素直<天然
すずめの鳴き声がする。
チュンチュン響く朝。
心地の良い朝だ。
朝にすずめが鳴いていても俺に何らかのイベントが発生している訳がなかった。
安心したような少しがっかりしたような複雑な心境で俺はベットからはい出る。
自分の部屋を出てリビングに向かうとテーブルの上には二人分の朝食と置き手紙があった。
手紙には
『おはようございます。私と翔也君は朝早くから出かけてしまうので朝食を作っておきました。 凛 』
とだけ書かれていた。
朝のボーとした頭がまたもに働きだし、ここで家族が増えたことを再確認した。
手紙の内容から察する所、昨夜、凛の事を天然だと言ったが、そんなこともないのかもと思いなおす。
凛は周りに気を配り、真面目な奴なのかもしれない――。
「出会って間もない癖に何言ってんだろうな、俺」
自分で自分にツッコミを入れ、朝の支度を始めた。
朝食を済ませ相変わらず朝の弱い蘭さんを起こしつつ家を出発する。
蘭さんを起こした時はそれはもう凄まじい状態だった為説明は省くことにするが……。
今日は一日快晴らしく、清々しい朝だった。今日は部活組も朝練でこの時間帯は帰宅部と室内部の登校時間ということもあり、騒がしい連中も少なく、ポカポカしたような雰囲気が流れていた。
この静けさはむしろ心地よく、朝から気分が良くなった。
しかし、同時に嵐の前の静けさでないかと危惧してもいた。
HR開始の五分前。
いつも通り時間ギリギリにクラスに到着。
けれど今日はいつもと違い、クラスが少しざわついていた。
少し気にかけつつも自分の席に荷物を置くき、友人の元を訪ねてみた。
「おはよう、朝っぱらからみんな、何騒いでるんだ?」
「おっす大輝、何か今日転校生が来るらしいんだわ」
「……ソースは?」
「お前の兄貴たちが話してるの聞いた」
「ハッハッハお前は相変わらず地獄耳だな、どちらが兄か分からなくなるような鳥頭のくせに」
「地獄耳でも聞こえない物があるんだよ、君が君の兄貴よりも優れた所とかね」
「「ハッハッハ」」
「余計なお世話だ!」
そう言って俺はのっけからやかましい友人を叩く。
こいつの名前は和田 拓夢。
お調子者で若干うざいと時もあるがノリが良いからか人気があって人望もそれなりにある。
俺はこいつのことをアニメやマンガの主人公よりも主人公らしいと思っている。
人気があって顔立ちも良い方。黙っていればモテるのが普通。
まぁ黙れないのがこいつなんだけどな。
まぁそれを加味してもモテてもおかしくない。人気があって人望もある。顔も整っていてしかも面白い。
それでもモテないのには理由があるわけで……。
「それにしても転校生かーなんか嫌な予感がするな」
俺がアメリカンな流れを断ち切り元の話に戻す。
「なんだよなんだよ、来る途中に曲がり角でごっつんこイベントでもあったのかよ?」
「んや、今日同い年の居候先の女の子がうちに転校してくる予定なんだよな」
「ん?てことはあれか?一つ屋根の下にいる女子がたまたま同じクラスになるかもしれないフラグが立っている……それなんてエロゲ?」
「エロゲでもないしエロゲ展開にもならん!」
とまぁなんとなく察してくれた人もいるんじゃないだろうか……
俺の友人、和田拓夢は見た目さえ良いものの中身は超弩級のオタクなのだ。
俺も話題になるようなアニメやラノベ位なら見るがこいつは見ていないアニメはないんじゃないかというぐらい見ている。
そして等の本人も隠す気は無いらしく、
「和田拓夢です、好きな物は美少女、趣味はアニメ鑑賞とグッズ集めなんでそこんとこよろしく」
と最初のHRの自己紹介で言い放った強者だった。
本人に、「好きなものを好きと言って何か問題でもあるのかよ?ないだろ?だから俺は美少女を追い続ける」
とフィギュアを拭きながら語られたことは記憶に新しい所だった。
「で?その子可愛いの?十段階でいくつ位?あ、八未満はお断りだかんな」
そう言うと胸の前で×を作る。
