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空から魔女がふってきた!  作者: 杉並よしひと
第一章
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 結局、怪しまれない様に別々に家を出たのだが、遅れて来たと言う事だけで、怪しまれるには十分だった。

 教室に着くと、早速後ろから呼び止められる。

「おっす、重役出勤か」

 聞き慣れた声に振り返ると、茶髪をつんつんに立て、だらしなくシャツの裾を出している男が立っていた。

「おう、竜二」

 瑞浪竜二、世に言うチャラ男と言うやつであるが、何と神様はこいつに出来のいい脳みそと、残念な思考回路を与えてしまった。こいつがチャラい格好をしているのは、ひとえに「お勉強バカ」と言われるのを防ぐ為であり、それでも学問、特に数学が楽しくて仕方が無いと言う、呆れた数学バカである。

 俺とは小学生の頃からの腐れ縁だが、確かにこいつにはそう言われて苦しんでいた時期もある。だからといって、高校に入っていきなりこんな格好になるとは、当時は開いた口が塞がらなかった。

「どうしたんだ今日は? とうとうお前にも反抗期が来たのか?」

「馬鹿も休み休み言えよ。俺は思春期まっただ中だ」

「なるほど。って事は、何か女の子絡みの事で、遅刻したのか?」

 うお。一瞬言葉に詰まる。やつはその一瞬を見逃さず、蛇の様なねちっこい視線で、俺の顔を覗き込んだ。

「なるほどねぇ。お前にもとうとう春が来たか」

「いや、来てねえよ」

 ハルなら落ちて来たけどな。

「そうか、残念だな」

 やつはそう言って、憐れむ様な目で俺の方を叩いた。ん? 俺、今かわいそうに思われたのか? 俺、かわいそうなのか? 俺が自信を失いかけていると、竜二とは反対側から、もう一つの聞き慣れた声が聴こえた。

「えー、なになに? ヤマトに春が来たの?」

 少々声の大きい彼女は、こちらも俺の腐れ縁、岡谷翠みどりだ。肩までの黒い髪を揺らしながら、並んでいる机の間をするすると抜けて、こっちへやってくる。

「全然。こいつはまだ冬に生きてやがる」

「うるせー」

「大丈夫だよ。いくら長い冬でも、絶対に春は来るから!」

 本人は全く気付いていないんだろうが、翠は聞いているこっちが恥ずかしくなってくる様な言葉を、するりと言ってしまうのだ。でも、そんな言葉でいつも俺を励まそうとしてくれるし、照れてちゃいかんな、とは思うのだが。

「だめだよ翠。こいつもう手遅れかも知れない。だめかもわからんね」

「ええ? どうして?」

「もう、彼女ができなさすぎて、氷河期に突入してるよ、こいつ」

「好き勝手言いやがってコノヤロ」

「大丈夫だよ。氷河期だって、いつかは終わるんだから」

 翠だけがひとり、悠久のときを生きている。

 別に彼女が欲しくない訳じゃない。ただ、今朝の一件で、だいぶ疲れているのは確かだった。竜二の言った通り、女の子絡みの事での遅刻だったら、どんなに良かった事か。

 ただ、俺が正直に理由を話してしまうと肩から上が無くなるらしいから、俺は嘘を吐いた。

「まあ、ちょっと朝は頭痛がしたんだ」

 あながち間違いじゃない。あんなやつにいきなりあんな交換条件を持ちかけられるなんて、頭痛の種以外の何者でもない。ただ……。

「え? ヤマト大丈夫? もう頭痛は平気なの?」

 ただただ心配そうな顔をして、翠が俺の顔を覗き込んでくる。これも腐れ縁のせいだろうか、あわや体の前面が接触ッ! と言う所まで体を寄せて、俺を見上げて来た。

「熱とか無い? 吐き気とか、めまいとかは?」

 翠の手のひらが、俺のおでこに触れる。翠の吐息が、俺の頬に触れる……。

「だ、大丈夫だよ」

 俺は少々荒っぽく、翠のパーソナルエリアから脱出した。心臓がバクバクと跳ね回り、頬が熱くなって行く。

「まあ、ちょっとした頭痛だったし、そんな心配する事は無いって」

 俺がそうやって言い訳をすると、竜二はにやにやと笑って、

「顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」

 等と言うのだった。

「うるせー」

 俺はぶっきらぼうにそう言って、乱暴に自分の椅子を引いた。同時に、教室へ教師が入ってくる。

「じゃあね。具合悪くなったら、すぐに言うんだよ」

 と、翠が声を掛けて行く。俺はぐったりと机に突っ伏しながら、首だけを縦に振った。

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