天然<リア充
はぁぁぁ
激動のHRを終えた俺は、ざわついた休み時間の中で自分の席でため息をついていた。
どうしてこうなった……。
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凛のとんでもないカミングアウトの数秒後、クラスがざわついたことは言うまでもなかった。
翔也は腹を抱えて笑い、訂正する気も無さそうだった。主犯格は「なにか間違ってますか?」と言わんばかりの顔を浮かべ、辺りをキョロキョロと見回す。
そして最も恐れていた出来事が起きてしまった。
「あ、大輝も同じクラスなんですね、学校でもよろしくおねがいします」
そして俺に向かって深いお辞儀。
今まで俺に気がついていなかった様でこのタイミングになって俺に向けて挨拶をしたのだ。
その直後、クラス中の視線は俺に集まっていた。
『翔也と同棲=大輝も同棲中』
この事実にみんなが気がついたようで
「同棲ってどういうこと?」
「てことは大輝までもあんな可愛い女の子
一緒に暮らしてんのかよ」
とあちらこちらから聞こえてくる。
事情を事前に知っているはずの友人に助けを求めるべく視線を向けると、新たな妄想に浸る前田と暖かな目でこちらを見ながら中指をビンビンに立てている拓夢の姿があった。
残された選択肢は『ガンガンいこうぜ』以外ありえなかった。
「み、みんな誤解してるって!」
俺が立ち上がりみんなに言う。
「凛とは居候先の妹だから別にみんなが期待してる様な関係じゃないから!」
自分の誤解を解くべく、最低限の言葉で呼びかける。
「ふーん、名前で呼び合うような仲なんだー」
ニヤニヤしながら立ち直った翔也が絡んできた。
家での態度もイラつくが学校は学校でまた面倒臭いやつだ。
てかお前はなんで火に油注いでんだよ!
お前がさっさと誤解を解けば終わってんだろ!
どうやら俺が言っても効果がなかったらしい。むしろ翔也の発言のせいでみんなの目つきが鋭くなった気がする……。拓夢の中指も未だに空を向いたままだった。
「翔也も余計なこといってないで誤解を解くのを手伝えよ」
しかたなく一番信用できない相手に力を借りることにした。
「ん?割と本当の事だし誤解じゃないんじゃね?」
いやまぁ間違ってはないんだけどさ……。
このままだと俺の学校生活がどう考えても絶望しか見当たらないんだよ……。
「なら分かった、なら補足してくれ」
しかし、ここで引き下がるわけにもいかず結果、補足をお願いするよう申し出た。
「え?なにそれ、それが人にものを頼む態度?小学生でもなんて言えばいいのかわかると思うよ?」
ニタニタしながら言い切る翔也。
「……補足して下さい。」
しっかりと主従関係が成り立っていた。
え?どっちが主かだって?は、言わせてくれるな恥ずかしい、そんなもの決まってるじゃないか。
「もーしょうがないなー、凛ちゃんは居候先の妹で俺と合ったのも昨日が初めてなんだよ、まぁ詳しい話すると長くなるから聴きたい人だけ聞きにくればいいべ?」
だから凛ちゃんとの関係は家族ってことだけだよ、と翔也が付け足す。
みんなも翔也が言うならと納得してくれたようでざわつきが収まりはじめる。
と言うか、さっき俺が言ったこととそれほど変わらないのは気のせいなのだろうか……。気をつけるべきなのは天然よりもイケメンなのかもしれないとこの時をもって思い知らされた。
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そんなわけで朝っぱらから体力を使いすぎた俺は机でぐったりしていた訳であった。
「で、なんで未だにお前は俺に中指を立たてるんだよ」
そう言って俺の席の真横に立っている友人に話しかける。
「俺はお前だけは仲間だと思っていたのに、幻滅したよ……」
そう言ってため息をつく拓夢。
「安心しろ、どうせ一生仲間だよ」
「もうダメよ私達、このままじゃやっていけないわ」
中指を折りたたみ手で顔を覆いながら、オネエ口調で言う拓夢。
