学園のアイドルと格ゲー①
「ゲームと漫画があればいい。別に友達なんて要らない」
他の子たちと遊んでこいと言われた時、こう返事したら、母さんが絶句したのをよく覚えている。
「友達なんて作ったら、人間として弱くなる」なんてセリフを昔何かの本で読んだけど、まったくもってその通りだと思う。友達といても自分の時間が奪われるだけだ。
誰かと一緒に遊びたいのならオンラインで遊べばいい。その方が自分都合だし、誰にも迷惑をかけることも無い。
昔は変な気を起こして俺と遊びたいなんて言ってくる奴もいたが、長くは続かなかった。
『なんで全然笑ってくれないの?』
『新くんと一緒に遊ぶの、全然面白くない』
そんなことを言われても、たいしてショックは受けなかった。そりゃそうだろう、俺だって一人の方が楽しいんだからとしか思わなかった。
しかし人間関係というものは難しいもので、直接そう伝えると、その子は俺の元を離れていってしまった。やっぱり俺は一人の方がいいんだな、その方がお互いに幸せだなんだと思い知った。
あの日の事は、今も俺の心に残っている。こんな自分を好きになってもらえないなら、わざわざ理解してもらう必要もない。
俺の名前は、久我新。ボッチを愛し、ボッチに愛された男だ。
♢
「なあ、今週のジャンプ読んだ?」
「読んだ読んだ、ワンプまじでやばかった!」
「作者どういう頭してんだろうな~」
「ねえ、折角試験も終わったし、甘いもの食べに行かない?」
「大丈夫?こないだダイエットするって言ってなかった?」
「今日はチートデイ!自分にご褒美あげないと体もダイエット頑張ってくれないの!知らない?」
「おもっきし初耳だわ……」
「ねえー、バイトの面接落ちた~」
「また?今度は何言ったの」
「強みは何ですかって言われて、腕力ですって答えたら笑われたから、見せつけてやろうと思って……」
「オーケーわかった、皆まで言うな」
昼休み、喧騒に包まれた教室。皆が思い思いの会話で盛り上がる中、俺は一人教室の隅っこでイヤホンを付ける。
途端にアップテンポなアニソンが俺を騒がしい教室から別世界に連れて行ってくれる。そのままウェブ小説を開いて、毎日読んでいる作品の昼に更新された最新話を読む。
机に肘をついて小説を読んでいても、俺の邪魔をする人は誰もいないし、俺が小説を読みながらにやにやしても誰も気づかない。左から差し込む日差しもいいアクセントになっている。
ああ、なんと素晴らしき昼休みかな……
「あ、あれ逢坂ちゃんじゃない!?」
イヤホンを貫通するほどの大音量に、俺の至福の時間は破壊された。思わず目を細めてそちらを見ると、クラスの女子の一人が窓の外を眺めていた。
他の人間も彼女に引き寄せられるようにして窓際に近づいてくる。俺もイヤホンを外して外を眺める。
「可愛い~アイドルみたい~」
「っていうかアイドルじゃね?俺テレビで見たことある気がする」
「しかも性格いいんでしょ、何食べたらああなれるんだろ」
「少なくともチートデイとかは言ってないだろうね~」
「ちょっと、俺も見たいんだけど!」
教室毎傾けられたように中の人間が窓際へと殺到する。皆が何とかしてその姿を一目見ようとする中、幸か不幸か特等席に座っている俺からは、彼女がはっきりと見えた。
話題の彼女はベンチに座って友達と話していた。なんてことない日常のワンシーンのはずなのに、彼女の周りだけ圧倒的なオーラみたいなものを感じる。
学園のアイドルなんてものはラノベか漫画の世界の話だと思っていたが、彼女———逢坂妃花には、まさしくその言葉がふさわしい。
10人がすれ違えば10人が振り返る、二度見どころか三度見必至。本物のアイドルがテレビのドッキリ企画で来てるとか、果ては一度話しかけられたら寿命が延びるとか……そんなアホみたいな噂が流れても、誰も否定しないような美少女。
しかも、本人は性格までいいらしい。常にニコニコ明るく、誰にでも分け隔てなく優しい。それどころか教師の手伝いも積極的にしているようだ。
後輩ながらまったくすごい女だ。俺が彼女の立場だったら3日で不登校になる、賭けてもいい。
「放課後とか何してんのかな、一緒に食べ歩きしてくれほしー」
「無理でしょ、お稽古とかで埋まってるよ。あの所作はお茶とか嗜んでるタイプだね、私には分かる」
「やっぱそうだよねー、私たちとは住む世界が違うって感じ」
同じ学校の、しかも後輩だと言うのにみんな遠巻きに眺めるしかしない。
(まるで見世物、本人もなんとも思わんのかね……)
本人抜きでやいやい騒ぐクラスメートたちを見ているのも嫌で、イヤホンを耳に付けなおしてアニソンを流す。
しかしさっきまでの多幸感は味わえない。折角の俺の至福の昼休みは相坂に完全に崩されてしまった。今までの俺だったらここでふて寝してたところだろう。
だが、今日はそれも許してやろう、だって俺には今日の放課後、《《アレ》》があるんだからな!
イメージするのは常に放課後を楽しんでいる自分。最高の放課後を演出するために、俺はとあるゲームの攻略ページを開いた……。
新連載です!生意気だけど憎めない後輩とのラブコメです!
是非高評価いただけると嬉しいです!!




