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The Another World  作者: やあやあやあ


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第一話 The heavy truck

俺は目覚ましの音で起きる。今の時刻は午前6時。俺(橘光洋)はいつものように顔を洗って朝食を作る。今日は卵尽くめの献立だ。目玉焼きとベーコンの付け合わせとスクランブルエッグ、そして卵焼きに卵スープ。並べられている料理を見た私の感想は見るに堪えないそれに尽きる。どうしてこんな残念な朝食になってしまったのか、それは卵の賞味期限が今日までだったのを忘れてしまっていたからである。スーパーの特売で3割引きだった卵を買ったときはこれ見よがしにしめしめと感じていたのに。いざ商品だったものが所有物へと変化したときどうも卵は持て余してしまうようだ。俺は自分の計画性のなさを嘆く。こんなに卵を消費したっていうのにまだ5つも残ってしまっている。今日の夜も卵尽くしかと思いため息をついていると二階から弟が降りてきた。「おはよう。」彼(橘一)は眠そうに瞼をこすりながらいつもの定位置に着く。彼は机の惨状を見て顔をしかめた。「ゲェェッ!何だいこの卵料理たちは。まさかこの前勝手に食べてしまったシュークリームの恨みってこと?なんと酷く恐ろしいことよ。」「これに懲りたら勝手に食べたりするんじゃないぞ。」俺はそう言って取り繕う。弟に俺の失敗を悟られたくなかったから。「いただきます。」俺たちはご飯を食べ始める。黙々と。食事中は俺たちは会話はしない。これは両親からマナーとして教わったことだった。両親はどちらも忙しく普段はこの家に弟と二人で過ごしている。俺は高校3年で弟は中学に入学したばかりだ。俺たちは両親からの仕送りを使って二人で協力してこの日常を営んでいる。俺は料理と掃除。弟は洗濯物とゴミ出し。たまに役割を交代してこの生活に些細な変化をもたらしてみたりして俺たちはこの生活を楽しんでいた。「いってきます。」弟が中学へ行った後、15分後くらいを目安に高校へ向かう。俺は朝の眩しい太陽の日差しと冷たい風を感じながら眼下に広がる街並みと海を見下ろしながら自転車で坂をゆっくり下っていく。俺はここからの景色が世界で一番好きだった。この景色を見た時に決まって心に入り込む気持ちは取り留めのない寂しさ?、それとも悲しさ?俺はいつもわからない。だから俺はこの気持ちを確かめるためにこの景色を毎日眺めている。

~~~~~~~~~~~

俺は高校に着く。声がひしめいている。俺はいつも憂鬱な気分になる。静かな下り坂、沈黙を称えた景色、その景色に魅了された僕にとってここは世界で最も嫌いな場所だった。俺は教室に入る。その瞬間、中に詰まっていたはずの声が開かれたドアから追い出された。教室内が静寂に包まれる。うん。これでいい。いや、これがいい。周りの視線が俺に向いているのを感じる。いや、眺めている?まるで俺が景色になってしまっているかのようだ。俺は席に着く。そして斜め上を見る。そこには広大な青空と眩しい日差し、揺れる電線と落ちる人影。そんなビジョンを幻視した。どうしてなんだろうか。その落ちる人影は笑っているように見えた。

