可愛いあの子は人殺し(未遂)
はてさてどうしたものかと私は思い、約5秒でどうしようもないという結論にたどり着く。
だって本当にどうしたらよいものか分からない、多分いくら考えても無駄なので私は簡単に考える事を辞めた。
考えを放棄することは好きではないもののこればかりは放棄しても仕方ないと思うし、誰も責める事は出来まい。
あとで今日この時、つまり20xx年1月15日の16時6分を思い出しても、目の前で起こっている、と言うか起こっていた事象について考える事を放棄した事を思い出したとしても、過去の自分について何でこうしなかったとか何でそんなに簡単に思考を停止したのかと責める事も後悔する事も無いだろう。
それくらいの事になっているのだ。
どうしようもない、と言うか、ぶっちゃけどうしていいか分からない。
去年色々あってぶっ壊れた私はちょうどいい具合に精神が変質・硬化してちょっとの事でもテンパる事は無いと思っていたけど、これは流石に混乱せざるを得まい。
さてさて、あんまり描写したくないこの状況を物凄く、と言うほどではないが、事細かにかつちょうどいい感じに端折って適当に400文字くらいで描写してみよう。
夕日に照らされて穏やかなオレンジ色に染まった人通りのない道(自宅までの近道、ちょっと物騒な噂有)
地面に落ちた鞄(私の鞄、ちゅがく、違う中学の頃から使っているからちょっとぼろい、さっき落した)
少し離れた所に立つうるとらすーぱーに可愛らしい小学生(多分3~5年生くらい? 物凄い美少女、だけど服装は赤いトレーナーにジーンズと言う地味なんだかよく分からない格好)。
うっすらと赤く染まっているカッターナイフ(あ、よく見ると私が持ってるのと同じカッターだ~)。
下半身に何も着ていない二十代くらいの男性(モデル並みにイケメン)。
ちなみにこれらの図式を説明するとカッターナイフは美少女の手に握られていて、美少女の目の前に男性が立っている、と言う物になる。
そして私は彼らの立つ道の反対側、彼らと私を点にすると車道に45度くらいの斜線が引けるような位置に立っている。
以上で説明終了。
二人と直線距離はそれほどないが、私がこの距離までまで近付くこれらに気付かなかったのは、単純にたった今曲がり角を曲がったからだった。
まさか夕暮れとはいえまだ明るい時間帯、いくら人通りが少ない、と言うかほぼ皆無と言っていいほどではあるが、毎日のように往復している道でこんな事に出くわすなんて曲がり角を曲がる前には露とも思っていなかった。
詰まる所の結論。
私はこの世に生を受けて約16年、人生初、性犯罪者とその被害者にに出くわした、という事になる。
多分こんな場面に居合わせる事無く生涯を全うする人が多いだろうに、そんな滅多に見る事の無い(てか見たくない)場面にまだ若いうちに出くわすとは何事だ、しかも犯人がイケメンで被害者が超絶な感じに可愛らしい美少女(小学生)、どこのフィクションだと突っ込んでもきっと誰も怒らない。
こんなありえないシチュエーションに出くわした私が思考をぽいっと放棄しても何もおかしい事なんて無い。
誰だってきっと思考放棄するどころか思考停止するだろう。
思考停止になっていないだけ、私はまだましか。
思考放棄と思考停止は似ているようで全く違うという事を理解してもらたい、思考放棄は自分の意志で思考する事を止めているが、思考停止は自分の意志は関係なしに思考が停止する事なのだ、大違いである。
実際私は外的要因によって思考が停止し、強制シャットダウンされて全く動かなくなったパソコンのようになったことが何度もあるが、その時と今は全く違う。
閑話休題、さてさて、この状況、どういう事だ。
考えられる可能性は三つ。
①美少女が露出狂に襲われている(ただし反撃済み)。
②何らかの事故。
③実は全部私が見ている幻覚、または夢。
以上である、もう少し考えれば他の可能性も出てくるかもしれないが、今の所思いつくのはこれだけだ。
できれば③または②であってほしいが、多分②はほとんどありえない。
取り敢えず簡単に確認できそうな③を確認することにした。
「いてて………」
頬を思いっきり引っ張ってみたが普通に痛かった、夢じゃないのか。
ちなみにこの確認方法、去年の夏には使えなかっただろうなあ、とか思った。
こんな事態に陥ったのが去年の夏じゃなくてよかったと思う、去年だったら夢か現実か判断する事は難しかっただろうから。
と言うか判断できなかったから。
しかしあの時と違い抓った頬には痛みがある。
逆なら本気で分からなかったのだが、痛みがあるという事は多分きっとおそらくこれは現実であるのだろう。
