第15章
国王はベティス=モンターレ子爵令と面談した。忙しい身であるというのに三日間も。
そして色々語り合った結果、少女に感情の波は見えず、穏やかで朗らかなその様子は母親のクーチェ夫人を思い出させた。
しかも彼女は母親に負けず劣らず頭脳明晰だった。
この娘はただ閉じ込めるのではなく、きちんと教育し社会に貢献させるべきだと感じた。
しかし、そのためにはいざというとき彼女を守れる、強固で信頼できる後ろ盾が必須だと考えた。
そしてすぐに頭に浮かんだのが、義弟のガイヤール公爵とその息子で国王の甥にあたるフランドルだった。
甥は祖母、つまり王太后に瓜二つだ。実の息子や娘よりも。
そのせいで、やたらとシルヘスターン王国の人間に擦り寄られて困っているらしい。
王太后はシルヘスターン王国の王女だった。
薄紫色の髪は彼の国の王族の色で、孫でるフランドルもその色を引き継いでいたのだ。彼の母親である王妹も兄の国王と同じ金髪であったのに。
今後、隣国の王家に利用されないとは言い切れない。そうなると公爵家だけの問題ではなくなる。
なんとかしなくてはと国王が考えていた時、ベティス嬢のことを知ったのだ。
そしてすぐに閃いたのだ。もし甥と炯眼持ちのベティス嬢が結ばれば互いに助け合えるのではないかと。
ベティス嬢ならば、悪意を持って近付いてくる輩を見分けることができるのだから。
両家にとって良縁だと考えた国王は、取り敢えずガイヤール公爵に、二人の顔合わせを提言したのだが、最初彼はかなり不機嫌そうだった。
さすがに子爵家とでは格差があり過ぎて、機嫌を損ねたのだろうか?
義弟といえど先輩である公爵を怒らせてしまったかと不安になった。
その時国王は、まさか公爵に誤解されているとは思いもしなかったのだ。自分の初恋を昇華させるためと思われていたことに。
しかし実際に詳しい話をしてみると、公爵はすぐさまその縁談に乗ってきたのでほっとした。
公爵は思った通り肝の据わった懐の深い男だった、と国王は思った。
だが、彼は知らなかった。本当に肝が座っていたのは、父親の方ではなくフランドル公子の方だったということに。
さすがに国王は、例のベティス嬢のやらかしの詳細を公爵には説明していなかったのだから。
フランドル公子とベティス嬢が初めて顔を合わせたのは、ガイヤール公爵家のナフティナ夫人が開いたお茶会だった。
兄である国王の二つ年下だった公爵夫人も、生徒会活動をしていたので、モンターレ子爵夫人とは旧知の仲だった。というより、彼女を尊敬する先輩としてリスペクトしていた。
しかし、クーチェ子爵夫人が領地から滅多に出ることがなかったので、これまで招待できずにいたのだ。
子供達は縁談とは知らされていなかったのだが、初対面でお互いに恋に落ちた。二人とも初恋だった。
フランドル公子は、物怖じしないで自分の考えを述べる女の子に好感を持った。
その話し方は裏がなくストレートだったので、一々穿った考えをしなくて済むことが楽だった。
それに意見は言うが、自己主張をし過ぎるわけでもなく、人に強制するわけでも、理解を求めるというわけでもなかった。
しかも話の中身とおっとりした喋り方のギャップが大きくて、グイグイと彼女の世界に引きずり込まれた。
その上、人の話も素直にありのままに受け入れてくれ、自分の知らない話題になると、目をキラキラさせて(多分)、笑顔で耳を傾けていた。
その眩しい笑顔をずっと見ていたい。そう公子は思ったのだ。