~~~~~~~~~~~

授業が始まる。退屈でしかない。毎日の繰り返し、その一端。「さてこの問題わかる人?」いまだ教室の沈黙は保たれている。俺は手を挙げる。黒板に問題の答えを書く。その答えは正しかったようだ。先生は満足げにうなずいて授業を再開する。私は授業を聞かないでその黒板に書いた正しさを見ていた。その正しさはじわじわと気持ち悪くなっていく。磔にされた私から産まれた気持ち悪さが教室内に充満し支配した。周りからの視線が刺さる。刺さったところが膿んでいく。膿んだところが爛れていく。その爛れた部分を見て誰かがせせら笑う。その笑い人は教室内で伝播して拡散した。まるで凪いだ水面に落ちた一滴のように。

~~~~~~~~~~~

「おい。起きろ、寝坊助。」そう言われてハッとする。俺は彼(石上江)に起こされていた。どうやら今は4限が終わり、お昼休憩のようだ。彼は呆れた顔をして机に突っ伏す俺を見下ろしている。「お、やっと起きたか。寝坊助。あまりにも起きないから死んでいるかと思ったぜ。」彼はにやにやと笑っている。「どうして、俺を起こしたんだよ。がり勉。お前にそんなこと頼んだ覚えはないんだがな。」「どうしてって。そんなこと決まっているじゃないか。この後は、テストだろ。」そうだった。こいつはそういう奴だった。こいつは勉強の良しあしで人の価値を決める悪癖を持っていた。しかし俺はこいつにテストの点でなぜか負けたことがなかった。そして彼は俺をライバルとして見ようにも、俺は授業も真面目に聞かずの寝坊助野郎と知ってしまったために、こんな奴に価値が劣っているという彼にとっての現実を、彼が受け入れることができず俺の価値を堕とすことに焦心しているめんどくさい奴だ。俺は彼が嫌いだった。だから俺は彼の鬱陶しい視線から逃れるためにテストをあえて白紙で出したり、テスト中は寝てやり過ごそうとした。しかし彼は気に食わなかったようだ。そうやっても、彼にとっての現実における価値の優劣は変わらないようだ。むしろより一層俺を敵視するようになった。どうやら彼にとっての優劣には彼自身の納得が必要のようだ。「テストだから何だってんだよ。」私はわかってないふりをしてうそぶく。不満げに。「いや、お前がテストから逃げないように起こしてあげたんだ。どうだ。次のテストの自信は?」「そんな事どうでもいいだろう。俺は気持ちよく寝てたっていうのに。」「おいおい。そんな退屈なこと言ってくれるなよ。俺はこの後のテストでお前を超える。そんな向上心を抱いているっていうのに白けるじゃないか。」俺は心の中でため息をつく。お前の大志だとか目標だとか聞かされて退屈なのはこっちだ。「そうですかぁ。それはそれは大層な目標ですね。ハイハイ。」俺がそういうとそいつは俺を激しく睨んでいた。その眼光に憎しみを込めて。

~~~~~~~~~~~

6限が終わる。学校が朝の静けさを取り戻し、外が声によって浸食されていく。俺にとって世界で最も嫌な瞬間だ。教室には俺以外に石上と佐藤がいた。石上は唇をこれでもかと噛みしめて恨めしそうに俺を見ている。佐藤は教室の端の窓側の席で何かを書き連ねている。俺はその光景をただ眺めていた。佐藤は教室の中で浮いているような立ち位置の人物だ。顔は色白、髪はロングヘアー、瞳は藍色。彼女は普段から人と会話しているのを見たことがないほどの無口。しかし、彼女は無口だったがコミュニケーションをとらないわけではなかった。彼女の持つ美貌は彼女が無口でいることを許したし、彼女の笑顔が普通の人のコミュニケーションの何倍の意味を含んでいるように見えた。そう、彼女の存在はまるでこの教室の中の油。そう彼女以外の存在は彼女の存在を誤魔化すただの水にすぎない。そう思わせるそんな魅力が彼女にはあった。そんな彼女が物憂げに何かを書いている。その姿は荒野に咲いている一凛の華。窓から入る夕日が彼女の持つ儚さを強調している。まるで今にも消えて無くなってしまうように。そんな彼女の姿と対照的に教室の廊下側の端の席に石上が座っている。彼の眼は真っすぐこちらを見ている。殺意、憎しみ、怨嗟などの本来心の底に入れておくべき感情が表情、特に瞳から出る眼光からありありと伝わってくる。彼は地団太を踏むかのように自分の机で貧乏ゆすりをしている。そして手にはくしゃくしゃに丸まった答案用紙。その姿は私の眼には惨めに見えた。そんな二人がいる教室を俺は俺の席から(俺の席は教室の黒板前の席だった。)目の前に広がる光景をただ眺めていた。醜悪と神秘のコントラスト。そのギャップが目の前で同居している。俺はこんな景色があったなんて信じられなかった。だから今、白昼夢でも見ているんじゃないかって疑いたくなった。しかし、そんな疑問が頭の中で反芻することなど叶わずに私はこの光景をただ眺めることしかできなかった。俺の目にこの情景が焼き付いていく。もう俺はこの光景を忘れることなんてできないようだ。そんなことを考えていると彼女は書き物を追え帰り支度を始めた。その彼女を待っていたかのように石上も帰り支度を始める。私は後ろに向けていた顔を前に向ける。その時、目に映った黒板にかつてそこに存在していた正しさがフラッシュバックした。もう消えたはずなのに。

~~~~~~~~~~~

しばらくたって外の声が無くなって外が静寂に支配される。俺はその瞬間が待ち遠しかった。俺はその静けさの邪魔をしないように学校から出て自転車に乗り今朝と同じ道をたどって家路を急ぐ。俺の気持ちを夕日が駆り立てる。俺は自転車を押しながら坂を急いで駆け上がる。いつもこの坂を駆け上がる時、俺はどこからか視線を感じていた。その感じている視線は俺に連れ立って動いていく。まるで車の窓から月を見ているときのように。俺が坂を登り終えた時、夕日は地平線の陰に今にも沈みそうになっていた。俺は自転車に乗り込んで全速力で疾走する。持ってくれよ。そう夕日に頼みながら。

