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友達とお兄ちゃん②

 ぼんやりと彼女たちを眺めていたら、私の視線に気づいたのか美伽梨はトントンと私の肩を叩いてきた。


「妃花、怖い顔してる」

「へっ!?あ、嘘っ!?」


 慌てて顔を揉んでみる、別に怖い顔をしているつもりはなかったが、疲れでそう見えたのかもしれない。


 すぐに笑顔を作り直して、彼女たちの方を向く


「ごめんごめん!考え事してて……」

「いや、そうだよね。ヒメちゃんうちのお兄ちゃんのこと知らないもんね……」


 千波は申し訳なさそうに俯く。私も口が裂けても「いや、放課後お世話になってます!」とは言えない。


 しかし、このままじゃ別の話題に変わっていくだろう。

 ……ちょっと残念だな


 そんな私を他所に、千波は私に柔らかく笑いかけた。


「じゃあ、知らないヒメちゃんにも教えてあげるね?」


 その言葉を皮切りに、千波のお兄ちゃんの解説という名の久我新講座が始まった。

 誕生日に始まり身長、何が好きで何が嫌いか……等々、友達に聞かせていいのか怪しいラインのことまで話していた。


 私たちのことなど一切気にかけていない千波に、冴ちゃんが一つため息をついた。


「はぁ、また始まった……」

「千波ってあんな感じなの?私、お兄さんがいたことすら知らなかったんだけど」


 美伽梨も諦めたようにコクリと頷いた。


「千波はブラコン、しかもドが付くくらいの」



「高校入ってからは兄離れだとか言って、話題に上がってもあんまり喋んなかったんだけどね……今日はヒメに教えるって言う大義名分が出来てリミッターが外れてるね」

「しかも、厄介なのはそれだけじゃない」


 美伽梨は深刻そうな顔をして千波の方を向いた。


「千波、お兄さんの事、好き?」

「!?」


 そのあまりに芯を食った質問に私は思わず体が強張る。そんなこと聞いたら火に油を注ぐだけじゃ……

 しかしあくまで千波は平然とした表情だ。


「いや、別に普通だよ?兄妹だしこんなもんじゃない?」

「おおう……」


 美伽梨は思わず声が出る私の方を向いて、俯いて顔を振る。


「やれやれだぜ」

「何て言うか……兄弟って、奥深いね……」


 成程、このレベルでブラコンの自覚がないとは、これまた随分と質が悪い。知らなかった……知りたくなかった友人の一面に、意識せずともため息が出そうになる。


「ん?別にこの位普通だよ?一人っ子のヒメちゃんは知らないかもだけど」


 そういう所だぞ、千波。


「あ、そう言えば!」


 私たちとの会話の何がトリガーになったのかは分からないが、千波は思いだしたようにポンと手を打った。


「今度は何の話?」

「いやねサエのん、ぼっちでゲーマーなウチのお兄ちゃんなんだけどね?」


 まだ話は長引きそうなのを覚悟して、私はペットボトルのお茶を飲む。


「何か、彼女が出来たみたいなんだよね!」

「ぶふぉっ」

「うーわ、大丈夫?ヒメちゃん」

「私の事は言いから、続けて……」

「妃花、どうみてもそれどころじゃない……」


 お茶を吹き出しそうになる私に近づいてくる千波を手で制して、続きを促す。今はお茶どころじゃない、それどころじゃ無さ過ぎるエピソードが出てきた。


 濡れた事を一切気にしない私にやや引きつつ、千波は話始めた。


「い、いやね?お兄ちゃんはみんな知っての通り、基本家にいても格ゲーの動画くらいしか見ないんだよね」


 初めて聞いたよそんな常識。


「だけど昨日は何かマリコカートの動画見てたんだよ!怪しいと思って聞いてみたら、なんと一緒にプレイしたんだって!しかも女の子!」

「へ、へぇ、そうなんだ~」


 あの先輩に他に一緒にマリカーする人がいるとは申し訳ないが一切思わない。

 詳しく聞かずとも分かる……私だ。


「でも、別に彼女とは限らないんでしょ、ただの異性の友達かも」

「いやぁ、あれはどうだろうね。お兄ちゃん否定してたけど、満更でもなさそうだったね!」


 真剣な眼差しで語る千波に、冴ちゃんが再びため息を吐く。


「千波的にはそれはオッケーなの?大事なお兄さんに彼女が出来て」

「いいに決まってるじゃん!家族が増えるかもしれないんだよ?」

「それは色々早合点し過ぎだと思うけど……」


 楽しげに話す2人。だが、言葉は私の耳を素通りし内容はイマイチ入ってこない。


 そうか……先輩、私と遊んでて満更でもないのか……

 いつもつっけんどんだけど、あれは好意の裏返しなのか……。


「妃華、なんか嬉しそうだね」

「え、あれっ?ホントに?」

「うん、なんか急にニヤニヤしだした」

「いやっ!別にそんなつもりじゃないから、気にしないでっ、美伽梨!」

「そう……?変な妃華」


 妙に鋭い美伽梨の追求を乗り切って、私も会話に混ざる。


 心のなかにあるこのふわふわした感情は、たぶん優越感というのだろう。


 気持ちのいい雨のコーラスを浴びながら、そんな事を一人考えていた。


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