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第14章

 センシティブな場面が出てきますので、注意して読んで下さい。


 フランドル公子の婚約者であるベティス嬢は特殊な目を持っていた。それは炯眼(けいがん)(物事の本質をを見抜ける力)と魔眼だ。

 クーチェ=モンターレ子爵夫人が娘の力に気が付いたのはかなり早かった。彼女自身が炯眼持ちだったからだ。

 しかし、まさか炯眼だけではなく魔眼まで持っていたとは、まさに青天の霹靂だった。

 彼女がそのことに気付いたのは、ベティス嬢が十歳の時に起こった屋敷内のボヤ騒ぎがきっかけだった。

 

 なんと出入り業者の男が、若いメイドを人気のない納屋に連れ込んで暴行した後で、その納屋に火をつけたのだ。

 メイドはなんとか逃げ出したが、男の方は命は取り留めたものの、全身に大火傷を負った。

 しかし男にとって、命があったのが良かったのか悪かったのか、それは傍目からはわからなかった。

 

 なぜなら、子爵家では使用人が乱暴されたことに大きな衝撃を受け、この件を徹底的に調査したからだ。

 すると、その男は顔が良くて口が達者だったため、これまであちこちの取引先の屋敷の女性を食い物にしてきたことが判明したのだ。

 その結果、男は全身包帯だらけのまま、騎士達によって牢獄に放り込まれた。

 婦女暴行、結婚詐欺の罪はもちろん重かった。しかし、子爵家に火を着けた罪はそれらとは比較にならないほど重罪で、男は終身刑を言い渡されたのだ。


 男は最後まで、自分は火などつけた覚えはないと言い続けていた。

 その場にいたメイドの証言だと、彼女は男に覆い被さられていたので、どうやって火がついたのかわからない、と言ったという。

 気が付いた時には、男の背が燃えていたのだという。

 

「自分自身に火をつけるはずがないじゃないか!」

 

 と男は主調したが、その納屋には火の気が全くなかったので、証拠隠滅をしようとして火をつけて、誤ってそれが自分の服に引火したのだろうと判断され、それに異議を唱える者は誰一人いなかったのだ。 


 その後、被害にあったメイドは、夫人によって手厚くサポート受けた上で、噂の届かない遠方の屋敷に勤めることになった。

 そして、それ以後出入りの業者に対するチェックがさらに厳しくすることにしたのだが、どんなに止められてもベティスは母親と共にその場に立ち会うとは言ってきかなかった。


「お母様を信用しないわけじゃないの。でも二重にチェックした方がより安全でしょう? もうアンナみたいな辛い思いをする女性を出したくないの」

 

 そう言った時の娘の目がいつも違っていることに気付き、クーチェ夫人は血の気が引いた。

 実は炯眼(けいがん)の力を使うと、眼光が鋭くなって金色に光るのだ。

 まあ、それは注意深く見ないとわからない程度のものなのだが、娘の目の光がいつもよりもギラギラしていることに気付いたのだ。

 しかもそこには、激しい憎悪に潜んでいることにも。

 これはもしや……

 クーチェ夫人は娘を問いただした。その結果、ベティス嬢が魔眼持ちだということが判明したのだった。

 

 ベティス嬢はまだ十歳だったので、最初は男がしていた行為の意味を全く理解していなかった。

 しかし、男が身を起こした時、下半身を丸出しにしていたのを見てぎょっとした。

 しかもメイドは服を乱され、猿ぐつわをされ、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。

 これは! ベティス嬢は無意識に眼鏡を外し炯眼の力を発動して男の目を見た。

 すると彼のどす黒い内面が見えた。そして彼がこれまでしてきた様々なあくどいシーンが瞬時に脳裏に浮かんでは消えた。

 吐き気と共に、これまで感じたことのない激しい憤りがベティス嬢の体の奥から沸き起こり、許せない!と思った。

 そして彼女が男を鋭く睨み付けた途端、ボッ!と男の体から火が燃え上がったのだった。


 娘から話を聞いた母のクーチェ夫人は、すぐに夫に相談し、倫理学、哲学、教育学、宗教学、法律学の一流の教師を娘のために雇って、しっかりと学ばせた。

 そして勝手に人を裁いてはいけないのだと、滾々と娘に言い聞かせた。人は皆不完全であり神ではない。個人の思いだけで勝手に善悪を判断して裁いてはいけないのだと。

 

 そしてそれと同時に、娘が常に穏やか気持ちで過ごせるように心を砕いたのだ。

 それ以後、ベティス嬢が魔眼を発動させたことはない。

 それでも不安を取り除けなかったクーチェ夫人は、熟考を重ねた結果、夫の同意を得た上で、かつての学院時代の先輩である国王へ、相談したいことがあるという手紙を認めたのだった。

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