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極み  作者: 甲斐田誠
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怒りの錦と出所の桐生

錦山は組の取り立てを徹底的に強化した。

借金の返済期限は必ず守らせる。どんな手を使ってでも、逃げ場は与えない。

その資金はすべて、病気の妹の治療費として錦山自身が使い込んでいた。


組員の給料は固定ではない。

変動制――その日の錦山のパチンコの成果で変わるのだ。

大当たりが続けば、組員も潤う。失敗すれば、給料は雀の涙。

恐怖と期待の中で、組員たちは神室町での任務に身を投じる。


錦山組は冷徹かつ効率的な新秩序の下、神室町の闇でその影響力を強めていった。 


だが、どれだけ錦山が資金を注ぎ込み、組を動かしても、妹の容体は一向に良くならなかった。


絶望的な真実が明らかになる。

錦山が見舞いに行った時、医師の会話を聞いてしまう。


主治医は、手術の度に妹の体を、他の医師の勉強の為に開いたり閉じたりしているだけで、実際の治療は何一つ行っていなかったのだ。

なので妹の病状に何の変化ももたらさない。


錦山の怒りと焦燥は頂点に達した。

全てを賭けて守ろうとした妹の命は、医師の無策に翻弄され、救いようのない現実に沈んでいた。


怒りに震える錦山は、組員のボンバーさなえに命じた。

「病院を吹き飛ばせ……今すぐだ!」


命令は怒りに任せて発せられたため、妹や罪のない他の患者や医師や看護師がその病院にいることなど、頭の片隅にもなかった。

だが、時すでに遅く、病院の窓に映る妹の姿を思い出す間もなく、爆破は実行された。


火薬の匂いと怒号が混ざり、錦山の決意と絶望が渦巻く。

後戻りはできない――その瞬間、錦山の心は、怒りと後悔の狭間で張り裂けそうになっていた。


その頃桐生は、このままではここで死んでしまうと悟った。

絶望と怒りが交錯する中、彼は決断した。


監獄島の暗い部屋で、桐生は隠れて雑巾3枚を見つめた後、素手で破り始めた。

力強く握りしめ、ねじり、引き裂く――雑巾は呆気なく粉々になっていった。


その瞬間、監獄の規則は彼の手に屈し、出所が決定された。

長く続いた過酷な日々から解放される希望の光が、暗い監獄島の中に差し込む。


何故もっと早く雑巾を破壊する事に気が付かなかったのだろう。

監獄島にきて2年が経っていた。

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