サクラ
「死にたいのか?」
横たわる女性にそう尋ねる。
このままにしておいても、そう長くは持たないだろう。
もう命が尽きかけている。
ちびが服の裾をひっぱり、何か言いたそうにしている。
「少し待ってな。この女性から必要なことを聞いたら、すぐに喋れるようにしてやる。」
その言葉に、また驚いて固まるちび。ほんとに表情が面白いな。
しょうがないので、抱きかかえて肩に乗せる。
「ここから出て行け。今なら殺さないでおいてやる。」
どうしてこうリプカ族というのは一族以外の者を見下すのかね。
過去はお互いに協力していたはずなんだか。
どこかで何かあったんだろうか…。
「お前を追っていた同族の4人ならもう居ないぞ。」
「居ないだと!?馬鹿なありえない。あいつらがあきらめるはずが無い。」
何故そんなに驚くのかと首をかしげつつ、言葉を続ける。
「もう君を追いかけるのは永遠に不可能だよ。すでに殺したからな。いや、正確には、燃やした、かな。」
よこでちびがコクコクと首を縦に振っている。
「燃やしただと!?」
女性がこちらの言葉に反応する。
へぇ。このリプカ族…。
「おい、私の質問に答えろ!!」
とりあえず、こっちも聞きたいことがあるから、やるべきことを先に済ませるか。
「燃やしたよ。灰も残さずな。」
そう答えた後、4人組と対峙した時と同じくらいに魔力を開放していく。
魔力というものに慣れていないのもあり、上手くコントロールできない。
内包している魔力量に呆れるしかない。
「それに2つ気になることがあるんだが、死ぬ前に答えてくれるとありがたい。」
「人間に答えることは何も無い。」
はぁ。またこれか。しょうがない。
答えは分かっているけど、とりあえず今後のことも考えて確認しとくか。
こちらを凝視している彼女を見る。
燃えるように赤い髪、同じく深紅の瞳は自身の命が尽きかけているはずなのに
力強くこちらを見据えていた。
「君の魔力核。明らかにおかしいね。なぜ、そんな物を付けているのか。誰かに人質でもとられたかな。その装置は…。」
そこまで言って言葉を切る。
「君の魔力核。何かを無理やり閉じ込めているからかな。もうすぐ限界を超えて崩壊すると思うよ。」
そこで初めて彼女が会話らしい言葉を喋る。
「あなたの持っている魔力、龍を軽く超えている。その魔力量で狂っていないとはどうゆうこと?。そして、私達の一族のことだけでなく、魔力核にも詳しい。あなた、いったい何者?」
言葉が柔らかくなる。こちらに興味を持ったかな。これで少しやりやすくなった。
「もう一度聞くよ。このまま死にたいか?」
目を閉じる彼女。
「死にたくはない。しかし、最低限のことはした。
後は残ったものが私の意志を継いでくれるのを祈るだけだ。」
そう言うと彼女は静かに目を閉じた。
どうやら、ここで彼女は命を閉じる選択をしたようだ。
私は彼女の意志を尊重し、その命が尽きるのを見守ることにした…。
何があったか、興味が無いわけではないが、
他人の選択をあれこれ言うつもりも無いので、少しおしゃべりをすることにした。
彼女が答え終わると同時に魔力核と装置がある場所を貫き、破壊する。
そして、私の魔力で魔力核を作るとともに、魔法陣を展開し、破損箇所を治療していく。
時間的には一瞬だから、彼女には何がおきたか分からないだろう。
そして、左手には、彼女の体内にあった魔力核と装置、そして封じ込められていたモノが姿を現した。
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なるほど、これがその正体か。
体が炎で包まれる。
ちびが肩に掴まっているままだが、私の魔力で覆っているから大丈夫だろう。負の感情に長期間晒されていたからか、それなりに強力なようだが、相手が悪かったな。
「この程度の炎、私を焼くにはいささか温かったようだ…。」
先ほどから、この部屋を覗き見しているやつに聞こえるように喋る。
ここまでは自由にさせていたけど、ここからは部外者には退場願おうか。
結界を張り、魔力を遮断する。
押さえ込むと、手のひらに、精霊が佇んでいた。
いきなり腕を駆け上がっていったかと思うと、肩につかまっていたちびの体に入っていった。
ちびが気に入ったのか。
まあ、ダークエルフだからな。精霊に気に入られるのは当たり前か。
そして、ちびの方を向いて驚いた。
「桜」
思わずそう呟いた。
それまでの漆黒の髪から、透き通るような美しい淡いピンク色に変化している。さっきの精霊の影響か。
「サクラ?」
ちびが呟く。そして自分が喋れることに驚いたのか、それはもう笑えるくらいの顔をしていた。
「喋れるようにしておいた。ちび。お前の名前は今この瞬間からサクラだ。」
深い蒼の瞳と淡いピンクの髪、そして褐色の肌の対比が美しい。今はまだ幼いが、成長すれば美しくなるだろう。
もう、私の女にすると決めたが。
「ありがと。」
耳元でそう呟いたサクラは、満面の笑みで泣いていた。
「私にも名前をくれないか。魔族は魔力をコントロールするのに名前が必要なんだ。」
魔族から声がかかる。そして…。
「美しいな。サファイアのように美しい蒼だ。イグニース家の髪の色。
我が名ソラの名を持って命名する。今日から君はサファイアだ。」
サファイアという名前と与えると、瞳の色が深い青紫に変化する。私の魔力の影響が出たようだ。
ともかく、彼女から事情を聞くことにした。
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