取り敢えず③である可能性は消えた、まあ、幻覚であるという可能性も無くは無いが、ほとんどないだろう。
では残りは①か②、どちらかになるのだが、これはもう確認する必要は全くなかったりする。
何故なら。
私がちょうど曲がり角を曲がった時、一番初めに目に入ったのは、美少女の目の前でコートを勢いよく脱ぎ捨てる男の姿だったのだから。
コートの下にはTシャツのみ。
つまり下は何もはいていない。
確認するどころか、ばっちり犯行現場を目撃してしまったのである。
また更に驚いたのはその後美少女がポケットからカッターを出して男に切り掛かった事だった。
カッターはとっさに身を引いて腹部を庇った男の右腕を掠った、多分そんなに傷は深くない、浅くもないみたいだけど。
だけど男がその回避行動をとっていなかったらカッターは男の腹部を切り裂いていただろう。
それにカッターを振った美少女の目には殺意があった。
あの子、本気で殺す気だ。
それにしても何でポケットの中にカッター入ってんのさ。
本当に彼女は小学生なのだろうか?
しかし真っ赤なランドセルを背負っているのだから、小学生だ、てか背丈的に小学生じゃないとおかしいし。
人を殺すつもりで刺すような小学生って現代日本に実在するんだね。
フィクションの中だけだと思っていたぜ。
でもまあ、世の中には自分の片目にカッターナイフを突っ込んで大笑いしているようなキチガイだっているんだから、そんな小学生が存在していてもあんまりおかしくは無いか。
でもそんな人もいるかもなあと想像するのと実際にそう言う人を見るんじゃ大違い何だけどね。
だって今、そう言う人がいてもおかしくは無いという結論に至ってみたけど、脳味噌が上手く働いてくれないし。
一部始終をポカーンと見ている事しか出来なかった私に気付いた美少女は追撃をいったん止めて、突っ立ている私を感情の無い目で見ている(ぶっちゃけなくても怖い、普通に怖い)ちなみに男は背後にいる、正確に言うとこちらから男の横顔が見えている為完全に背後をとっているわけではないが、男は私の存在には気付いていないみたいだ。
こんな状況である、思考を放棄した私は正常だ。
しかし本当にどうするべきだろうか………
一般的にドラマや漫画、小説などでこういう場面にに出くわしてしまった人間がとる行動を思い出してみた。
…………………こんなシチュエーションが出てくるフィクションってあったっけ?
思い浮かばない。
なので、今後自分がどんな行動をすべきか考えて見る事にした。
①通報
②確保
③悲鳴を上げる
④犯人はお前だ!! と高らかに宣言する
うむ、選択肢としてはこんなものか。
①通報、これが一番正しい気がするが、残念な事にそれは不可能だったりする。
なぜなら今日、私は携帯電話を自宅に忘れたからだった。
たとえ持っていたとしても、充電の寿命がかなり短くなっている私のガラケーじゃ、通報している最中に確実に電源が切れるだろう(そろそろ買い換えた方がいいかな?)。
②確保、無理だ。
③悲鳴、上げてどうする。
④、論外だ、高らかに宣言してどうする、ていうかこの場合どっちが犯人になるんだろう。
………詰んだ。
畜生こんな事になるんだったらボディーガードを解雇するのもうちょっとだけ待っていればよかったという後悔にかられたが時すでに遅し。
奴がいればさくっと解決したんだろうけど。
しかし、いないのだから仕方がない。
もうどうしようもないが、このまま硬直していても仕方がないので、そろそろ行動を起こさなければならない。
美少女と目が合ってから約30秒で私はやっと、行動を開始した。
美少女から目を逸らし、腕から血を流している露出狂から目を背け、表情筋をいつもと同じような普通の表情になるようにに固定して、走り出した。
結局私が選んだ選択肢は⑤、全力でスルーして逃げる、だった。
私はなんにも見てません、ここには露出狂なんていないし、血に染まったカッターを握りしめているうるとらすーぱーな美少女なんて存在していない。
自己暗示自己暗示、私は何も見ていない私は何も見ていない私は何も見ていない(以下延々と繰り返し)…………
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏(以下延々)。
「そこ行く中二病なおねーさん、ちょっと待って下さい」
南無あ…………
何故か念仏を延々とリピートしていたら美少女が声を掛けてきた。
それによって露出狂がこちらを振り返って驚愕した。
しかし、聞こえなかったふり見なかったふりをして再び念仏を再開する。
私は何も聞いていない、声なんて聞こえなかった、鈴の鳴る様なロリボイスなんて聞いてない!!