「俺はお前と一線を超えた覚えがないんだが」
「誰と誰が一線を超えたのかな?」
どこからか前田が現れる。
「あーうん、なんとなくこうなる予感がしてたわ……」
「ふふふ、私とblは魚にとって水の様な物なのよ」
再び不吉な笑みを浮かべ笑う。
「あーうんそーだねー」
我ながらひどい棒読みだった。
でもお前その例えだとblからはお前は必要としてないんだけど……。
「酷い!この人とも浮気してたのね!」
拓夢はシクシク言いながら演技を続ける。
「だからお前もいつまでやってんだ!前田がカチカチ始めるからさっさと止めろ!」
「まあ真面目な話あの転校生は何考えてあんな事いったんだよ」
ケロッと素にもどり、話始める拓夢。
切り替えが早くて助かる……しかし、
、あっさり切り替えられるなら最初からしないでいただきたいな。
「あーうん、多分少し凛と一緒にいれば分かると思うぜ?」
凛と拓夢の掛け合い……その日は疲れ果てて快眠間違いなしだな。
「そもそもなんで大輝は一ノ瀬さんのこと呼び捨てなのよ?わたしにすらまだ名字だし、女子の名前呼べないのかと思ってた」
前田が不思議そうに聞いた。
「いや、名前で呼ぶより苗字の方が楽だろ、だけどさっきも言ったみたいに居候先の妹だから苗字で呼べないんだよ、だからといって同い年にちゃん付けは抵抗あるしな」
「ふーん、そんなものなのかなー?」
首を傾ける前田。
「そもそもあいつのコミュ力が異常なんだよ」
そう……あれは中二の夏のことだった。
俺達が居候を始めた時、それは同時に転校する事が決定した時でもあった。
クヨクヨしていても仕方が無いと俺は切り替えて新たな中学に足を運んだ。
それなりに上手く付き合い友人と呼べる様な人もでき始めた頃、転校生がやって来るという話があった。
正直思い上がっていた俺は、よっぽどぶっ飛んだ転校生でないなら学校生活に支障は無いと思っていた。
それが間違いだった。
転校生は翔也のことだった。
あいつは母さんの事故から立ち直るのが俺よりも遅かった分、転校してくるのが遅かったのだ。
翔也は俺が作った友達の量をはるかに凌ぐ人を一日で連れ回すほどの人気だった。
こうして俺は面白い転校生ポジションから素敵な転校生の微妙な兄貴に降格したのだった。
「なぁなぁ、そんなことより一ノ瀬ちゃんを紹介しろよ」
ふと、拓夢の一言で我に返る。
「んなこと言われたって凛も用事あるだろうしな……」
俺はなにか忘れている気がしつつも、そう答えてから凛のいるであろう方向を見る。
凛はHR終了後、翔也グループに捕まったらしく楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
けれど笑い声の主は凛ではなくグループの他のメンバーによる物だった。
まぁどうせあいつのことだし何が面白いのか分かってなかったりして首でもかしげてるんじゃねえのかな……。
そんな姿を容易に想像でき、クスリと笑う。
「うわぁ、いたいけな女子高生見ながらニヤニヤしてる変態がいるんですが……」
拓夢が少し引いているように話す。
「ニヤニヤ笑ってなんかいないわ!」
「ほう、なら一ノ瀬さん見ながら笑ってた事は認めるんだな」
してやったり顔で拓夢が言った。
まんまと出し抜かれ少し悔しみがこみ上がる。
「笑ってたけど別にお前らみたいな変態的な笑いじゃねえから」
「そうだよ、拓夢、大輝は一ノ瀬さんを見てなんかいないよ」
珍しく、前田がフォローしてくれ
「大輝は翔也君を見てたんだよ!」
あーはい、ですよねー。
一瞬でも期待した俺が間違いなんだろうな。
「もういいや、お前黙ってろ」
そんなたわいもないいつもの会話をしていると、
「大輝……」
突然名前を呼ばれ振り返ると先ほどの話題の主が立っていた。
「ん?どうした?」
先ほどの会話を聞かれていないか気にしながらも俺が凛に尋ねる。
「あの、言いにくいのですが……」
一呼吸置いた後、
「私と……付き合ってもらえませんか?」
耳を疑う声をかけられたのだった。