曲が終わると同時に話を変える。
「い、いいなそれ、なら一番得点の低かった人がこの後のゲーセンでお金を出すということで」
必死に笑いをこらえながら言い出す蘭さん。
「私童謡でいいですか?」
「やるからには全力だ!大輝も異論は無いな」
「しょうがないなーいいですよ、やりましょう」
やるからには全力を尽くさないと。
ゲーセン奢りは洒落にならんぞ。
こうして儚く俺の財布から二、三人の野口が消えていくことになりましたとさ。
場所は変わってゲームセンター。
俺達はUFOキャッチャーコーナーにいた。
「自重してくださいよ!」
俺は渋々一人に一野口づつ渡す。
「儲けてくるからなー」
蘭さんはメダルコーナーに直行する。
あの人絶対ギャンブルで破滅するタイプだろ。
てかメダルゲームで儲けるって……。
「それで?どのゲームやるんだよ」
「あれ欲しいです」
凛がUFOキャッチャーの景品を指さす。
その景品は最近人気の出てきた熊のキャラクターの四色キーホルダーセットだった。
そのクマは赤青黄緑の色でその四匹とも中の良い友人という設定らしい。
「あーカラグマか、最近人気だもんねー」
そう言いながら翔也が機械に百円を入れる。
「さーて、取れるかなー」
アームが動いていく。
凛も翔也の隣で固唾を飲んで見守っている。
俺は知っている。
こんなの茶番だ。
翔也は滅茶苦茶ゲーセンに行く、そんでもってUFOキャッチャーも大の得意なのだ。
基本的に女子の欲しがるものを軽々と取ってプレゼントするという小癪な手段を使う。
モテる男は違いますなー(棒読み)
「すごいですね!取れました!」
凛が翔也を褒める。
「ほらっあげるよ」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます」
凛が深くお辞儀する。
「あはは、そんなに固くならなくてもいいよ」
凛はその場でストラップを取り出し俺と翔也に一つづつ渡す。
「家族なので仲良しの証です」
「おお!ありがとね大事にするよー」
翔也がニコッと笑い手を引いて次の場所に向かう。
俺は凛からもらった赤色のクマを見ていた。
「ふ、ムカつく顔しやがって」
そう言って俺は翔也達の元へ向かった。