誤解の無いように言っておこう、拓夢は二次元が好きなのではない、美少女が好きなのだ。
つまり、三次元だろうと二次元だろうと美少女皆平等らしい。
「相変わらずハードル高いよな、まぁ可愛いほうだと思うぜ?」
溜め息をつきながら言うと。
「何何?なんの話してんの?」
と、俺のもう一人の友人が話しかけてきた。
彼女の名前は前田 千穂。
クラスの図書委員で大人しいメガネ女子だが中身は明るめな女子高生だった。
普通に交友関係も多いのだが、とある理由あって俺たちとつるんでいる。
拓夢曰く、「黙っていれば八点の美少女」なのだが……。
「大輝が朝からエロゲフラグ立ててきた話のこと」
拓夢がそう伝えると。
「え!朝からエロゲフラグって何のこと!翔也君と何があったの!!二人のカップリンクに関して今後に影響があるかもしれないから一字一句違わず教えて!!さぁ、今すぐに!!」
叫びながらボールペンをカチカチしながら迫ってきた。
もう分かってくれただろうか……
彼女、前田千穂は飛びっきりの腐女子なのだ。
彼女曰く、「翔也君の誘い受けは私のジャスティス」らしい。
今となってはその日の夜に誘い受けでググった俺を呪ってやりたい。
まぁ根は悪い奴じゃないし実害は今のところないし、一緒にいて楽しいから嫌いではない。
「翔也とは朝から会ってない、それにフラグも立ってない」
カチカチうるさいボールペンを取り上げつつ俺は言った。
「えーじゃあフラグってなんのことなのよ」
前田が残念そう頬を膨らませて言う。
悪かったなお前の妄想通りにことが進まなくて。
「今日転校してくる女子にもうフラグを立て終わってるって話だろ?」
そう言うとニヤニヤしながら拓夢が見てくる。
「お前もいい加減しつこいな、フラグが立つとしたら俺じゃなくてあっちだろ」
俺はクラスの中心でワイワイ騒いでいる集団に指をさす。
「あー翔也君やっぱりモテるからねー女子からも男子からも」
翔也を見ながら前田が言った。
「最後のはわからんが女子からは分けて欲しい位モテるよな」
思わず本音が飛び出す。
「非童貞は死ね」
中指を立てぼやく拓夢。
「落ち着け、聞こえるぞ」
相変わらずやかましい奴らだ。
それでも俺にとってこのゆるい雰囲気が居心地の良い居場所だった。
「はーい、朝のHRはじめるよー」
クラスの担任が入る。
号令の後、すぐに声が掛かる。
「麻友せんせー、うちのクラスに転校生が来るってほんとー?」
「三ツ矢さん情報が早いねー、そうです!今日からうちのクラスに新しい友達が入ります!みんななかよくしてあげてねー」
クラスがざわつき始める。
「はーい、じゃあ入ってきていいよー」
ガラガラガラ……。
前の扉が開く。
そこには予想通りの顔があった。
「初めまして、今日から転校してきました、一ノ瀬凛です、これからよろしくお願いします」
そう言うと凛は深くお辞儀をした。
クラスで色々な声が飛び交う。
なかなか可愛くね?、優しそうな子だなー、俺タイプかもなど様々だった。
拓夢も自分の席で親指を立てていた。
どうやらご満足いったらしい。
「やっぱ転校生って凛ちゃんのことかー、学校でもよろしくねー」
ざわついた空気に割って入るかの様に翔也が言う。
「翔也君じゃないですか、同じクラスだったんですね、学校でもよろしくおねがいします」
そう言って再び深くお辞儀をする。
「なんだなんだー、翔也と一ノ瀬さんはどういう関係なんだー」
クラスのどこからかおちょくったやじが飛んでくる。
「別にみんなが考えてるような関係じゃないって」
翔也が場をまとめようとする。
翔也がそのまま続けて言う。
「そうだよね?凛ちゃん」
「はい、ただ同棲してるだけですよ?」
今この空間に世界中のKY達を集めたとしても空気が読めない奴は一人としていないだろう。
そのくらい一瞬で場が凍りついたのだった。
今朝、言葉を選んで凛のことを天然という事を否定したがその努力を真正面から無駄にしてくれた。
あのバカ……何考えてんだよ!!