第4章 公爵の子供達の婚約(親世代の過去回想)
第4章
国王を始めとするその側近達は皆、ザンムット公爵家とご令嬢であるララーティーナに心底申し訳なく思っていた。
国のためとはいえ、大切なご令嬢を人身御供にするようなものだったからだ。
将来、第一王子が王位に就くかどうかは誰にもわからない。
しかし、仮に王妃や隣国の皇帝にゴリ押しされた場合はそれを避けられない可能性がある。
その最悪の場面を想定して、その不出来な国王を補佐するためには、かなり優秀な王妃や側近を置かなければならない。そうしなければ、この国は到底成り立たってはいかないだろう。
そこで、ララーティーナ=ザンムット公爵令嬢が王太子の婚約者に選ばれたのだ。
本人が才色兼備の素晴らしいご令嬢であるだけでなく、確固たる地位と権力を持つ父親が後ろ盾になれば、愚王を抑え込むことができるだろうと。
そして側近には、ガイヤール公爵の嫡男であるフランドルを始めとする四人の優秀なご令息が選出された。
彼らは皆、かつて国王が学院時代に、生徒会活動を共にした信頼おける友人達の子弟だった。
「まあ、たしかに娘のストレスは溜まっているとは思いますよ。
しかし、幼なじみのベティス嬢に愚痴をこぼすとスッキリするらしくて、どうにか堪えられていますよ。
まあ、毎回聞かされている彼女には申し訳ないと思っていますが」
ザンムット公爵がこう言うと、ガイヤール公爵は少し目を見張った。
「ララーナちゃんもかい?
うちのフランドルも王太子殿下のお守りで神経を擦り減らして帰ってくるんだが、ベティスちゃんに出迎えてもらうと、すぐ笑顔になるんだよ」
「フランドル君もですか」
「ああ。だからモンターレ子爵に許可をもらって、我が家に滞在してもらっているんだよ。公爵夫人教育という名目で。
ベティス嬢はまだ十二歳だから、本来ならまだそんな必要はないんだけどね。
彼女には今、側近候補の息子達と同等の教育を施しているんだが、ちゃんとそれに付いていっているんだよ。さすが才女だと名高いクーチェ夫人の娘だよ。かなり優秀だ。
良い子が我が家の嫁に決まって私は嬉しいんだよ。君にもモンターレ子爵にも申し訳ないんだが」
息子の婚約者であるご令嬢を思い出したのか、ニヤニヤしているガイヤール公爵を見て、ザンムット公爵は少し呆れた。
なぜなら、国王からモンターレ子爵家のベティス嬢との婚約を打診された時、彼はかなり憂鬱そうだったからだ。いや、憂鬱というより、怒っていたと思う。
娘が王太子の婚約者にされてしまったザンムット公爵と同じくらいに。
実のところザンムット公爵は、一つ先輩で親友でもあるガイヤール公爵の思いをこう推察していたのだ。
陛下のかつて結ばれずに終わった恋の後始末をさせられて、内心腹立たしく思っているのだろうと。
というのも、彼の愛娘が第一王子の婚約者に決まった頃、ガイヤール公爵も陛下から嫡男に婚約の要請があったのだ。
その相手というのが、公爵家には全く不釣り合いの子爵家の令嬢だったからだ。
「陛下は、身分違いで結ばれずに終わった自分の初恋の女性の娘と、私の息子と婚約させて、ご自分の恋を成就させようとしているに違いない」
そう彼は思ったはずだと。
ガイヤール公爵の妻は、国王の妹であり、子息のフランドルは国王の甥になるのだ。
そして、ベティス嬢は国王の初恋の相手であったクーチェ=モンターレ子爵夫人の娘だったからだ。




