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兄より優れた弟の存在を俺は絶対に認めない  作者: 酒井彼方
俺より優秀な弟の存在を俺は絶対に認めない
13/40

不安<確信

 俺達を乗せたバスが目的地のキャンプ場に到着する。


 クラス皆が外にぞろぞろと出ていく。


 一通りの説明を受け荷物を置きに行く。

 この後の予定としては就寝班でカレー作りの予定なのだが……。


「正直、あいつにやらせてたら適当に終わるんじゃないかな……」


「ああ、あいつ料理上手いもんな」

 そういって拓夢が指を指す。


 俺達が居候してからは俺と翔也が代わり代わり家事をしていた。

 俺も料理に洗濯、ゴミ出しや風呂掃除など様々な家事に自信がつくほどやってきたものだが始めた当初は大変の一言に尽きた。それでも蘭さんにやらせるよりは手頃に終わる為、自ら進んでやるほかなかった。

 そんな俺をよそに翔也は軽々と家事をこなしていたのをよく覚えている。


 蘭さんの思いつきで料理対決をさせられた時手際、見た目、味、すべてにおいて負けたのは記憶に新しいところだった。


「少なくとも俺達の出番が無い位にはやってくれるだろ」


「そもそも俺は食べ選だからな、弟の手伝いでもしてこいよ、お《・》に《・》い《・》さ《・》ん《・》」

 そういって俺のことを突き飛ばす。


「お前絶対馬鹿にしてんだろ」


 振り返って拓夢の方を向くと、下手な口笛を吹く男がいた。


 ごまかすならもう少しまともなやり方にしろよ。

 しかも口笛吹けてないし……。


 俺は渋々翔也のいる調理台の当たりまで歩く。


 途中で腐った視線を感じた気がするが無視することにした。


「なんか手伝えることあるか?」


「あー、ならこれ切っといて」


 ゴロゴロとまな板の上に載せられたのは玉ねぎだった。

「了解、適当に切っとくからな」


 そう言って俺は玉ねぎをむき、切り始める。


「他の連中はどうしたんだ」


 玉ねぎを切りながら涙をこらえるために俺は話をふる。


「みんなならあまり料理できないらしいし、足りない材料取りに行ってもらうついでに女子の味見してくればって言ったらすぐいなくなった」

 まぁ蘭さんより出来ない訳ではないけどね、と加える翔也。


 今日の翔也の態度を不審に思った俺は少し考えてから尋ねてみることにした。

「いやに機嫌がいいな、なにかあったのか?」


「何かあったとしてもお前にいう必要あんの?」


「はいはい、それでこそ翔也ですよね……」

 俺は一瞬心配した事を後悔し同時に玉ねぎを切り終える。


「ほれ、終わったぞ」


「ん、後はルーを持ってきてくれるまですることはないかな……」


 切った食材を確認しながらつぶやく翔也。


「こっち終わったから早めに戻ってこいよー、っと」


 翔也がスマホを取り出し連絡をとっているようだ。


 不意に俺は翔也が操作するスマホからぶら下がるキーホルダーに目が行く。



 カラグマ。


 この間みんなでゲームセンターに行った時に凛が俺達にプレゼントしてくれたものだった。


 そもそもカラグマというのはここ最近で流行り始めたゆるアニメのキャラクターだ。


 特徴はゆるく可愛いクマ達と色によるクマの性格の違いが人気を呼んでいるらしい。


 今どきの若者の流行に全くもって無関心な俺はこのクマを貰った夜に少し調べていた。


 俺が貰ったのはカラグマレッド。

 普段は問題を起こすクマ達を注意する少し大人びたクマで、みんなの事を誰よりも考えている心優しいクマだ。


 なぜ俺にレッドをくれたのかは定かではない。

 ひょっとしたら皮肉なのかとも思ったのだが、くれた相手が凛ということもあり深く考えることはしなかった。


「たしかブルーも見たはずなんだけどな……」

 俺は頭の中の記憶を漁ってみるものの全く思い出せない。


「仕方ない、また今度気になったら調べればいいか」


「……何、独り言?気持ち悪いんだけど」


「酷すぎじゃないですかね……」


 俺は少し肩を落として言う。


「おーい、翔也、持ってきたぞー」


「遅かったな、そんなに味見させてくれたのか?」


「味見なんてレベルじゃねーんだよ、なんと一緒に食べる約束して来ちゃったんだぜー」


「たく、お前は女にだらしがないな」

 

「なんだよ、お前は彼女いるからいいだろ、なぁ?翔也もそう思うだろ?」


「ははは、とりあえず料理続けようか」


「そうだな」


 と、切り替えの早い翔也の会話を聞いたところでそれとなーくフェードアウトする俺。


 そのまま拓夢の隣、いつもの定位置へと戻る。


「ただいま」


「ただいまじゃねーよ、さっさとお使い行ってこい」


「お使いってなんだよ?」


「凛ちゃんのカレー貰ってこいって意味だよ!それくらい分かれ!」


「分かるわけねーだろ!てか自分で行けよ」


「はぁこれだから残念兄貴は……」


「次行ったらお前の顔がカレーまみれになるけどいいか?」


「おーこわいこわい、それで凛ちゃんのカレーは?」


「まだ言ってんのかよお前……」


 俺は呆れながらあたりを見回す。


 腐ったオーラを放ちながら近づいてくる気配を感じた。


 恐る恐るその方角をみると着実にこちらに近づいていた。


 その歩き方はどことなく、くさったしたいに似ていた。


「二○ラム~」


 なんとなく乗ってみることにした俺は某有名大作RPGの呪文を唱える。


「グハッ」


「いや、なんでお前が反応するんだよ!」


 隣で倒れ出す拓夢の頬をペチペチしながら言った。


「さっきのは……なに?」


「さ、さっきとは……」


 恐る恐る聞き返す。


「翔也君との絡みに決まってるじゃない」


 ジュルりと唾液を飲み込む音が聞こえる。


「か、勘弁してくれよ~!」



 とまぁそんなこんなでいつもと特に変わらず、ほんわか?とした空気でキャンプは進んでいった。


 俺はこの時までは本当にそう思っていたんだ。



「はぁーい、それでは自由時間終了でーす、各自、就寝班でテントを張る準備をしてくださーい」


 担任の声で皆が準備を始める。


 一部の班を除いてだった。


 その班に先生が事情を聞きに行く。


 俺はその一部始終を作業しながら眺めていた。


「何があったんだろうな」


「どーせ遅刻したやつがいて全員そろってないとかだろ、そんなことよりも今日のシャワー覗きに」


「ちょっと気になるから聞いてくるよ」


 俺はそう言い残して先生の元へ向かう。


「……最後まで聞いていけよ……」


 そんな声が聞こえた気がするが好奇心が勝った俺には聞こえなかった。



「先生、なにかあったんですか?」


「大輝さんですか、時間に遅刻した人がいて全員揃ってなかったので話を聞いてたんですよー」


「なんだ、やっぱりそんなことですか……」


 俺はホットしたように感じつつ心のモヤモヤが晴れないことに気がついていた。


「はい、自由時間の時に少しはぐれてしまったらしいのですが、幸いこの林はそんなにいりくんでないですし大丈夫だと思いますよー」


 モヤモヤが濃くなる。


「その……はぐれてしまった人というのは……」


 そして次の一言で不安は確信へと変わってしまうのだった。




「一ノ瀬 凛さんですよ」

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