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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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国家の正義

―――ヒボナ崩壊より数日後。


エルステリア王国・王都。


騎士団本部・中央演練場。


まだ朝靄の残る時刻――だが、その場所には熱気と緊張が渦巻いていた。


中央演練場に、全ての部隊が顔を揃えていたのだ。


まるで戦の前夜のような、騎士たちの無言の眼差しが場を支配する。


その隊列は、まさに王国の精鋭を象徴していた。


 誇り高き白金の〈第一部隊〉


 祈り導く陽光の〈第二部隊〉


 夜に潜む影狼の〈第三部隊〉


 鋼の誓いを背負う〈第五部隊〉


 慈愛溢るる青光の〈第六部隊〉


 紅蓮燃ゆる烈火の〈第七部隊〉


 策謀巡らす黒金の〈第八部隊〉


 揺るがぬ城壁たる〈第九部隊〉


 自由なる黒翼の〈第十部隊〉


――ただし、第四部隊だけは姿を見せなかった。

それは当然のことだった。


ファルメル・エルペイン。


かつてその名を以て、知性と魔導を司っていた部隊の隊長は――今や黒幕の中心人物として名を連ねている。


第四部隊は事実上の崩壊状態にあり、その戦列に立つ者はいない。


だが、その“欠けた空白”が今、他の部隊をより強く結束させていた。


「――静まれッ!!」


突き抜けるような、張りのある声が場を打つ。


歩み出たのは、白金の制服に身を包む男――ザイラン・ヴァレント。


魔術騎士団第一部隊、そして団長としてこの国を支えてきた男。


その姿が、東の光に照らされる。


重傷を負い、包帯を巻いたままのセズ・クローネが隊列の中で無言で拳を握る。


第二部隊のシルヴィア・カロリアは黒い眼帯で片目を隠しながらも、静かに前を見据えていた。


自由気ままなはずの第十部隊も、この日ばかりは姿勢を正し、全員が静かに立っている。


「……ヒボナが、消えた!」


全員が、その言葉を知っていた。


だが、その場で発される“事実”としての宣言が、再び心に突き刺さる。


「市民の半数が死亡。残された者も、魂を喰われ、廃人となった」


重く、鋭く、事実だけを語る声。


「この惨劇の原因は……“祝福の儀”だ。そして、その裏にいるのは――“真ネザリウス教団”」


空気が、凍る。


誰かが小さく唾を飲む音が響いた。


「奴らの狙いは、この王国そのもの。いや……この世界そのものかもしれない」


ザイランは、一歩前に出る。


その目に宿る光は、決意と怒り、そして深い後悔。


「だが、我ら魔術騎士団は、かつて“護る”と誓ったはずだ。国を、民を、信じてくれる人々を――」


彼は、静かに左手の甲を握る。


「……俺たちの剣は、何のためにある?」


問いは、騎士たちの胸を撃った。


「……誇りを守れなかったこの手を……もう一度、汚す覚悟はあるか?」


最初に拳を握ったのは、セズだった。


「……あるとも」


続いて、あちこちから声があがる。


「絶対に終わらせてやる!」


「俺たちは騎士だ、誓いはまだ終わってねぇ!」


「誰も……もう、誰も死なせはしねぇ!」


それは、咆哮だった。


ザイランはそれを受け止め、拳を強く握る。


「――すべての騎士たちに告ぐ! 今こそ、諸君の“正義”を見せるときだ! 剣を取れ!――魔術騎士団ッ!!!!」


その瞬間、天を割るような歓声が沸き起こった。


それは希望の雄叫び。


滅びに抗う最後の灯火。


騎士団が今、再び動き出す。





“祝福の儀”が発動する危険性のある都市は、四つ。


〈カヌール〉――鉄鉱と火薬の重工業都市


〈メルゾナ〉――水と霧に包まれた幻想都市


〈イントリア〉――草原に吹き抜ける風の都市


そして――


〈王都ルスタ〉


王国の心臓部であり、真ネザリウス教団が最終的に狙っていると目される場所。


騎士団は即座に対応に動いた。


・カヌールには〈第七部隊〉


・メルゾナには〈第八部隊〉


・イントリアには〈第九部隊〉


・王都ルスタには、ザイラン率いる〈第一部隊〉


第二、第三、第五部隊は、それぞれ戦力を補う形で第一に加勢。

第六部隊は四つの班に分かれ、すべての都市へ“医療班”として派遣される。


ただ一つ――〈第十部隊〉の動向は、依然として不明。


だが、全隊、すでに出撃の準備を整えていた。


それぞれの都市へ。


それぞれの死地へ。


運命の針が、大きく動こうとしていた――





その夜。


王都の外れにある治癒院の奥。


ランプの灯が揺れる静かな一室。


少女が眠っていた。


桃色の髪は痛々しく乱れ、体は痩せこけ、目元には未だ怯えの影が残っている。


フィーラ・エスター。


その枕元に立つ影があった。


ゆっくりと近づき、佇む。


男は、その少女の髪にそっと手を伸ばし、呟いた。


「……終わらせてくる」


その声は、静かで、冷たく、燃えていた。


影はすぐに消えた。


その背には、"白い闇"が漂っていた。


――名を、ルカ。


かつては“希望”を灯した少年。


いまはただ――“復讐”だけを抱きしめる、闇の亡霊。


すべてが、終わりへと向かっていた。



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