~~~~~~~~~~~

坂を登った先にあるスーパーマーケット。俺はここで今日の夜ご飯と明日の朝のご飯を買う。今日はどうやら鶏もも肉が安いようだ。そうだ。今日は親子丼にしよう。そう決めた俺は親子丼の材料、明日の朝ご飯、そして牛乳を買う。急いで俺はこの煩わしい空間を後にする。夕日はもう完全に沈んでしまっていた。ここから家までは自転車で5分くらいの距離だ。相変わらず町は静かだった。だからこそはっきりとわかった。この気持ち悪い視線に。今までは坂までしか感じたことはないはずだったのに今はこのスーパーマーケットの駐車場でも感じる。町は暗闇に支配されつつあった。俺は全速力で家に向かって駆ける。すると俺がスーパーマーケットの駐車場を出た後からゆっくりと追ってくる車があることに気づいた。それは一台の大型トラック。その車は俺の横をさっきから何度も通っていた。まるで俺をその車から見ているかのように。俺はその車が俺を尾行しているか確かめるために左に三回左折した。どうやら俺の感覚は正しかったようだ。俺は自転車を全力で踏みしめる。振り切るために。そのトラックのスピードが上がる。俺の様子の変化に気づいたようだ。トラックはゆっくりと俺を追っていた際に感じていたためらいなどを、かなぐり捨てたスピードで俺を追い立てる。執拗に。上り坂に差し掛かる。ヘッドライトが俺に追いついた。そしてコンクリートがこすれる音がどんどん近くなる。俺はもう後ろを振り返ることができなかった。怖くて仕方がなかったから。コンクリートに投影された影がどんどん大きくなっていく。どうしてなんだろうか。その影が笑ったように見えた。落ちる人影が俺と重なる。そう、重なってしまう。俺は気づいたときにはなぜか自転車から降りていた。目の前に広がるのは、広大な街並みと暗闇を称える灯。逆さになった電柱と浮遊する人影。その人影を見た時に心に入り込んできたのは悲しさ?それとも嬉しさ?わからない。わかりたくない。

~~~~~~~~~~

僕は彼の帰りを待っていた。洗濯物をたたみながら。だけど彼はいつまでたっても帰ってこない。彼がかえって来るよりも先に夕日が山の陰に隠れてしまった。外が闇に染まる。僕は外に出る。彼を探すために。片手にライトを持って暗闇を切り開きながら歩く。ひとまず近くのスーパーマーケットに向かうことにした。彼が一番いる可能性が高いと思われたから。外は静寂に包まれていた。通りには人も車もいない。そうだぁれもいなかった。僕はなぜかこの静寂に安心感を感じていた。人がいないから静寂なんだと納得できたから。僕は夜に外を歩いたことはなかった。僕たちが住んでいる町はコンビニが家から徒歩五分の場所に位置していた。そんな田舎だったもんだからわざわざ夜中に外出する必要がなかった。僕は何か言いようのない気持ちを抱いていた。彼が心配な気持ちと、こんな時間に町を散策することに対するわくわく感が僕の心に同居していた。歩きながら町を見る。町の街灯が暗闇を称えていた。頭上には月と星々の輝きがあった。その輝きは僕が今まで見た何よりも美しく見えた。僕はその星々を少しの間眺めていた。僕は外に出てきてよかったと感じていた。こんな美しいものに出会えたなら。僕はこの美しいものに出会うために今まで生きてきたのかもしれないとさえ思った。そう、僕は外に出るためのいい口実を探していたんだ。そのために産まれて生きて今ここにいる。僕はこの景色を噛みしめながらスーパーマーケットへの道をゆっくりと歩んでいた。

