不良<アイス&今日の前田さん
今、俺のいる場所を一言で表すと白い空間だった。
あたりを見渡せば机……椅子……ロッカー……。
その空間には俺とその正面に座る人以外にいなかった。
緊迫した空間の中で俺は今の状況を理解した。
俺はショッピングモールで不良三人組と対峙した。
まぁこちらが悪いので必死に謝罪したもののその手をはねのけられた。
そこで手を出そうとした際、翔也が現れ行き場を失う俺の右手。
現れる警備員。
逃げる不良と翔也達。
取り残される俺。
したがって俺は今、事務室で警備員のおじさんと向き合っていた。
硬直した状況から数分後。
「本当に申し訳ありませんでした」
保護者、もとい蘭さんが迎えに来て、謝罪の弁を伝える。
「周りの野次馬から一通りの状況は伺いましたけれど、今後は同じことが無いように頼みますよ」
「本当に申し訳ありませんでした、ほら、お前も頭下げな」
「ごめんなさい」
俺はしぶしぶ頭を下げ、俺と蘭さんは開放される。
場面は変わって車内の助手席。
蘭さんの運転で家に帰る。
「コンビ二よるぞ」
俺はコクリと頷き俺達を乗せた車は近場のコンビニに止まる。
「ほらよ」
そう言って缶コーヒーを差し出す蘭さん。
「ありがとうございます」
お礼を言いつつ缶コーヒーを受け取る。
「お前は世渡りがヘタだからな、引き際を見極めろ」
缶コーヒーを開け飲みながら蘭さんは言った。
「引き際ですか……」
「大輝……お前は翔也の様な広く浅い付き合いができないから損をするんだ」
「そんなことないですよ、あいつは友人に囲まれていて、深い付き合いじゃないですか」
俺は苦笑しながら蘭さんに聞いた。
「お前なら分かってるんだろう、分かっていて認められないだけなんだ」
「かいかぶりすぎですよ、俺は冴えないただの高校二年生です」
「そうか?大輝がそれでいいならかまわないさ」
俺には分かっていた。
蘭さんの伝えたい事も分かっていた。
それでも……。
それでもアイツがそんなことをする理由がわからなかった。
だってアイツは俺よりも勉強ができて運動ができて友達に囲まれていて……。
「そろそろ帰るぞ車に乗れ」
俺の思考を遮るように蘭さんが言う。
俺は蘭さんの言う通りにコンビニの駐車場から車に乗って、家に向かった。
俺達が家に着くとちょうど解散した後らしく、後片付けしながら和気藹々と話していた凛と翔也がいた。
「あ、蘭さんおかえりー、ごめんね、また大輝が迷惑かけちゃって」
「またってどういう意味だ、またって」
「毎度毎度大輝には迷惑かけられっぱなしだな」
「蘭さんも乗っからないでください」
「大輝も片付け手伝ってください」
「お前は自由だな!」
元はと言えばお前が原因だろうが!
本当少しでいいから俺にも感謝してくれよ!
俺は渋々片付けを手伝いながら凛から詳しい事情を聞いた。
凛によると、不良に絡まれる少し前に翔也から連絡が来ていたらしく、荷物持ちとしてこっちに向かっているとのことだった。
そんな会話をしている時に不良に絡まれ、凛は咄嗟に「助けてください」とだけ翔也に伝えると、それからマッハの勢いでペダルを漕ぎ、あの、乱入という状況になったということらしい。
「それと、言いそびれたのですが……」
凛がこちらを向き直し、
「先ほどはありがとうございました」
頭を深く下げ言った。
俺は照れくささを隠しつつ、声をかけた時、
「お、おう、これからは気を付」
「アイスクリーム奢っていただいて」
凛が付け足す。
アイスクリーム?不良じゃなくて?
「えーとアイスクリーム奢ったこと?」
「はい、ありがとうございました」
「え?不良の事とか俺だけ取り残されて罪をかぶった事とかは?」
「絡まれたところを助けていただいたのは翔也君ですよ?それに大輝も喧嘩したじゃないですか」
「……もう、いいや」
首をかしげ不思議そうにしている凛の後ろのゲラゲラ笑う翔也をにらめつけ、唯一の味方の方を見る。
蘭さんはポンと俺の肩に手を置いて、一言。
「ドンマイ」
と、一言だけ発し、自分の部屋に戻っていった。
その後順調に片付けを終え、それぞれ自分の部屋に帰り就寝することになった。
そして、その日の俺の枕が濡れてたことだけは言うまでもなかった。
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【今日の前田さん】
※この話は大輝が警備員に捕まっている頃のパーティの様子を前田さん目線でお送りするものです。
※実際にあった出来事ですが八割は前田さんの妄想が入っています。どこが事実か想像しながらお読みください
「というわけで凛ちゃんと一緒に帰ってきたんだ」
みんなの前で一通りの経緯を話す翔也君。
「なんだーそんなことがあったのか、凛ちゃん大丈夫だった?」
「はい、問題ないです、翔也君が助けてくれたので」
「てことはうちの馬鹿は向こうで捕まってるってことか」
「そうなりますね」
「うわーなんか情けねーな」
そう言って笑い出す翔也君グループ一同。
「笑うんじゃねーよ!」
突然キレだす拓夢。
「なんだよ、お前、兄貴のこと心配なのか?」
「心配に、決まってんだろ馬鹿!俺の大切な奴なんだよ」
翔也君の胸ぐらを掴む拓夢。
その手を払い除け拓夢を壁際まで追い込む翔也君。
ジリジリと後退していき、
ドン!
翔也君が拓夢を壁ドンの体制で言う。
「そんなに、兄貴の事が大事なのかよ」
「あ、あたりまえじゃねーかよ」
「目の前にいる俺よりもか」
「え!」
話そうとする拓夢を黙らせるように翔也君の唇が拓夢の唇を……。
「やめろーーーーーー!」
突然どなり出す大輝。
「えーこれからがいいところなのに」
私は頬を膨らませ渋る。
「なんで俺がいない間のパーティの様子を聞いただけなのにお前の妄想小説を聞かねばならんのだ!」
「またまたーそんな事言っちゃって羨ましいんでしょ?このツンデレめ!」
私が大輝をつんつんする。
「あのさ、俺がもし止めてなかったらどこまで行くつもりだったんだよ」
「そりゃぁ大事なアレがあーなってうふふだよ、違うわね、う腐腐よ」
「上手くねーよ!止めて正解だったわ!」
「ちっちっち、これを信じるか信じないかはアナタ次第なのよ」
「絶対信じないよ!な、拓夢」
「……」
「た、拓夢、嘘だよな……嘘だと言ってくれよぉぉぉぉ!」