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第1章

 短編「婚約破棄? 女性を侍らせた殿下にそんなことを言う資格はありませんよ! というより私は……」

の連載版で、タイトルを少し変更しました。

 短編の出だしの部分と結末はほとんど変わりませんが、なぜそんな結末になったのか、それをもっと深く掘り下げています。

 短編では描けなかった、ヒロインの特殊能力についての描写があるので、短編よりシリアスで、少々残虐なシーンもあります。

 ヒーローも辛い過去もあります。センシティブな話もあるので、苦手な方はご遠慮ください。

 辛い過去を持つ能力持ちの子爵令嬢と、同じく重い責務を担わされた、やはり過去持ちの公爵令息が、手を取り合って前へ進もうとするお話です。


「貴様のような醜女(しこめ)は公爵夫人には相応しくない。それ故に婚約破棄だ!


 自ら身を引けばこんな衆人環視の中でこんな宣言されることはなかったし、私もしたくはなかった。甚だ遺憾である。


 そして彼女に代わる新しい婚約者はここにおるマリーベル伯爵令嬢だ」


 


 学院の卒業パーティーの開催宣言の前に、こんな個人的発言をした者がいた。


 金髪碧眼で見目麗しい美丈夫。しかもこれでもかというくらいに派手な服を着ている。ここは王宮の夜会ではないぞ。


 そしてその側にはピンク頭に水色の瞳をした可憐な甘ったるい美少女が侍っていた。

 彼女もまた最高級品の人形のような派手なゴテゴテのドレスに、高価そうな装飾品を身に着けていた。


 でも、その高そうな身分に相反して、とても頭の中が緩そうだとその場にいた者達は思った。そして余興を楽しむというより、呆れた目をして二人を見ていた。


 せっかく学院生活の最後に意中の人にダンスの申し込みをしたいのに、一体何してくれているんだ! と歯ぎしりしているご令息達もいる。 


(これは、皆様のためにもさっさとこの茶番を終わらせないといけないわ)


 たった今婚約破棄を突きつけられたベティス=モンターレ子爵令嬢は、心の中でそう思った。

 そこで、トレードマークの瓶底丸眼鏡を左の人差し指で押し上げながら、顔を上げてこう言い返した。


「婚約破棄と申されても、貴方様にはそんな資格はないと思いますが」


 まるっきり動揺せず、いつものようにポケラと間の抜けたような表情で。


「私達の婚約は王命ですから、国王陛下でないと解消させることはできませんよ」


「王命だと?!」


 男は初めて知ったのか、驚愕した顔をした。そして、狼狽え始めた。


「何故国王がお前のような醜女(しこめ)と王命を出してまで婚約させたんだ?」


 すると、


「まあ、王命だということも知らなかったのですか? 驚きですわ。


 でもそれは、貴方がそのようにボンクラなので、後継者にするのが不安だったからではないですかね、陛下は。

 だから貴方の周りに優秀な人材で固めようとなさったのだと思いますよ。男女ともに。


 でも、その中にそちらにいるマリーベル伯爵令嬢は含まれていませんでしたけどね」


 突然現れたララーティーナ=ザンムット公爵令嬢が、ベティス子爵令嬢を庇うように前に立つと、舞台俳優のように派手なカップルに向かってこう言い放った。 


「「え~っ!!」」


 派手派手カップルは大げさに驚いた。特に派手男の動揺はかなり大きかった。予想外の人物が目の前にいたからだ。


「げっ、ララーナ、なぜここにいる?」


「なぜって、卒業式ですもの。留学先の学園の卒業式は一週間前だったので、一昨日に帰国しましたのよ。フランドル様とご一緒に」


「フランドルだと? あ、あいつは向こうの大学に入ったんじゃなかったのか?」


「学園どころか大学を飛び級で卒業されたのですよ。愛する婚約者様とこれ以上離れ離れになっているのは辛いって、そりゃあものすごい勢いで勉学に励んでいらしたので。


 愛の力って偉大ですわね? うふふ。

 それに、どうやら何か勘が働いたようですわね」


「愛だと? その醜女(しこめ)にか?」


醜女(しこめ)醜女(しこめ)と煩いですわ。そんなモラハラ発言を公の場で繰り返すなんて信じられませんわね。

 他国からの留学生もいらっしゃるというのに、我が国の恥ですわ。


 今後貴方が国際的な社交の場に出ることを禁じてもらうように、陛下に進言させて頂ますわ」


「何を言っているんだ。卒業してこれから本格的に社交の場に出るというのに」


「それは、無理です。私、貴方のフォローする自信なんてありませんもの」 


「はあ? 将来私の妃になるため、さらに力をつけようとシルヘスターン王国へ留学したのではないのか?」


「ええ。そのつもりでしたわ。でもこの一年の貴方の所業を知って、私では到底貴方のサポートはできないとわかりましたの。力不足で申し訳ありません」


 ちっとも申し訳ないと思っていないのが丸見えのララーティーナ嬢が、澄まし顔で軽く頭を下げた。


 そう。この公爵令嬢こそが、先ほどベティス嬢に婚約破棄を突き付けた男の婚約者だった。


 これがどういう意味か、理解できるだろうか?


 この派手男は自分の婚約者でもないご令嬢に、婚約破棄を突き付けたのだ。本物の婚約者に成り代わって。しかも、本人の承諾なしにだ。


 この派手男の名前はシャルール=コーギラス。このコーギラス王国の王子だ。


 三国一の美女と呼ばれた、隣のビンカル帝国から嫁いできた元皇女であるファニーナ王妃が産んだ第一王子。見目も性格も母親に瓜二つのコテコテの耽美主義者だった。


 傾国の美女の話はよく聞くが、この国もただ今傾国となるかそれとも踏ん張れるのか、現在その瀬戸際にあった。


 しかし、その美女に溺れて言いなりになっているのは国王ではない。国王の好みの女性は素朴で可愛い子なので。


 それは言わずもがな息子の第一王子だった。彼は完璧なマザコン。母親の言うことは全て正しいと信じているようなあぶない男だった。


 この親子、この世で最も重要なことは『美』なのだ。

 美しい服や装飾品で身を飾り、美しく飾り付けられた高級な調度品に囲まれた豪華な部屋に住み、美しい使用人を周りに侍らせて。


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