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第16話:失敗作の価値と、輝く畑

僕が「失敗作です」と宣言した瞬間、リナとセレスティーナは、疲労も忘れて呆然と僕と僕の持つ『魔力式高効率炉心』を見つめていた。彼女たちが命がけで戦っていた脅威を、僕が「失敗作の副作用」の一言で片付けてしまったのだから、無理もない。


「カイ殿…これが、ゴーレムたちを…?」

「はい。どうやら、この装置を動かす時に出る特殊な魔力周波数に、ゴーレムたちが引き寄せられたみたいです。ダイヤルを回して周波数を変えたら、興味を失って帰っていきました」


僕が、さも当然のように説明すると、二人は天を仰いだ。その表情は「もう、この方の常識を理解しようとするのはやめよう」と語っているようだった。


「ともかく、僕のせいで、庭が滅茶苦茶になってしまいましたね。すぐに片付けます」


見渡せば、僕が丹精込めて育てていた畑は、ゴーレムの足跡で見る影もなく踏み荒らされている。激戦の跡として、十数体のゴーレムの残骸が、巨大な岩のオブジェのように転がっていた。

僕は、その一体に近づくと、その岩の体にそっと手を触れた。


「カイ殿、危険です!」

リナが警告するが、僕は構わずに創成魔法を発動させる。目的は、この「ガラクタ」の分解と再利用だ。

僕の魔法がゴーレムの体を包むと、その巨体は砂のようにサラサラと崩れ始めた。だが、ただの砂ではない。僕は、ゴーレムを構成していた物質を、その成分ごとに完璧に分離させていたのだ。


大部分を占めるただの石や土は、細かな粒子となって、荒れた畑の土壌に還っていく。しかも、僕の魔法によって、植物が最も吸収しやすい栄養素へと変換されて。

そして、ゴーレムの動力源となっていた心臓部の魔石コアや、関節部分に使われていた魔力伝導性の高い鉱物は、不純物を取り除かれ、純度100%のきらびやかな魔晶石となって、僕の手元に集まってきた。


本来なら、冒険者がパーティを組んでゴーレムを討伐し、解体業者が丸一日かけてようやく取り出せるような貴重な素材が、ほんの数分で、しかも最高品質の状態で手に入っていく。


「こ、これは…」


錬金術の知識もあるセレスティーナが、その光景に目を見張る。

「ゴーレムを討伐するだけでなく、その場で完璧に素材へと還元するなど…! まるで、世界そのものを司る創造主のようです…!」

「カイ殿は、戦いも、戦後処理も、全てお一人で完結させてしまうのですね…」


リナも、もはや呆れるしかないといった様子で呟いた。

僕が、最後のゴーレムを輝く畑の土と、山盛りの魔晶石に変え終わった、その時だった。


「――また君か、カイ君」


背後から、聞き覚えのある、重々しい声がした。

振り返ると、そこにはギルドマスターのドルガンさんが、険しい顔で立っていた。彼の後ろには、武装したギルド職員たちが数名控えている。おそらく、街の外れでの大規模な魔力の乱れを感知し、駆けつけてきたのだろう。


ドルガンさんは、激戦の跡が残る庭と、僕たちの前に積まれた魔晶石の山、そして何より、以前より明らかに魔力に満ちて輝いている僕の畑を見て、全てを察したようだった。彼は、長いため息をついた。


「…何があったのか、説明してもらえるかな」


リナとセレスティーナが、事の経緯を説明する。僕が作った新しい発明品、ゴーレムの襲来、二人の防衛戦、そして、僕がダイヤル一つで全てを解決したこと。

ドルガンさんは、腕を組み、黙って話を聞いていた。そして、僕に視線を移す。


「カイ君。その『失敗作』とやらを、見せてみろ」

「はあ、これですが…」


僕が『魔力式高効率炉心』を渡すと、ドルガンさんは、熟練の冒険者ならではの鋭い目で、それを隅々まで観察した。

やがて、彼は顔を上げ、とんでもないことを言った。


「カイ君。これは失敗作などではない。フロンティアの、いや、人類の防衛戦略を変えうる、とんでもない発明だぞ」

「え?」

「特定の魔物を、任意の場所に引き寄せることができる…。その価値が、君には分からんのか?」


ドルガンさんは、その戦略的価値を熱弁し始めた。危険な魔物の群れを、街から離れた場所に誘導し、罠に嵌めて一網打尽にする。特定の素材を持つ魔物だけをおびき寄せて、効率的に狩りを行う。ダンジョンのボス部屋から、番人だけを釣り出して各個撃破する…。


僕がただの「迷惑な副作用」としか思っていなかった機能が、彼の口からは、まるで伝説級の魔法のアイテムのように語られる。


「カイ君、この発明をギルドで買い取らせてくれ。言い値で構わん。これがあれば、この街の防衛力は飛躍的に向上し、多くの冒険者が命を落とさずに済む」


真剣な眼差しで、ドルガンさんが僕に迫る。僕の前に、再び大金を得るチャンスが転がり込んできた。

だけど、僕は静かに首を振った。


「いえ、これは売り物ではありません。それに、兵器として使うのは、僕の本意じゃないんです」


僕がこの道具を作ったのは、街の鍛冶屋の職人たちが、もっと良い物を作れるように、ほんの少し手助けしたかっただけだ。それが、魔物を操るための道具になるのは、僕の望むところではなかった。


「ただ…」と僕は続ける。「もし、この街の防衛のために、本当にこの力が必要になった時には、ギルドにお貸しします。それまでは、僕が責任を持って、安全な場所に保管しておきますので」


僕の言葉に、ドルガンさんは一瞬驚いた顔をしたが、やがて、深く、満足そうに頷いた。

「…そうか。君は、そういう男だったな。分かった。その言葉、確かに預かっておこう」


彼は、僕の肩を力強く叩くと、部下たちを連れて帰っていった。嵐のような訪問だった。


ドルガンさんたちが去った後、庭には静寂が戻ってきた。

リナとセレスティーティーナが、キラキラと魔力の光を帯びて輝く、生まれ変わった畑を見て感嘆の声を上げている。


僕は、その畑の隅で、無残にも踏み潰されてしまったトマトの苗を、そっと拾い上げた。

まあ、ゴーレムが耕してくれたおかげで、土壌は以前より格段に良くなった。貴重な魔晶石も、たくさん手に入った。結果的には、プラスだったのかもしれない。


だけど、僕が今、一番に考えているのは、そんなことではなかった。


「さて…」


僕は、空になったプランターを手に、一つため息をつく。


「野菜、また一から植え直しですね」


僕の、あまりにも平和で、あまりにもささやかな呟きが、夕暮れの庭に響いた。

僕のスローライフは、日々、とんでもない事件に見舞われる。だが、僕の心は、いつだってこの小さな畑にあるのだ。

その事実が、なんだか無性におかしくて、僕は一人、静かに笑った。

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