狩り
前半_ソラ視点
後半_ロソル視点
島の周りに結界を張っていく。空から近づくことができないように。
その他にも、少しだけ自然に手を加える。魔力を使い、海流を操作する。船ではこの島に近づけないように。
一連の動作をサクラがじっと見てくる。
「どうした?」
「だっこ。」
そう言って手を上げてくる。私の魔力から無言の言葉が伝わっているのか、当初の怯えた様子は見られない。
このあたりはさすがダークエルフといったところか。
サクラを抱き寄せ肩に乗せる。
一通り最低限の準備を終えたところで、サファイアを見る。
まだレーニスとやり合っているようだ。その様子をみていると、こちらに気づいたのか、レーニスが近づいてくる。
「狩りに行きませんか?とりあえず、今日の寝床を確保することと、周囲の安全を確認する上でも、この場所からある程度は森を切り拓きませんと。それに、どの程度闘えるか確認もされておきたいのでは?」
こちらの考えを呼んだかのような質問をしてくる。
「そうですね。サクラも、私の魔力で回復させたとはいえ、お腹が空いてるようだし。
肉でも狩りに行きますかね。」
その言葉にサクラがピクッと反応する。肉を食べたいのは分かっているよ。
この世界の魔物は、強い。
1対1ではレーニスほどの使い手でも苦戦する魔物が多い。
そのクラスの魔物はめったに出会うことは無いが。
それでも、魔物を狩る者は後を絶たない。それだけ得るものがあるから。
魔物は無駄にするところが無いほど利用価値がある。
毛皮は防具に、肉は食物に、牙や爪は武器に、内臓や血は薬に使うことができる。
強力な個体ほどその効果も高い。
固体の強さが上がれば上がる程、強力な武具に、美味しい食物に、効果の高い薬に利用することができる。
その前に。
「この水晶に手を入れてもらえますか?」
そういって、サッカーボールくらいの水晶を目の前に出す。
「これはなーに?」
よこからサクラが訊いてくる。
「ちょうどよかった。サクラ。手を入れてくれる?」
そういうと、サクラが水晶に手を入れる。
水晶が光り、サクラの腕にブレスレットが装着される。それに合わせて、手の甲に紋章が浮かび上がる。
本来は紋章は個人に由来したものになるが、サクラの紋章は桜にした。
この世界に桜はないので、サクラだけの紋章になる。
驚いているサクラに説明をする。
「この紋章は、黒、白、緑、黄色、赤、青、紫の順に色が変わっていく。サクラが十分に強くなったと思ったら、この水晶に手を入れて見るといい。条件を見たせば、色がどんどん濃くなり、漆黒の黒の次が白だ。今は、薄い黒だね。それに紋章は今は手の甲だけど、別に手の甲がいやなら、体中のどこでも移動させることができるから、自分の気に入った位置にすると良いよ。」
この水晶の目的はそれだけではないけどね。
レーニスには狩りが終わったらどういう効果を付加するか相談しよう。
いろいろ考えがあるが、とりあえず、今はGPS機能と、致命の攻撃を受けたときの強制転移、の2つか。
強制転移の場所は…いったんこの浜辺にするか。
そうしていると、全員、水晶への登録を行いこちらに集まっている。
そこで、先ほどの説明を再度行い、森で狩をするグループと浜辺にて本日の寝床を作成するグループに分かれた。
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どうしても一緒に狩をしたいというロソルという青年を加え、5人で狩をすることにした。
残りの10人は浜辺近くの森で狩をしつつ、簡単な寝床を作ることになった。
「これからカルストスを狩に行きます。」
ロソルが絶句している。ふふ。良い反応だね。
彼なら、この後予定している旅にも一緒に連れて行けるかもしれないね。
サクラは相変わらずきょとんとしている。
カルストスは大型の魔獣で、極めて獰猛な部類に入る。
牛を大型にしたような魔物で、力が強く、森に生息する魔物の中では上位に入る。
何故この魔物にしたかというと、この近辺に居る魔物の中では最も美味しいらしい。
らしいというのは、継承者の知識から引っ張ってきたから。
継承者も味覚が色々らしく、知識を検索するとカルストスは評価が真っ二つに割れていた。
今後、誰の味覚を参考にするかも合わせて、検証しておかないと。
「2匹ほど狩ることができれば十分だと思う。1匹めは私が狩るから、2匹目をサファイアとロソルの2人をメインにサポートをレーニスさんで。」
「ソラ様は1人ですか?」
なぜかレーニスは私のことを様付けで呼ぶ。
旅にもついてくる気のようだ。まあサファイアをなだめる役をお願いするとしよう。
「そうだね。サクラにも色々見せたいし、僕も魔獣の力を確認しておきたいのもあるし。後、闘うときは火の属性は使わないように。できるだけ、それ以外で。レーニスさんもロソルも2種類つかえるようだから、問題無いよね?」
ロソルが目を閉じる。
彼らの得意とする魔法が使えないのでその表情も分からなくはないが。
今日の予定は、焼肉なのでここは我慢してもらおう。それに血抜きをせずに焼くと、血の香りが肉についてとても臭いがきつくなるらしい。
「サクラ。これから私の闘い方をみせるから、学んでいくように。」
「ん。がんばる。」
良い子だ。この年齢から鍛えれば…。どこまで成長するか。将来が楽しみだな…。
なぜかは知らないが、ダークエルフを見下す傾向が強い魔族、それと自分達以外の存在を亜人といって差別している人間達、彼らの驚く顔が楽しみだ…。
サクラは、ゆっくり育てていくことにしよう。
森を進んでいくと、程なくしてカルストスの番を見つけた。
「あれにします。ちょうど2匹いるので、オスは私が対処します。メスをよろしくお願いします。」
サファイア達3人に伝えると、獲物に向かって駆け出した。
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俺の頭はとにかく混乱していた。
「メスをよろしくお願いします。」
そう言うやいなや、彼はカルストスに向かって走り出していた。
左手には、サクラといったか、ダークエルフの子供を抱えている。
そんな状態でどうやってカルストスを倒すつもりだ。武器すら持っていないじゃないか!!
そんな疑問を吹き飛ばすかのように、カルストスめがけて弾丸のように突っ込んでいく様子を後ろから眺める。
「あり得ない…。」
思わずそう呟いてしまった。
手刀でオスとメスの首を切り飛ばしてしまった。カルストスの皮膚を武器も持たずに切り裂く。
彼は何者なんだ…。
お嬢から概要は聞いたが、とても信じられるものではない。
俺とて自分の体に起きたことが無ければ、鼻で笑っていただろう。
14人分全員の魔力核の破壊と再生を瞬時に行うだけでなく、強制転移も発動させている。
何人かは、あいつらの結界内に囚われていたというのに。
転移が終わった後に、島の周囲にも何かしていたようだし。
敵……じゃ無くてよかったな。
そんなことを思いながら、こちらを手招きしている彼のほうに行く。
どうでもいいか。とりあえず、今日はカルストスの焼肉だ。自分で言ってて笑ってしまう。
カルストスの焼肉なんて、早々食えるもんじゃない。
今はただ、お嬢が運んできてくれた幸運に感謝しよう。
この後、彼は旅に出るらしい。
絶対にその旅には付いていく。そんなことを考えていた。
読んで頂きありがとうございました。