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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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不良の意地

〈亜人区〉


 ――そこは、牙と鉄の街だった。


 かすかに硫黄の匂いが漂う廃墟の中、整然と並ぶ建物と行進する足音。

 それはまるで、滅びたはずの軍隊が今なお息づいているかのようだった。


「……ここ、マジでヤベぇぞ」


 金髪坊主に丸サングラス、見るからに三下風情の男――カマキリが唾を吐いた。


「なんか、こわいです……」


 隣にいた少女、ハイドラがぽそりと呟いた。

 ベージュのおさげ髪が揺れる。

 ムッチリとしたその小さな体に、信じられないほどの魔力を宿す。


「けど……やるしかないですよね、カマキリさん」


「へっ。地獄に来てまで怖じ気づくほどヤワじゃねぇよ、ハイドラ」


 そのとき、突如として上空から影が差す。


 ――バサァァァ!!


「空から青トカゲ来たぞぉぉ!!」


 カマキリの叫びと共に、空から滑空してきたのは、蒼鱗の竜人〈ツィンブル〉


「侵入者、確認。殲滅開始」


 その一言を合図に現れた亜人たち。


 黒豹の獣人〈ゼオン〉

 赤肌の鬼人〈グガグバ〉


「うわっ、めっちゃ来たぁ!?バラけろやっ!!」


「囲まれたらまずいですよっ!」


 ハイドラの顔が青ざめる。

 カマキリは覚悟を決め、指示を飛ばす。


「……俺が引きつける!ギリギリまで魔力溜めて、ぶっ放せ!!」


「で、でも……!」


「いいからやれッ!!時間は稼いでやる!!死んでも撃て!!」


 そう怒鳴って前に出るカマキリ。


 だが彼は――治癒魔術師。攻撃向きではない。


 ――それでも。


「テメェら、どいつもこいつも……治癒師見くびんじゃねぇぞ……!」


 自分に魔法を掛けながら走る。


《極強装術―ラッシュ・スパーク―》


 本来、治癒に使う魔力を強引に神経と筋肉系に叩き込み、反応速度と筋出力を限界突破させる術。


 斬りかかるゼオンの剣を、地を滑って回避。

 カマキリはさらに魔法を自分の筋肉に重ねる。


《迅脚装術―ドライブ・ブースト―》


 骨が軋む。筋繊維が膨張し、爆発的な瞬発力を得た脚で――

 突進してきたグガグバを横切る!


 その間、ハイドラはただ黙々と、魔力を集め続けていた。

 膨大な魔力が手の先に集束され、喉奥から喘ぎが漏れる。


「んぐぉ……ま、まだ……ですかぁ」


「まだだっ! もっとだ!!」


 カマキリの怒声が響く。



 三分にも満たない攻防で、彼の身体はもう限界寸前だった。

 肩は裂け、足は砕けかけている。


 それでも、ゼオンの剣を受け、竜人の爪を避け、鬼人の棍棒を押し返す。


「オラァァアアアア!!! 全部俺に来いやァァアアアア!!!」


 血まみれで立ち塞がり、敵を一点に引きつける!


 ハイドラは今にも暴発しそうな魔力の束を、白目を剥きながら、歯を食いしばりながら、必死に抑え込んでいた。


「……も……ムリぃ……で、出ちゃうぅ……!」


 敵が一直線に並んだ。絶好のチャンス。


「っしゃあー、撃てえええぇぇえええッ!!!!」


「んんんんほぉぉおおおおおッ!!!」


 その瞬間、ハイドラの体が跳ね、反り返る。


《魔力爆撃砲・超臨式―メギド・ロア―》


 地鳴りと共に、空間が抉れる。

 青白き魔力の奔流が、カマキリの後方から一直線に敵陣中央を貫いた!


 轟音――光閃――熱波。


 竜人が焼かれ、獣人が潰れ、鬼人が砕ける。


 跡に残ったのは、瓦礫の山と、焦げた大地。

 死角なしの直撃。

 範囲殲滅の一撃。


 やがて、煙の中からカマキリがふらりと歩み出る。

 ボロボロの体に、火傷と血が滲んでいた。


「へっ……生きてんのが不思議なくらいだぜ……」


 そこへ、とことこ歩いてきたハイドラが、服の裾を握った。


「……倒した? 終わった……?」


「ああ……お前、よくやったよ」


 ぽん、とハイドラの頭を撫でるカマキリ。


「へへ……やりましたねっ……」


 その笑みに、カマキリも小さく笑い返した――そのとき。


 ズズン――と、大地が鳴る。


 地の底から響くような重低音。

 焼け焦げた瓦礫の中から、巨大な影が姿を現す。


「……っ、あ……れは……」


 金色のたてがみ

 獅子の頭部を持つ巨漢。

 その一際大きな獣人は、周囲の死者たちを見下ろしていた。


「……見事だ」


 声は静か。だが、威圧感は圧倒的だった。


 ――〈ラオ・ウルグ〉

 亜人区を統べる百獣の魔王。


「次は、ワシが相手したるわい!」


 二人は息を呑んだ。

 彼らの前に、絶対王者が立ちはだかる。




最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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