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兄より優れた弟の存在を俺は絶対に認めない  作者: 酒井彼方
俺より優秀な弟の存在を俺は絶対に認めない
6/40

同級生<兄妹

 

 授業の後のHRも終え、今から放課となる教室の中俺は凛と一緒にいた。


 理由は単純でお使いという名のパシリを頼まれた俺は断ることが出来ず、凛と一緒に買い物に行く手筈を整えていたのだった。


「それで、凛は何を買ってくるか頼まれたのか?」


「いえ、パーティーの準備とだけ言われました」

 凛が簡潔に答える。


 そもそもどんなパーティーをするのかわからない俺にとって何を用意すればいいのか検討もつかない所ではあるが、所詮はパーティーだ。クラッカーとかケーキとかケ○タッキーとか買って帰ればいいか。


「ところで大輝」


「ん、どうした?」

 考え事を終え凛の方を向き直す俺。


「いろいろ買うならお店まわらないと行けないと思うので早めに行ったほうが良くないですか?」


「それなら大丈夫、駅のところにあるショッピングモールに行くから多分そんな時間かからないと思うよ」


 ただ、駅まではそれなりに距離があり、帰り際に荷物を持って帰ってくることも考えると自転車で行った方が楽だろうから一旦家に帰る必要がある。


「自転車で行くから一回家に帰るぞ……って凛は自転車持ってるか?」


 引っ越してきたばかりだしこっちに無い可能性もあったため不安気に聞いてみる。


「自転車は子供の頃に使ってた物しか持ってないと思います」


「そうか、なら自転車は厳しいか……」


 翔也は学校まで自転車だから使ってるしそもそも蘭さんは自転車使わないから家にも無い……か。


「自転車使うなら二人乗りするしかないのか」

 俺が呟く様に言うと、

「私は二人乗りでも構いませんよ?」

 思わぬ返事が凛から返ってきた。


「凛は二人乗りしたことあるのか?」


「いえ、経験はないので楽しみです」

 目を輝かせながら言った。


 二人乗りが楽しみって……まぁ中学受験の為に勉強漬けだったらしいし、子供の無邪気な時期に遊べなかった分そういうことが楽しみなんだろうな。


「よし、計画も決まったことだし行動に移すとしますか」

 そう言いながら席から立ちあがった時。


「大輝、ちょっとこっち来て」

 後ろから不意に声をかけられ振り返る。


「なんだサイダーか」


「なんだじゃなくてこっちに来い」

 俺はサイダーこと三ツ矢彩夏に連れられて教室の端まで歩く。



「で、俺に何の用?」

 用事を手短に終わらせ買い物に行かねばならない俺はサイダーに聞く。


「あ、あんた、凛ちゃんにあの事言ってないでしょうね」


 三ツ矢彩夏。

 少し日焼けによって色が茶色がかった髪の毛をポニーテールに結わいた女の子。

 クラスでも人気のあって仲の良い人も沢山いる。

 部活の陸上でも成績は優秀で明るくて良い生徒として知られている。


 そんな彼女が俺を壁際に追い込み脅しをかけるのにはわけがあった。


 彼女、サイダーこと三ツ矢彩夏は何を隠そう俺の弟、翔也のことが好きなのだ。この事実に関しては周知の事実だと思う。理由は簡単で普段からアピールばかりしているからだ。

 明るい彼女でなければビッチ呼ばわりされても文句は言えないほどベタベタしていた。


 そして、彼女は決意を固め、翔也に気持ちを伝えるべくラブレターを書いた。

 白い便箋にハートのシール。パッと見差出人不明。宛先は因幡君へ。

 この重い想いを乗せたラブレターは俺の下駄箱に入っていた。


 もちろん浮かれきっていた俺は中を全て見てしまった。


 それから現在までの経過は省くことになるが、このような関係ができていることは言うまでもない。



「言わねーよ、だいたい言ったところで俺にいいことないだろ?」


 この手の脅しには損得を交えると説得がうまくいく、ソースは俺。


「ふーん、まぁ今日のところは見逃してあげる、感謝してよね」


「見逃すも何も言ってないっつーの」


「とにかく!言ったらスパイクでけるからね!」


「やめろ!流血どころの騒ぎじゃなくなるだろ!」


