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兄より優れた弟の存在を俺は絶対に認めない  作者: 酒井彼方
俺より優秀な弟の存在を俺は絶対に認めない
7/40

謝罪<暴力

 あれからペダルを回すこと二十分。


 普段ならば十分もかからない距離だが二人乗りで、しかもその後ろが女の子ということもあって俺は慎重に運転したこともあり時間がかかってしまった。


 部活組が家に到着するのはまだ先とはいえ、準備を済ませておかなければ怒られるのは俺。


 だからこそ気持ち早めで行動していたつもりなのだが……。


「地味に時間かかったな」


「すみません私が帰ってくるのが遅かったせいで……」


「過ぎたことは仕方ないし早いところ買い物済ませちゃおうぜ」


「そう……ですね、なら手分けしましょう」


 凛からの提案に従って俺と凛は別々に行動することになった。


 俺はクラッカーなどの雑貨、凛は近いこともあり食品を漁ってもらうことにした。


「つってもクラッカーとか片付けるのどうせ俺なんだよな……」


 パーティーの後の片付けほど、惨めでつまらないものもないと思う。


「てゆうか、リングのやつ作るんだったら時間全然足らないな、急がなきゃ」


 俺は独り言を漏らし、急いでパーティーに相応しい、適当な物をかごの中に入れ、レジに向かう。


 会計を済ませた俺は昨日交換した凛の電話番号に電話をかける。


 数十秒後。



「一ノ瀬凛の携帯ですけど」


「お前、いつもそんな受け答えかたなのかよ」

 まるで人のケータイを預かっているかの様な受け答えにツッコミを入れてしまう

 。


「大輝ですか……何の用事ですか?」


「何の用事って、こっちは終わったから合流点しようと思ってだな……そんなことよりお前、今どこにいるんだ?」


「ちょっと待ってください」

 そういってから数秒後。


「ここがどこなのか私が一番知りたいです」

 

 ん?どゆこと?


「え、今どこにいるのか分からないの?」


「はい、全く」


「……」


「……どうしましょう?」


「……とりあえず周りに何がある?」


「えーとですね……山積みのポテチとチョコ?」

 