そして私は中二病ではない!!
確かに見た目はそう誤解されてもおかしくないが、断固否定する!
てゆうか何処でそんな言葉覚えたんだろう………
今どきの小学生って分からん。
しかし当然そんな事を突っ込むような事はせずに依然無視、と言うか気付いていないふりを続ける。
「………………………(南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏)」
「中二病のおねーちゃん、これ以上無視されると璃音怒りますよ? カッター投げつけますよ?」
南無阿弥陀仏な………
……………何だって?
Q.これ以上無視するのはもしかして危険?
A.もしかしなくても、危険。
最悪死ぬ。
死にたくはない…………嘘、でもないか。
一年くらい前の私ならこんなに可愛らしい女の子に殺されるのは悪くない、とか言ってただろうけど。
でもまあ、今は冗談程度にしかそう思って無いし、昨日買った抹茶プリンも食べてないし。
だから今は死にたくない。
もう一度だけ南無阿弥陀仏と頭の中で唱えて美少女達の方に体を向ける。
何を言えばいいんだと思っていたけど、どういうわけか私が口走ったのはこんな言葉だった。
「私は中二病じゃない」
いやいやいや、そうじゃないだろう、私。
もっと他に突っ込まなくちゃならない事はいっぱいあるだろうと思うけど、先ほどまで思考をほとんど放棄して念仏を必死になって唱えていた私に気の利いた事を言えと言うのは無理な話。
よって私の中でNGワードになっている単語に反応してそんな事を言ってしまったらしい。
「その中二じみた恰好でそうじゃないと言われましても…………」
美少女はちょっと困惑したような顔でそうつぶやく。
ちなみに露出狂の男は私がいた事にか私の発言の事か、またはその両方のせいかひどく驚愕して思考が働いていないらしい。
ポカーンとした表情で突っ立っているだけだった。
当然か。
こんな場面で交わされる会話じゃないだろう、これは。
しかしどうも私は自分に向けて放たれた中二病という単語に関して人よりかなり敏感であるらしく、続けて私が言ったのは美少女の言葉を否定するものだった。
ほとんど何も考えず、ほとんど反射で言い返す。
「だから、私は、中二病じゃ、ない」
わざわざ文節ごとに区切って、物凄くはっきりとした口調で言ってやった。
重要な事だったので、いや、あんまり重要じゃないだろう。
ちなみに今自分が浮かべている表情は多分半笑いだ。
どうやら私は混乱しているようだった。
いや、分かってたけどね?
「………………」
美少女がなんだか可哀想な物を見る目で私を見ているように感じるのは気のせいだろうか?