~~~~~~~~~~

スーパーマーケットに着く。しかし、その店はもうすでに閉まっていた。時刻はもう20時を回っていた。駐車場にはトラクター一機が停まっていた。そのトラックは白の大型トラックだった。そのトラックは正面が大きく凹んでいた。僕はトラクターに言いようのない不満を抱いていた。僕はこの夜を僕のものにした気でいた。しかし、トラクターはそんな僕をあざ笑うかのようにそこにいた。そのトラックが醜悪な見た目だったのも僕の不満を加速させた。僕はそのトラックにゆっくりと近づいた。僕はこの夜からこのトラックを追い出してしまいたかったから。僕はトラックを下から眺めていた。そのトラックは近づけば近づくほどより一層醜く見えるようになっていった。僕は考えていた。そしてある一つの考えが思い浮かんだ。このトラックに傷をつけよう。誰も気づくことのない小さな小さな傷を!僕はこの時傷をつけた後のことを空想していた。僕がつけた傷はトラックと僕がこの夜を共有しているこの事実に対する傷になる。そう思った。僕はトラックの周りを見渡す。すると駐車場の片隅でそれは息を潜めていた。それはカッターナイフだった。なんて丁度いい。僕はそのナイフを見て笑ってしまう。カッターナイフを片手に僕はゆっくりと近づいていく。そのトラックの顔に僕は十分に近づいて、僕は右手のカッターナイフを掲げトラックに向けて振り下ろそうとした。その瞬間、俺の目の前が眩しくなった。

~~~~~~~~~~

私は教室で趣味の小説を書いていた。あの人に見せるために。あの人は私にとっての大切な人。あの人は病気で病院から出ることができなかった。あの人は小説を読むのが趣味だった。私は彼のために小説を書き始めた。彼は私の小説を好きだと言ってくれた。私はそんな彼が好きだった。私は今日もいつものように小説を教室で書いていた。そんな私の横顔を夕日が照らす。教室には私以外に二人いた。一人は橘さん。彼はよくクラスの中で変人扱いをされていた。いつも彼は黒板前の彼の席で普段の授業中ずっと居眠りをしている。しかし、彼はテストではいつも学年の上位8番に入っていた。だから授業中に居眠りをしていても先生は何も言わなかった。それどころかそんな彼を先生たちは神童だと陰で言い合っていた。そして先生は彼を露骨に贔屓するようになった。彼は気にしていなかった。しかし、これがきっかけで彼は生徒の一部から妬ましく思われるようになった。そう、その一部の生徒の代表として挙げられるのが教室にいるもう一人、石上だ。私は彼と中学が一緒だった。彼は中学時代、学年トップの座に君臨し続けた。彼はテストの点数で人の価値を値踏みする畜生野郎だったから私は彼が嫌いだった。彼は高校に行ってもこの悪癖は変わっていないようだった。彼はこの高校でも一番を取り続けるつもりだったらしい。しかし、彼の世界は広かった。彼の成績は学年全体の中の上程度に落ち着いてしまった。彼は一時期荒れた。彼は彼の自業自得のストレスを他人や物に当たることで発散するようになった。廊下の窓ガラスを割ることさえあった。しかし、その質の悪い行動はある日を境に鳴りを潜め始める。そう、彼にとって大きな敵が現れたから。それが橘だった。今、彼は自分の席に座って前の席に座る橘を睨んでいる。さっきの英単語テストでも彼に負けていたから。目の前にいる橘はそんな彼の様子を無視し何かを見ていた。天井?彼は首を傾け斜め上をぼんやりと眺めていた。私はそんな彼の様子を見ていると何か言いようのない不安に襲われた。私はもう小説を書く気が失せていた。そして私は逃げるように教室を後にした。

外はもう夕日が沈み、暗闇がにじり寄ってきていた。私は家へとゆっくり歩いて向かっていた。家の帰り道の途中にある長い上り坂に差し掛かる。すると、背後から視線のようなものを感じる。私は後ろを振り返る。そこには石上がいた。彼は私を遠くから見ている。彼の気持ち悪い視線が突き刺さる。「おい!待てよ!!」彼は私と目が合ったその刹那、走り出す。私に向かって。私はつい逃げ出していた。上り坂を全速力で駆け上がる。私の頬に冷たい風が当たる。私の口から白い息が漏れる。後ろから足音が聞こえる。その足音はどんどん近づいてくる。私は後ろを振り向くことができなかった。怖くて仕方がなかったから。私は坂を駆け上がりスーパーマーケットに辿り着く。私は駐車場の端に止められた大きなトラックの陰に隠れる。そしてカバンの中からカッターナイフを取り出した。これが抑止力になると信じて。カッターナイフから刃を出し待ち構える。もうあたりは暗くなってしまった。駐車場に止まっている車はもうこのトラックだけだった。街灯に照らされた石上の影が駐車場の中へと入ってくる。ゆっくりとそれは私のトラックへ近づいてくる。私はカッターナイフを構えそのトラックの陰からトラックの正面へと姿を現す。しかし、そこにいたのは石上ではなかった。「えっ?」そこにいたのは"あの人”。私は戸惑ってしまう。彼は私の目の前でおもむろに指を鳴らした。そして彼は何かを唱える。私はその言葉が聞き取れなかった。彼の言葉を聞いて私は自分の持っていたカッターナイフを落としてしまう。私は最期に彼の顔を見た。彼は笑っていた。彼の笑顔を見るのは久しぶりのような気がした。