「わかった、とりあえず一歩もそこから動くなよ?」


「分かりました、待ってますね」


 プッという音と同時に電話が終了する。


 俺は本人に直接ツッコミ、もとい説教をするために急いで食品コーナーへ向かった。



 食品コーナーのお菓子売り場へ向かうとキョロキョロしながら辺りを見回している奴が立っていた。


 俺はそいつにそっと近づき、背後から肩を叩く。


 するとそいつはなんのリアクションもなく、後ろを振り返り一言、


「大輝……どこに行ってたんですか?」


「こっちのセリフだよ!」

 俺が大声で怒鳴り散らす。


 周りから俺への視線を感じる、が無視して続けることにした。


「登下校中に迷子になってショッピングモールで迷子になるとか子供かよ!」


「子供ですよ?まだ未成年ですし」


「そういう事言ってんじゃないんだよ!普通は高校生にもなって迷子になるレベルで子供なやつなんかいないよ!どこの世界に正真正銘パッパラパーの子供がいるんだよ!」


「ここにいますけど……」


「はぁ、もういいよ」


 サラッと自分がパッパラパーだって認めてるあたり可哀想な奴だ。


「どうせまた別行動させたら迷子になるんだから俺から離れんなよ」

 そう言ってついてくるように指示を出す。


 翔也だったら手を差し出したりするんだろうな……まぁ俺はあいつほどコミュ力無いしな。


「はい」


 凛は小さく返事を返し俺達は買い物を続けた。


 でも、ここからが大変だった


 俺が買うものを選びかごに入れる度に他のお菓子が増えるといった現象が起きていた。


 当然犯人はこのド天然な訳で。


「さっきからお前は何をやってるんだ」


「お菓子を選んでます」


「それは分かってる、ならお前が入れたこのお菓子はなんだ」

 そういいながらお菓子のうちの一つを手に取る。


「コアラの〇ーチです」


「ならこれは?」


「コアラの〇ーチイチゴ味です」


「……こっちは?」


「コアラの〇ーチカスタード味です」


「……これ」


「コアラの〇ーチ小分けタイプです」


「なんで全部コアラの〇ーチなんだよ!もっと他のあっただろ!」


「……もしかしてパンダ派ですか?」


「そんなことで起こってるんじゃねーよ!てかコアラ〇ーチの反対はさ〇さくパンダではないから!」


 里か山かならともかく、コアラかパンダかなんて聞いたことねーよ。


「美味しいからいいじゃないですか」


「うめーけど違うだろ!」


 こういう時はクッキーとか〇ッキーとかだろ。

 別にコアラがダメなわけじゃないけどよ、全部コアラは無いだろ。


「わかりました……戻してきます」

 露骨に落ち込む凛。


「わーったよ、買ってやるよ」

 俺はそんな凛を見て仕方なく折れる。


「本当ですか?」


「仕方ねーからな、その代わりにコアラにした理由はあいつらにちゃんと報告する様に、わかったな?」


「もちろんです」


 とまぁこんなやりとりがどの売り場に行っても行われた訳で……。


「すっかり遅くなっちまったじゃねーか!」


 俺のバカ!ツッコミとか余計なことしなければまだなんとかなったろうによ。


「凛、ちょっと時間ないから急ぐぞ」


「わかりました」


「……何その手に持ってるもの」


「ソフトクリームです、さっき大輝が気づかないうちにかごの中に入れときました」


「まじかよ……まぁいいか、とにかく急ぐぞ」


 そう言って無駄な出費を悔やみつつ店内を走った時だった



 ドン!



 後方で嫌な音がする。



 恐る恐る振り向くとそこには……。



 倒れる凛と、アイスクリームがベッタリとついた不良三人組がいた。


「痛ってーな、何しやがんだこのクソガキ!」


「あーあ、服ベットベトじゃないっすか、オメー弁償しろよ弁償ー」


「タクさん可愛そー、おい、なんとか言え……って女の子じゃないっすか」


「意外と可愛い顔してんじゃねーか」


 そういって凛に近づく不良。


 凛は少し怯えたように震えている。


 この状況で俺は考えるよりも先にあいつらに向かって走り出ていた。


「うぉぉぉぉぉ!」


 そして俺は走り込んで凛と不良の間に入ると……。



「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ」

 物凄い勢いで土下座していた。



「ギャハハハハハハハハ、なんだお前急に出てきて、彼氏かぁ?」


 俺は奴らの話を遮るように、

「この度はうちの妹が大変迷惑をおかけしました」

 もう一度丁寧に謝る。


「妹ぉぉ?なんだ兄ってシスコンかよ変態だなぁおい」


「あーあ妹ちゃん困ってんじゃんか」


「そんなだっせー兄貴だと可哀想だな」


 そう言ってまたギャハハハと笑い出す不良達。


「俺が何でもしますのでこいつだけは見逃してやってください、お願いします」

 俺は再度土下座の姿勢で頼み込む。


「ギャハハハなんだお前、ヒーロー気取りかよ」


「変態は大人しくいえにひきこもってろよバーカ」


「残念な兄を持つと妹は大変だねーゴミ兄貴だなゴミ兄貴」


「ちょうどゴミみたいな顔だしよー」


 そして再び笑いだす不良。


「三回」


「あ?なんだって?」


「昔、母親に言われたんだ、こちらが悪い事をした時は三回、心を込めてしっかり謝りなさいって、それで三回謝ってそれでも気持ちが伝わらなかったら俺と相手は一生仲良くならない、だから……」


 俺は大きく息を吸い、吐き出すように叫んだ。


「思いっきりやっちまえってなぁぁぁぁ!」


 右手で拳を握りリーダー格に向かって殴りかかる。



 ドガァァァァ!



 俺の拳がそいつに当たる前に物凄い音がする。


 そして音と同時にその男が俺の視界からフェードアウトし、代わりに見慣れた顔が映る。


 それは俺が一番嫌いな顔で。


 俺の人生でもっとも多く見た顔でもあった。


「なんとか間に合ったかなー、助けに来たよ凛ちゃん」

 そういってクルリと振り返る翔也。


 俺が訳もわからず呆然としていると、


 ガッ!


 俺の持っていた買い物袋をひったくり凛の手を掴みながら俺に向かって、

「後は任せたから頑張ってねー」

 と言い残してこの場から逃げていく。


「ケンカの現場はここか!君達、店で何やってるんだ!」


 どうやら店の警備員が駆けつけたらしく、

「やべーぞ、とりあえず兄貴、逃げましょう!」


「そうだな急ぐぞ」


「こら!待ちなさい!……仕方ないしとりあえず君だけでも来なさい」


「……へ?」


 怒りの矛先を失い、嵐のような弟の登場。そんな状況に頭の働かなかった俺は逃げることが出来ず、まんまと奥の事務室まで連れていかれたのだった。


「ちょっとまてやぁぁーーーーーーー!」

 現場には俺の叫び声だけがただひたすらに響いていた。


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