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第25章 幼なじみ(フランドル公子の過去回想)


 ララーティーナ公女はベティス嬢の幼なじみだが、フランドル公子の幼なじみでもあった。

 しかし、フランドル公子とララーティーナ公女の間で婚約話が出たことは一度もなかった。

 二人は幼なじみで友達でお互いに大切な存在ではあった。しかし、家族になろうとかいう発想は一切なかった。

 もしそんな話が出ていたら、二人ともはっきり断っていたと彼らは断言するだろう。

 

 


「お二人とも本当にかわいいわね。主役の座を奪わってしまいそうね」

 

 かつて、ガイヤール公爵家の派閥の家のご令息と、ザンムット公爵家の派閥の家のご令嬢が政略ではなく結ばれたことがあった。

 その挙式で、フランドル公子とララーティーナ公女は、フラワーボーイズとフラワーガールを務めた。

 その小さなカップルがあまりにも愛らしくて可愛くて、招待客から大きな歓声が上がった。

 その時、本来の主役であった新郎新婦が苦笑いをした。そして新郎がこんな冗談を言った。

 

「どうせだから君方達も一緒に結婚式を挙げるかい?」

 

 と。ところが二人はすぐさま首を横に振った。そしてララーティーナ公女がこう言ったのだ。

 

「フランドルさまが女性で、私が男性だったら、結婚したかったです。

 でも私は女性なので、花嫁さんより可愛い旦那さまと結婚するなんていやです。

 女の()()()()()()()()になっちゃうから。

 私はいつでも()()()()になりたいんです」

 

 周りからどっと笑いが起きた。

 それはララーティーナ公女の本音だった。彼女は美しいものが大好きだった。だからフランドルのことも好きだった。

 しかしそれはあくまでも友達としてだった。もし、結婚相手だとしたら最悪だわと思っていたのだ。

 やはり旦那様より自分の方が綺麗だと思われたいと子供心に思っていたのだ。


 おしゃまなララーティーナ公女の言葉にみんな笑ったけれど、女性達は心の中で「分かるわ~」と賛同していた。

 それ故にこのエピソードはあっという間に広がった。そして、両家の派閥の貴族達の中からは、この公女と公子をくっつけようなんてことを言い出す者はいなくなったのだ。

 もっとも、あんなに可愛いララーティーナ公女がだめなら、誰がフランドル公子の相手に相応しいのか。

 人々にはそれが想像できず、それ以降彼を憐れみの目で見る様になったのだった。公子にとっては大きなお世話だったのだが。



「僕達は物心付いた頃から気の合う友人で、彼女のことを異性だと思ったことはない。向こうもそうだろう。

 そして今は親友かな。何せあの面倒な第一王子を共に世話している同志だからね」


 その話を聞いてベティス嬢はなるほどと思った。しかしそこに新たな疑惑が浮かんだ。


「ララ様はフラン様とは結婚したくなかったのに、シャルール殿下とは婚約したのって、殿下のことをフラン様より劣ると思っていたからなのですか?

 いくら政略でも、ララ様なら自分の意思を曲げることはないと思うのですけれど。

 ララ様は美しい方がお好き。でもそれは自分ほどではない方ということになりますものね?」


 するとフランドルは気不味そうな顔をして、天然な婚約者に向かってこう言った。


「ベティー、そこは空気を読もうよ。それ以上言っては不敬になるよ」


「あっ!」


 ベティス嬢は慌てて口に手を当てた。

 しかし心の中でその不敬なことを考えていた。


(殿下に負けず劣らず美意識の高いララ様が、殿下よりもフラン様の方が美しいと思っているというのなら、どちらが美しいか論争はもう結論が出ているも同義よね)


 と。

 しかし、そんなことを考えた罰が当たったのか、次のフランドル公子の言葉にベティスは大きな衝撃を受けた。


「僕達は親友になったけど、それは僕が男だったかららしいよ。女の子だったら友達になんかならなかったって言われたよ。酷くないか?」


「どうして女の子だったらだめだったんですか?」


「自分より綺麗な子には嫉妬するから側にいるのは嫌なんだって。彼女も大概負けず嫌いだよな。

 そもそも美醜なんて結局主観だから、人それぞれだと思うんだけどね。

 だって、彼女はこの国で一番の美人だと評判だけれど、僕の好みじゃないしね」


(えっ! フラン様が綺麗な女の子だったらライバルになるから、友達にはならなかったかもしれないですって?

 ということはつまり、私と友達になったのは、彼女より劣るからっていう理由だったの?)


 たしかにそれは事実だと思った。けれど、やはり女の子としてはショックだったし、悲しい気分になったベティスだった。

 そしてその後ベティスがララーティーナ本人に直接そのことを訊ねると


「そんなわけないじゃない。ベティの性格が好きだからに決まってるでしょ。もし顔がフラン様くらい綺麗だったとしても友達になったわよ。

 私は耽美主義者じゃないわ」


 とすごい剣幕で怒られた。しかし、眼鏡をずらして彼女の目をみたら、やはり半分嘘をついているのがわかった。


(私の性格を好きなのは本当みたいだけれど、もしフラン様ほどの美形だったら、親友になったかどうかは微妙らしい。

 まあでもそれは仕方ないか)


 そう思ったベティスだった。

 


 

 ガイヤール公爵が嫡男であるフランドル公子に跡を継がせようと思っているかどうか、それを話していたはずなのに、いつの間にか横道にそれてしまった。

 それに気付いたベティスは、慌てて話を軌道修正しようと試みた。

 

「話を戻しますが、たとえララ様との婚約が無理だったとしても、他にもフラン様に相応しいご令嬢はいらしたはずです。

 それなのに早く婚約者を決めようとなさらなかったのは、無理に外交の道に進ませたいとは思っていらっしゃらなかったという証ではないですか?」


「さっき君は自分のことを外交には向かないと言ったけれど、炯眼(けいがん)を持っているのだから、寧ろ外交向きなんじゃないか?

 だからこそ父上は僕と君を婚約させたんじゃないかな?」


 フランドル公子の考えはもっともだった。しかし、ベティス嬢は首を横に振った。

 たしかに慧眼だけだったらそうかも知れないが、自分には魔眼もある。そんな爆弾を抱えた者に外交をさせるわけがないと。


 婚約者のこの言葉を聞いたフランドル公子は、ふと今から三年前、自分達が婚約をした頃のある出来事を思い出したのだった。

 

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