ついでに露出狂の男も同じような目でこっちを見ているのも気のせいだ。
いや、気のせいじゃない。
「この眼帯は必要だから付けているのであって、別に邪悪な力を封印しているとかいう架空の設定があって遊びでつけているわけじゃ無いんだよ、何なら今傷跡見せようか? ちょっとグロいかもしれないけど」
私の眼帯の下の眼窩の中身は本来あるべき目玉がないから空洞になっている。
空っぽなのだ。
義眼をいれるつもりはない。
義眼をいれたって、どうせ見えるようにはならないのだから。
だから要らない。
あっても不要だ。
人類の科学力が急に上がって義眼でも普通の人と同じように見えるような技術が発明され、更にその値段が格安にならない限りは義眼をいれるつもりはない。
でもきっとそんな事は起こらない。
私が生きているうちにもしかすると“見える義眼”は開発されるかもしれないが、きっと凄く高いだろう。
だから一生、この眼窩の中は空っぽのままだ。
空っぽになった眼窩と瞼の傷は自分ではもう見慣れてしまったが、小学生(でも殺人未遂犯)にはちょっとグロいものになるだろう。
そう思っての発言だった。
「いえ、結構です」
即答だった。
信用されていなそうだった。
本当なのに。
しかしこれからどうするか。
美少女の方はともかく、露出狂の方にも気付かれちゃったからな。
そんな事を考えているうちにハッと正気に戻った露出狂の男が自分で脱ぎ捨てたコートを回収して着込んだ。
回収して着込むまで何秒も経っていなかっただろう、人間ってあんなに俊敏に動ける物なんだなあと感心するくらいの早業だった。
そして露出狂はそのまま逃亡した。
陸上部にでも入っていたのかと言うくらい足が速かった、もうその姿さえ見えない。
後に残ったのはは露出狂の動きの速さに不覚にも唖然としてしまった私と美少女だけだった。
……………………………帰ろう。
そう思って私は歩き出した。
だけど美少女に呼び止められた。
「………何の用? 私はさっさと帰りたいんだけど」
ええ、本当に帰りたいんですけどね、切実に。
帰って着替えて布団にもぐりこんでついさっき見た光景をさっさと忘れ去りたいんだよ。
美少女は私の言葉に困惑していた、そりゃそうだろう。
私だってもし逆の立場で目撃者にこんな反応をされたら困惑するしかない。
困惑、というか呆れるかもしれないけど。
「えーと………あの………貴方見ましたよね?」
「何を?」
逆に聞き返してみたら美少女はさらに困惑した。
私はニコニコ笑いながら美少女を眺める。
作り笑いは得意だ。
意地悪く笑いながら無言で美少女を見る。
「…………」
美少女は、おろおろし始めた。
……………何でだろう、自分が物凄い悪人っぽいことしているような気分になって来た。
何も悪い事なんてしてないのに。
だけどこれ以上やるのはなんだか可哀想なので口を開く。
「…………帰っていい?」
美少女は思わず頷きかけたけど、
「駄目です」
とすぐに否定した。
ちぇ、駄目かあ。
「…………駄目?」
「駄目です」
「何で?」
「だって貴方見たでしょう?」
「何を?」
振出しに戻った。
このまま延々とループが続かないといいなあ。
と、思っていた美少女は意を決したような顔をしてから、物凄く小さな声で呟いた。
「……………………………璃音が…………あの人を切ったのを…………」
小さかったけどちゃんと聞こえた。
にしてもこの娘の名前リオンっていうのか。
自分の事を名前で呼ぶの癖なんだろうけど(私も小さい頃そうだったし)、こんなに簡単に個人情報を見知らぬ人にばらさない方がいいと思うけどなあとか考えた。
さて、どう答えるか。
見ていないと答えるのは簡単だが、信じやしないだろう。
見ていない、と答えたいんだけどね、本当は。
だけどそれが無理なのは分かってるよ。
相手に自分が見た事を知られちゃってるから、どんなに見てないと取り繕っても無駄だ。
たとえ見た物をどんなに否定したくとも、ね。
見てしまった事を否定したくても出来ない事なんていくらでもある、それが見た側、見られた側両方がその事実を否定したくても。
そんな事、前(正確に言うと去年の6月)から理解してるし。
これもきっとそれと同じ事なんだろうね。
