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継承者の旅  作者: kking2
第1章
3/16

継承者

ここはどこなのか。分からない。僕には何も分からない。

倒れているところを通りがかりの隊商に拾われ、その後奴隷として売られてここにいる。


何か考えようとするとひどく頭が痛い。だからいつからか、考えることをやめていた。


毎日決まった時間、僕は外を見る。

換気のために天井に空けられた格子付の穴。そこから見える景色が、今の僕のすべて。

透き通るような蒼い空、そして、黒い海に浮かぶ光の大河。

ごく稀に見えるその二つの景色が今の僕のすべて。


僕がほかの奴隷よりほんの少し優遇されている理由

なぜか分からないが、採掘すべき場所が分かっているみたいに、僕が指し示す先からは良質の魔鉱石が取れる。

この能力のおかげで、これまで比較的大事に扱われてきた。

何人もの奴隷が魔物の襲撃や、事故によって命を落としていく中で、僕は生き残ってきた。


そんなことを考えていると、いつものように声がかけられる。


「918号、そろそろ時間だ。」


僕がここに連れてこられてから、どれだけの時が経ったのか。

声をかけてくる衛兵も代わっていき、彼で6人目。



衛兵につれられ、場所を示す。何千回と繰り返してきた日常。

今日も何事もなく一日が終わる。


部屋に戻る。

黒い海が頭上に見える。


ああ、そうか。

今日は、光の大河が見える日だったのか。

この光の大河をみるとなぜか落ち着く。


なんとなく見上げていた時、何か違和感を感じる。

あたりが緊張していく。


外で衛兵の声が聞こえる。


「おい、見張りの定期連絡は来たか?」


「まだです。それより、どこから沸いたのか、魔物が入り込んできています。」


「魔物だと?ありえん。918号からの警告は何もなかった。それにこの魔鉱石の発掘場はファルサイ家の管理。襲撃したらどうなるか、知らぬ馬鹿も居ないだろう。刃向かうものは悉く皆殺しにされてるはずだからな。まあいい。魔物もそこまで強いやつらではないようだ。とりあえず、現状回復を急げ。」


----------


外の慌しい衛兵のやり取りが、聞こえてくる。

この部屋は結界がはられており、許可が無いと入ることができない。

確かに衛兵が結界を張ったはずなのに……。


いつからいたのか。

気がつくと目の前に、一人の壮年の男性が佇んでいた。


「ようやく見つけることができたよ。私が終わる前に見つけることができてよかった。」


その男性はそう呟くと、聴いたこともない言葉で詠唱を始め、光り輝き始めた。

その光が部屋を包み、僕の体に入り込む。



痛み、悲しみ、喜び、怒り、そんな感情の渦とともに、膨大な力、魔力、そして、経験、人生、そういったものが流れ込んでくる。

そして、僕は、いや私は、すべてを思い出した。


あの日、今から450年前に、起きた出来事。

今では原因不明なそれは、こう呼ばれているらしい。


『閃光の日』と。


----------


光が収まると、私の頭の中で言葉が鳴り響く。


『私は8代目の継承者。了承もとらずに継承の儀式を行うことを許してほしい。初代継承者が捻くれものだったのか、2つ呪というか、制限がかかっていて、過去の継承者全員と対話が完了しないと、強制的に発動するようになっている。膨大な力を得るための代償といったところか。本来ならば、お互いの了承を取るのが前提となっているんだが、君の場合は、それができなさそうな状態だったから強引に進めさせてもらったよ。私のほうもあまり時間が残されていなかったのでね。』


本当に、自分勝手だな、と呟きながら、続きを聴く。


『7代目の継承者が言うには、人間の継承者は私で2人目ということらしい。らしいというのは、私は2人しか対話を完了させることができなかったこともあり、実はあまり詳しくはないんだ。3人目の対話に失敗し、呪いが発動し てしまった。それが450年前の、閃光の日だ。その日から、次代の継承者を探すことに殆どの時間を使ってきたよ。もし君が見つかっていなかったら、私は呪いにより狂化していただろう。そして今日、本当の君を見つけた時、君が選ばれたことに納得したよ。その状態でも私と互角以上に戦えるだけの魔力を持ち、器としての強度も申し分ない。歴代の継承者達の喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。なぜ、他人のすべてが継承できるのか、それは私には分からない。それは7代目も同じだ。過去最高の継承者といわれている4代目でも初代との対話は完了させることができなかったらしい。』


『さっそくで申し訳ないが、今すぐ対話の儀式を始めようと思う。これは本当に一瞬で終わる。受け入れることができるか、できないか、それしか無いからね。何の準備もいらなよ。できる場合は、すまないが私には分からない。なにせ2人しか完了させることができなかったからね。できない場合は呪いが発動する。それでは始めることにする。』


おい、じじい、ふざけんな。

呪いだと?

そう呟こうとした刹那。

地球に帰りたいという私の想いを無視するかのように、その儀式が開始された。



そして、時間にしてほんの一瞬、時と交わるような、不思議な感覚に包まれ、私は…。


私は突然理解した。すべての継承者との対話が完了したことを。

初代から始まり、8代目までのすべての想い。


この世界も中々に業の深い人間が居るな。

私ももと居た世界では、およそ常人とは思えない業の深いことをした。後悔は…無いがね。

そんな私に、これほどの力…。

今さら遅いんだよ、今さら。


不思議だ。望んだときには全く手のひらの中に無かったのに。一瞬にして、私の全てが手のひらから零れ落ちるあの感覚……。


この体になっても、その絶望からは救われないようだ。

相変わらず色が見えない。この世界がどんな色をしているか。

今の私には灰色しかない世界だ…。

先代達の想い、それに向き合えば、私の渇きも満たされるのか。

もう眠るつもりだったが…。

とりあえず、どんな世界かだけでも見ておくか。気に入らなければ、その時は…。


初代の記憶が、ほんの一瞬だけ頭の中に浮かぶ。

『外が見たいの……。私は……だから、ここから出れないから、だから……。』

なるほど。元々は……のためか。


ふと、私のもっとも大切だった人が語った言葉が響く。

『昨日より、希望が持てる明日』…君が好きな言葉だったね。

この世界で、彼女の理想を追いかけてみようか。

そして、できる限り先代達の………。


外が慌しくなってくる。

この部屋に衛兵が来てもどうということは無いが、そうだな。

存在しない亡霊でも追いかけてもらおうか。


継承の儀式が完了したことで、私の肉体はアマルナによって召喚された時からさらに変化しているようだ。

手元に鏡が無いので、どのように変化したかは分からないが…。


ここで居なくなれば、誰が連れ去ったかわからないしな。まさか継承の儀式を済ませ、全くの別人になってるなど、想像すらできないだろうしな。


そして、目を開くと、足元には転送の魔法陣が浮かんでいた。

私は、魔法陣を発動させると、慣れ親しんだ、といっても味気無い部屋だったが、その場所を離れ、まだ見ぬ場所へと転移した。

読んで頂きありがとうございました。

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