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かるぴす

魔法使いと妖精とメルヘンと

作者: かるぴす



「……」

 目が覚めると見慣れない天井が広がっていた。

 窓から差し込む日の光が気持ちよく、いつまでも寝ていたくなるぐらいの陽気だ。

「いっ……」

 枕の位置が少しおかしいと思い寝返りをした瞬間、腹部に激痛が走った。

(痛みを感じるってことはまだ生きてるのか……)

 パタパタパタ。

 少年のうめき声に気がついたのか、部屋のドアが開き、軽快な足音と共に少女が入ってきた。

「目、覚めた? お腹、すごい怪我してたからあんまり動かないほうがいいよ」

 少女は笑いながら言うと、ベッドの脇へ回り窓を開けそこに飛び乗った。よく見ると背中にハネが生えている。

「寝たままで悪いんだが、質問してもいいかい?」

「どーぞどーぞ。別に怪我人なんだからそんなこと気にしなくてもいいのに」

 少女は足をぶらぶらさせながら無邪気に笑った。

「とりあえず質問する前に自己紹介しておくよ。僕はアルフ、普通の魔法使いだ。この度は助けてくれてありがとう。それで、えっと君は……妖精、なのか?」

「そうだよ、私は妖精のリリー。一目で妖精って分からないかなぁ? ちゃんとハネ生えてるんだけど」

 リリーと名乗った少女のような妖精は不思議そうに言うと、自分のハネをアルフに見せた。

「ほら見える? 私のハネ、虹色で綺麗でしょ? 結構自慢なんだー」

 リリーがハネを動かすと光の加減で虹色に光って見える。それはとても美しく見惚れてしまうほどだった。

「確かにすごく綺麗だ。自慢するだけのことはあるね」

「でしょでしょー。やっぱり褒められるとうれしいな」

 リリーはにこにこしながら「そうだよねー、そうだよねー」と何やら呟いていたが、アルフがそれを眺めているのに気がつくとばつが悪そうな顔をした。

「ごめんね、質問してたのに止めちゃって」

「別にかまわないさ。面白いものを見ることができたし」

 部屋にはアルフが横になっているベッドと木製の小さなテーブルと椅子が一脚ずつ、箪笥が一棹、それに炊事場。壁はしっかりとした石造りで、建てられてからそれほど経っていないようだ。

「ところでここはどこなんだ?」

 部屋を眺めていたアルフは思い出したようにリリーに尋ねた。

「ここ? ここはアルフが倒れてた森の中だよ」

「マジすか?」

「マジですよ? でもアルフが倒れてたところよりも魔物は出ないし、仮に出会っても怒らせたりしなかったら襲われないから大丈夫だよ」

「でも驚いたな。こんな森の中に妖精が一人で暮らしてるなんて。人も滅多に近寄らないのに」

「別に暮らしにくい場所じゃないよ。木の実とか薬草とかたくさんあるし、この家のすぐそばに川と湖があって魚も捕れるよ。水きれいだから飲んでも平気だし。森に少し入ったら泉が湧いてるから湯浴みにも困らないよ」

 ぐきゅるるるぅ……。

 食べ物の話しに反応してか、アルフのお腹が大きな音を立てた。

「あはは…お恥ずかしい」

 アルフは腹部を押さえながら顔を赤くした。

「ふふっ。まる二日ずっと寝てたから、お腹空いてて当たり前なんだけどね。何か作ってくるから少し待ってて」

 リリーは楽しそうに笑うと炊事場へ向かった。


「ご馳走様でした」

「お粗末さまです」

 リリーの作った料理はとても美味しく、アルフはあっという間にたいらげた。

「すごく美味しかったよ。料理上手なんだね」

「一人で長いこと暮らしてたから料理とか家事が上手になるのは当たり前だよ」

「それでもすごい上手だよ。こんなに美味しい料理を食べたのは久しぶりだ」

 リリーは謙遜したが、そこらの町で出店の料理として出しても全く問題ない味だった。

「ありがとう。やっぱり誰かにそう言ってもらえると嬉しいな」

と笑って言ったが、声は少し寂しそうな感じがした。

(余計な詮索はしないほうがいいな)

 そう考えたアルフは別の話題を振ることにした。

「そうだ何か聞きたいこととかある?」

「ん~そうだねー……あ、アルフってどうしてこの森に来たの? 普段は人が寄り付かないんでしょ」

「僕は旅をしてるんだ。それでちょうど通りかかったこの森で魔物に襲われたんだ。この森の近くの町の人に、別の町に行くならここを抜けるのが近いって言われてね」

「へぇ、そうだったんだ。でもなんで旅なんかしてるの? 何か探し物でもしてるとか?」

「そうだね、探し物……になるのかな、これは。正確に言うと物じゃなくてパートナーだけどね」

「そっかアルフって魔法使いだもんね。やっぱりパートナーは欲しいよね」

 魔法使いはある程度修行をするとパートナーを探しに旅に出る。パートナーは人であったり、猫であったり、はたまた蛇だったりと様々である。

「だけど旅の途中にこんなことになるなんて、僕もまだまだ修行不足だな」

「そうかもしれないね。でも今はしっかりと怪我を治してね。修行はそれからでもいいんだし」

「そのとおりだ、それじゃお言葉に甘えさて頂くとしようかな」

「そうしてくれるとうれしな。なにかあったら呼んでね。すぐに飛んでくるから」

「ああ、ありがとう」


Φ


 なんだかんだやっているうちに、僕がリリーの家に厄介になり始めて一ヶ月が過ぎた。

 リリーの手厚い看病のおかげで怪我はほぼ完治し、普通に生活を送れるまで回復した。ここ二、三日はリハビリを兼ねて魔法の修行をしている。

(そろそろ旅に戻らなきゃな……)

