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何故、医者でもないあなたが?

作者: 篠月珪霞
掲載日:2026/09/08

「申し訳ない、スザンナ……明日の予定は延期でもいいだろうか?」


先触れなしに我が侯爵家にやってきたのは、婚約者であるサウロ・ロメリ伯爵令息。

予定変更を告げる端正な顔は、申し訳なさそうではある。

明日は以前から興味があっても機会がなかった、人気演目の観劇の予定だった。予定はもう1か月前から決まっていたのだが。


「理由をお伺いしても?」

「その、幼馴染の具合が昨夜から悪いらしくて…」

「幼馴染といいますと、どちらかの令息でいらっしゃるのですか?」

「ああいや…」


何とも歯切れが悪い。どうにか誤魔化そうとしているようだが、挙動不審でいかにも怪しい。


「なるほど。ご令嬢ですか」

「………」

「それで? そのご令嬢は危篤であるとか、明日をも知れぬご病気で? もしくはご親類?」

「…いや、親類ではないし、そこまでではないようなのだが、」

「ふむ。最期を看取ってやりたいなどというわけでもないのですね? では何故、サウロ様が行く必要があるのです?」

「…体調が悪いときは、誰でも心細くなることがあるだろう?」

「それは否定しませんが、サウロ様に医術の心得があるというお話は、寡聞にして存じ上げませんでした」

「何故、そんな話になるんだ?」


むしろ何故はこちらの台詞なのだが。


「何故も何も、医術の心得がないのでしたら、仮にご令嬢を見舞っても何の役にも立たないではありませんか」

「っそんな言い方をしなくてもいいだろう?! 病気のときは、気心知れた人間に傍にいてほしいと思っても何ら不思議なことではない!」


気心知れた、ねえ。不貞の告白かしら?


「そのご令嬢、ご年齢は? 幼馴染というからには、貴族令嬢なのですよね?」

「は? 何故そんな質問を?」

「答えられないのですか?」

「…年齢は僕たちと同じだ。平民では、ない」


では、妙齢のご令嬢ということか。スザンナと同年で、ロメリ伯爵家の領地のおそらく近辺、そして虚弱と噂だけはあるのは。


「アーリン・マゴーナグル男爵令嬢ですね」

「?! 何故分かった?!」


一度だけ見かけたことがあるが、確かに儚げ系の美少女ではあったなと。

婚約者がどういう目的があるのかは知りたくもないが、とスザンナは思案する。


「と、とにかく、そういう訳で、明日の予定は見送りたい」

「一応お聞きしましょう。わたくしがサウロ様の婚約者であることは、認識しておいでですか?」

「…もちろん分かっている」

「明日のお約束が、わたくしの方が先約だということも?」

「…分かってるからこそ、こうして頼みに来たんじゃないか」

「そうですか。分かりました」

「そうか、君なら分かってくれると思っていた!」


喜色満面な男はきっと勘違いしている。

だから、私も笑顔を浮かべてやった。


「ええ、よく分かりましたとも。あなたが信頼に値しない人物だということが」

「…は?」


スザンナの言葉にサウロは呆気にとられている。この男が本当に高位貴族なのか、疑わしくなってきた。


「な、何故そういうことになるんだ? 具合の悪い幼馴染を見舞うだけの話だろう? 分かってくれたんじゃないのか?」


ああ、何も分かってないのか。伯爵家の教育はどうなっているのだろう。


「ひとつ、あなたは医師ではない。あなたが行っても病状が回復するわけではない。

 ひとつ、幼馴染は同い年の令嬢である。彼女があなたの行動によって醜聞に塗れる可能性があることを、考慮していない。

 ひとつ、あなたはわたくしの婚約者である。にも関わらず、幼馴染とはいえ、他の令嬢を優先すると主張。

 ひとつ、観劇の約束は1ヶ月前から決まっていたことである。それを緊急性のない身勝手な理由で変更を願う。

 これだけで、信用できないと思わせるには十分でしょう?」


理由を挙げながら、目の前で指を折って見せると、婚約者である男の顔が不快げに歪む。


「そんな可愛げの欠片もないことを言われるとは思わなかった。君がそんなに冷たい女性だとは…」

「単なる事実を羅列しただけですが? そもそも、どんな約束であろうと、簡単に破る人間が信用できると思われまして?」

「…たかが観劇じゃないか。機会はまたあるというのに」


やむを得ない事情があるのなら、スザンナとて何も言わなかっただろう。突発的なトラブルというものはどこにでも転がっているのだし。

楽しみにしていた観劇の約束が反故にされるからではないということが、どうやらこの男には分からないらしい。


「もう結構。お帰りください」

「ああ、今日はこれで失礼するよ。明日のことは本当にすまないが」


言うや否やサウロは立ち上がり、退出した。見送りの必要はなくなったし、今日はも何も今後はもうない。

婚約は伯爵家からの申し出で、サウロは三男、特に大きな瑕疵があるわけではなかったので了承したが、結果から言うと失敗だったなとスザンナは思う。





後日、侯爵家にまたもや先触れなしにやってきた男は開口一番。


「スザンナ! 何故、婚約解消などしたんだ?!」

「決まってるでしょう」


あなた(サウロ)が救いようもないほど、愚かだからですよ。






予定変更とかドタキャンとか、正当な理由でない限り、1度目から許す必要ないと思うんですよねー。

不測の事態とか突発的な何かがあれば別ですけど。

1時間クオリティなので、まあ粗だらけでお粗末様でした。

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― 新着の感想 ―
婚約解消じゃなくて、馬鹿の不貞による有責の婚約破棄でヨシ! 約束の前日に断りに来るとか、あまりにも舐め過ぎでしょうw 上位爵位の貴族令嬢相手に何やらかしているのやら。
ひとつ、病弱だというあなたの幼馴染みからあなたを経由して、病気などを感染させられたくないから。 特に仮病・嘘が呼吸と同じ病・略奪愛病と、脳内汚花畑病は、アホ・バカと並ぶ『死んでも治らない病気』で有名…
わざわざ前日に謝りに来る今こそお見舞いに行ってきて、明日は予定通り婚約者を優先すればいいじゃないw
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