「あんたが言わなければいいのよ!」


「へいへい、言わないから安心しな、話は終わりか?」


「そうよ、悪い?」

 ギロりと俺を睨む。


 下からの目線で睨まれているにも関わらず迫力は段違いだった。


「まぁいいや、じゃあまた後で……って凛は?」


 あたりを見渡すもあのド天然娘の姿は無かった。


「凛ちゃんなら私達が話してる間に帰ったけど?」


「まじかよ、待っててくれれば良かったのに」

 俺は呟きながら教室を後にした。




 俺は待たせてしまうと悪いと思い、急いで家に帰ることにした……のだが。


「あれ?どっかで入れ違いになったのかな?」


 家に着いても待っている影は見当たらなかった。


「しゃーない、少し待つか」

 俺は家の壁に寄りかかり、本を読み始める。


 昔から本を読むのが好きだった俺は時間を潰す時はスマホをいじって待つよりも本を黙々と読み進める方が好きだった。本を読んでいる間は時間が早く進む様なそんな感じを俺は好んでいたのかもしれない。


 今回もほとんど待っていた時間など感じず凛が家に帰ってくる。


 時計を見ると俺が家に着いてから二十分も遅れて凛が到着したらしい。


「お前、なんでこんなに遅かったんだ?」

 後から教室を出た凛が俺より二十分も遅かったのが不思議で尋ねる。


「道に迷いました」

 一寸の迷いも躊躇もなく堂々と答える凛。


 仮にも昔このあたりに住んでたんだから地元で二十分も迷子になるなよ。


 俺は心でそうツッコミを入れた後。


「うん、まぁ引っ越してきたばかりだし仕方ないか、早くなれろよ?」

 心にも思っていないことを言っていた。


「はい、分かったので早く二人乗りしましょう」


「わかったわかった、お前はピクニック前日の子供か」


「え?」


 これから熱くなってゆく季節だというのにどんどん寒くなっていくのを感じる。


「……忘れてくれ」


 おかしいな、拓夢なんかとやったら返ってくるのは笑いなんだけどな……。


 軽いショックを受けながら俺は自転車置き場に着くと自転車にまたがりながら言った。

「結構危ないからしっかり捕まっとけよ」


「分かりました、それでは失礼します」


 そう言うと自転車にまたがり俺にしがみつく凛。


「な、なななななな」


「?」


「なにやってんだお前はぁぁぁ!」


 凛は俺の自転車の後に腰掛けると俺のお腹に腕を回し、抱きつくかのように体を密着させてきた。


「危ないからしっかり捕まえろと言ったのは大輝じゃないですか」


「言ったよ、言ったけど流石にここまでは予測してなかったよ!」


 健全な男子高生なめんな!


 てか、この体制っても、もしかして、む、胸が当たって……ないのか?

 

 頭の中で思考がパニックに陥る。


 頭の中で凛の事を思い浮かべる。


 凛の顔、腕、脚、肩、腰、お腹、そして……胸。


 あ、うん。

 あたってるけどあたって無いや……。


 現在の状況を把握し終えた俺はため息をつく。


 俺は聞こえるか聞こえないぐらいの声で呟く。


「まだお前には将来があるさ……」


「ちょっといいですか」

 凛が真面目な声で俺に声をかける。


 ま、まさか今の独り言が聞こえてたのか……。


「さっきのって私が二人乗りに対してワクワクしていたのと子供がピクニックに行く時のワクワクに例えたってことですか?」


「そうだよ!あってるけど蒸し返してくんなよ!傷がグリグリえぐられてるよ!」


 もう、本当になんなんだよ。

 やりとりが同い年に対する物じゃないよな。

 自らを高評価するわけではないけれど天然で抜けてるところのある女の子に冷静にまとめる。

 これじゃあ、まるで兄妹見たいじゃないか。


「慣れるまでの辛抱だろうな……」


「何が慣れるんですか?」


「気にすんな、出発するぞ、妹よ」

 

「妹?誰が妹なんですか?」


 俺は質問してくる妹、もとい凛の話を完璧に無視しながらショッピングモール目指してペダルを漕いだ。


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