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第7章


 新たに得た自分達の能力が知られると、またもや王家に捕らえられて殺されてしまうかもしれない。

 さもなくばいいように使い捨てられるのがオチだ。影の一族のように。

 モンターレの一族はそれを恐れて、炯眼(けいがん)を持つ子が生まれると、両親はひたすら我が子のその力を隠すように教育を施した。


 人と目を合わせてしまうと、相手の持つ本質が見えてしまうために、ついつい助言をしたり、わざと避ける真似をして不審がられたりしてしまう。

 だからといって、人とコミュニケーションを取らないわけにもいかない。

 彼らは人に怪しまれないための対策を練り、その方法を代々子孫へと伝授した。

 

 彼らはまず、わざと視野を狭めて焦点を合わせなくする特殊な瓶底眼鏡を子供にかけさせた。

 それをかけさせると、慣れるまで子供達にかなり辛い思いをさせてしまうのがわかっていながらも。

 どういうことかというと、それを着用すると、吐き気や目眩に襲われ、まともに歩けなくなるという大きな副作用が出るからだった。

 その辛さから逃れるために、大概の子供は目を固く瞑り、目に頼ることを止めて、耳と勘を頼りに行動するようになる。

 そのためにどうしても転びやすくなり、物や人にぶつかってしまう。

 

「つまり、クーチェ夫人もその特殊の瞳を持っているということですか? 

 彼女は学院時代はその瓶底メガネをかけていましたよね?」

  

 と、ザンムット公爵が訊ねた。

 現在のクーチェ夫人は一般的な眼鏡をかけているが、結婚する前までは瞳の形や色さえはっきりしないような、瓶底メガネをかけていたのだ。


「そうだ。彼女のことをみんなドジっ子だと思っていたが、彼女が失敗ばかりしていたのは、その眼鏡のせいで視野がかなり狭かったせいらしい。

 焦点が定まらなかったというのだから、歩くのだって辛かっただろう。

 その上、元々彼女はあまり運動神経が良い方ではなかったから、そりゃあ大変だっただろうね。


 まあ視力自体には問題がなかったから、成人して自分の能力をコントロールできるようになってからは、もう眼鏡は必要なくなったようだ。

 それなのに今でも眼鏡をかけているは、今さら素顔をさらすのは恥ずかしいからだそうだ。つまり伊達眼鏡らしいよ。

 

 そしてそのクーチェ嬢の力は、娘のベティス嬢にも受け継がれたんだ。

 ところが困ったことに、彼女は炯眼に加えて、先祖返りで魔眼まで持っていたんだよ。

 クーチェ夫人はさぞかし娘のことでは気を揉んだだろうね。そして誰に相談すればいいのか思い悩んだ末に、陛下を選んだのだろう。

 本来なら一番知られてはいけない相手で、避けたい人物だったろうから、まあ、かなり勇気がいっただろう。大きな賭けだったに違いないよ。

 いくら炯眼の力で、陛下が裏切らない人間だと見抜いていたとしてもね」


「つまり陛下は、ベティス嬢を守る後ろ盾としてガイヤール公爵が必要だった。だから、フランドル君との婚約話を持ち出してきたのか……」

 

「たしかに初恋の相手であるクーチェ夫人の娘を守りたという思いはあっただろうね。

 しかしそれ以上に、この国の未来のためには優秀な彼女が必要だと考えられたのだと思うよ。

 昔陛下がクーチェ夫人を必要としたように。特に、当時よりも近頃社会情勢がさらに逼迫してきているからね。

 とはいえ、ベティス嬢が官吏として働こうしても、彼女があの瓶底眼鏡をかけたままの姿では、再び王妃に目を付けられて母親の二の舞になってしまう。

 だからフランドルの婚約者にしようとしたんだろう。

 フランドルのパートナーになれば、君の娘や他の側近達とも協力し合えるからね。

 実際のところ彼女は炯眼の力を使わなくても、すでに気難しいフランドルや君の娘のララーナちゃんのことを癒しているんだから、元々の人間力がすごいよね。

 ちなみにクーチェ夫人も、学生時代に私達に炯眼の力は使ったことはないそうだよ。だから安心してくれ」


「それは正直ほっとしましたが、ええと、フランドル君に不満はないのですか? この政略的な婚約を。いくら形式的なものとはいえ」

 

「う〜ん。どうだろうね。今のところすごく仲はいいけれど、まだ子供だからね。

 友人と婚約者の違いもよくわかっていなといというのが、正直なところかな。

 でも、なんとなくここまま本当に結婚まで行くような気がしているよ。

 何せ我が息子はあの国王と血が繋がっているからね」


(つまり、美人より、素朴で可愛い子が好きかもしれないってことか?

 まあ、それなら、うちの娘に彼が全く関心を示さない理由もわかるのだが……)

 

 と、一人納得したザンムット公爵だった。そしてこうも思った。

 

(それにしても、魔眼持ちがベティス嬢のようなほんわかした穏やかな少女でよかった。

 もしうちの娘にそんな力があったら、今頃王妃と第一王子は(はりつけ)火あぶりの刑で絶命しているか、鉱山で働かされているに違いない。 

 その結果、我が家も隣国の国王の手で消滅させられていたかもしれない)

 

 と。

 


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