~~~~~~~~~

「おい。起きろ。寝坊助」俺は彼を起こす。彼はのっそりと起きた。「お、やっと起きたか。寝坊助。あまりにも起きないから死んでいるかと思ったぜ。」俺がそう言うと彼は憎々し気に俺を見た。「どうして、俺を起こしたんだよ。がり勉。お前にそんなこと頼んだ覚えはないんだがな。」「どうしてって。そんなこと決まっているじゃないか。この後は、テストだろ。」彼はどうでもいいような顔を見せた。俺はその顔が憎たらしくてしょうがなかった。「テストだから何だってんだよ。」彼はそう言って退屈そうに俺を見た。「いや、お前がテストから逃げないように起こしてあげたんだ。どうだ。次のテストの自信は?」「そんな事どうでもいいだろう。俺は気持ちよく寝てたっていうのに。」「おいおい。そんな退屈なこと言ってくれるなよ。俺はこの後のテストでお前を超える。そんな向上心を抱いているっていうのに白けるじゃないか。」彼は急に笑い出した。「そうですかぁ。それはそれは大層な目標ですね。ハイハイ。」煽りやがって。俺は彼を睨む。でも俺は彼のその態度をどうこうする資格はない。俺は証明しなければならない。そのための価値を。

俺は中学では負けなしだった。勉強は常に一番で友達も大勢いた。その時の俺はこの日常がずっと続いていくんだろうと思っていた。そう、あいつが現れるまでは。彼の名前は橘光洋(たちばな・こうよう)高校生になって俺の前に現れた彼は俺のすべてを奪っていった。当時の俺は初めてのテストで学年20位だったことに衝撃を受けていた。そんな俺の前に彼は現れた。「やあ!がり勉。ごきげんいかが?」彼は悪趣味な笑顔を伴って俺を見る。そして彼は彼のテストの結果を見せてきた。「98点…」彼は俺の眼を覗き込んで言い放つ。「なぁ、お前のテストの結果はどうだったんだ?」俺は何も言わないで唇を噛んでいた。俺の点数は、85点。負けた。俺の曇った表情を見て彼は笑いながら言った。「アハハ!偉そうに指図しといて所詮この程度か。よくもまぁ人のことを”ああだこうだ”と言えたものだなぁ。」彼は俺をあざ笑った。「お前は普段から人と話すときもずっとどこか上から目線だよな。俺はお前みたいな奴、大っ嫌いなんだよ。そう、お前みたいな恥知らずは。」俺は彼を睨む。「まだわからないの。お前は今までずっと人をどこかで見下していたんだろ。わかるよ。俺はお前のような奴を今までたくさん見てきたからなぁ‼今まではそれでよかったんだろうさ。今までは。だけど、もうお前が”っている場”は俺と対等になっちまったようだなぁ!!悔しいかい?それともこの受け入れられない現実が信じられなくて苦しいのかい?」彼は俺をあざ笑う。「どちらにせよ。お前が俺を睨んだりしている時点で、お前はその現実からただ逃げているだけなんだ。ただ今までと違うってだけの理由で。これを恥知らずと言わずして何というかねぇ?」

