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「で? 本当の所はどうなんだよ?」
隣を歩く竜二が、面白そうな顔で俺に尋ねる。一日の授業を終え、太陽も少し橙色を帯びて来る時間だ。俺達の歩く大通りの歩道にも、買い物袋を提げたおばさんや、スーツ姿の人がちらほらと見える。俺は制服のズボンに手を突っ込み、できるだけぶっきらぼうに応えた。
「本当の所って何だよ」
「だからさ、今朝の遅刻の事だよ」
やっぱりそうだと思った。何でか知らないが、こいつは俺の遅刻に興味津々なのだ。
「お前さ、何でそんなに俺の遅刻が気になるんだよ。遅刻したのだって、これが初めてじゃないだろ」
「でもさ、翠が今までになく、気にしてるんだぜ。あいつ、今日一日ずーっと、『大丈夫かなあ』って言ってんの」
「いつもの事だろ」
「いつもの事って言っちゃあ、いつもの事なんだけどな」
俺や竜二に何かがあると、翠はいつも、自分の命をすり減らしてるんじゃないか、と思う位に俺達を心配する。時にはそれが行き過ぎていると感じる事もあるが、俺達はそれを迷惑だとはちっとも思っていなかった。
「まあ、翠を心配させるなよ、って話だ。もしお前に彼女ができたなら、早いうちに翠の所に挨拶行っとけよ」
「あいつは俺の親かよ」
北風が吹いて、俺の首筋を撫でて行った。俺は思わず首を引っ込める。「おお、寒」と竜二は言い、ちょうど通りかかった自動販売機の前で立ち止まった。小銭を取り出しながら、竜二はこう言った。
「でもな、あんまり秘密は作らない方が良いぞ」
その言葉に、俺は思わず訊き返してしまう。
「なんでだ? 何かまずいのか?」
ガコン、と重い音がする。と、竜二は俺の方を振り返りもせずに、出て来た缶を取り出しながら、
「そりゃあ、まあな」
と応えた。
「こっちはお前の秘密が気になるのに、お前が黙ってちゃつまんねーじゃん」
「結局聞き出したいだけかよ」
含蓄のあるアドバイスを期待した俺が馬鹿だったぜ。竜二は「ほっ、ほっ」とか言いながら、熱そうなコーンポタージュの缶を、両手でキャッチボールさせている。俺はゆっくりと再び歩き始め、竜二がそれに追いついた。
「ま、そう言う事だからさ、教えてくれよ」
「いやだよ」
「まじかよ」
「まじだよ」
やがて、大通りから小さな路地への曲がり角へ差し掛かった。俺はこの路地を曲がり、竜二はもう少し先へ行く。
「じゃあな」
「ああ。また明日」
お互いに短く挨拶をして、二つの道に分かれる。
「ちょっとあんた付き合いなさいよ」
「うわっ」
急な呼びかけに振り向くと、そこにはあのふわふわとした金髪が揺れていた。不機嫌そうな顔をして、親指をぐいっと自分の肩の向こう側へと向けている。
「言っとくけど、あんたに拒否権は無いんだからね」
はいはい、そーですか。