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兄より優れた弟の存在を俺は絶対に認めない  作者: 酒井彼方
彼女より努力家な選手の存在を俺は絶対に認めない
19/40

疲労<予定

 長距離走を誰よりも遅く走り終えた俺は水道場で水を浴びまくっていた。


 既に他の選手がゴールしていて周回差をつけられていたに時、さながら、【サライ】が聞こえたような気がした。


 普段から運動しておかないといざと言う時に困る……、身にしみてよく分かったと気がする。


 こっそりと運動を再開してみようか……せめて次にこんな機会があった時にもう少しましな結果になる程度には体力を回復させておきたい。



 などと考えついたのは今となってから振り返った時に抱いた感想だ。

 この時は本格的に思考を放棄し、水を追い求めるゾンビのようになっていたのだった。


「生きかえるぅぅ〜」


 前回と似たようなことをいっている気もしたが実際これしか言葉が出てこないのだからしょうがない。別に語彙力が無いだとかそういったことじゃない、ほら、例えば突然現れたものに対して「あ、」と言ってしまうのと同じで反射的に出てしまう言葉なのだ。


「お疲れ様、シャワーじゃないんだから水道馬の蛇口で水浴びするのやめてよね」


 そう言って本日三本目のスポドリを手渡してくる。


「どうしたんだよ?さっきから妙に優しいじゃねーか」


 俺は水を止めて受け取ったスポドリを飲みながら言った。


「アタシはいつも優しいです〜、それにさ、アタシが頼んできてもらったんだからお礼するのなんて当然でしょ」


 少し得意げに言い切ったサイダー。


「なんだ、迷惑かけている自覚はあったのか」


「アンタみたいに冷たいやつじゃないからねー、そんなことよりも体中びしょびしょなんだからタオルくらい使いなさいよ」


 言われてみて俺は自らの体を見てみると、まるで夕立にでも遭遇したのかのよう、確かにびしょびしょだった。


 ここでふと自分の犯した失態に気がつく。


「……今日、タオル持ってきてねーわ」


「ハァ?何で持ってこないのよ!こうなることぐらい簡単に予想できたでしょ?」


「んな事言ったってお前が飯食う前に急いで俺に家を出させたからだろ!あ〜あ、思い出したら腹減ってきた」


「ほんっと信じらんない!もうしょうがないからアタシのタオル貸してあげるからそれで乾かしなよ、それが終わったら翔也君達とご飯食べに行くよ、おごってあげるから」


「マジ?やったね、俺ラーメンとかがいいなー、牛丼でもいかも」


 柄にもなくはしゃいでみる。基本的に俺はこいつの弱みを握っていることになるので、やりたいほうだいだ。

 それでも拓夢みたいな変態チックな事はしないし、むしろ弱みを使って直接脅したことなど一度もない。むしろ脅される側だ。


「アンタはどら焼きでじゅうぶんでしょ」

 サイダーが自分のカバンを漁りながら投げやりに言った。


「そんなもので喜ぶのは某国民的アニメのネコ型ロボットだけだろ」


「アンタなら似たようなもんでしょ……?あれ?タオルが無い……」


 そう言いながらカバンを漁る手を早めるサイダー。


「あれー?三ツ矢どうしたん?」


 他の部員が心配そうに近づいてきた。


「んー、なんか、アタシのタオルどっか行ったっぽい」


「またー?三ツ矢、最近物なくなんの多くなーい?」


「まぁアタシがおっちょこちょいなだけなんだけどね、悪いんだけど一緒に探してくんない?」


「しゃーないなー、後でジュースな」


 そう言うとゾロゾロと他の部員達も一緒になって探し始めた。



「サイダーそんなに最近もの無くすのか?」


「まぁ、正しくはアタシがどこ置いといたか忘れちゃうんだけどね」


 いつもすぐに見つかるし、とサイダーは続けた。


「そっか、そういえばさ、翔也達は今どこにいるんだ?」


 あまりその件に触れるべきでないと空気を察した俺はこれ以上追求することもなく、無理やり話題を変えた。


「校門のところで待ってるってさ、選手の方が後片付けとかあって解散遅いしね」


「まぁ、そりゃそうだわな」


 その後も他愛もない会話を続けること五分。


「ここに落ちてんじゃん」


 俺達の真横で探していた部員の一人が指を指しながら言った。


「あ、そっか、水道場の上に置いてたのが落ちちゃったのか……」


「全く〜私もビックリしたよ、まさかこんなところにあるとはね」


 正に灯台もと暗しってやつだな……。

 とまぁタオルも見つかったことだし目的を果たさせてもらうとしよう。



「悪いんだけど、早くタオル貸してくんない?流石に寒くなってきた、風邪ひいちゃうよ」


「あ、そっか……はい」


「ありがと……て、ドロドロじゃねーか!」


「しょうがないでしょ!落ちてたんだし、文句言わないの、ほら、拭いたらチャッチャと向かうよ、待たせちゃってるんだし」


「ぐぬぬ」


 俺は仕方なく泥のなるべくついてないところを使い器用に体を拭いた。

 余計に汚くなった気もするが気にしたら負けだろう……。



「なるほど、それでそんなに泥だらけだったんですね」


 ファミレスに向かった俺達は凛から服の汚れを問いただされ大まかな事情を説明していたのだった。


「妙に納得してくれなくていいから」


 同情するより服をくれ。割とマジで。


 普通に恥ずかしいんだよなこれ。


「それで、陸上部に体験入部した感想はいかがですか?」


「別に体験入部したわけではないけどな……物凄く疲れた、明日は一日中家で寝てたいな」


「残念だけど今日は日曜日だから明日学校だよ」


 ニタニタしながら翔也が告げた。


「まじかよ……筋肉痛で動けない待ったナシだわ」


「こんなのを毎日やってるなんて運動部ってすごいですね」


 凛が尊敬の眼差しで翔也とサイダーを見ていた。


「流石に来週も来いとか言わねーだろーな」


「そんなの大輝がぶっ倒れますね」


 そういってクスクスと笑う。

 あの日から凛はよく笑うようになった。


 ようやく緊張感が無くなってきたのかと思うと少し嬉しく思う。


 と、思っている矢先、前の二人がポカンとして俺と凛を見てくる。


「ん?どうしたんだよ二人とも」


「……来週は全部活強制的に休みになるの知らなかったの?」


「へぇ、そうなんだ……なんでまた?」


「凛ちゃんも本当に分かってないの?」


「はい、私、部活動とは関係が薄いので、なんで休みなんですか?」


 俺と凛の前に座る二人ともの顔がお互いに見合わせるとこちらをしっかり見て言ったのだった。



「来週から……中間テストだよ?」


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