それから俺はうまく人と話すことができなくなった。話すたびに彼の言葉がフラッシュバックしたから。たぶん俺は彼の言葉の中のありありとした正しさに心の何処かで納得してしまったから。そしてうまく言葉を作ることが難しくなってしまった。俺は俺の言葉が気持ち悪くなってしまったから。その気持ち悪さを誤魔化すために俺は物に当たるようになった。周りからの視線が俺に刺さる。刺さったところ()が膿みになる。俺は彼らを傷つけた。彼らが俺にやってきたように。その行いに意味がないなんてことはわかっていたのに。気づいたときにはその膿で俺はもうだめだ(爛れた身体だったんだ)。そんな僕を見て(笑い人)は笑っていた。彼を中心にすべてが敵へと成り果てた。かつての友達だったものは遠い記憶に成り果てて俺の中で何度も死んでいる。もう俺の居場所はない。その現実から逃げる術を俺は持ち合わせていなかった。

俺に残されたのは彼への憎しみだけだった。あいつを俺と同じ目にあわせてやりたい。そんな感情が俺の心を浸す。復讐。そう、俺はこのために生きていたんだ。俺はここにきてやっと生きる意味を見つけることができた。俺はその復讐のためにめんどくさい奴を演じることにした。彼が意図せず俺を嗜めてくれるように。そして俺は彼の弱点を探すことに決めた。そして見つけた。それは彼女「佐藤里琴(さとう・りこ)」。彼はいつも彼女を眺めていた。俺は彼女にこの復讐に巻き込む計画を立てた。そのために俺は彼女と接触する機会を窺っていた。しかし彼女はいつも放課後は教室にいて何かを書いていた。そして放課後は決まってあいつも自分の席にいた。あいつは彼女がこの教室から出て行くのを待ってから教室を出ていく。彼女と俺の家の方向は真逆だった。休み時間は彼女は常に友達といたし、あいつの傀儡がどこで目を光らせているかわかったもんじゃない。でも彼女の存在はあいつを恥知らずに堕とし自分の格を上げるために必要不可欠だった。毎日毎日、俺は機会を待っていた。しかし、時間だけが過ぎていく。あいつはいつも俺の前にいた。かつての憎たらしい笑顔のままで。

高校3年生になった。もう時間がない。もしこの復讐ができないなら、俺はこの先生きていくことができない。彼に恥知らずという烙印を押し付けられたままで幸せになんてなれるわけがない!!俺は日に日に追い込まれていった。そして俺は一世一代の賭けに出る。彼女が教室を出た後、俺は教室を出た。彼を教室へ置いていく形になった。俺は彼女の後をつける。ばれないように慎重に。彼女は手に何かを持っていた。それは彼女が書いていた本だった。彼女はそれを大事そうに抱えていた。俺は大事そうに抱えている彼女の横顔を遠くから眺めていた。夕暮れに照らされたその顔は寂しげな雰囲気を纏っていた。彼女は上り坂を登っていた。その時、彼女は後ろを急に振り返る。俺はその瞬間今までの計画がすべて塵芥に成り果ててしまったと感じていた。彼女は俺を見ると坂を全速力で登り始める。その時彼女の手から本が落ちた。「おい!待てよ!!」俺の声など聴かないで彼女は物凄い勢いで坂を駆け上がった。俺はゆっくりとその彼女が落とした本を拾い上げる。それは小説だった。タイトル「The Another World」俺はこの本を呆然と眺めていると一つの考えが浮かんだ。この本を人質にしよう。彼女を俺の計画に巻き込むための。俺はどうやらいい交渉材料を手に入れたようだ。俺は久しぶりにテンションの高鳴りを感じていた。

俺は彼女を追って家からだいぶ遠いところに来てしまっていたから、バスに乗って帰ることにした。坂の隣にあったバス停でバスを待ちながらこの本を読んでみることにした。「読み始めて俺は言いようのない既視感を抱いていた。「なにこれ…」読めば読むほどその既視感、いやな予感が俺に迫ってくる。でも俺はもうこの本を途中で止めることなんてできなかった。このまま俺は食い入るようにその文字の羅列を目で追っていた。気づけばあたりは暗闇に包まれていた。バスは来ない。それどころか車も一切通らない。俺は言いようのない不安を感じていた。その時、何かがぶつかる音がした。それは何かがつぶれる音。僕はその音がした方向を見る。そこで大型トラックが誰かに思いっきり追突していた。俺はその誰かに駆け寄る。それはあいつ、橘だった。どうして?俺は唖然とその様子をみていた。救急に連絡する。しかし、電話はつながらない。電話からは砂嵐の音とそれに混じった誰かの声が…」その瞬間、何かが俺に激突した。激痛とともに俺は意識を失った。

第一話 完

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