 僕はまだパートナー探しの途中だ。それにいつまでもリリーの世話になるのは迷惑だろう。リリーも一人のほうが気楽でいいに違いない。

 改めて考えてみると、また独りになるんだと思ってしまう。リリーに助けられる前は、寂しいとかこれっぽっちも感じなかったのに、知らないうちにリリーに依存していたみたいだ。今は独りになるのが怖い。別れるのが辛い。だけど、だからこそ、リリーと別れる時は笑っていよう。


Φ


 アルフは怪我が治ったらどうするつもりなんだろう。また旅に出るのかな。

 一ヶ月の間同じ屋根の下で一緒に過ごして、ある程度はアルフのことを理解できたと思う。私にアルフを止める権利はないけれど、できるならまだ一緒に居たい。

 一人は寂しい。

 一人は悲しい。

 もう一人はいやだ。


Φ


「リリー、ちょっと話があるんだけどいいかな」

 真剣な態度と顔つきで先に話を切り出したのはアルフだった。

「今後のことなんだけど、僕怪我が治ったらまた旅に出ようと思うんだ」

「……そっか、そうだよね。早く一人前にならなきゃいけないもんね。いつぐらいに出るの?」

「明日、明後日ぐらいには出発するつもり。いろいろとお世話になりました。ありがとうね」

「いやいや、私が好きでしたことだから気にしなくていいよ。それじゃあ、今日はご馳走を作らなきゃね」

 そう言って炊事場に向かうリリーの背中はとても寂しげで、元々小さいのにそれがさらに小さく見えた。

「なぁリリー、僕に何か言いたいことあるんじゃないのか?」

 リリーは作業している手を止めアルフの方を向いた。

「どうしてそう思うの?」

「勘かな? なんとなくそう思ったんだ。一ヶ月も一緒にいればある程度のことは分かってくるからね」

「話ちょっと長くなるけどいい?」

「かまわないよ」

 リリーは一呼吸して話し出した。

「この家はね、ほんとは私の物じゃないんだ。ほんとは私のパートナーだった魔法使いが住んでた家なの」

「パートナーだった?」

「うん。三年ぐらい前に心臓の病気で死んじゃったんだ。それからずっと一人だったんだけど、一年も過ごしてたらそんな状態にも慣れちゃってね」

 リリーは苦笑いしながら話しているが、それはとても悲しいことに思えた。

「でもねそこにアルフが現れたんだ。アルフは旅人でそのうちどこかへ行ってしまうことが分かってたから、あまり深入りしないようにしようって思ってたの。だけど一緒に暮らしてるうちに家族みたいに思えて、気がついたらアルフに依存してた」

 目にたまる涙を流すまいと必死になりながらリリーは話を続ける。

「一人でいるのは……っ……慣れてるはずなのに……慣れなきゃ……ぐすっ……いけないのに……ひっく……。一人になりたくない……ひっ……。一人になりたくないよぉ。行かないでアルフ……」

 嗚咽をこぼしながら話すリリーをアルフは優しく抱きしめた。

「……ふぁ……っ……うわゎぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 堰を切ったようにリリーは泣いた。不安や安心が入り混じったものを泣き声と一緒に吐き出していく。リリーの後ろ頭を撫でながらアルフは言った。

「やっと気がついたよ、僕はリリーのことが好きなんだってことに。僕もリリーと離れたくない。ずっと一緒に居たい」

 アルフの言葉に応えるように、リリーの腕に力が込められた。

 アルフがしばらく撫で続けると、リリーはある程度落ち着いてきた。

「リリー、もし良かったらでいいんだけど、僕のパートナーになってくれいないか?」

 アルフの胸に顔を埋めていたリリーは、顔を上げると目を見開いてアルフを見た。

「私みたいな妖精がパートナーいいの?」

「リリーじゃなきゃだめなんだ。それにパートナーなんて魔法使いの数だけいるんだ。妖精がパートナーでもなんら問題ないよ」

「ありがとう……」

 そう言うと、リリーは再びアルフの胸に顔を埋めた。


Φ


 数日後、湖の畔でアルフがなにやら魔法の修行をしていた。この間リリーが「家ほどあるお菓子を食べてみたい」と言っていたので、その要望に応えられるようなお菓子の山を出現させようとしているのだがなかなか上手くいかない。

「家ほどある……か。まてよ、こう変えればいけるかもしれない。」

 アルフ何かを思いついたように地面に木の棒で魔法陣を描いた。そしてリリーを呼ぶと呪文を唱えた。魔方陣とその周りが輝き始め何かが出現する。輝きが収まるとそこには家の形をしたお菓子、もといお菓子でできた家が建っていた。

「リリー、これをパートナーになった記念に贈るよ」


END


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