焚き火を見ながら
カルストスの解体が始まった。
1匹目の解体は、魔法を使い、2匹目の解体をお願いしたグループの方に、説明するように丁寧に行った。
私が次々に道具を出していくのは、彼らの驚かせたかな。
「このように、捌く時は一気に捌いて下さい。そして、この手順どおりに解体すれば、血は全てここに集まります。そうすれば、肉からきれいに血が抜け、加熱した後、きついに匂いが発生することもありません。」
その横では、解体した肉を焼くべく薪が並べられていた。
切り倒したばかりで燃えない可能性もあるので、魔法を使い、乾燥を進めておく。
「今日は久しぶりの宴になりそうです。」
レーニス、か。
「そうですね。これまで色々あったでしょうから。」
「ソラ様、いくつか、お伺いしたいことが。」
「どうぞ。」
答えられる質問であればいいのですが、と心の中で呟く。
「先ほどのカルストスの首を切り飛ばしたあれは―」
「ご想像の通り、魔術で身体強化を。」
「なるほど…。魔術の使い手、でしたか。」
パチパチと薪が燃える音が聞こえる。
レーニスが口を開く。
「魔術の使い手が残っているとは思いませんでした。」
「私以外の使い手をご存知なんですか?」
「昔に手合わせをしたことがあります。その使い手も強かった。ただ、その使い手も―」
「私ほどの威力は無かった、ですか?」
「その通りです。あのときの相手も相当の使い手でしたが、戦闘態勢に入ったカルストスの首を落とす威力があったとは思えません。それだけの威力があれば、私も死んでいたかもしれません。だから不思議なのです。あの時の相手、あれは…。」
「巨人族、もしくは、巨人族の加護を持っていた…。」
「…。どうしてそれを…。いや、あなたが魔術を使えるのであれば、それを知っていても、不思議ではない。
こちらの大陸には、それを知っている者も殆どいないはずですが…。昔はそれなりに魔術の使い手がいたようですが、徐々に少なくなり、今は本当に少ない。」
レーニスは…、私から何が聞きたいのだろうか。
単に会話がしたいだけとも思えないが。カルストスの首を落とした時は、魔術にくわえ、風属性と、光属性を少し加えていた。
複数の属性魔術の融合はレアな特殊能力だから、レーニスには何が起きたかは分からないだろう。
少しこちらから振ってみるかな。
「レーニスさんは、魔術についてどこまでご存知ですか?」
「身体強化、ができるとしか。」
なるほど。
間違ってはいない、が、彼には正確に理解してもらっておいた方がいいかもしれないな。
「基本的にはそれであっています。ただ、普通の身体強化なら、属性魔法でもできなくは無い…。魔術の身体強化は属性魔法による身体強化とは、原理が異なっているんですよ。」
「どういうことですか?」
「端的に言ってしまえば、魔術の身体強化には、限界が無い。」
「限界が無い?」
「そうです。通常、属性魔法を使用した身体強化の場合、魔力が続かなくなるとその効果が切れます。それに対して魔術の身体強化は、周囲の魔素を利用して、というよりは体内に取り込んで強化を行います。」
「周囲の魔素を取り込む?」
「そうです。魔術を使うポイントは大きく分けて3つ。
1:どれだけの魔素を取り込むか
2:どの部分を強化するか
3:どの程度強化を維持するか
の3つになります。」
「なるほど、それはつまり―」
「そうですね。取り込んだ魔素が大きければ大きいほど、同時に強化できる部分が多くなり、、強化できる時間も長くなります。それに、魔素が多い場所、例えば、洞窟の深部や、相手が魔素を多く放っている時、例えば強大な魔物と戦うとき、もしくは、魔力が多く放出される魔導師が多くいる戦場、そういった場所で戦う場合、魔術使いは非常に強大な戦闘力を発揮できます。しかし―」
「その魔術を使用する体は、そうではない、と。」
「魔術を使用する場合、大きく強化した能力により、体に相当程度の負荷がかかります。そのため、術を維持し、体を守るため、適宜回復しつつ戦闘しなければいけません。単なる戦闘狂では、魔術を使いこなすことは不可能でしょう。そして、それは同時に最低2つの術を使用できる必要があります。それも、静かな部屋に1人で集中している状態ではなく、目まぐるしく状況が変わる戦場で、です。それに、取り込んだ魔素により、自身が狂化しないように、魔力で狂化への衝動を抑えて込んでおかないといけない。」
「なるほど。中々に制限の多い能力のようですね。そこらへんが、使い手が減っている理由ですか。」
「使い勝手は確かに良いとは言えません。とはいえ、私のように瞬間的に威力を上げることができれば、これほど便利な能力はありませんよ。結果は、先ほどお見せしたとおりです。それに…、魔術の真価は、身体強化にあるわけではありません。」
「…。それは…。」
「その時が来れば、お見せします。」
「なるほど…。」
「ああ、そうですね。後一つ。おそらく、レーニスさんは、こちらも聞きたかったと思うので。ご想像の通り、皆様の魔力核を再生するときに、ほんの少しだけ、魔法をかけてあります。私に好意を持つように、私の言葉を信じやすくなるように。」
「なるほど、それで、彼らが素直に従っていたわけですか。」
「そんな強力なものじゃないですよ。それに、私に実際好意を持った段階で、効果が切れるようにしてありますから。」
「どうして、そんな回りくどいことを?」
「最初だけで良いんです。最初だけ、私の言うことを聞いてもらえれば。後は、私の行動によって展開される、目の前の現実を見て判断してもらえれば。」
「なるほど。自信がある、と?」
「そうですね。そこは期待してもらってもいいですよ。」
そこまで話したところで、サクラがとことこと歩いてくる。
こちらに両手を挙げてくるので、抱きかかえる。
「おにくやけたよ。」
どうやら、結構な時間話し込んでいたようだ。
いつの間にやら、サファイアまでも居た。
「ソラ様、そろそろ行きますか?」
「ええ、焼肉にあう、とっておきの飲み物があるんです。」
「ほほう。それは楽しみです。」
そういいながら、香ばしい匂いを放ち、肉が焼けている場所まで、サクラを抱きかかえ歩いていった。
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