だから嘘吐きな私にしては正直に、やっぱり小さく、美少女と同じくらい小さな声で答える。
「見たよ」
見たくはなかったんだけどねえ、とは付け足さなかった。
美少女は私の回答を聞いてびくりと肩を動かした。
「見ましたか」
「うん」
「見ちゃいましたか」
「うん」
「………………それであなたはどうするんですか?」
美少女の瞳は不安で揺らいでいる。
そりゃそうだろうと何の感慨も無くその目を見て(でも可愛いなあとかちょっと思ってた)、やっぱり何の感慨も無くその疑問にさらっと答える。
「何もしないよ」
「……………え?」
美少女、リオンちゃん(もうこっちでいいか)は目を見開いて、口をポカーンと開けた。
小さい子はリアクションが大きくて可愛いねえ。
なんて思ってニヤニヤしてみたり。
まあ、私は小さい頃反応のうっすい愛想の無い子供だったんだけどね。
ちなみに姉は物凄いリアクションの大きい子供だった、今もだけど。
自分の感情をとても素直に表せる人だからね、私の姉さんは。
私とは真逆だ。
「何もしないって………璃音の事、警察に通報したりしないんですか?」
リオンちゃんは訳の分からない不可解なものを見る様な目をして呆然としている。
「しないよ、大体こんなうるとらすーぱーに可愛らしい美少女が切ったなんて言っても誰も信用しないし、あの男逃げちゃったから証拠ないし、私が頭のおかしい人扱いされて精神科のお世話になるだけだよ」
現在進行形でお世話になってるんだけどさ。
でもそれは黙っておこう、今言う必要のない情報だ。
サボり気味だしね。
「……………でも」
リオンちゃんは全く信用していないようだった。
いや、この言い方には語弊があるな、信用していないというより、信じられない、と言った方が正しい。
信じられないだろうなあ、逆の立場だったら私だって信じない。
だけどね、私は厄介事が面倒なんだ。
見た事は肯定しよう、だけどそれを誰かに言う気は全く無い。
言触らしたって、どうしようもない。
あの時と同じようにね。
「約束しよう、私は今見た事を誰にも言わない、黙っておくよ、だからリオンちゃん、私を口封じのために殺そうとか考えないでね」
だからそう笑って言った。
そしたら思いもよらない反応が返ってきた。
「そんな事するわけないじゃないですか!! 私を何だと思ってるんですか!?」
顔を真っ赤にして叫ばれたんだけど、これってどういう事なんだろう。
そんな事=私を殺す、って事で間違いないと思うけど………
口封じの為に人を殺すと思われた事はそんなに心外な事だったのだろうか?
普通に目撃者である私はその事を真っ先に心配していたんだけどな………
てかさっき私を引き留めるために私にカッターを投げつけるって脅したのは君じゃないか。
そんな顔真っ赤にして怒らなくても…………
何だと思ってるんですかって言われてもなあ……
うーん、何と答えるべきか、相手は小学生とはいえ本気で人に切りかかる娘(未だに血塗れたカッターを所持)だからなあ。
下手に嘘を吐いて相手を刺激するよりも正直に自分の考えを言ってしまった方がいいのだろうか?
数瞬迷って結局素直に答える事にした。
「ええと、美少女傷害犯?」
そのまんまだった。
ストレートすぎだった。
何の捻りも無い、私にしては珍しい本当に素直な回答だった。
「………………………………」
リオンちゃんは無言だった。
「…………………………………」
私は沈黙に沈黙を返した。
かあーかあー、と頭上で鴉が鳴いた。
それ以外は何の音もしなかった。
この道本当に静かだよなあ、あれからもうそれなりの時間が流れてるのに全然人通らないし。
もし今誰かがここを通りかかったらどうなるのだろうか?
ふとそんな事を考えた。
神妙な表情で顔を突き合わせる小学生と高校生、小学生の手には何故か血塗れたカッター。
シュールだろう。
無言で回れ右したくなるくらい。
「ねえ」
「何でしょうか?」
「ここじゃ何だし、取り敢えず移動しない?」
「……………分かりました」
リオンちゃんは私が出した案に素直に首を縦に振ったのだった。
やっぱり小さい子って素直だよなあ、悪い人に簡単に騙されそうだなあとか、他人事ながらとちょっと心配に思った。