目覚めた先で
なんだここは??
それが率直な感想だった。
病で体の自由が失われ始めてから死ぬまでの10年、私は…。
私が為してきた事は、行き先が地獄でもぬるい程苛烈だった。
それでここが地獄かと思い、目の前にいる存在を忘れ
「ここが地獄か?」そう呟いた。
「ジゴク?それは何のことを言ってるのかしら?
言ってることは意味不明だけど、言葉は分かるから、言語関係の魔方陣はまあ成功ね。」
こちらを眺めながら、女が喋る。
「言い忘れたけど、私はアルマナ。あなたをここ以外のどことも分からない世界から召喚した張本人。
そして、あなたの主となる女よ。」
「主だと?」
「そ。私の言うことに従うように召喚魔方陣を描いたからそうだと理解できるはずだけど?
だから、余計なことを考えず、私の手足となって働いてくれるとありがたいわ。」
新鮮な感覚だった。私に対してここまで率直にものを言ってくる人間はあちらにはもはや居なかった。
この女の言っていることはなかなか興味深いことが多いが、もは生きることに意味を見出せない私には
苦痛でしかない。
そう考え、目の前の女を殺そうと力をこめた瞬間―
頭の中に強烈な痛みが駆け巡り、その場に倒れた。
「アハハ。あなた面白いわね。言ってるそばから私を殺そうとするなんて。
でも残念。私に殺意を向けたらそうなるように魔方陣を描いておいたの。でもいきなり攻撃してくるなんてね。
ケイロス、彼は当たりよ。召喚してすぐでこの魔力量。いい手駒になるわ。すぐに陛下に連絡して。」
「しかしお嬢様、相当程度の自我が残っている現状では、危険ではありませんか?
しかも、いきなりでこのレベルの炎を放つなど。今すぐ処分すべきと考えますが?」
「馬鹿ね。多少の無理をしないとお兄様方との差をつめることができないし、それに、謁見の間の結界内で
魔力なんて行使できないわよ。魔族ですら何もできなかったんだから。」
「しかし―」
「ケイロス、くどい。陛下に連絡して、時間を確保してもらって。私達と同じ人間で、しかも言語を理解し、高い魔力量を持ってるのよ。その価値は計り知れない。このタイプの魔方陣なら、継続して召喚できるかもしれない。再召喚までの魔力補充に時間がかかるのが難点だけど、これを何とかすれば、私が後継者筆頭になる日も近いわ。」
目の前でそんなことを語ってるのを聞きながら、私は意識を失った。
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私が目を覚ました場所は、寝心地のよいベッドだった。
意識を失う前に、あの2人が話していた会話。
『召喚してすぐにこの魔力量―』
どうやら本当に遠い世界に来てしまったようだ。
それにしてもこの体。
明らかに若返っている。
これもあの女が言っていた魔法陣とやらの影響か?
死んだときは確かに65歳を超えていたはずだが…。
それにあの時の出来事。
相手に対して向けた殺意に反応したモノ、あれが魔力か。
アルマナと名乗ったあの女が、私を召喚する際に条件設定したのだろう。
構築した魔法陣にいろいろ細工したんだろううが…。
彼女の、-のいないこの世界など、どうでもいい。
ましてや、自分の命など…。
すべてが終わったと思ったのに余計なことを。
異界からの召喚か。
どんな理論かは知らんが、私には相当な力が与えられているようだ。
あの女もそれなりの力を持っているようだが。
それでもなお力を求める程に。
まあ、ここがどこか興味もない。
目的を達成するために必要なのは圧倒的な力。
それにしても、あの女…。
刹那の瞬間しか見ていないが、中々の貌をしていた。
力を貸してやってもいいがな…。
時間も限られているし、自分と対話しておくか。
最高のタイミングで、閃光のように炸裂させることができるように。
私の魔力がはじける瞬間の、あの女の顔が見れないのが残念だ…。
手駒として使う以上、魔力の行使条件については、
そこまで緻密に設定できなかったのかもしれない。
痛みで縛っているようだが、覚悟を決めた者に、痛みなど何の意味もない。
何の意味も…。
返せないほど高く付く、そんな授業料に、
そんな授業料にならないことを祈ってるよ。
アルマナ
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アマルナが言っていた陛下という人物に会う日。
私は何故か今日がその日と分かってしまった。
今度こそ本当に死ねるといいが…。
地球に居るときは知りもしないが、こんな世界があるなら来たいと思う人間は掃いて捨てるほど居るはずなのに、何故私が選ばれたのか…。
召喚されようがなんだろうが、私に命令できるのは私だけなんだよ。
まあ、異なる世界からナニカを召喚する際、色々と条件設定できるんだったら、もっと強力な支配条項を盛り込める魔法陣を開発しておけ。
今目の前には、陛下と呼ばれた壮年の男性、それに私を召喚したアマルナ、
ケイロスと呼ばれた従者、そして、そのほかに数名が居る。
アマルナが色々と説明しているが、
どうやらこれからいくつか魔法を行使するようだ。
私の頭の中に、いくつかの指令のようなものが浮かび、それに従わせる強烈な力が働く。
なるほど、私が倒れた際に、アマルナが言っていたことはこれか。
魔力を高める前に、もう一度アマルナを見る。
肩まで伸びたブルネットの髪、そこにうっすらとメッシュのように入る銀の髪、そして青と茶のオッドアイ…。
背は、今の私より少し低い。170cm前後か。
いい女、なんだろうな。
地球で満足して死んでいれば、力を貸してもいいと思えたが…。
私の条件設定の中に、いくつか理解できないものがある。
何故このようなものを組み込んだのか。
何か意図があるのか、それとも…。
だが、それももう意味は無い。今日この日、この場所に居る存在は全て、
私の魔力の開放により、消え去るのだから。
自分でもコントロールできない魔力を、
炸裂させるイメージとともに解き放つ。
信じられない程の痛みが頭と体を駆け巡る。
心が壊れている私にとっては、ほとんど意味をなさない束縛だったな。
その日、ガルドディア帝国の帝都に紫の閃光が奔った。
これでようやく死ぬことができる、そう思いながら。
読んで頂きありがとうございました。